待ち合わせ
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バスを降り、駅前の噴水に向かう。
浴衣に下駄という慣れない格好をしているので、ちょっぴり歩きにくい。
けれど、今から無月に会えるんだ…と思うと、そんな非日常にも心が浮き立つ。
今日は、駅から歩いて十分ほどの河川敷で、花火大会が行われている。
開始時刻は午後七時だから、既に始まっている。
無月が仕事の後で浴衣に着替えてくるため、私達は七時頃にここで、と待ち合わせをしたのだ。
駅からの人の流れは、大部分が花火大会の会場に向かっていく。
下り電車がホームにすべりこむのが見える度、私は人の波に目をこらして、無月の姿を探した。
……おかしい。
もう、約束の時間は、とっくに過ぎてると思うんだけどな……
なかなか現れない無月に不安を覚え、手提げバッグの中の携帯電話を探す。
……ない……
携帯電話がない。
なんで?
混乱する頭を何とか落ち着かせ、今日の自分の行動を振り返ってみる。
私は、愕然とした。
電池切れにならないようにと、わざわざ部屋の充電器につなぎ、そのまま慌てて家を出てきてしまったんだ……
心細さが募った。
もしかしたら、無月が連絡をくれたかもしれないのに。
幸いなのは、この場所を動かなければ、時間はかかっても、彼に見つけてもらえるであろうこと。
だけど、もしも……無月からの連絡が、待ち合わせ場所を変えるという内容だったり、今日はどうしても都合がつかなくなってしまった……つまり、キャンセルってことだったりしたら、どうしよう。
建物の影にはなるが、一応ここからも花火の一部が見える。
雷のような音が聞こえる度、道行く人は空を見上げながら河川敷へと急ぐ。
ああ……私って、どうしていつも、肝腎なところが抜けてるんだろう……
たかが携帯、されど携帯
小さな道具ひとつに依存しきっている現代の生活に、苦い想いが込み上げてくる。
またひとつ、ひと際大きな花火が上がり、地面を揺らすような音が響いた。
色を変え消えてゆく光の粒たちが、ぼんやりとにじんでくる。
……と、後ろから肩をたたかれ、私はビクッとしながら振り向いた。
「……無月」
そこには、仕事帰りそのままらしい格好の無月が立っていた。
「無月……ごめんなさい……私、携帯忘れちゃって」
本当なら、人目もはばからず無月の胸に飛び込みたい。
けれど、まずは、連絡がつかない状態を招いてしまったことを素直に謝らなくちゃいけないよね……
「時間に遅れたのはこちらなのに、なぜ瑠璃が謝るのだ?」
「だって……」
うつむく私の頭をそっと撫でながら、無月が申し訳なさそうに言う。
「すまない……どうしても仕事が片付かずに、こんな時間になってしまった……返信がなかったから、瑠璃が怒っているのではないかと心配していたのだ」
「そんなこと……」
無事彼と合流できた安堵で、目尻にたまっていた涙がこぼれた。
無月は、私の頬を慌てて指でぬぐうと、優しく微笑んだ。
「瑠璃の浴衣姿を見られただけでも、急いで駆け付けてきた甲斐があった、というものだ」
「……あ……ありがとう……」
ほんのり熱くなった頬を隠すように目をそらした私の手を、無月がそっと握る。
「まだまだ花火は続くはずだ。川の方へ行くとするか」
「うん!」
しっかりと手をつないで、二人笑顔で歩く。
だんだんと、露店のいい匂いが漂ってくる。
連続する打ち上げの音の中で、わき起こる人々の歓声に足を止め顔を上に向ける。
「わあ……!!」
夏の夜空には、大輪の花々が今を盛りと咲き乱れていた。
*
浴衣に下駄という慣れない格好をしているので、ちょっぴり歩きにくい。
けれど、今から無月に会えるんだ…と思うと、そんな非日常にも心が浮き立つ。
今日は、駅から歩いて十分ほどの河川敷で、花火大会が行われている。
開始時刻は午後七時だから、既に始まっている。
無月が仕事の後で浴衣に着替えてくるため、私達は七時頃にここで、と待ち合わせをしたのだ。
駅からの人の流れは、大部分が花火大会の会場に向かっていく。
下り電車がホームにすべりこむのが見える度、私は人の波に目をこらして、無月の姿を探した。
……おかしい。
もう、約束の時間は、とっくに過ぎてると思うんだけどな……
なかなか現れない無月に不安を覚え、手提げバッグの中の携帯電話を探す。
……ない……
携帯電話がない。
なんで?
混乱する頭を何とか落ち着かせ、今日の自分の行動を振り返ってみる。
私は、愕然とした。
電池切れにならないようにと、わざわざ部屋の充電器につなぎ、そのまま慌てて家を出てきてしまったんだ……
心細さが募った。
もしかしたら、無月が連絡をくれたかもしれないのに。
幸いなのは、この場所を動かなければ、時間はかかっても、彼に見つけてもらえるであろうこと。
だけど、もしも……無月からの連絡が、待ち合わせ場所を変えるという内容だったり、今日はどうしても都合がつかなくなってしまった……つまり、キャンセルってことだったりしたら、どうしよう。
建物の影にはなるが、一応ここからも花火の一部が見える。
雷のような音が聞こえる度、道行く人は空を見上げながら河川敷へと急ぐ。
ああ……私って、どうしていつも、肝腎なところが抜けてるんだろう……
たかが携帯、されど携帯
小さな道具ひとつに依存しきっている現代の生活に、苦い想いが込み上げてくる。
またひとつ、ひと際大きな花火が上がり、地面を揺らすような音が響いた。
色を変え消えてゆく光の粒たちが、ぼんやりとにじんでくる。
……と、後ろから肩をたたかれ、私はビクッとしながら振り向いた。
「……無月」
そこには、仕事帰りそのままらしい格好の無月が立っていた。
「無月……ごめんなさい……私、携帯忘れちゃって」
本当なら、人目もはばからず無月の胸に飛び込みたい。
けれど、まずは、連絡がつかない状態を招いてしまったことを素直に謝らなくちゃいけないよね……
「時間に遅れたのはこちらなのに、なぜ瑠璃が謝るのだ?」
「だって……」
うつむく私の頭をそっと撫でながら、無月が申し訳なさそうに言う。
「すまない……どうしても仕事が片付かずに、こんな時間になってしまった……返信がなかったから、瑠璃が怒っているのではないかと心配していたのだ」
「そんなこと……」
無事彼と合流できた安堵で、目尻にたまっていた涙がこぼれた。
無月は、私の頬を慌てて指でぬぐうと、優しく微笑んだ。
「瑠璃の浴衣姿を見られただけでも、急いで駆け付けてきた甲斐があった、というものだ」
「……あ……ありがとう……」
ほんのり熱くなった頬を隠すように目をそらした私の手を、無月がそっと握る。
「まだまだ花火は続くはずだ。川の方へ行くとするか」
「うん!」
しっかりと手をつないで、二人笑顔で歩く。
だんだんと、露店のいい匂いが漂ってくる。
連続する打ち上げの音の中で、わき起こる人々の歓声に足を止め顔を上に向ける。
「わあ……!!」
夏の夜空には、大輪の花々が今を盛りと咲き乱れていた。
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