卒業
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無月編
卒業式を明日に控え、元生徒会メンバーの三年生で、半年ぶりに生徒会室に集まった。
残っている私物がないか、の確認と、思い出話。
「卒業かあ……実感がわかないよね」
「無月は、答辞読むんだよね」
「会長、最後の大仕事だな!頼むぜ」
「そういえば」
私は三年前のことを思い出して、口を開いた。
「中学の卒業式の後にね、無月ってば、大変だったんだよ。女の子達に制服のボタンむしられて」
みんな、私の横に座っている無月の方を見て、いっせいに吹き出す。
「想像できるっ!」
「ここの制服、学ランじゃなくてよかったな」
「ブレザーのボタンをむしりとる子は、さすがにいないだろうしね」
こうやってみんなで他愛ない会話をできるこの空間……好きだったな。
そして、いつも無月がいてくれたから…私にとって、ここはかけがえのない場所だったんだよね。
集まりもお開きとなり、最後に無月と私が残った。
無月が、微笑みながら言う。
「思えば……瑠璃とは、いつも一緒だったな」
元生徒会長の無月と私は、家が隣の幼なじみ。
学校もずっと一緒、クラス委員や生徒会役員等も、だいたい一緒に務めてきた。
一緒にいるのが当たり前だった。
そのことをからかわれても、無月はいつも柔らかな微笑みで応じていたので、いつしか私達を冷やかす人はいなくなった。
でも……四月からは離ればなれになる。
「瑠璃、さっきの話だが……」
「え?……何だっけ?」
「制服のことだ」
すぐには意味がわからず、私は無言で首をかしげた。
無月は、いつもの優しい微笑みで彼のネクタイを手にとる。
「卒業式が終わったら……第二ボタンの代わりに、このネクタイを、瑠璃に持っていてほしい。高校時代を、共に過ごした証として……」
『共に過ごした』―――
このかけがえのない時間は、過去のものになってしまうんだよね……
私の目から、ポタリと雫が落ちた。
「瑠璃!」
無月が驚いた顔で私の瞳を覗き込む。
「あ……ご、ごめん。ちょっと寂しくなっちゃって……」
慌てて笑顔をつくる私の頭を、無月は優しく撫でた。
「寂しくなどない……二人が学ぶ場所は変わるが、心は瑠璃の元に置いていく」
「無月……」
「このネクタイで、気持ちはつながっている……そう思ってほしい」
「わかった……無月も、ちゃんと私の心を持って行ってね」
「ああ、約束する」
明日、私達は卒業する。
無月が読む答辞を、泣かずに凛と見守っていよう……
そう心に決めて、無月と二人、生徒会室を後にした。
*