虹色ドーナツ vol.1~揺れる想い~
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「……ちゃん、……お姉ちゃん」
「え……あ……玖々廼馳、おはよう」
「……お姉ちゃん……どうしちゃったんですか?今、放課後ですよ」
「あ……そう?そうだったね、ごめんごめん……ちょっと考えごとしてて……」
「昨日、あのあと何かあったんですか?ドーナツも車の中に忘れてあったって、竜ちゃんが……」
竜尊の名前にギクッとする。
私は慌てて、でも控え目を心がけて首を左右にふった。
「大丈夫、何もないよ。数学の課題がたくさんあったこと思い出して、慌てちゃって……」
私の作り笑顔がどう映ったのかはわからないが、一応納得してくれたらしい玖々廼馳は、申し訳なさそうに言う。
「ごめんなさい……結局、あのドーナツ、かっちゃんと一緒に食べちゃいました」
「あ、ううん、せっかく買ってもらったのに忘れた私が悪いんだから」
「かっちゃんが今日、かわりのドーナツ買って来てくれるって言ってました。それで……お姉ちゃんに会ってみたいって……」
「あ、そういえば昨日玖々廼馳、かっちゃんと私を会わせたくないって言ってたよね。どうして?」
「そ……それは……」
玖々廼馳は、下を向いてゴニョゴニョ言っている。
「ごめんね、言いにくければいいよ。とにかく、顔を見せてドーナツもらってお礼を言って帰ってくればいいんだよね。大丈夫だよ!」
「はいっ!それじゃあ、僕の家に行きましょう」
竜尊と顔を合わせるのは、何となく気まずい。
でも、いつもと全く変わらない様子の彼に、私も精一杯の努力で平静を装った。
玖々廼馳の家……というかお屋敷!に到着した。
玖々廼馳と二人、玄関を入り長い廊下を歩く。
たどり着いた広いリビングのドアを開けると、お日様のような金髪の男の子が、こちらを振り向いた。
彼は私の姿を認めると、目を見開いて何か言いたげに口を半分開けた。
かと思うと、その頬は、だんだん赤く染まっていく。
「……竜尊のやつ……適当なこと言いやがって」
「かっちゃん!竜ちゃんが何か言ったんですか?」
「……ドーナツ好きの小動物が来るって言ってたからさ、俺、てっきり……」
私は吹き出しそうになるのをこらえながら言った。
「ムササビかモモンガみたいなのが出てくると思った?」
「そうそう、それだよ……って、おまえ自分で何言ってんだよ」
「ご期待に添えなくて、ごめんなさい」
"俺様坊や"だっていう情報に基づいて、とりあえず下手に出ておこう。
「あれ?そういえば私と同じ学年だよね……今日学校は?」
「そんなもん、サボりだ、サボり」
「サボりなんてダメだよっ!ちゃんと勉強しないと、立派な大人になれないよ?」
勢いで言ってしまってから、恐る恐るかっちゃん――魁童の顔を見る。
鳩が豆鉄砲食ったような顔……というのは、まさに今の彼のことを言うのだろう。
「ぶっっ……っははは!!おまえ……おもしれえなっ!」
笑いすぎて涙目になりながら、魁童がちょっぴり真面目な顔になる。
「……んで、おまえの言う"立派な大人"ってのは、どんなやつのことを言うんだ?」
「え?え?え~と……背が高くて、高収入、頼りがいがあって……」
「ちょっと待て!それって、理想の結婚相手じゃないのか?」
「あ~、いつの間にか脳内変換されちゃったかな……」
苦笑いを浮かべる私に、魁童はニカッと笑ってみせる。
「まあいいや。あ、サボりってのは冗談だ、冗談。今テスト期間中だからさ……午前終わりだったんだよ」
「明日の試験勉強しなくていいの?」
「明日は数学だからな……余裕余裕♪」
