虹色ドーナツ 番外編 ~Lovin’You~
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
竜尊と想いが通じ合ってから……
二人で会ったり、出かけたりする機会は確かに増えた。
けれど
「あくまでも学生の本分は勉強ですからね」
そう言い訳して、彼を牽制して来た。
私にはまだ、いわゆる大人の恋愛は早いような気がして。
だけど……
竜尊は大人の男の人なんだし、いつまでもこのままっていう訳にはいかないよね……
それに、私も一応、女の子なら結婚できる年令なんだし……
もう、そういうふうになってもいいのかなあ……
な~んて、気持ちが揺らいでいた今日この頃。
折しも、もうすぐ私の誕生日。
「そろそろ、大人の階段のぼるか?」
ふざけて頭をクシャクシャしてくる竜尊に、黙って頷いたら、彼の方が驚いていた。
なんでも、その時の私は、相当思い詰めたような顔をしていたらしい。後で聞いたら。
何はともあれ、竜尊と初めてのお泊まり。
「……一晩泊まるだけなのに、なんだ?この大荷物は」
「ふふふ、よくぞ聞いてくれました」
私はバッグを開け、中から旅行用の枕を取り出した。
「これさえあれば、お出かけ先でもぐっすり♪の素敵な枕なんですよ」
「おまえな……今晩は、枕を高くして眠れると思ったら大間違いだぞ」
「それは……私はゆっくり寝られないということですかね……?」
「ああ、そうさせてやるつもりだ。ここまで待たされたんだ。俺が、ちょっとやそっとで満足すると思うなよ?」
「あ~、その辺は任せてください。夜を徹して遊べる道具も、ちゃんとありますよ、ほら」
トランプやらウノ、花札に人生ゲーム……
私はバッグの中から、修学旅行の夜に重宝されそうなアイテムを次々に取り出した。
が、竜尊は「却下、これも却下」と言いながら、それらをソファの上に放り投げる。
おまけに、瑠璃さんに選んでもらった、とっておきの勝負(?)パジャマまで
「どうせすぐ脱がせるんだから、いらん」
と却下の山に積み上げる始末。
「なにするんですか!?瑠璃さんちにお邪魔する時にも持って行く、お泊まり標準装備なのに」
「標準装備って……おまえ、外泊はよくするのか?」
「たま~に、ね。瑠璃さんちにも、あんまりお邪魔したら申し訳ないですから……」
竜尊は、やれやれといった表情で私を見た。
「家の人には、今日も、瑠璃のところに泊まるって言ってあるのか?」
私は、首を横に振った。
「ううん……お母さんには、一応、ほんとのこと伝えてきた」
「そうか、おまえにしては、がんばったな」
竜尊に頭をなでられながら、でもね……と続ける。
「私が、悩んで悩んで悩んだ末に、今日、竜尊のとこに泊まるって正直に話したらさ……何て言ったと思う?」
「やっぱり……止められたか?」
「……『避妊はしっかりしてもらいなさいね』だって。まったく……」
「理解のある、いいお母さんじゃないか」
「これが理解あるっていうことなのか、よくわかんないけどね……」
私は、思わず大きなため息をついた。
「なんだ、おまえは反対された方がよかったのか?」
「そういう訳じゃないけど、なんだか拍子抜け、みたいな」
竜尊は私を背中からすっぽりと包み込んで笑う。
「きっと、おまえのことを信用してるのさ。安心しろ、俺は、へまはしない。それに、万が一の時はちゃんと責任とる」
