虹色ドーナツ vol.2~恋せよ乙女~
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
魁童と並んで学校の正門を出る足取りは軽い。
先ほどまでの熱気を冷ますように、涼しい風が私達の間を吹き抜けてゆく。
ベストカップルコンテストは、めでたく私達の優勝で幕を閉じた。
審査委員長である校長先生はじめ、観客から無作為に選ばれた審査員達はきっと、魁童のうぶなところと情熱、そして、私の食べ物への執着に票を投じてくれたのであろう。
賞品のお米は、五キロの袋が二つ。
コンテスト終了後に合流した祢々斬お兄さんと瑠璃さんが、近くの駐車場に車を停めているということで、後で私の家にお米を届けてくれることになった。
魁童とひと袋ずつ分けるつもりが、彼が頑なに遠慮したため、一人暮らしの下宿生である瑠璃さんにお裾分けすることにした。
「はるかちゃんと魁童クンも、一緒に車に乗ってけばいいのに」
「あ……すみません、私、向こうの駅に自転車置いてあって、ついでに駅前のパン屋さんに寄って行きたいもので……」
そっかぁ……と残念そうな瑠璃さんだったが、何かを思いついたようにパッと顔を輝かせた。
「はるかちゃん、今日、うちに夕ご飯食べにおいでよ。お米のお礼に」
「え?瑠璃さんのおうちに……お邪魔してもいいんですか?」
「もちろん!本当は、そのまま泊まってってくれたら嬉しいけど…明日学校だよね」
「あ~、うちはその辺は大丈夫です。明日の朝、ちゃんと学校にたどり着いてれば問題ありません」
瑠璃さんが、にっこりと祢々斬お兄さんを見上げる。
「祢々斬、お願い出来るかなあ」
「ああ。今日は夕方、米を届けながらはるかを迎えに行って、明日の朝学校まで送り届ければいいんだろ?」
「やった~!ありがとう、祢々斬。はるかちゃん、今日はいっぱいお喋りしようねっ」
屈託なく笑う瑠璃さんと、そんな彼女をいとおしげに眺める祢々斬お兄さん。
それにしても……「お願い」の一言で、あそこまで完璧に本日の予定が決定されるとは。
祢々斬お兄さんと瑠璃さんてば、まさに以心伝心。
お互いの愛がゆえ?
それから……一見、祢々斬お兄さんの亭主(?)関白で、瑠璃さんが一歩下がっているように見えるけれど―――
実は、主導権を握ってるのは、瑠璃さんだったりしてね。
駅まで送ってくれるという魁童と二人、ゆっくりと川沿いの道を歩く。
「あと十日もすれば、この土手に百合がたくさん咲くんだ」
立ち止まった魁童が、川の方を向いて見下ろした、一面の土手を指し示す。
「え?ほんと!?きっと、さぞかし綺麗なんだろうねぇ……あ!もう咲いてるのもあるよ」
手が届きそうな所に咲く大輪のオレンジ色の百合を指さし魁童を見ると、何か言いたげな顔をしている。
「魁童……?」
「……おまえ、竜尊のことが好きなのか?」
なぜ、今この場所で竜尊の名前がでるの!?
私はどぎまぎしながらも、何とか言葉を返した。
「そ……そんな訳ないじゃない。前にみんなの前で言ったとおりだよ。竜尊は私のこと、ただの小動物として―――」
そこまで言ってから突然竜尊の顔が思い出され、なぜか私は言葉につまってしまった。
急に口をつぐんで下を向いた私の肩を、魁童がつかんで顔を近づけてくる。
「……俺じゃだめか?」
そっと、彼の額を私の額にコツンとあてる。
顔が……顔が近いよーー!