「えぇっっ!?数学が余裕なの!?」
「……もしかして……おまえ数学苦手なのか?」
「ぁう~……だって……数学って、教科書も問題集も、宇宙語しか書いてないじゃない……」
「はあ!?おまえ、何言ってんだ……」
そこで魁童はニヤリと笑った。
「数学がんばらないと、立派な大人になれねえぞ」
「ふぎゃ……ごもっともです」
私は小さくなりながら答えた。
「おまえの学校も、そろそろ中間テストだろ?わかんないとこ、教えてやってもいいぞ」
"俺様"の口から思いがけない言葉が出たその時、リビングのドアが開いた。
*
「魁童…毎度毎度、玖々廼馳に面倒かけてんじゃねえよ」
威圧感たっぷりに立っていたのは、赤い髪に端整な顔立ちの、スラッとした男の人だった。
「っ……祢々斬っ!今回は、来るのがやけに早くないか!?」
「ったく……大の男が兄弟ゲンカのたびに家を飛び出すなんて、いい笑いものだ。おら、帰るぞ」
祢々斬と呼ばれたその人は、魁童に歩み寄りながら私に目をとめて、ニヤリと笑った。
「ああ……こいつのことか。竜尊お気に入りの子猫ちゃん、てのは」
祢々斬の言葉に、玖々廼馳がハッとしたように顔を上げた。
「今の、どういう意味ですか?」
「子猫ちゃんだって!?しかもお気に入りって、どういうことだよ?」
魁童も、間髪入れずに声を張り上げる。
「あ?竜尊がそう言ってたが、違うのか?」
祢々斬は、私に一歩近づくと、じっと顔を見つめる。
「ふうん……確かに可愛いな」
「おいっ……こいつに近づくなっ!おびえてんだろ!?」
思わず後ずさりした私をかばうように、魁童が、そして玖々廼馳が祢々斬と私の間に立つ。
なんだかよくわからない展開に、私は頭をかかえそうになりながら叫んだ。
「つまりねっ!竜尊の気に入ってるっていうのは、からかいやすい小動物としてってことで……ああ、でも、できれば、漠然と小動物っていうよりも、イタチとかムササビとか、固有名詞でお願いします。あと、猫は却下です。私、犬が好きなので」
一気にまくしたてた私を、祢々斬は目を丸くして見ていたが、くくっとのどを鳴らして笑った。
「普通、女が連想する小動物っていったら、リスとかウサギとかじゃないのか?イタチやらムササビやら……。おもしろい女だな、竜尊が気に入るはずだ」
まあ、竜尊にしてみたら、イタチでも猫でも変わらないだろうが、と付け足す祢々斬を、魁童が睨み付けた。
「だーかーらー!何で竜尊が、こいつのこと気に入るんだよ!?」
「なんでって……なあ?そんなことは本人にきいてくれ」
祢々斬は面白そうに目を細めると、半分開いたままのドアに目をやった。
「竜ちゃん!!」
「おいおい、みんなそろってそんな怖い顔をして、一体何があったんだ?」
腕組みをした竜尊が、可笑しそうにこちらを見渡している。
「おい、竜尊!てめえこそ、一体何考えてんだよ!?」
「竜ちゃん、ちゃんと説明してください」
竜尊ににじり寄る魁童と玖々廼馳を眺めながら、祢々斬はやれやれ、というように肩をすくめる。
「悪いな、竜尊。玖々廼馳がこの子に一目惚れだって話は聞いてたが、どうやら魁童もそうらしい」
「「!!!」」
斜め後ろから見える玖々廼馳と魁童の顔が、そろって赤くなるのがわかった。
つられて、私の顔も熱を帯びてくる。
*
「さて、そろそろお開きの時間だ。あまり遅くならないうちに、はるかを帰さないとな」
竜尊がこちらを見て、微かに笑ったように見えた。
有無を言わせぬ竜尊の言葉に、渋々帰り支度を始めた魁童が、思い出したように言う。
「おまえ、はるかっていうんだな。数学……いつでもみてやるからな」
すがすがしい笑顔に、私は思わず頷いた。