「ああ、じゃあ安心だね……って、違ーーうっ!!」
*
「まあ、せっかくの長い夜だ。ゆっくり楽しまなくちゃ、もったいないよな」
ふっと表情をゆるめてみせる竜尊。
ああ……私は、この顔に弱いんだ。
なあんて一人で照れていたら、竜尊が立ち上がってキッチンから何かを取ってきた。
「ひぁっ!」
よく冷えた缶をいきなり頬にあてられ、思いきり肩をすくめる。
「偽ソルティドッグが気に入ってるんだろ」
「瑠璃さん情報ですか?」
「正確には、瑠璃経由祢々斬情報だ」
「せっかくですから、ありがたくいただきます」
私は、缶のプルタブを引き、弾ける炭酸をひとくち飲んだ。
竜尊は、微笑を浮かべながらこちらを見ている。
何ともくすぐったい気持ちになり、私は口を開いた。
「竜尊は、なにか飲まないの?お酒とか……」
「いや、いい。おまえにとって大切な"初めて"の夜に、俺が酔ってたら失礼だろ?」
……そうか……やっぱり今日は、どうしても覚悟を決めないといけないのかな……
この期に及んでも、正直、現状を変えてしまうことに不安を覚える自分がいる。
「なんなら、そのノンアルコールをくれ」
「ああ……はい、どうぞ」
もうひとくち口に含んでから、缶を差し出す。
「口移しで飲ませてくれてもいいぞ」
私は思わず、口の中の飲み物を吹き出してしまった。
「ぅわ~、ごめんなさい!雑巾、雑巾」
慌てて、テーブルとフローリングに飛び散った滴を拭き取る。
「ごめんなさい……竜尊の服にも、かかっちゃったかな」
「なあに、大丈夫だ。それより、おまえの方こそ、先にシャワーを使っていいぞ」
「私は平気……竜尊、ベタベタになっちゃったでしょ。お先にどうぞ」
「一緒にどうだ?」
「っ……??」
だめだ、こんなやり取り……心臓に悪い。
「じゃ、じゃあ……私、先にお風呂使わせてもらうね」
ぎこちない動きでバスルームに向かい、着替えを脱衣室に置くと、私は不安になった。
昔話にありがちな、水浴びしてる天女の衣を隠してしまうっていうあれ……
まさかとは思うけど、竜尊、あんなベタなことしないよね……
ソワソワと落ち着かない思いでシャワーを浴び終え、ドアを少しずつ開けて、脱衣室の様子を確認する。
……うん、侵入された形跡はなさそうだ。
ホッとしたような、肩すかしをくったような心持ちで部屋に戻ると、竜尊はテレビを見ながら笑っていた。
すっかり安心&リラックスして、彼の隣に座る。
「ん?……いつもと感じが違うな」
テレビから私に視線を移した竜尊は、軽く私の頭をなでると、ソファから立ち上がった。
「俺もシャワーを浴びてくるとするかな。好きな番組見てていいぞ」
「あ……うん……」
ドアの閉まる音を背中に聞きながら、私はテレビのリモコンを握りしめる。
が、どのチャンネルに変えたところで、内容なんか、ろくに頭に入ってこない。
竜尊がここに戻って来たら……
普通にテレビ見てお菓子食べて……なんて訳にはいかないんだろうな。
急に心細くなってくる。
……いっそのこと、このまま帰ろうか……
いやいやいや、今日は、竜尊と一緒に過ごすって決心して来たんだから。
私は、頭を左右にふった。
落ち着け、落ち着け。
自分に言い聞かせてみるが、胸のドキドキはおさまりそうにない。
見るとはなしにテレビ画面に目をやって時間をつぶしていると、ドアの開く音に続いて、足音が近づいてきた。
え~いっ!
もう……なるようになれ!!
