Telephone Line
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机の隅に置いてある携帯が震える。
魁童は、それをゆっくりと手にとって着信の相手を確認すると、通話ボタンを押した。
「はるか、どうした?こんな時間に」
『あ~よかった!魁童起きてた?』
「ああ……おまえが電話よこすなんて珍しいな、どうした?」
『月がね……すっごく綺麗なんだ』
「は?月?」
『うん。月があんまりにも綺麗だから……この感動を、誰かと分かち合いたくてさ』
魁童は、立ち上がると窓辺に歩み寄り、カーテンを開けて夜空を見上げる。
「ああ、確かに綺麗だな……んで、俺のとこに電話してきたって訳だ」
『まあね……ひとりで月を見てたら、なんだか寂しくなっちゃってね』
「ぷっ……おまえが、月見て寂しいって柄か?」
『ちょっと!今、すごく失礼なこと言われたような気がするんだけど!?』
怒ったふうに言いつつも、彼女が電話を切る様子はない。
魁童は、左手で携帯を支えながら、右手で窓の鍵を開けると、サッシを全開にする。
秋の空気をいっぱいにはらんだ風が、部屋の中に流れ込んでくる。
今までガラス越しでしか聞いていなかった虫の声が、鮮やかに響き渡る。
微かな笑みを浮かべてため息を吐くと、魁童は電話の向こうのはるかに思いを馳せる。
「不思議だよな……離れていながら同じ月を見て、リアルタイムで会話してるなんてさ」
『離れてるっていっても、ご近所さんだしねえ。直線距離にしたら……どんくらい?』
「……おまえな、人がせっかくロマンを感じてるのに、ぶち壊すなよな」
『ロマン?魁童の口からロマンなんて単語が出るとは思わなかったよ!キャハハハハハ!』
「……おい、ケンカ売るために電話してきたのかよ!?」
『あ~ごめんごめん…………ふふ、やっぱり、魁童と話してると元気をもらえるよ』
「はるか……電話かけてきた時点で、既になんか変だとは思ったけど……おまえ、何があった?」
『…………別に……何にもないよ』
「嘘つけ!」
『それはほんと……ただ、いろいろ考えちゃったんだよね、過去のこととか、今のこととか、これからのこととか……』
――魁童は、悩みがなくっていいよね――いつもの彼女なら、続けて、そんなことを言いそうなものだ。
だが、はるかの言葉は、そこで途切れた。
「なあ、今から出らんないか?」
『出る?……って、どこに?』
「なんかさ……急に、はるかの顔が見たくなっちまった」
『まあ……お母さん寝ちゃったし、もしばれても、そこのコンビニ行くってことにしとけば……大丈夫かな』
「そうだな、十分くらい……」
『ん?』
「十分後に、おまえんちの前まで行くからな!」
はるかの返事も聞かずに電話を切ると、魁童はバタバタと出かける支度を始めた。
およそ十分の後、魁童は、はるかの家に到着した。
放心したように空を見上げていたはるかが、ゆっくりと魁童に視線を移す。
「わあ……本物の魁童だ」
「はぁ!?俺様は俺様だ!なに、珍獣みたいに言ってんだよ」
「魁童って、珍獣だったの?」
二人、顔を見合わせて同時に吹き出す。
「おまえはさ……いつも、そうやって笑ってろよ」
魁童は、またがっていた自転車をおりて停めると、カゴから何かを取り出した。
「ほら!グダグダ考えちまう時はな、糖分をとるのが一番いいんだ!」
はるかの目の前につきつけられたそれは、ミルクティーの缶だった。
「手ぶらで帰ったら、おふくろに怪しまれるからさ……コンビニ寄ってきたんだ」
「そう……ありがと……」
缶を両手で包み込み、うつむくはるか。
彼女の瞳が、濡れたように光っているのに気づいて、魁童はさりげなく後ろを向いた。
「これからも、いつだって俺を頼れよ。夜中だろうがなんだろうが、駆けつけてやるからさ」
「魁童……」
「ん?」
「そんな格好いいこと言ってくれても、ごめんね、何にも出ないよ」
「はぁ!?別に、下手なお世辞とか言ってるんじゃねえよっ」
はるかは、声をあげて笑った。
彼女の方に向き直った魁童が慌てる。
「おい、おふくろさん、目ぇ覚ましちまうんじゃないか?」
「あ~、そっか。気をつけなきゃね」
はるかは、そう言いながら、ちっとも気をつける素振りなんか見せないで、再び笑う。
「まぁ……その方がおまえらしくていいや」
魁童も、ニカッと笑う。
パキッと音をたててミルクティーの缶を開けると、はるかはひとくち飲んでから言った。
「元気になる魔法のドリンク。……魁童も飲む?」
「お、おぅ……じゃあ、ひとくちくれ」
缶を受け取り、一瞬ためらってから、口に運ぶ魁童。
そんな彼に、はるかが笑顔を向けた。
「電話もいいけど……やっぱり、こうやって一緒にいるって、嬉しいね」
「ああ、そうだな」
ひとりぼっちが寂しくて、誰かとつながっていたい夜もある。
大切な相手の声を聞ければ、それだけで幸せ。
けれど、触れることのできる距離にいられたら……
