虹色ドーナツ vol.1~揺れる想い~
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お店の中はドーナツの甘い匂いが満ちていて、私はそれだけで幸せな気分になる。
「あの~……いくつ食べていいの?」
ちらっと竜尊を見上げると、呆れたような顔を返された。
「……おまえ、ドーナツ相手にそんなに目をキラキラさせて……そういう顔を俺にも向けてほしいもんだな」
「え~……おいしくなさそう……」
「なんなら、味わってみるか?」
ああ~、やっぱりこの人とは会話が噛み合わない……
っていうか、変に歪んで噛み合ってる!?
ちょっと待てよ……
もしかすると、私が言うことのピントがずれていて、それが竜尊につけ入る隙を与えているのでは―――
はたとそのことに思い当たり、私は呆然としてしまった。
「おい、どれにするんだ?」
竜尊に頭を小突かれ、私は我に返る。
「……ぜんぶ」
「何だって?」
「全種類ひとつずつ。食べきれない分はお持ち帰り」
「はあ!?何バカなこと言ってんだ!?」
ドーナツショップの店先で、一触即発?……だったが
「お姉ちゃんのおすすめは、どれですか?」
ふんわりと私の袖を引っ張った玖々廼馳によって、何とか危機は回避された。
「あ~……んーとね……玖々廼馳は、クリーム好き?」
「はいっ!甘いの大好きです」
「それじゃあ……思い切って『ハニーベアと森の仲間たち』どうかな?」
「わぁ……ミニドーナツの盛り合わせに、ミニパフェがついてるんですね」
「うん!私、一度あれ食べてみたかったんだよね♪」
「じゃあ、あれにしましょう」
「決まったようだな。おまえらは席に座ってろ」
「行きましょう、お姉ちゃん」
「うん、楽しみだね~」
玖々廼馳に手を引かれ、私達は四人掛けのテーブル席に腰かけた。
「ほら」
竜尊が『ハニーベアと森の仲間たち』二つとコーヒーののったトレイを運んできてくれた。
「竜尊は食べないの?」
「俺はコーヒーだけでいい。甘ったるい匂いだけで、もう十分だ」
「竜ちゃん、いつも甘いものは、そんなに食べないですよね」
「ふうん、そうなんだ……あ、ところで竜尊」
スプーンを握りしめ、私は大事なことを確認する。
「ドーナツ全種類って言わなかったっけ?」
「おまえな……」
竜尊は、またしても呆れた顔をつくると、大げさにため息をつく。
「それは、持ち帰り用に包んでもらってる!全く……色気より食い気か!?」
「はいはい、毎度ありがとうございます♪」
竜尊は憎たらしいけれど、ドーナツはうれしい。
私は玖々廼馳に笑顔を向け、二人で目の前のごちそうをパクついた。
ふと目を上げると、竜尊がじっとこちらを見ていた。
「?竜尊、食べたいの?」
「クリームがついてる」
私の口元を、竜尊の長い指がそっとぬぐう。
……と、その指を玖々廼馳がつかみ、竜尊の指先についたクリームを口にした。
「「!?」」
「……お姉ちゃんの顔についてたクリーム、竜ちゃんなんかに食べさせません」
「あのな……相手が美女だったら、俺は指なんか使わずに直接舌で舐めとってるぞ……って、聞いてんのか!?小動物!」
「んあ……?ああ、ごめんなさい。食べるのを優先してました……どうせろくなことは言わないだろう、と思って」
「ふふ、お姉ちゃん正解です。今、竜ちゃん、ろくでもないことしか言いませんでしたから」
「おい、おまえら二人して言いたい放題言いやがって……一体誰のおかげでドーナツ食えてると思ってんだ!?」
「……竜尊」
「一応わかってるじゃないか」
「いやいや、だから……竜尊?」
「は?なんだ?」
「カフェラテ飲みたい」
「……おまえな……」
「だって、のどかわいちゃったんだもん」
「竜ちゃん、僕も飲みたいです」
「ったく……しょうがねえなあ」
「あ、冷たいのにしてね~」
しぶしぶ席を立つ竜尊に小さく手を振り、玖々廼馳と私は顔を見合わせて笑った。
ほどなく、カフェラテのカップを二つ手にした竜尊が戻ってきた。
「ほら、お望みの品だ」
「わぁ~、ありがとう」
「俺は先に車に戻ってるからな」
「え!?どうして?……もしかして……私達が言いたいことばっかり言ってるから、怒った……?」
「ふっ、そんなわけないだろ」