*
「なんだ、真面目なニュース見てるのか?」
「え……?あ、あれ?ニュース……わっ」
より添うように隣に座った竜尊に動転し、私はリモコンを落としてしまった。
慌てて拾おうとかがみこむと、同じく手を伸ばした竜尊と手が触れた。
思わずビクッと体を起こした私を、苦笑混じりに見た竜尊は、私の両肩に手を置く。
「そんなに緊張しなくてもいいだろ?なにも、とって食いやしねえよ」
「ほんと?」
「……いや、食うことは食う。正確に言えばな」
「なんですか、それ……ちょっとは、遠慮というものをしてみようとか思わないんですか!?」
「おまえこそ、遠慮しなくていいんだぞ。たっぷり可愛がってやる」
「いえ、できれば遠慮させていただきたいですから、そちらも遠慮してください」
なりふり構わない私の言い分もずいぶん無茶苦茶なものだが、竜尊はさらに上をいく。
「俺は、もう待てないぞ」
ソファに背中を押し付けられたまま、竜尊の顔が近づいてくる。
私は身体中をかたくして、ギュッと目をつぶった。
だが、待てども何も起こらない。
そおっと薄目を開けると、竜尊はにやっと笑った。
「いつもの勢いはどうした?ほら、肩の力を抜け」
「う~……」
悔しいけど、竜尊には、かなわない。
そっと髪を撫でられ、いたずらっぽい笑顔で見つめられたら……何も言い返せる訳がない。
おとなしく抱き上げられ、寝室に運ばれる。
私をベッドに座らせ、抱き寄せようとした竜尊だが、ピタッと動きが止まる。
「……おい、なんだこの手は」
私の伸ばした両腕は、竜尊がそれ以上近づけないよう、彼の肩を押して思いきり突っ張っていた。
「あ……いやあ……つ、つい……条件反射というか、自己防衛本能というか……ひゃっ」
苦笑いでごまかしながら、そろそろと両手を引っ込め始めた途端、竜尊の指が、パジャマの上から私の脇腹をなぞった。
「っっ……やめっ……そこだめ、くすぐったいくすぐったいぃ~!!きゃはははは……ひゃああ~」
笑いすぎて涙を流しながら抵抗し続けていたら、ようやく竜尊はくすぐる手を止めた。
「おまえが、そんなに無防備に笑ってる顔を見るのは、初めてだな」
「そ……そうかな」
「ああ。おまえは時々、自分の周りに見えない壁を作っているだろう?」
「そんなことない!……と、思うけど……」
竜尊の自信ありげな表情に、反対に私は、自分の言葉に自信がなくなってくる。
「俺が、その壁をぶち壊してやる。おまえの持ってる、いろんな顔を、全部見せてもらうからな」
竜尊の指が、私のパジャマのボタンにかかる。
私は身動きできずに固まったまま、彼の束ねた髪が揺れるのをじっと見ていた。
肩から布がすべり落ちる乾いた感触に、思わず両手で上半身を覆う。
が、すぐに手首をつかまれ、私の手は体の前からどけられる。
「こら、全部見せてもらうって言っただろ」
「だ……だって……っ」
目を伏せて顔をそらしたら、竜尊がクスリと笑った。
「誰だって、初めてのことは不安になるもんさ」
頭を撫でながら、頬に軽くキスをする。
「はるか……おまえの飼い主は、俺だけだからな。他のやつのところに、ふらふら行ったりするんじゃねえぞ」
いつもなら、何かしらの憎まれ口で応酬するのだけれど……
目を合わせることも出来ない。
恥ずかしくて……。
かろうじて小さく頷く。
「ふっ、いい子だ」
そっとベッドに横たえられ、竜尊が私を見下ろす形になった。
白銀の髪が私の肩にかかる。
「まだ……俺のことがこわいか?」
いつだったか……以前聞いた時には足がすくんでしまった台詞を、今また耳元でささやかれ、迷わず首を横に振る。
