卒業
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祢々斬編
今日は、先輩達の卒業式。
在校生は基本的に休みだが、先輩を見送りたくて登校している生徒もけっこういる。
そう、私も……
応援団長の祢々斬先輩
学校の野球部を応援するため、球場に出かけた夏の日が忘れられない。
長ラン姿で立ち、他の団員を率いる彼は、ひときわ輝いていた。
体育祭の準備で、私が三年生の教室を訪ねた時は、友達と上履きの投げっこをしていた彼を発見。
意外にお茶目な姿にちょっとびっくり。
廊下であわあわと立ち尽くしている私に気付いて歩み寄り、「なに?」とほのかな笑顔を向けられた時は、心拍数が一気に上がった……。
最後のバレンタインデーには、清水の舞台から飛び降りる気持ちでチョコを渡した……一応……。
年が明けると、入試に備えて登校しない三年生もいる中、幸い彼は学校に来ていた。
「がんばってください」
その一言しか言えず、彼の手にチョコを押し付けて逃げた。
思い出は、どれも甘酸っぱい。
ご卒業おめでとうございます、そして、さよなら、祢々斬先輩。
さあて、帰ろう。
靴箱から靴を取り出すと、紙切れがひらりと舞った。
『図書館前で 祢々斬』
……なにこれ?
何この果たし状みたいなの!?
一抹の不安を覚えながらも、学校のはずれにある図書館に向かった。
図書館の前にたたずみながら、沈丁花の香りを運んでくる春の空気を吸いこむ。
と、ふいに祢々斬先輩が姿を現した。
「よ、悪かったな、呼び出したりして」
先輩の詰め襟姿を見るのも、今日が最後……しんみりした気持ちで制服のボタンに目をやる。
ああ、やっぱり第二ボタンは、なくなってる。
「二年の……瑠璃……さん、だよな」
私は、コクコクと頷いた。
「……その……チョコレート、ありがとうな。まだホワイトデーには早いが、これを……」
差し出された可愛らしい包み。
「あと、これ……迷惑でなかったら、受け取ってくれないか?」
先輩がポケットに入れた手を開くと、学生服のボタンがひとつ。
「これ……第二ボタン……?」
「ああ」
頬をちょっぴり赤く染めて、照れくさそうに目をそらす祢々斬先輩……
あれ?
何だか懐かしい気が……
赤い頬……
急に脳裏によみがえってくる光景に、私は小さな叫び声を上げてしまった。
「あーっ!もしかして、ぶつかった人!?」
「ふっ、忘れてたのか?」
先輩の口元がゆるむ。
いや、忘れる忘れない以前に、覚えてる余裕がなかったんです……。
――――
―――――
入学早々、学校の中で迷い、廊下を慌てて走っていた私は、曲がり角で激突した男子生徒の胸に、勢いで飛び込んでしまった。
平謝りする私を、彼はちょっぴり頬を赤くしながら、目的の教室まで連れて行ってくれたのだ。
―――――
――――
あれが、祢々斬先輩!?
「ああ……俺は、あの時に一目惚れしたらしい」
私の名前、いや、存在すら認識してもらえてない…そう思っていたのに。
混乱のあまり思考が停止した私の目の前で、彼はもう一度手を広げてみせた。
「第二ボタン……受け取ってくれるか?」
私は反射的に、両手で、ボタンと一緒に先輩の手を握りしめてしまった。
「……!!」
あっという間に先輩の顔が真っ赤になるのを見て、慌てて手を離す。
今度は彼が私の手をとり、ボタンを握らせてくれた。
「それはそうと……先輩、もし私が今日学校に来てなかったら、どうするつもりだったんですか?」
「絶対にいると思ってたからな」
私の頭をポンポンと軽くたたき、得意げな祢々斬先輩が続けた。
「実際こうして、ちゃんと会えただろ」
私は顔を上げ、彼の瞳を見つめながら頷いた。
*