目を開けてじっと彼を見ることも、逆に目をつぶることも出来ず、私は中途半端に目を伏せるしかなかった。
魁童が沈黙を破る。
「今日のは"付き合ってるふり"だったけどさ……俺達このまま、本当に……」
その時、『サ〇エさん』のオープニングの軽快なメロディが流れ出した。
「……ったく、誰だよ……」
小さく舌打ちして、魁童はズボンのポケットから携帯電話を取り出した。
誰かと会話を始めた彼からそっと離れると、私は川の手すりに手をかけ、土手を覗き込んだ。
魁童が言いかけたこと……
話の流れから考えたら、きっと『このまま付き合わないか』って言いたかったんだよね。
それって、もしかしたら『告白』……!?
「はるか!」
いつの間にか電話を終えていた魁童が、私との距離を縮める。
「わりい。無月からだった」
私の隣に立ち、腕を手すりに預けてもたれかかる。
「今日は親が帰ってきて珍しく家族全員そろうから、夜は飯食いに出かけるって連絡」
「ふうん……普段は、あまり家族がそろうことないの?」
「うちの両親、あちこち飛び回ってて、めったに家にいないからな。ほら、玖々廼馳……あいつんとこの系列企業とやらで、好きなことさせてもらってるみたいだ」
「でも、ちゃんと家族を大切にしてくれてるんだね」
「まあ、そうなのかな……そういや、おまえんち、複雑な事情があるみたいだな」
魁童に、コンテスト出場を決心させた『家庭の事情』
そんなに複雑な訳じゃないんだけどね……
「ん~……父親は単身赴任で、母親は家事を私に押し付けて仕事と自分磨き三昧ってだけだよ」
「『だけ』って……」
「一人っ子だし、親はそんなんで干渉する人もいないからね、好きなように暮らしてるよ」
別に無理してるわけじゃなく、素直にそう思う。
けれど……
「魁童とお兄さん達を見てると、私にきょうだいがいたらどんなふうだったかな~、なんて思うこともあるけどね」
「はるか……」
魁童は、勢いをつけて手すりから手を離す。
「俺だったら……俺なら、絶対おまえに寂しい思いなんかさせねえっ!いつだって――」
チリンチリンと、自転車のベルの音が近づいてくる。
「かっちゃ~ん、はるかタ~ン♪お疲れー!」
「はるかタン♪、男装して学食に来れば?」
魁童のクラスメイトが二人、自転車を減速させながら魁童の肩をたたき、「じゃあな」と通り過ぎて行った。
走り去る彼らを見送ると、魁童は肩を落としてため息をついた。
が、すぐにニカッと笑顔をつくってみせた。
「なあ、はるか。今度、みんなで飯食いに行かねえか?今日のお礼も兼ねてさ。無月と祢々斬と、あと瑠璃姉も一緒なら、きっと楽しいぞ」
「みんなでご飯かあ…行けたら嬉しいな。それにしても…"るりねえ"って……魁童すっかり、瑠璃さんと仲良しなんだね」
「祢々斬が瑠璃姉んちに行くことが多いけど、うちに遊びに来ることもあるからな」
いわゆる"家族ぐるみのお付き合い"ってやつかな。
家の中がにぎやかで、みんな笑顔でおいしいもの食べて……
うん、憧れるなあ――
「はるか、なんか食いたいものあるか?まあ、ちょっと先の話になるとは思うけどさ」
「そうだなあ~肉……肉食べたい……焼肉がいいな♪」
「おまえ、実は肉食系なのか?細っこいから、野菜ばっかり食ってんのかと思ったぜ」
「……もしかして、それって、水着審査を根に持ってる?」
「ばっ……!ちょっ…思い出させんなっ!!!また鼻血が出たら、しゃれになんねえ」
「ふふっ……あんなので鼻血出してもらえるなんて、光栄だなあ」
駅前の交差点、赤く灯っていた信号が青に変わる。
「今日はありがとうな」
「こちらこそ、ありがとう。じゃあ、またね」
私は魁童に軽く手を振り、駅に向かって歩き出した。
*