竜尊の体温を直に感じ、互いの鼓動まで伝わりそうな気がする。
『触られても、嫌じゃなかった』
『この人にだったら、ずっと触れていてほしい』
いつか聞いた瑠璃さんの言葉が、頭の中でリフレインする。
竜尊の指が、唇が、優しく肌に触れるたび、私の体は熱く溶けてしまいそうになる。
初めて会った時には印象最悪で、『なんて人』って思った竜尊と、今こんなふうになるなんてね――
甘い痛みとともに彼を受け入れながら、そんなことを思う初めての夜だった。
*
二人で会ったり、出かけたりする機会は確かに増えた。
けれど
「あくまでも学生の本分は勉強ですからね」
そう言い訳して、彼を牽制して来た。
私にはまだ、いわゆる大人の恋愛は早いような気がして。
だけど……
竜尊は大人の男の人なんだし、いつまでもこのままっていう訳にはいかないよね……
それに、私も一応、女の子なら結婚できる年令なんだし……
もう、そういうふうになってもいいのかなあ……
な~んて、気持ちが揺らいでいた今日この頃。
折しも、もうすぐ私の誕生日。
「そろそろ、大人の階段のぼるか?」
ふざけて頭をクシャクシャしてくる竜尊に、黙って頷いたら、彼の方が驚いていた。
なんでも、その時の私は、相当思い詰めたような顔をしていたらしい。後で聞いたら。
何はともあれ、竜尊と初めてのお泊まり。
「……一晩泊まるだけなのに、なんだ?この大荷物は」
「ふふふ、よくぞ聞いてくれました」
私はバッグを開け、中から旅行用の枕を取り出した。
「これさえあれば、お出かけ先でもぐっすり♪の素敵な枕なんですよ」
「おまえな……今晩は、枕を高くして眠れると思ったら大間違いだぞ」
「それは……私はゆっくり寝られないということですかね……?」
「ああ、そうさせてやるつもりだ。ここまで待たされたんだ。俺が、ちょっとやそっとで満足すると思うなよ?」
「あ~、その辺は任せてください。夜を徹して遊べる道具も、ちゃんとありますよ、ほら」
トランプやらウノ、花札に人生ゲーム……
私はバッグの中から、修学旅行の夜に重宝されそうなアイテムを次々に取り出した。
が、竜尊は「却下、これも却下」と言いながら、それらをソファの上に放り投げる。
おまけに、瑠璃さんに選んでもらった、とっておきの勝負(?)パジャマまで
「どうせすぐ脱がせるんだから、いらん」
と却下の山に積み上げる始末。
「なにするんですか!?瑠璃さんちにお邪魔する時にも持って行く、お泊まり標準装備なのに」
「標準装備って……おまえ、外泊はよくするのか?」
「たま~に、ね。瑠璃さんちにも、あんまりお邪魔したら申し訳ないですから……」
竜尊は、やれやれといった表情で私を見た。
「家の人には、今日も、瑠璃のところに泊まるって言ってあるのか?」
私は、首を横に振った。
「ううん……お母さんには、一応、ほんとのこと伝えてきた」
「そうか、おまえにしては、がんばったな」
竜尊に頭をなでられながら、でもね……と続ける。
「私が、悩んで悩んで悩んだ末に、今日、竜尊のとこに泊まるって正直に話したらさ……何て言ったと思う?」
「やっぱり……止められたか?」
「……『避妊はしっかりしてもらいなさいね』だって。まったく……」
「理解のある、いいお母さんじゃないか」
「これが理解あるっていうことなのか、よくわかんないけどね……」
私は、思わず大きなため息をついた。
「なんだ、おまえは反対された方がよかったのか?」
「そういう訳じゃないけど、なんだか拍子抜け、みたいな」
竜尊は私を背中からすっぽりと包み込んで笑う。
