剣の王国:お題


―好きよ、アルフレド。

間違いなく、目の前の彼女はそう言った。
よく見れば顔を赤くして、握った拳は微かに震えている。

「…何が?」
「も、勿論貴方のことよ…!」

彼女の好きが何なのかはおおよそ予想はついたのに、俺はそれを認めない。
彼女の気のせいだ、と俺の心がそうあって欲しいと願っているから。

俺はまだジルコニアのことで手一杯なんだ。
俺の心はジルコニアのことで埋まっていて、だから彼女の入る隙なんて無いはずなのだ。

ふい、と視線を逸らし、彼女を視界から追いやる。
きょとんとした顔で、今の状況を見つめる鶏が視界を掠めた。

「…あの、迷惑をかけたい訳じゃなくてね、ただ伝えておきたかっただけなの。だから、あまり気にしてくれなくても平気よ」
「……」
「…自己満足、だから…」

自分から言ってきたのに、気にしなくていいなんて平気で言いやがって。
段々声が小さくなっているくせに。
きっとなけなしの勇気で、必死に伝えようと口を開いたくせに。

「…アルフレド、怒った…?」
「…」
「ごめんなさい…私こんなこと言うの初めてだし、どうしたらいいのかよく分からないのだけれど…」

俺だって、初めてだ。
何故か心はぐらぐらと揺れている。
関係ないと切り捨ててしまえばいいのに。

「アルフレド…」

彼女が何度も俺を呼ぶから。
だから思考が纏まらない。
上手く心が作用しない。

好きなはずが無い。
これは、ただの契約によって成り立っている関係なのだ。

戻した視界に、彼女の薄紫の瞳が映った。
次の瞬間には片手で彼女の目元を押え、側にあった上着を彼女に被せて、よくしゃべる小さな口を塞いだ。

すべてが終わったら、きっと終わりを迎える関係なのに。
それが分かっているのに。
柔らかな唇は、酷く離れ難くさせる。

幾度も重ねるうちに、少しだけ目頭が熱くなった。
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