私の言葉が意外だったのか、一瞬きょとんとしてから、目を細めて竜尊が言う。
「甘い匂いで酔いそうだからな……そろそろ俺は撤収する」
テーブルから離れる間際、玖々廼馳の頭を軽くポンポン、としながら
「ゆっくりでいいぞ」
と、柔らかく微笑む。
――あ、この人って、こんなに優しい顔をするんだ――
初めて認識する竜尊の穏やかな表情に、はからずもドキッとしてしまう。
*
私達が駐車場に戻ると、携帯電話を片手に竜尊が車から出てきたところだった。
「玖々廼馳……魁童が大荷物抱えて、転がり込んできたそうだ」
「えっ、かっちゃんが!?」
「全く、あの俺様坊やにも困ったものだな」
そうつぶやく竜尊は、ちっとも困った顔なんかしていない。
「『玖々廼馳はまだか』ってごねられて屋敷の者達が困ってるようだから、玖々廼馳、先に戻って魁童の相手をしてやれ」
「でも、お姉ちゃんは……」
「ここからだと、先におまえが戻る方が効率的だ。
大丈夫、こいつはちゃんと送り届ける」
「わかりました……」
ちょっとシュンとしながらも納得した玖々廼馳は、屋敷に向かう車の中で『魁童』という男の子について話してくれた。
玖々廼馳の従兄弟だという『魁童』は、男ばかりの三人兄弟の末っ子で、年は私と同じ。
時々、真ん中のお兄さんと大ゲンカをしては、大事なものを大きなバッグにつめこんで玖々廼馳の家にやって来るのだそうだ。
ああ、つまり『プチ家出』ってことだね。
私と同い年の男の子でも、そんなことするんだ……と、思わずクスッと笑ってしまった。
「お姉ちゃん……?」
「あ……ごめんごめん、何だか微笑ましいなって思って」
「僕……何だか嫌な予感がします」
「え……な、なんだろ……」
玖々廼馳の言葉に、私まで不安になる。
「お姉ちゃんに……かっちゃんを会わせたくありません……」
「え?どうして?」
その答を聞く前に、車は大豪邸に到着してしまった。
車寄せで待ち構えていた使用人らしき人が、車のドアを開け玖々廼馳を迎えた。
「お姉ちゃん……また明日」
笑顔で見送ってくれる玖々廼馳に小さく手を振り、私は竜尊の運転する車で家まで送ってもらうこととなった。
「あ……ここでいいです」
家に程近い公園の前で、私は慌てて声を上げた。
もし自宅の真ん前で誰かに見られでもしたら、さすがにね……
車は、滑るように静かに停車した。
「ありがとうございました……じゃあっ」
ドアを開けようとしたが、ロックがかかっているのか開かない。
焦ってドアの取っ手をガチャガチャしている私を気にするふうもなく、竜尊はスッと車から降りると、外から私の座席のドアを開け、右手を差し出した。
開けてもらえたのはよかったのだが、その手をどうしたものかと考えあぐね、私は中腰のまま止まってしまった。
すると竜尊は、ドーナツショップで玖々廼馳に見せたのと同じ柔らかな笑顔で、私の手をとった。
思いもかけない彼の行動に顔は熱く、心臓は飛び出しそうになる。
それを悟られないよう、『これは彼にとって仕事の一環なのだ、落ち着け落ち着け』と自分に言い聞かせる。
立ち上がって手を離され、かばんをしっかり抱え直すと、私は、ふるえそうな声に力をこめた。
「今日はいろいろとありがとうございました!それではおやすみなさい」
深く頭を下げて立ち去ろうとした時……
「はるか……」
「!!!」
『小動物』ではなく、いきなり名前を呼ばれて、私はパニックになる。
「な……なにか企んでます?」
「さて、どうかな」
竜尊はニッと笑うと、私をそっと抱き寄せた。
私は驚いてギュッと目をつぶった。
その途端、唇に柔らかく温かなものが触れた。
ほんの一瞬だったけれど……
竜尊の腕から解放され恐る恐る目を開ける。
「おやすみ、はるか」
何事もなかったかのように、手をひらひらと振り車に乗り込む竜尊を、私はただ見ていることしかできなかった。
*
「あの~……いくつ食べていいの?」
ちらっと竜尊を見上げると、呆れたような顔を返された。
「……おまえ、ドーナツ相手にそんなに目をキラキラさせて……そういう顔を俺にも向けてほしいもんだな」
「え~……おいしくなさそう……」
「なんなら、味わってみるか?」
ああ~、やっぱりこの人とは会話が噛み合わない……
っていうか、変に歪んで噛み合ってる!?
