ナンバリングシリーズ


時々、手癖の悪い相棒は、モンスターからアイテムやら何やらを分捕る。
今日もキャンプ地で短剣の刃を磨きながら、自慢の品々を広げた。
その中には、素材に必要となるアイテムもちらほら並べられている。

「カミュは凄いな。これなら鍛冶でもう少し強い武器とか作れそうだよ」
「まぁな、一応そこそこ名の知れた盗賊やってたからな」

必要なものと売るものを分けていると、ふとカミュがじっと眺めているものに気がついた。
紫色の鉱石のようなものだろうか。

「それは?」
「ん?これな…どうしようかと思ってさ」
「それも今日の成果の一つみたいだけど… 綺麗な鉱石だね。誰かにプレゼントするの?」
「プレゼントねぇ…こんなの貰って嬉しがる奴なんているもんか?それなら売っちまった方が…」
「そうね、もう少し綺麗に宝石らしく加工すれば女性なら嬉しがるんじゃない?」

子ども独特の甲高い声に似合わない物言いに、 それまで澄ました顔をしていたカミュが渋い顔をした。

「お疲れさま。ベロニカ、セーニャ」
「ただいま戻りました」

魔法の練習をしていた姉妹が戻ってきた。
何処から採ってきたのか、ベロニカは果実を持っている。
ひとつ分けてもらいながら、二人の様子を窺った。

「ベロニカの魔法の調子はどう?」
「まだ本調子じゃないけど、ここら辺の魔物相手なら問題ないわ」
「イレブン様とカミュ様は何をなさっていらっしゃったのですか?」

セーニャは焚き火近くに広げられた品々を興味津々に見つめ、楽しそうに笑う。
ベロニカはカミュの持つ鉱石を吟味していた。

「ふーん、なかなか綺麗な鉱石ね」
「本当ですわね、お姉様」

姉妹で覗き込む二人をじっと見つめてから、カミュがおもむろに口を開いた。

「なら、セーニャにやるよ」
「へ?」

その言葉通り、手にしていた宝石をぽん、とセーニャの両手の平に落として、大きく伸びをした。

「あたしには無いわけ?」
「子どには必要ないだろ」
「だから!違うって言ってるでしょ!!」

口喧嘩を始めた二人から距離を取って、改めてセーニャの手元に移動した鉱石を眺める。
目にしてすぐに、何かに似ている、という感覚を覚えた。
しばらく考えたあと、ようやく謎が解けた。

「この鉱石の色、セーニャの瞳の色に似てるね」
「まぁ…!ふふ、とっても嬉しいですわ」

ひとしきり眺めると、セーニャは大事そうにポケットにしまった。

まだ喧嘩中の二人を一緒に宥め、セーニャは何やらカミュに耳打ちをした。
カミュは驚いた顔をした後に、非常に渋い顔をしたまましばらく腕組みをし、考えに考えたのか渋々了承したようだった。
そんなカミュの隣で、セーニャは嬉しそうにベロニカに向けて笑いかけていた。

その日はそのまま眠りについたが、そんなやり取りをした後から、カミュの一日の成果が増えた。
普段なら戦闘のついでだったのが、ここ最近は盗ることが目的のようになっている。
何か目当てのアイテムでもあるのだろうかと、あまり気にはしなかった。
ただ、目当ての物が無かったらしい夜は、ほんの少し不服そうな顔をしている。

カミュと二人で、日課になっているアイテムの仕分け作業をしていると、「あった」とカミュが声を上げた。
何かを見つけたのかもう一度確認するような素振りをしてから、再び「あった」と呟く。
先ほどよりも少し上ずった声音だった。
何があったのかと訊ねる前に、既にうとうとしていたセーニャの元に行ってしまった。
躊躇いがちに肩を揺さぶって、セーニャを起こす。

「おい、セーニャ」
「はい…何でしょうか、カミュ様…」
「こないだ言われたやつ見つけたぞ」
「本当ですか…!」

途端にキラキラと瞳を輝かせるセーニャに、見つけた何かを渡す。
遠くからじっと見つめていると、先日見つけた紫色の鉱石に近い色をした鉱石だった。

「お姉様、お姉様っ」

一足先に夢の中だったベロニカを起こして、 セーニャは子どものような無邪気な笑みを浮かべながら、掌の中にある鉱石をベロニカに向ける。

「何よぉ…あたし、もう眠いんだけど…」
「見てください。先日カミュ様がくださった鉱石をまた手に入れてくれたんです。これでお姉様とお揃いで持っていられますよ」
「あの綺麗な鉱石?」
「はい!私がお姉様とお揃いで持っていたいとお願いしたら、カミュ様がまた手に入れてくださったんです」

嬉しそうなセーニャに対して興味の無さそうな相槌を打っているように見えるが、ベロニカの瞳もキラキラとしていた。
鉱石は装飾品に加工するつもりなのか、先ほどまで眠そうだったのが嘘のように二人で熱心に話し合い始める。

「…ようやく依頼が終わった」

はぁ、と大きくため息を吐いて戻ってきたカミュに苦笑を返した。
セーニャが耳打ちしていたのは、このことだったのだろう。

「カミュは優しいね」
「そうか?」
「うん、僕はそう思うよ。それに、何だかベロニカとは喧嘩友達って感じだけど、セーニャに対してはただ優しい感じがする」
「たまたまだよ。セーニャは何て言うかさ、危なっかしいというか、放っておけないというか…」
「ほら、優しい」
「だから、それはだな」

普段の頼れる相棒の姿は何処へやら。
珍しく詰まる姿が面白くて、しばらく堂々巡りの問答を続けた。

後日、立ち寄った街で例の鉱石をネックレスに加工してもらい、それを嬉しそうに身につける姉妹の姿を見て、カミュは照れくさそうに頭を掻いていた。
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