虹色ドーナツ vol.2~恋せよ乙女~
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週末。
土日と行われる魁童の学校の文化祭の、今日は二日目だ。
先日は、『門限を破った娘を玄関で仁王立ちして迎える父親』みたいな竜尊を、無月が何とかなだめてくれた。
ついでに、魁童と一緒に文化祭に行くということもうまく取り成してくれたため、今私はここにいる。
大きな看板が左右に飾られた正門を入ると、魁童がすぐに私を見つけてくれた。
「はるか!」
「えへへ、ほんとに来ちゃったよ。駅から歩いて10分って、素晴らしいロケーションだね」
「おまえんとこだって、駅から近くないか?」
「でも、うちの場合は坂道だからね……」
確かにな、と頷いてから、魁童は私の腕を引っ張って人通りの少ない隅っこに寄ると、声をひそめた。
「今日ここでは、俺の彼女のふりしてろよ」
「は?」
魁童は、辺りをうかがいつつ小声で続ける。
「その方が安心だからさ。彼女だって言っとけば、変に言い寄ってくるやつもいないだろうし」
「うん、わかった。じゃあ、今日はよろしくね、魁童……あ、かっちゃんの方がいい?」
「す、すきに呼べよ」
ちょっぴり照れてる魁童と、昇降口から校内に入りあちこち見て回った。
すれ違う人の中には魁童の友達やクラスメイトもいる訳で……
魁童の背中をバシッとたたいて去っていく人もいれば、『魁童なんかやめて、俺にしない?』なんてストレートに言ってくる人もいる。
魁童の言ったように、はじめから『魁童の彼女』ってことにしておいて、確かに正解だった……
と、付かず離れずの距離で前を歩いていた魁童が、突然立ち止まる。
慣性の法則で危うくぶつかるところだったのを何とか回避して、私は彼の視線の先をたどる。
「あ、祢々斬お兄さん!……わ、一緒にいるひと綺麗……」
私の声にハッとした魁童は、クルリと向きを変えて彼らから遠ざかろうと試みた……ようだったが、祢々斬が私達を見つける方が先だった。
「おい、魁童。なんで逃げるんだ?」
「ちっ……逃げてなんかねえよ。ってか、なんで祢々斬がここにいんだよ?」
「あ?母校の文化祭に来ちゃ悪いか?」
そういえば、祢々斬と魁童は高校同じだって、無月が言ってたな。
祢々斬の隣に寄り添う女の人にそーっと視線を移すと、ちょうど彼女も私の方を見て、ばっちり目が合ってしまった。
にっこり微笑む、たおやかなたたずまいの彼女に、私は好奇心(?)を抑えきれずに聞いた。
「祢々斬お兄さんの彼女さんですか?」
「うふふ、そういうあなたは、魁童クンの彼女さんかな?」
「あ~」
私は、何と答えるべきか、魁童を振り返った。
「……ってことにしておくんだっけ?」
「ばっ……!バカか、おまえは!?わざわざ確認すんじゃねえ。『そうだ』って言えばいいだろ?」
「……だ、そうです」
彼女の方に顔を向け直すと、一瞬ポカンとした表情をしてから祢々斬と顔を見合わせ、二人とも声をたてて笑った。
「魁童、道は険しいな」
「余計なお世話だよ」
「じゃ、頑張れよ。瑠璃、行くぞ」
お姉さんが、祢々斬を見上げて頷く。
瑠璃さんっていうんですね、祢々斬お兄さんの彼女さんは。
*
二人と別れ、再び校舎の中を歩く。
「祢々斬お兄さん達、ラブラブだね」
「ああ。どっちかってえと祢々斬の方がベタ惚れらしいけどな」
「瑠璃さん……素敵なひとだね。綺麗で大人っぽくて」
「大人っつっても、俺らと二つか三つしか違わないぜ」
「実際の年がどうこうっていうより、立ち居振舞いがさ……なんていうのかな……エレガント?」
「けどな、祢々斬の話じゃ、けっこうおっちょこちょいみたいだぞ」
「へぇ~……でもさ、お兄さんとしては、そこがまたいいんじゃない?可愛くて」
「そうかもしれないな。まあ、おっちょこちょいさにかけては、おまえも負けてないんじゃねえか?」
「あ、ひど~い。私がいつ……」
魁童に抗議の言葉をぶつけようとしたその時―――
「「魁童!!」」
大声で魁童を呼びながら、何人かの男子生徒が走って来た。
「魁童!急で悪いんだけど、ベストカップルコンテスト出てくれよ」
「はあ!?なんで俺が……」
「うちのクラス、山田のやつが出るはずだったんだけどさ、昨日彼女とケンカしちゃったらしいんだよ」
「代わりが誰もいなきゃ諦めもつくけど……魁童、彼女いるんだったら出場してくれよ」
「やだよ、めんどくせえ。どうせ、生徒会のやつらが用意する賞品なんて、たいしたことねえんだろ」
「優勝者のクラスには、学食のA定食チケット全員分、出場者本人には、それに加えて米10キロだと」
「米っ!?」
私は思わず大きな声を出してしまった。
「もしかして、おまえ米がほしいのか?」
私の反応は、魁童にとって予想外だったらしい。
「ちょうど、そろそろお米買いに行かなきゃって思ってたんだよねぇ~」
「なに、主婦みたいなこと言ってんだよ」
「我が家のおさんどん担当者って、私なんだよね……話せば長く……もならないけど、まあその辺りは割愛するよ」
「そっか……おまえも苦労してんだな……」
何を勝手に想像したのか、魁童の口調がしんみりとしたものに変わる。
「よしっ、決めた!それじゃあ、出場して優勝するぞっ!!はるか、おまえに米を持ち帰らせてやる」
彼の決断に、クラスメイト達から歓声があがった。
「そうと決まれば、早速……」
私達は、生徒会が主催する『ベストカップルコンテスト』なるものの会場である体育館に連れていかれた。
「ねえ、魁童……これって毎年やってるの?」
「そうらしいけど……俺、一年の時は、文化祭なんか関係ないと思ってちゃんと見てなかったからなあ。正直、詳しいことわかんねえんだよ」
少しでも情報収集すべく辺りの様子を観察してみた所、出場資格に学年は関係なく、しかし出られるのは一クラスで一組だけらしい。
もちろん不参加のクラスもあるが、そうしたクラスの人々には賞品の恩恵にあずかるチャンスはない、ということだ。
ならば、とにかく誰かを出場させてあわよくば……という、魁童のクラスメイトの気持ちもわからなくはない。
「まあ、なるようになるさ。楽しんで、賞品もゲットしような」
魁童のお日様みたいな笑顔は、私に元気と勇気をくれる。
「うん!せっかくの文化祭だもん……楽しまなくちゃね」
そうこうしているうちに、私達は壇上に促された。
「わあ……けっこうたくさんの人が見に来てるね」
「げ、祢々斬もいやがる」
「あ、瑠璃さんが手振ってるよ……」
ひそひそ話をしていると、生徒会役員がコンテストの開始を告げた。
*