卒業
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玖々廼馳編
「お姉ちゃん……」
中等部の制服に身を包んだ玖々廼馳が、息を切らして駆け寄ってきた。
手には、可愛らしい春の花々が束ねられた小さな花束。
「玖々廼馳、わざわざ来てくれたの?」
「はい……だって……お姉ちゃんが卒業してしまうと思ったら、いても立ってもいられなくて……」
ちょっぴり頬を赤く染めた玖々廼馳だが、ピンと姿勢を正すと、まっすぐに私の目を見た。
「……はるか先輩!卒業おめでとうございます」
「玖々廼馳……」
まっすぐなままの笑顔で花束を差し出す玖々廼馳の顔が、涙でにじんでいく。
「あり……がとう……くぐ……」
無理やり笑顔を作ろうとがんばってみるが、こみ上げてくる涙は抑えられない。
花束ごと玖々廼馳を抱き締め、私は泣き出してしまった。
私は、卒業式が終わったら、すぐに県外へ引っ越すことになっている。
大好きな学校だけでなく、長年暮らしたこの町ともお別れしなければならないのだ。
そんな事情も重なり、私はもう、自分の感情をコントロールできず、ひたすら泣き続けた。
その間、玖々廼馳は花束を大事そうに抱えたまま、私の肩に頬をつけてじっとしていた。
ひとしきり泣いた後、大きくため息をついた私に、玖々廼馳が声をかけた。
「お姉ちゃん、空を見てください」
「え……?」
「たとえ、お姉ちゃんが遠くの町に引っ越してしまっても……空はつながっているんですよ」
「空が……つながってる……?」
「そうです。それに……」
玖々廼馳は、少しためらった後、きっぱりと言った。
「僕が大人になったら……絶対にお姉ちゃんを迎えに行きます!」
私は玖々廼馳の突然の宣言に、びっくりして固まってしまった。
「このくらい年の差がある方が……平均寿命から考えたら、ちょうどいいんです」
玖々廼馳が力説するので、私は思わず笑ってしまった。
「お姉ちゃん……笑ってくれましたね」
心底嬉しそうな玖々廼馳を見て、私も応えた。
「ありがとう、玖々廼馳。寂しくなったら、空を見るよ。それで……玖々廼馳のことを思うね」
「はい……」
「それから、迎えに来てくれるの待ってるからね」
私は、小指を玖々廼馳の前に差し出した。
「お姉ちゃんと僕との約束です」
私達は指きりをして、微笑み合った。
玖々廼馳から受け取った花束は、暖かな春の日差しの匂いがした。
*