ちょっと待てよ……
もしかすると、私が言うことのピントがずれていて、それが竜尊につけ入る隙を与えているのでは―――
はたとそのことに思い当たり、私は呆然としてしまった。
「おい、どれにするんだ?」
竜尊に頭を小突かれ、私は我に返る。
「……ぜんぶ」
「何だって?」
「全種類ひとつずつ。食べきれない分はお持ち帰り」
「はあ!?何バカなこと言ってんだ!?」
ドーナツショップの店先で、一触即発?……だったが
「お姉ちゃんのおすすめは、どれですか?」
ふんわりと私の袖を引っ張った玖々廼馳によって、何とか危機は回避された。
「あ~……んーとね……玖々廼馳は、クリーム好き?」
「はいっ!甘いの大好きです」
「それじゃあ……思い切って『ハニーベアと森の仲間たち』どうかな?」
「わぁ……ミニドーナツの盛り合わせに、ミニパフェがついてるんですね」
「うん!私、一度あれ食べてみたかったんだよね♪」
「じゃあ、あれにしましょう」
「決まったようだな。おまえらは席に座ってろ」
「行きましょう、お姉ちゃん」
「うん、楽しみだね~」
玖々廼馳に手を引かれ、私達は四人掛けのテーブル席に腰かけた。
「ほら」
竜尊が『ハニーベアと森の仲間たち』二つとコーヒーののったトレイを運んできてくれた。
「竜尊は食べないの?」
「俺はコーヒーだけでいい。甘ったるい匂いだけで、もう十分だ」
「竜ちゃん、いつも甘いものは、そんなに食べないですよね」
「ふうん、そうなんだ……あ、ところで竜尊」
スプーンを握りしめ、私は大事なことを確認する。
「ドーナツ全種類って言わなかったっけ?」
「おまえな……」
竜尊は、またしても呆れた顔をつくると、大げさにため息をつく。
「それは、持ち帰り用に包んでもらってる!全く……色気より食い気か!?」
「はいはい、毎度ありがとうございます♪」
竜尊は憎たらしいけれど、ドーナツはうれしい。
私は玖々廼馳に笑顔を向け、二人で目の前のごちそうをパクついた。
ふと目を上げると、竜尊がじっとこちらを見ていた。
「?竜尊、食べたいの?」
「クリームがついてる」
私の口元を、竜尊の長い指がそっとぬぐう。
……と、その指を玖々廼馳がつかみ、竜尊の指先についたクリームを口にした。
「「!?」」
「……お姉ちゃんの顔についてたクリーム、竜ちゃんなんかに食べさせません」
「あのな……相手が美女だったら、俺は指なんか使わずに直接舌で舐めとってるぞ……って、聞いてんのか!?小動物!」
「んあ……?ああ、ごめんなさい。食べるのを優先してました……どうせろくなことは言わないだろう、と思って」
「ふふ、お姉ちゃん正解です。今、竜ちゃん、ろくでもないことしか言いませんでしたから」
「おい、おまえら二人して言いたい放題言いやがって……一体誰のおかげでドーナツ食えてると思ってんだ!?」
「……竜尊」
「一応わかってるじゃないか」
「いやいや、だから……竜尊?」
「は?なんだ?」
「カフェラテ飲みたい」
「……おまえな……」
「だって、のどかわいちゃったんだもん」
「竜ちゃん、僕も飲みたいです」
「ったく……しょうがねえなあ」
「あ、冷たいのにしてね~」
しぶしぶ席を立つ竜尊に小さく手を振り、玖々廼馳と私は顔を見合わせて笑った。
ほどなく、カフェラテのカップを二つ手にした竜尊が戻ってきた。
「ほら、お望みの品だ」
「わぁ~、ありがとう」
「俺は先に車に戻ってるからな」
「え!?どうして?……もしかして……私達が言いたいことばっかり言ってるから、怒った……?」
「ふっ、そんなわけないだろ」
私の言葉が意外だったのか、一瞬きょとんとしてから、目を細めて竜尊が言う。
「甘い匂いで酔いそうだからな……そろそろ俺は撤収する」
テーブルから離れる間際、玖々廼馳の頭を軽くポンポン、としながら
