聖夜
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街にはジングルベルのメロディーが流れ、イルミネーションが輝くクリスマスイブの晩。
夜景が綺麗に見えるホテルのディナーを楽しむ、無月と瑠璃の姿があった。
食事を終えレストランを後にすると、無月はエレベーターの上りボタンを押した。
駐車場のある地下一階へ下りるとばかり思っていた瑠璃の予想に反し、無月はそのまま、ホテルの部屋へと向かう。
一室の前で足を止めた彼は、一歩後ろを歩き不思議そうな表情をしていた瑠璃を振り返ると、ドアを開けた。
「わあ、きれい~!」
広がる街の灯りを目にした瑠璃は、窓辺に駆け寄った。
先ほどまでの夜景とは方角が違うため見える景色は異なるが、こちらも美しくきらめいている。
「きれいだね、あ、無月!まだ電気つけないでね」
子供のようにはしゃぐ瑠璃の傍らに立った無月は、微笑ましげな視線を彼女に送りつつ、自らも窓の外、眼下の景色を眺める。
――あの風景の中で、皆が楽しげにクリスマスを祝い、恋人たちが愛を語っているのだろう――
やがて、瑠璃が暗い部屋の中で無月に満面の笑みを向けた。
「この夜景も、クリスマスプレゼント?」
「それもいいが、これを……」
「え……?」
無月から差し出された小さな箱に、瑠璃は首をかしげた。
プレゼントは、さっき贈り合った。
事前にリクエストしていた品――無月はデンツの革手袋、瑠璃はバーバリーのマフラー――を、互いに用意し交換したのだ。
ちょっぴり戸惑いながら、瑠璃が問いかける。
「これ……なあに?」
「我の気持ちだ。開けてみてほしい 」
優しく微笑む無月に、瑠璃は小さくうなずくと、リボンのかけられた箱を受け取った。
箱の中身を確認した彼女は、感嘆に似た声をあげた。
「指輪……!」
手の中の小箱と無月とを見比べる瑠璃に、無月がうなずき手を伸ばす。
ダイヤモンドがあしらわれたプラチナのリング。
それを取り出すと、彼は、瑠璃の左手をとり薬指にはめた。
自分の指にぴったりフィットした指輪を角度を変えながら眺めていた瑠璃だったが、不思議そうにつぶやいた。
「サイズ……よくわかったね」
無月が、苦笑いのような表情で答える。
「瑠璃に聞くべきだとは思ったのだが、雲雀に頼んだ。今日まで内緒にしておきたかったのだ」
瑠璃は、先月、雲雀と買い物に出かけたことを思い出した。
『無月お兄ちゃんへのクリスマスプレゼントを選びたい』という雲雀に付き合って、街のデパートや雑貨屋を巡ったのだ。
その時、アクセサリーの店で可愛い指輪を見ながら、サイズの話をしたんだっけ……
合点がいき目を上げた瑠璃に、無月は真剣な声音で続けた。
「これが、そなたに対する我の気持ちだ。できれば、今返事を聞かせてほしい」
「…………返事を……?」
ようやく、呟くように言葉を返した彼女を、無月はまっすぐに見つめた。
「瑠璃、我はそなたを一人の女性として愛している。我と……結婚してくれ」
「えっ……それは……その……」
あまりにも急な、唐突すぎる無月のプロポーズに、瑠璃は思わずうつむいて言葉を探した。
が、すぐに顔を上げると、はにかむように、しかし凛とした瞳で無月を見据えた。
「ありがとう、無月。私を、無月のお嫁さんにしてください」
穏やかに微笑んだ無月は、指輪をはめた瑠璃の手をそっと握った。
「今日は、朝まで我と共にいてほしい」
「…………」
そうすることが何を意味するのか、さすがに鈍感な瑠璃にも察しがついた。
というよりも、無月とならあり得ないと思っていたはずの展開が、今まさに繰り広げられようとしていることに気付き、彼女は狼狽えた。
「あ、あの……でも……私、家に連絡しなくちゃ」
自分を射抜くように見つめる無月に、いつもと違った空気を感じ、瑠璃は一歩後ずさった。
「そなたが我と一緒にいることは、魁童に伝えてある。きっと、うまく取りなしてくれるに違いない」
「え?魁童?……あ!」
瑠璃の脳裏には、夕方家を出る間際に交わした、弟との会話がよみがえった。
――――
――――――
『瑠璃、今日は無月と出かけるんだろ?』
『うん!……って、なんで魁童が知ってるの?』
『そ、それは……おまえ、おふくろに話してたじゃん。無月と食事するから、夕飯いらねぇって。あ、あれを聞いてたんだよ』
『ふーん……』
『ま、おふくろにはうまいこと言っとくからさ、頑張ってこいよ!』
『??……なあに、うまいことって……頑張るって、何を……??』
『だっだからっ……他のやつらと合流して、朝までカラオケ!なんてことになるかもしれねえだろ!?』
『……なんかよくわかんないけど…そろそろ時間だから、行ってくるね』
『おう』
――――――
――――
話が噛み合わないというか、訳がわからなかった魁童の態度も、こうなれば納得がいく。
あらかじめ外堀を埋めておく用意の周到さに、無月の意外な一面を見た気がして、瑠璃は、まじまじと彼を見つめた。
ここまで計画的に、あらゆることを想定しながらホテルをリザーブし、指輪を用意する。
そのことが、瑠璃に対する無月の気持ちの真剣さを物語っているようだった。
「なんだかね、夢みたいだよ……」
神妙にそう言う瑠璃に、無月はクスッと笑いをもらした。
「あ、ひどい、無月ってば笑うことないじゃない」
軽く頬をふくらませる瑠璃の頭を、無月はポンポンと撫でた。
瑠璃としては、同い年の相手から子供扱いされているようで、少々悔しいような気はする。
しかし、昔から、彼女をなだめる時に欠かさず無月がしてきたこの仕草は、やはり効果が絶大で、瑠璃は頬をほんのり染めて黙り込んだ。
「瑠璃……」
「ん?………!!」
愛しげに頭を撫でていた手で瑠璃の頬を包むと、無月は彼女に口付けた。
無月、雲雀の兄妹と瑠璃、魁童の姉弟。
幼なじみの絆は、それぞれが成長し大人になっても、変わることはない。
だが、無月と瑠璃が結婚すれば、皆が家族となり、さらに深い結びつきとなる。
――――愛する人と大切な人たちが、みんな笑顔でいてくれる。
何物にも代えがたい時間。
きっと、これを『幸せ』っていうんだよね――――
「瑠璃、どうした?」
そっと唇を離した無月が、小さく顔をほころばせた瑠璃に問いかける。
「ふふ……幸せだなぁって思ったら、嬉しくなっちゃって」
「そうだな、我も今、幸せを噛みしめている」
そう微笑み返すと、無月は瑠璃の髪を撫で再び深く口付けた。
二人を祝福する星たちが降り注ぐ、聖なる夜。
互いを生涯の伴侶と誓い合ったクリスマスイブ。
――この先何度季節が巡っても、クリスマスが近づくたびに私たちは、この夜のことを思い出すんだろうな……――
そう思いながら、無月の腕の中で目を閉じる瑠璃だった。
*
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