「うん、その時はよろしくね!あ、あと……ドーナツありがとう」
「あれは……俺が食っちまったからで、元々は竜尊が買ってくれたんだろ?」
「そうだったね……でも、ありがとう」
魁童は、照れくさそうに笑うと
「んじゃ、またな、はるか。玖々廼馳、いろいろありがとうな」
そう言って、祢々斬とともに帰って行った。
「玖々廼馳、こいつを家まで送るが、一緒に来るか?」
竜尊のわざとらしい微笑みに、玖々廼馳が頬をふくらませる。
「一緒に行くに決まってます!竜ちゃんとお姉ちゃんを、二人きりになんてさせません」
玖々廼馳の言葉に私は心底安堵して、車に乗り込んだ。
家まで送ってもらう車の中、玖々廼馳が隣にいてくれたから、何とか普通の顔をしていられた。
もし今日、竜尊と二人きりになったら……そう仮定してみるだけで、戦慄を覚える。
けれど……彼に聞きたいことがあるのも事実。
それは、玖々廼馳の前では口にできないこと。
―――昨日の別れ際、あなたは私に何をしたんですか?―――
公園前で車から降り、またしても忘れそうになったドーナツの箱を玖々廼馳に手渡されて、私は帰宅した。
家族の前では、とにかく普通に普通に過ごし、私は早々に自分の部屋に引きこもった。
――何だか慌ただしい放課後だったな……そのおかげで、余分なことは考えずにすんだけれど――。
ベッドに倒れこみ水玉模様の綿毛布にくるまると、胸の奥がチリチリと熱くなる。
昨夜竜尊と別れた後から、私を支配し始めた甘い痛み。
竜尊は、私に何をしたの……まさか……キス……?
まさかね。
だけど、いくら考えたところで、真実は今の私にはわからない。
考えれば考えるほど、堂々巡りで苦しくなる。
なのに、抱き寄せられた瞬間のときめきや、何かが触れた唇の感触が甦って、私の胸を切なく締め付ける。
結局今日も、私はこの痛みを抱えたまま、なかなか寝付けない夜を過ごしたのだった。
*
「え……あ……玖々廼馳、おはよう」
「……お姉ちゃん……どうしちゃったんですか?今、放課後ですよ」
「あ……そう?そうだったね、ごめんごめん……ちょっと考えごとしてて……」
「昨日、あのあと何かあったんですか?ドーナツも車の中に忘れてあったって、竜ちゃんが……」
竜尊の名前にギクッとする。
私は慌てて、でも控え目を心がけて首を左右にふった。
「大丈夫、何もないよ。数学の課題がたくさんあったこと思い出して、慌てちゃって……」
私の作り笑顔がどう映ったのかはわからないが、一応納得してくれたらしい玖々廼馳は、申し訳なさそうに言う。
「ごめんなさい……結局、あのドーナツ、かっちゃんと一緒に食べちゃいました」
「あ、ううん、せっかく買ってもらったのに忘れた私が悪いんだから」
「かっちゃんが今日、かわりのドーナツ買って来てくれるって言ってました。それで……お姉ちゃんに会ってみたいって……」
「あ、そういえば昨日玖々廼馳、かっちゃんと私を会わせたくないって言ってたよね。どうして?」
「そ……それは……」
玖々廼馳は、下を向いてゴニョゴニョ言っている。
「ごめんね、言いにくければいいよ。とにかく、顔を見せてドーナツもらってお礼を言って帰ってくればいいんだよね。大丈夫だよ!」
「はいっ!それじゃあ、僕の家に行きましょう」
竜尊と顔を合わせるのは、何となく気まずい。
でも、いつもと全く変わらない様子の彼に、私も精一杯の努力で平静を装った。
玖々廼馳の家……というかお屋敷!に到着した。
玖々廼馳と二人、玄関を入り長い廊下を歩く。
たどり着いた広いリビングのドアを開けると、お日様のような金髪の男の子が、こちらを振り向いた。
彼は私の姿を認めると、目を見開いて何か言いたげに口を半分開けた。
