お題〈キス22題〉

黒須達と一服をしに外へ向かった竜太郎の背中を見送り、ちょこんと食堂の長椅子に一人座った。
夕食も終わり、何処か閑散としている室内を見渡す。

南と千住は少し離れた席で話をしている。元恋人だと言う割には、ここに来てからずっと側にいる。恋愛というのは複雑なものなのだろうと思う。 一方、壁際にいる戦闘員の三ノ輪や恵比寿は、恐らく警備について話をしている。もはやここ以外に安全な場所はないのだろう。
初対面から懐いてくれているメロは眠そうにしていたため、すでに別室に行ってしまった。 だから、私には話す相手がいない。 出会ってからは竜太郎に構ってもらっている。一人きりには慣れているが、相手をしてくれる人が居ることはとても嬉しい。彼が戻ってくるまでもう少しの辛抱だ。

「…おい」
「!」
「お前、ほんとに友達いねーの?もしくは作るのが下手なのか?」
「お友達はいますよ?」
「……」

ほんのりと煙草の香りを纏いながら、竜太郎が戻ってきた。一緒に行っていた黒須を探すと、なにやら笑って私と彼を見ている。

「まぁいいや…お前もあの学生の中に入ってくればいいだろ」
「そうですけど…竜太郎さんがいるので平気です」

そう言うと、何だか微妙な顔をされる。ため息を吐いて、頭にぽんと手を乗せられた。無造作に置かれるので少し痛いが、何故か安心するから好きだったりする。

「竜太郎さんは、どうして義手なんですか?」
「…事故?」
「痛かったですか…?」
「覚えてない」
「そうですか…」
「なんか気になんの?あの眼鏡に何か言われたのか?」
「……竜太郎さんの手が好きなので、少し気になっただけです」

沈黙が下りて、頭に置かれた手に僅かに力が籠った。
痛みが増す。強張った指先が、不器用に頭を撫でた。

「…ただの義手だろ」
「そんなことないです…!私、竜太郎さんの手が好きですよ」

そんな悲しいことは言わないで欲しい。
私はこの手に助けて貰ったのだ。

頭に置かれていた大きな手をしっかりと両手で包み、ほんの少しだけ口付ける。
ふと竜太郎さんを見上げると、茫然とした顔で見つめていた。青い瞳が、真っ直ぐに私を捉える。

その瞳に、現実に戻された。急に自分のしたことが恥ずかしくなり、顔から火が出るのではないかと思うほど熱くなって、居た堪れなくなってその場から逃げ出すことにした。

「お、お手洗いに行ってきます…!」

あぁ、なんてことをしたのだろう。異性の体の部位に口を付けるなんて。
暫くの間は彼の顔がまともに見られない。

私は彼が好きなのだろうかと、纏まらない思考の片隅で思った。
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