「ゆっくりでいいぞ」
と、柔らかく微笑む。
――あ、この人って、こんなに優しい顔をするんだ――
初めて認識する竜尊の穏やかな表情に、はからずもドキッとしてしまう。
*
私達が駐車場に戻ると、携帯電話を片手に竜尊が車から出てきたところだった。
「玖々廼馳……魁童が大荷物抱えて、転がり込んできたそうだ」
「えっ、かっちゃんが!?」
「全く、あの俺様坊やにも困ったものだな」
そうつぶやく竜尊は、ちっとも困った顔なんかしていない。
「『玖々廼馳はまだか』ってごねられて屋敷の者達が困ってるようだから、玖々廼馳、先に戻って魁童の相手をしてやれ」
「でも、お姉ちゃんは……」
「ここからだと、先におまえが戻る方が効率的だ。
大丈夫、こいつはちゃんと送り届ける」
「わかりました……」
ちょっとシュンとしながらも納得した玖々廼馳は、屋敷に向かう車の中で『魁童』という男の子について話してくれた。
玖々廼馳の従兄弟だという『魁童』は、男ばかりの三人兄弟の末っ子で、年は私と同じ。
時々、真ん中のお兄さんと大ゲンカをしては、大事なものを大きなバッグにつめこんで玖々廼馳の家にやって来るのだそうだ。
ああ、つまり『プチ家出』ってことだね。
私と同い年の男の子でも、そんなことするんだ……と、思わずクスッと笑ってしまった。
「お姉ちゃん……?」
「あ……ごめんごめん、何だか微笑ましいなって思って」
「僕……何だか嫌な予感がします」
「え……な、なんだろ……」
玖々廼馳の言葉に、私まで不安になる。
「お姉ちゃんに……かっちゃんを会わせたくありません……」
「え?どうして?」
その答を聞く前に、車は大豪邸に到着してしまった。
車寄せで待ち構えていた使用人らしき人が、車のドアを開け玖々廼馳を迎えた。
「お姉ちゃん……また明日」
笑顔で見送ってくれる玖々廼馳に小さく手を振り、私は竜尊の運転する車で家まで送ってもらうこととなった。
「あ……ここでいいです」
家に程近い公園の前で、私は慌てて声を上げた。
もし自宅の真ん前で誰かに見られでもしたら、さすがにね……
車は、滑るように静かに停車した。
「ありがとうございました……じゃあっ」
ドアを開けようとしたが、ロックがかかっているのか開かない。
焦ってドアの取っ手をガチャガチャしている私を気にするふうもなく、竜尊はスッと車から降りると、外から私の座席のドアを開け、右手を差し出した。
開けてもらえたのはよかったのだが、その手をどうしたものかと考えあぐね、私は中腰のまま止まってしまった。
すると竜尊は、ドーナツショップで玖々廼馳に見せたのと同じ柔らかな笑顔で、私の手をとった。
思いもかけない彼の行動に顔は熱く、心臓は飛び出しそうになる。
それを悟られないよう、『これは彼にとって仕事の一環なのだ、落ち着け落ち着け』と自分に言い聞かせる。
立ち上がって手を離され、かばんをしっかり抱え直すと、私は、ふるえそうな声に力をこめた。
「今日はいろいろとありがとうございました!それではおやすみなさい」
深く頭を下げて立ち去ろうとした時……
「はるか……」
「!!!」
『小動物』ではなく、いきなり名前を呼ばれて、私はパニックになる。
「な……なにか企んでます?」
「さて、どうかな」
竜尊はニッと笑うと、私をそっと抱き寄せた。
私は驚いてギュッと目をつぶった。
その途端、唇に柔らかく温かなものが触れた。
ほんの一瞬だったけれど……
竜尊の腕から解放され恐る恐る目を開ける。
「おやすみ、はるか」
何事もなかったかのように、手をひらひらと振り車に乗り込む竜尊を、私はただ見ていることしかできなかった。
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