卒業
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魁童編
卒業式も終わり、もう帰らなければならないのだが、なんだか名残惜しい。
最後に学校の屋上からの景色を目に焼き付けようと、魁童と二人ここに来ている。
肩が触れるか触れないかの距離。
そよ風が魁童の髪を揺らすたび、柑橘系の香りが私の鼻をくすぐる。
遠くの川岸は、河津桜の濃いピンク色に彩られている。
「もう、ここに来ることもねえんだよなぁ……」
卒業式では、こぼれる涙を拳でゴシゴシとぬぐっていた魁童が、鼻をすすりながらつぶやく。
「うん……最後にこの景色を、魁童と一緒に見られて、よかったよ」
「俺もだ、はるか」
眼下に広がる街並み。
当たり前に過ごしたこの場所から、私達は今日巣立って行くのだ。
魁童は県外へ、私は地元で進学する。
だから、こうやって一緒に過ごすのも、本当に最後……。
「ねえ、校章取りかえっこしない?」
「?替えるったって、同じものじゃないか?」
「私は、魁童と三年間一緒だった、魁童の校章がほしいんだよ」
「そ、そうか。じゃあ……はるかのを、俺にくれよな」
お互い、制服についている校章を外し、相手に渡す。
私は、手の中のバッジをそっとポケットにしまうと、目を伏せた。
「……きっと、新しい環境に馴染んだら、魁童は私のことなんか忘れちゃうんだろうね……」
「んなわけないだろっ」
声を荒げて体ごとこちらを向いた魁童が、深いため息をつく。
「こんな後ろ向きなこと話すために、ここにいるんじゃないだろ?俺たち」
「ごめん……でも……」
感傷的な気持ちが抑えられず、ちょっぴり涙がにじんでくる。
「だーっ!!ほら、はるか!笑えよ」
魁童は両手で私の頬を引っ張り、変な顔をさせようとする。
「ちょっ……やめてよっ」
魁童の手をつかもうとしたら、逆に私の手首をしっかりとつかまれた。
強引だけど……彼といると、私は知らないうちに笑顔になれる。
「はるか……そうやって、いつでも笑ってろよ。それでも不安になったら……遊びに来い。その時は俺様の城に泊めてやる」
「うん……って……いいの?」
「いいに決まってんだろ」
「その……男の子の部屋に……えと、泊まらせてもらっちゃっていいのかな?」
一瞬考えこんだ魁童の顔が、一気に赤く染まる。
「い、いいに決まってる。……はるかだったら……っていうか、ぜってえ来いっ!!」
驚いて魁童の目をのぞき込むと、真剣そのものだ。
ひとつ深呼吸して、私も真面目にこたえた。
「絶対に行く!それで何年かたったら……遊びに行くんじゃなくて、ずっと魁童のそばにいられるようにする!」
魁童は、私の髪をくしゃくしゃっとすると、ニカッと笑った。
「ああ。待ってる」
私達は手をつないで、思い出のたくさんつまった校舎に別れを告げた。
*