かと思うと、その頬は、だんだん赤く染まっていく。
「……竜尊のやつ……適当なこと言いやがって」
「かっちゃん!竜ちゃんが何か言ったんですか?」
「……ドーナツ好きの小動物が来るって言ってたからさ、俺、てっきり……」
私は吹き出しそうになるのをこらえながら言った。
「ムササビかモモンガみたいなのが出てくると思った?」
「そうそう、それだよ……って、おまえ自分で何言ってんだよ」
「ご期待に添えなくて、ごめんなさい」
"俺様坊や"だっていう情報に基づいて、とりあえず下手に出ておこう。
「あれ?そういえば私と同じ学年だよね……今日学校は?」
「そんなもん、サボりだ、サボり」
「サボりなんてダメだよっ!ちゃんと勉強しないと、立派な大人になれないよ?」
勢いで言ってしまってから、恐る恐るかっちゃん――魁童の顔を見る。
鳩が豆鉄砲食ったような顔……というのは、まさに今の彼のことを言うのだろう。
「ぶっっ……っははは!!おまえ……おもしれえなっ!」
笑いすぎて涙目になりながら、魁童がちょっぴり真面目な顔になる。
「……んで、おまえの言う"立派な大人"ってのは、どんなやつのことを言うんだ?」
「え?え?え~と……背が高くて、高収入、頼りがいがあって……」
「ちょっと待て!それって、理想の結婚相手じゃないのか?」
「あ~、いつの間にか脳内変換されちゃったかな……」
苦笑いを浮かべる私に、魁童はニカッと笑ってみせる。
「まあいいや。あ、サボりってのは冗談だ、冗談。今テスト期間中だからさ……午前終わりだったんだよ」
「明日の試験勉強しなくていいの?」
「明日は数学だからな……余裕余裕♪」
「えぇっっ!?数学が余裕なの!?」
「……もしかして……おまえ数学苦手なのか?」
「ぁう~……だって……数学って、教科書も問題集も、宇宙語しか書いてないじゃない……」
「はあ!?おまえ、何言ってんだ……」
そこで魁童はニヤリと笑った。
「数学がんばらないと、立派な大人になれねえぞ」
「ふぎゃ……ごもっともです」
私は小さくなりながら答えた。
「おまえの学校も、そろそろ中間テストだろ?わかんないとこ、教えてやってもいいぞ」
"俺様"の口から思いがけない言葉が出たその時、リビングのドアが開いた。
*
「魁童…毎度毎度、玖々廼馳に面倒かけてんじゃねえよ」
威圧感たっぷりに立っていたのは、赤い髪に端整な顔立ちの、スラッとした男の人だった。
「っ……祢々斬っ!今回は、来るのがやけに早くないか!?」
「ったく……大の男が兄弟ゲンカのたびに家を飛び出すなんて、いい笑いものだ。おら、帰るぞ」
祢々斬と呼ばれたその人は、魁童に歩み寄りながら私に目をとめて、ニヤリと笑った。
「ああ……こいつのことか。竜尊お気に入りの子猫ちゃん、てのは」
祢々斬の言葉に、玖々廼馳がハッとしたように顔を上げた。
「今の、どういう意味ですか?」
「子猫ちゃんだって!?しかもお気に入りって、どういうことだよ?」
魁童も、間髪入れずに声を張り上げる。
「あ?竜尊がそう言ってたが、違うのか?」
祢々斬は、私に一歩近づくと、じっと顔を見つめる。
「ふうん……確かに可愛いな」
「おいっ……こいつに近づくなっ!おびえてんだろ!?」
思わず後ずさりした私をかばうように、魁童が、そして玖々廼馳が祢々斬と私の間に立つ。
なんだかよくわからない展開に、私は頭をかかえそうになりながら叫んだ。
「つまりねっ!竜尊の気に入ってるっていうのは、からかいやすい小動物としてってことで……ああ、でも、できれば、漠然と小動物っていうよりも、イタチとかムササビとか、固有名詞でお願いします。あと、猫は却下です。私、犬が好きなので」