「きっと、おまえのことを信用してるのさ。安心しろ、俺は、へまはしない。それに、万が一の時はちゃんと責任とる」
「ああ、じゃあ安心だね……って、違ーーうっ!!」
*
「まあ、せっかくの長い夜だ。ゆっくり楽しまなくちゃ、もったいないよな」
ふっと表情をゆるめてみせる竜尊。
ああ……私は、この顔に弱いんだ。
なあんて一人で照れていたら、竜尊が立ち上がってキッチンから何かを取ってきた。
「ひぁっ!」
よく冷えた缶をいきなり頬にあてられ、思いきり肩をすくめる。
「偽ソルティドッグが気に入ってるんだろ」
「瑠璃さん情報ですか?」
「正確には、瑠璃経由祢々斬情報だ」
「せっかくですから、ありがたくいただきます」
私は、缶のプルタブを引き、弾ける炭酸をひとくち飲んだ。
竜尊は、微笑を浮かべながらこちらを見ている。
何ともくすぐったい気持ちになり、私は口を開いた。
「竜尊は、なにか飲まないの?お酒とか……」
「いや、いい。おまえにとって大切な"初めて"の夜に、俺が酔ってたら失礼だろ?」
……そうか……やっぱり今日は、どうしても覚悟を決めないといけないのかな……
この期に及んでも、正直、現状を変えてしまうことに不安を覚える自分がいる。
「なんなら、そのノンアルコールをくれ」
「ああ……はい、どうぞ」
もうひとくち口に含んでから、缶を差し出す。
「口移しで飲ませてくれてもいいぞ」
私は思わず、口の中の飲み物を吹き出してしまった。
「ぅわ~、ごめんなさい!雑巾、雑巾」
慌てて、テーブルとフローリングに飛び散った滴を拭き取る。
「ごめんなさい……竜尊の服にも、かかっちゃったかな」
「なあに、大丈夫だ。それより、おまえの方こそ、先にシャワーを使っていいぞ」
「私は平気……竜尊、ベタベタになっちゃったでしょ。お先にどうぞ」
「一緒にどうだ?」
「っ……??」
だめだ、こんなやり取り……心臓に悪い。
「じゃ、じゃあ……私、先にお風呂使わせてもらうね」
ぎこちない動きでバスルームに向かい、着替えを脱衣室に置くと、私は不安になった。
昔話にありがちな、水浴びしてる天女の衣を隠してしまうっていうあれ……
まさかとは思うけど、竜尊、あんなベタなことしないよね……
ソワソワと落ち着かない思いでシャワーを浴び終え、ドアを少しずつ開けて、脱衣室の様子を確認する。
……うん、侵入された形跡はなさそうだ。
ホッとしたような、肩すかしをくったような心持ちで部屋に戻ると、竜尊はテレビを見ながら笑っていた。
すっかり安心&リラックスして、彼の隣に座る。
「ん?……いつもと感じが違うな」
テレビから私に視線を移した竜尊は、軽く私の頭をなでると、ソファから立ち上がった。
「俺もシャワーを浴びてくるとするかな。好きな番組見てていいぞ」
「あ……うん……」
ドアの閉まる音を背中に聞きながら、私はテレビのリモコンを握りしめる。
が、どのチャンネルに変えたところで、内容なんか、ろくに頭に入ってこない。
竜尊がここに戻って来たら……
普通にテレビ見てお菓子食べて……なんて訳にはいかないんだろうな。
急に心細くなってくる。
……いっそのこと、このまま帰ろうか……
いやいやいや、今日は、竜尊と一緒に過ごすって決心して来たんだから。
私は、頭を左右にふった。
落ち着け、落ち着け。
自分に言い聞かせてみるが、胸のドキドキはおさまりそうにない。
見るとはなしにテレビ画面に目をやって時間をつぶしていると、ドアの開く音に続いて、足音が近づいてきた。
え~いっ!
もう……なるようになれ!!
