虹色ドーナツ 番外編その2 ~Je te veux―あなたがほしい
今日は私の誕生日。
これで、堂々とお酒を飲める年令になる。
――
―――この前の週末は、祢々斬に急な予定が入ってしまって、一緒に夕食をとることが出来なかった。
前日から煮込んだチキンカレーは、彼の替わりに……と言ってはなんだが、彼の弟さんの彼女さん(?)と一緒にいただいた。
魁童くんの学校の文化祭で出会った、はるかちゃん。
彼女とおしゃべりして、元気をもらって、
同時に、祢々斬に対する自分の想いを再認識できた気がする。
―――
――
「今日はずっとおまえのそばにいる。記念すべき誕生日なんだからな」
祢々斬はそう言ってくれたが、夜中には帰ることになるだろう。
何もしないで、朝まで隣にいて――
私がそう言えば、煩悩を理性で押し殺して、きっと彼は寄り添っていてくれるはずだ。
だけど、健康な成人男子なんだよね、祢々斬だって。
いつまでもそんなふうに我慢させてしまうのが、申し訳ない。
彼が優しいだけに、余計にね……
私のそんな葛藤はお構い無しに、彼は、テーブルの上に大きな箱を置いた。
「ほら、おまえの好きな"full moon "のケーキだ」
「わあ、嬉しい…………んん……?祢々斬、いくつ買ってきてくれたの??」
「……どれがいいのかわからなかったからな、全部ひとつずつだ」
「あはは、やだ~いっぺんに、こんなに食べられないよ」
ショートケーキにモンブラン、ベイクドチーズにレアチーズ、ロールケーキ、ゼリーにムース、そして私のお気に入りのミルフィーユ……
ケーキ好きな女の子にとって、まるで宝石箱を開くような至福の時間だ。
箱の中を覗き込みながら、ケーキ屋さんのショーケースとにらめっこしている彼の姿を思い浮かべ、私は胸が熱くなった。
「祢々斬、ありがとう」
「あと、これ……開けてみろ」
祢々斬が照れくさそうに差し出したのは、水色のリボンがかけられた細長い包み。
リボンをほどき箱を開けると、中には、真珠をあしらった銀色のネックレスが入っていた。
「おまえの誕生石なんだろ?」
「うん……素敵……祢々斬、ありがとう……」
思いがけないプレゼントに、私は思わず声がふるえた。
「ね……これ、つけてみていい?」
「ああ。どれ、貸してみろ。おまえは案外不器用だからな」
「あ……ひどい~……まあ、ほんとのことだから仕方ないけど……」
ネックレスを祢々斬に手渡し、私は彼に背中を向ける。
肩甲骨の下辺りまで伸ばした髪を、まとめて体の前に流す。
背中を預けるみたいで、ちょっぴり緊張する……
「よく似合うぞ」
私の前に回り込んで、祢々斬は嬉しそうに頷く。
「ありがとう、大切にするね」
胸元を彩るパールの淡い光は、純潔の証にも思える。
満足げに微笑む彼を見ていたら、私の心の中で何かが弾けた。
「あのね……もうひとつ、どうしてもほしいものがあるんだけど」
「ん、なんだ?」
「私ね……」
*
祢々斬の表情をうかがうと、まっすぐな、でも優しい眼差しで、私の次の言葉を待っている。
「……祢々斬……あなたがほしい」
「瑠璃……」
「私を、抱いてほしい」
一瞬驚いた顔をみせた祢々斬だったけれど、すぐに優しく微笑むと、私の頭をポンポンとたたいた。
「無理しなくていいんだぞ?俺なら大丈夫だ。いつまでだって、待つから「ううん、そうじゃないの」」
すかさず私は、首を左右にふった。
「そうならないと不安だとか、そんな気持ちじゃない。私が心から思うの、祢々斬のものになりたいって……」
本当は、しっかり彼の目を見て伝えたかったけれど、私は目を上げることが出来なかった。
「だから……今日は、帰らないで」
言い終えて、私はうつむいてしまった。
祢々斬に、なんて思われただろう……
でも、後悔の気持ちはなかった。
素直な想いを伝えることができたから。
「わかった……」
祢々斬は、私の耳元に顔を近づけてささやいた。
「今夜は、おまえを離さない。瑠璃……おまえは俺のものだ」
「……っ……祢々斬……」
胸がいっぱいで、言葉が出てこない。
「おまえは俺のもの、そして、俺の全ては……瑠璃、おまえのものだ」
何も言えずただ頷く私から、祢々斬はそっと体を離した。
「……それは、後でゆっくりな。まずは、おまえの誕生日を祝うぞ」
彼は、私の頭をクシャクシャと撫でた。
「おすすめの紅茶ってのも、一緒に買ってきた。それとも、二十歳の祝いに酒でも飲むか?」
「お酒は置いてないよ……でも、祢々斬が泊まってってくれるようになれば、飲めるんだよね」
そう――
今までの祢々斬は、車を運転して帰るから、ここでお酒を飲むことは出来なかった。
だけど、これからは二人で飲める。
そのまま、同じベッドで眠ることだってできるんだ。
「今日は、ケーキと紅茶がいいな。お酒は、明日一緒に買いに行こ?」
「ああ。実は、おまえ結構強いんじゃないか?」
「ん~どうかなあ?おじいちゃんが酒豪だって話は聞いたことがあるけど」
祢々斬と、顔を見合わせて笑った。
紅茶のお湯を沸かすために、私は立ち上がる。
今日は、今日からは、夜中に彼を見送らなくてもいい。
朝まで、ずっと一緒にいられる。
ようやく、心だけでなく、私の全てがあなたのものになる……
ひとつ大人になった私は、その晩、祢々斬と結ばれた。
*