一気にまくしたてた私を、祢々斬は目を丸くして見ていたが、くくっとのどを鳴らして笑った。
「普通、女が連想する小動物っていったら、リスとかウサギとかじゃないのか?イタチやらムササビやら……。おもしろい女だな、竜尊が気に入るはずだ」
まあ、竜尊にしてみたら、イタチでも猫でも変わらないだろうが、と付け足す祢々斬を、魁童が睨み付けた。
「だーかーらー!何で竜尊が、こいつのこと気に入るんだよ!?」
「なんでって……なあ?そんなことは本人にきいてくれ」
祢々斬は面白そうに目を細めると、半分開いたままのドアに目をやった。
「竜ちゃん!!」
「おいおい、みんなそろってそんな怖い顔をして、一体何があったんだ?」
腕組みをした竜尊が、可笑しそうにこちらを見渡している。
「おい、竜尊!てめえこそ、一体何考えてんだよ!?」
「竜ちゃん、ちゃんと説明してください」
竜尊ににじり寄る魁童と玖々廼馳を眺めながら、祢々斬はやれやれ、というように肩をすくめる。
「悪いな、竜尊。玖々廼馳がこの子に一目惚れだって話は聞いてたが、どうやら魁童もそうらしい」
「「!!!」」
斜め後ろから見える玖々廼馳と魁童の顔が、そろって赤くなるのがわかった。
つられて、私の顔も熱を帯びてくる。
*
「さて、そろそろお開きの時間だ。あまり遅くならないうちに、はるかを帰さないとな」
竜尊がこちらを見て、微かに笑ったように見えた。
有無を言わせぬ竜尊の言葉に、渋々帰り支度を始めた魁童が、思い出したように言う。
「おまえ、はるかっていうんだな。数学……いつでもみてやるからな」
すがすがしい笑顔に、私は思わず頷いた。
「うん、その時はよろしくね!あ、あと……ドーナツありがとう」
「あれは……俺が食っちまったからで、元々は竜尊が買ってくれたんだろ?」
「そうだったね……でも、ありがとう」
魁童は、照れくさそうに笑うと
「んじゃ、またな、はるか。玖々廼馳、いろいろありがとうな」
そう言って、祢々斬とともに帰って行った。
「玖々廼馳、こいつを家まで送るが、一緒に来るか?」
竜尊のわざとらしい微笑みに、玖々廼馳が頬をふくらませる。
「一緒に行くに決まってます!竜ちゃんとお姉ちゃんを、二人きりになんてさせません」
玖々廼馳の言葉に私は心底安堵して、車に乗り込んだ。
家まで送ってもらう車の中、玖々廼馳が隣にいてくれたから、何とか普通の顔をしていられた。
もし今日、竜尊と二人きりになったら……そう仮定してみるだけで、戦慄を覚える。
けれど……彼に聞きたいことがあるのも事実。
それは、玖々廼馳の前では口にできないこと。
―――昨日の別れ際、あなたは私に何をしたんですか?―――
公園前で車から降り、またしても忘れそうになったドーナツの箱を玖々廼馳に手渡されて、私は帰宅した。
家族の前では、とにかく普通に普通に過ごし、私は早々に自分の部屋に引きこもった。
――何だか慌ただしい放課後だったな……そのおかげで、余分なことは考えずにすんだけれど――。
ベッドに倒れこみ水玉模様の綿毛布にくるまると、胸の奥がチリチリと熱くなる。
昨夜竜尊と別れた後から、私を支配し始めた甘い痛み。
竜尊は、私に何をしたの……まさか……キス……?
まさかね。
だけど、いくら考えたところで、真実は今の私にはわからない。
考えれば考えるほど、堂々巡りで苦しくなる。
なのに、抱き寄せられた瞬間のときめきや、何かが触れた唇の感触が甦って、私の胸を切なく締め付ける。
結局今日も、私はこの痛みを抱えたまま、なかなか寝付けない夜を過ごしたのだった。
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