*
「なんだ、真面目なニュース見てるのか?」
「え……?あ、あれ?ニュース……わっ」
より添うように隣に座った竜尊に動転し、私はリモコンを落としてしまった。
慌てて拾おうとかがみこむと、同じく手を伸ばした竜尊と手が触れた。
思わずビクッと体を起こした私を、苦笑混じりに見た竜尊は、私の両肩に手を置く。
「そんなに緊張しなくてもいいだろ?なにも、とって食いやしねえよ」
「ほんと?」
「……いや、食うことは食う。正確に言えばな」
「なんですか、それ……ちょっとは、遠慮というものをしてみようとか思わないんですか!?」
「おまえこそ、遠慮しなくていいんだぞ。たっぷり可愛がってやる」
「いえ、できれば遠慮させていただきたいですから、そちらも遠慮してください」
なりふり構わない私の言い分もずいぶん無茶苦茶なものだが、竜尊はさらに上をいく。
「俺は、もう待てないぞ」
ソファに背中を押し付けられたまま、竜尊の顔が近づいてくる。
私は身体中をかたくして、ギュッと目をつぶった。
だが、待てども何も起こらない。
そおっと薄目を開けると、竜尊はにやっと笑った。
「いつもの勢いはどうした?ほら、肩の力を抜け」
「う~……」
悔しいけど、竜尊には、かなわない。
そっと髪を撫でられ、いたずらっぽい笑顔で見つめられたら……何も言い返せる訳がない。
おとなしく抱き上げられ、寝室に運ばれる。
私をベッドに座らせ、抱き寄せようとした竜尊だが、ピタッと動きが止まる。
「……おい、なんだこの手は」
私の伸ばした両腕は、竜尊がそれ以上近づけないよう、彼の肩を押して思いきり突っ張っていた。
「あ……いやあ……つ、つい……条件反射というか、自己防衛本能というか……ひゃっ」
苦笑いでごまかしながら、そろそろと両手を引っ込め始めた途端、竜尊の指が、パジャマの上から私の脇腹をなぞった。
「っっ……やめっ……そこだめ、くすぐったいくすぐったいぃ~!!きゃはははは……ひゃああ~」
笑いすぎて涙を流しながら抵抗し続けていたら、ようやく竜尊はくすぐる手を止めた。
「おまえが、そんなに無防備に笑ってる顔を見るのは、初めてだな」
「そ……そうかな」
「ああ。おまえは時々、自分の周りに見えない壁を作っているだろう?」
「そんなことない!……と、思うけど……」
竜尊の自信ありげな表情に、反対に私は、自分の言葉に自信がなくなってくる。
「俺が、その壁をぶち壊してやる。おまえの持ってる、いろんな顔を、全部見せてもらうからな」
竜尊の指が、私のパジャマのボタンにかかる。
私は身動きできずに固まったまま、彼の束ねた髪が揺れるのをじっと見ていた。
肩から布がすべり落ちる乾いた感触に、思わず両手で上半身を覆う。
が、すぐに手首をつかまれ、私の手は体の前からどけられる。
「こら、全部見せてもらうって言っただろ」
「だ……だって……っ」
目を伏せて顔をそらしたら、竜尊がクスリと笑った。
「誰だって、初めてのことは不安になるもんさ」
頭を撫でながら、頬に軽くキスをする。
「はるか……おまえの飼い主は、俺だけだからな。他のやつのところに、ふらふら行ったりするんじゃねえぞ」
いつもなら、何かしらの憎まれ口で応酬するのだけれど……
目を合わせることも出来ない。
恥ずかしくて……。
かろうじて小さく頷く。
「ふっ、いい子だ」
そっとベッドに横たえられ、竜尊が私を見下ろす形になった。
白銀の髪が私の肩にかかる。
「まだ……俺のことがこわいか?」
いつだったか……以前聞いた時には足がすくんでしまった台詞を、今また耳元でささやかれ、迷わず首を横に振る。
竜尊の体温を直に感じ、互いの鼓動まで伝わりそうな気がする。
『触られても、嫌じゃなかった』
『この人にだったら、ずっと触れていてほしい』
いつか聞いた瑠璃さんの言葉が、頭の中でリフレインする。
竜尊の指が、唇が、優しく肌に触れるたび、私の体は熱く溶けてしまいそうになる。
初めて会った時には印象最悪で、『なんて人』って思った竜尊と、今こんなふうになるなんてね――
甘い痛みとともに彼を受け入れながら、そんなことを思う初めての夜だった。
*
1/1ページ