もっともっと幸せ。
*
魁童は、それをゆっくりと手にとって着信の相手を確認すると、通話ボタンを押した。
「はるか、どうした?こんな時間に」
『あ~よかった!魁童起きてた?』
「ああ……おまえが電話よこすなんて珍しいな、どうした?」
『月がね……すっごく綺麗なんだ』
「は?月?」
『うん。月があんまりにも綺麗だから……この感動を、誰かと分かち合いたくてさ』
魁童は、立ち上がると窓辺に歩み寄り、カーテンを開けて夜空を見上げる。
「ああ、確かに綺麗だな……んで、俺のとこに電話してきたって訳だ」
『まあね……ひとりで月を見てたら、なんだか寂しくなっちゃってね』
「ぷっ……おまえが、月見て寂しいって柄か?」
『ちょっと!今、すごく失礼なこと言われたような気がするんだけど!?』
怒ったふうに言いつつも、彼女が電話を切る様子はない。
魁童は、左手で携帯を支えながら、右手で窓の鍵を開けると、サッシを全開にする。
秋の空気をいっぱいにはらんだ風が、部屋の中に流れ込んでくる。
今までガラス越しでしか聞いていなかった虫の声が、鮮やかに響き渡る。
微かな笑みを浮かべてため息を吐くと、魁童は電話の向こうのはるかに思いを馳せる。
「不思議だよな……離れていながら同じ月を見て、リアルタイムで会話してるなんてさ」
『離れてるっていっても、ご近所さんだしねえ。直線距離にしたら……どんくらい?』
「……おまえな、人がせっかくロマンを感じてるのに、ぶち壊すなよな」
『ロマン?魁童の口からロマンなんて単語が出るとは思わなかったよ!キャハハハハハ!』
「……おい、ケンカ売るために電話してきたのかよ!?」
『あ~ごめんごめん…………ふふ、やっぱり、魁童と話してると元気をもらえるよ』
「はるか……電話かけてきた時点で、既になんか変だとは思ったけど……おまえ、何があった?」
『…………別に……何にもないよ』
「嘘つけ!」
『それはほんと……ただ、いろいろ考えちゃったんだよね、過去のこととか、今のこととか、これからのこととか……』
――魁童は、悩みがなくっていいよね――いつもの彼女なら、続けて、そんなことを言いそうなものだ。
だが、はるかの言葉は、そこで途切れた。
「なあ、今から出らんないか?」
『出る?……って、どこに?』
「なんかさ……急に、はるかの顔が見たくなっちまった」
『まあ……お母さん寝ちゃったし、もしばれても、そこのコンビニ行くってことにしとけば……大丈夫かな』
「そうだな、十分くらい……」
『ん?』
「十分後に、おまえんちの前まで行くからな!」
はるかの返事も聞かずに電話を切ると、魁童はバタバタと出かける支度を始めた。
およそ十分の後、魁童は、はるかの家に到着した。
放心したように空を見上げていたはるかが、ゆっくりと魁童に視線を移す。
「わあ……本物の魁童だ」
「はぁ!?俺様は俺様だ!なに、珍獣みたいに言ってんだよ」
「魁童って、珍獣だったの?」
二人、顔を見合わせて同時に吹き出す。
「おまえはさ……いつも、そうやって笑ってろよ」
魁童は、またがっていた自転車をおりて停めると、カゴから何かを取り出した。
「ほら!グダグダ考えちまう時はな、糖分をとるのが一番いいんだ!」
はるかの目の前につきつけられたそれは、ミルクティーの缶だった。
「手ぶらで帰ったら、おふくろに怪しまれるからさ……コンビニ寄ってきたんだ」
「そう……ありがと……」
缶を両手で包み込み、うつむくはるか。
彼女の瞳が、濡れたように光っているのに気づいて、魁童はさりげなく後ろを向いた。
「これからも、いつだって俺を頼れよ。夜中だろうがなんだろうが、駆けつけてやるからさ」
「魁童……」
「ん?」
「そんな格好いいこと言ってくれても、ごめんね、何にも出ないよ」
「はぁ!?別に、下手なお世辞とか言ってるんじゃねえよっ」
はるかは、声をあげて笑った。
彼女の方に向き直った魁童が慌てる。
「おい、おふくろさん、目ぇ覚ましちまうんじゃないか?」
「あ~、そっか。気をつけなきゃね」
はるかは、そう言いながら、ちっとも気をつける素振りなんか見せないで、再び笑う。
「まぁ……その方がおまえらしくていいや」
魁童も、ニカッと笑う。
パキッと音をたててミルクティーの缶を開けると、はるかはひとくち飲んでから言った。
「元気になる魔法のドリンク。……魁童も飲む?」
「お、おぅ……じゃあ、ひとくちくれ」
缶を受け取り、一瞬ためらってから、口に運ぶ魁童。
そんな彼に、はるかが笑顔を向けた。
「電話もいいけど……やっぱり、こうやって一緒にいるって、嬉しいね」
「ああ、そうだな」
ひとりぼっちが寂しくて、誰かとつながっていたい夜もある。
大切な相手の声を聞ければ、それだけで幸せ。
けれど、触れることのできる距離にいられたら……
もっともっと幸せ。
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