これで、堂々とお酒を飲める年令になる。
――
―――この前の週末は、祢々斬に急な予定が入ってしまって、一緒に夕食をとることが出来なかった。
前日から煮込んだチキンカレーは、彼の替わりに……と言ってはなんだが、彼の弟さんの彼女さん(?)と一緒にいただいた。
魁童くんの学校の文化祭で出会った、はるかちゃん。
彼女とおしゃべりして、元気をもらって、
同時に、祢々斬に対する自分の想いを再認識できた気がする。
―――
――
「今日はずっとおまえのそばにいる。記念すべき誕生日なんだからな」
祢々斬はそう言ってくれたが、夜中には帰ることになるだろう。
何もしないで、朝まで隣にいて――
私がそう言えば、煩悩を理性で押し殺して、きっと彼は寄り添っていてくれるはずだ。
だけど、健康な成人男子なんだよね、祢々斬だって。
いつまでもそんなふうに我慢させてしまうのが、申し訳ない。
彼が優しいだけに、余計にね……
私のそんな葛藤はお構い無しに、彼は、テーブルの上に大きな箱を置いた。
「ほら、おまえの好きな"full moon "のケーキだ」
「わあ、嬉しい…………んん……?祢々斬、いくつ買ってきてくれたの??」
「……どれがいいのかわからなかったからな、全部ひとつずつだ」
「あはは、やだ~いっぺんに、こんなに食べられないよ」
ショートケーキにモンブラン、ベイクドチーズにレアチーズ、ロールケーキ、ゼリーにムース、そして私のお気に入りのミルフィーユ……
ケーキ好きな女の子にとって、まるで宝石箱を開くような至福の時間だ。
箱の中を覗き込みながら、ケーキ屋さんのショーケースとにらめっこしている彼の姿を思い浮かべ、私は胸が熱くなった。
「祢々斬、ありがとう」
「あと、これ……開けてみろ」
祢々斬が照れくさそうに差し出したのは、水色のリボンがかけられた細長い包み。
リボンをほどき箱を開けると、中には、真珠をあしらった銀色のネックレスが入っていた。
「おまえの誕生石なんだろ?」
「うん……素敵……祢々斬、ありがとう……」
思いがけないプレゼントに、私は思わず声がふるえた。
「ね……これ、つけてみていい?」
「ああ。どれ、貸してみろ。おまえは案外不器用だからな」
「あ……ひどい~……まあ、ほんとのことだから仕方ないけど……」
ネックレスを祢々斬に手渡し、私は彼に背中を向ける。
肩甲骨の下辺りまで伸ばした髪を、まとめて体の前に流す。
背中を預けるみたいで、ちょっぴり緊張する……
「よく似合うぞ」
私の前に回り込んで、祢々斬は嬉しそうに頷く。
「ありがとう、大切にするね」
胸元を彩るパールの淡い光は、純潔の証にも思える。
満足げに微笑む彼を見ていたら、私の心の中で何かが弾けた。
「あのね……もうひとつ、どうしてもほしいものがあるんだけど」
「ん、なんだ?」
「私ね……」
*
祢々斬の表情をうかがうと、まっすぐな、でも優しい眼差しで、私の次の言葉を待っている。
「……祢々斬……あなたがほしい」
「瑠璃……」
「私を、抱いてほしい」
一瞬驚いた顔をみせた祢々斬だったけれど、すぐに優しく微笑むと、私の頭をポンポンとたたいた。
「無理しなくていいんだぞ?俺なら大丈夫だ。いつまでだって、待つから「ううん、そうじゃないの」」
すかさず私は、首を左右にふった。
「そうならないと不安だとか、そんな気持ちじゃない。私が心から思うの、祢々斬のものになりたいって……」
本当は、しっかり彼の目を見て伝えたかったけれど、私は目を上げることが出来なかった。
「だから……今日は、帰らないで」
言い終えて、私はうつむいてしまった。
祢々斬に、なんて思われただろう……
でも、後悔の気持ちはなかった。
素直な想いを伝えることができたから。
「わかった……」
祢々斬は、私の耳元に顔を近づけてささやいた。
「今夜は、おまえを離さない。瑠璃……おまえは俺のものだ」
「……っ……祢々斬……」
胸がいっぱいで、言葉が出てこない。
「おまえは俺のもの、そして、俺の全ては……瑠璃、おまえのものだ」
何も言えずただ頷く私から、祢々斬はそっと体を離した。
「……それは、後でゆっくりな。まずは、おまえの誕生日を祝うぞ」
彼は、私の頭をクシャクシャと撫でた。
「おすすめの紅茶ってのも、一緒に買ってきた。それとも、二十歳の祝いに酒でも飲むか?」
「お酒は置いてないよ……でも、祢々斬が泊まってってくれるようになれば、飲めるんだよね」
そう――
今までの祢々斬は、車を運転して帰るから、ここでお酒を飲むことは出来なかった。
だけど、これからは二人で飲める。
そのまま、同じベッドで眠ることだってできるんだ。
「今日は、ケーキと紅茶がいいな。お酒は、明日一緒に買いに行こ?」
「ああ。実は、おまえ結構強いんじゃないか?」
「ん~どうかなあ?おじいちゃんが酒豪だって話は聞いたことがあるけど」
祢々斬と、顔を見合わせて笑った。
紅茶のお湯を沸かすために、私は立ち上がる。
今日は、今日からは、夜中に彼を見送らなくてもいい。
朝まで、ずっと一緒にいられる。
ようやく、心だけでなく、私の全てがあなたのものになる……
ひとつ大人になった私は、その晩、祢々斬と結ばれた。
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