春の帰り道
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すっかり日が落ちて、桜並木は夜の空気に包まれている。
その下をゆっくり歩く、制服姿の魁童とはるか。
「来年はさ……魁童と一緒に、この桜を見ながら、こうやって歩くこともないんだね」
感慨深げに桜の花を見上げるはるかに、魁童が答える。
「まあな。けど、まだしばらく咲いてるだろ。その間にたくさん花見しとけばいいんじゃないか?」
「花見って……歩きながら見てるだけだよ」
クスッと笑うはるかに、魁童が口をとがらせる。
「そりゃ、うまいもん食いながら、宴会でも出来れば楽しいんだろうけどさ」
「……ね、魁童?」
はるかが立ち止まったのに気づき、魁童も歩みを止める。
いつもとは別人のような彼女の雰囲気に、戸惑いつつも、平静を装う魁童。
きっと、夜の空気にザワザワと揺れる桜のせいだ。
「どうした?」
「あのね…公園に寄ってかない?クリスマスにさ、カラオケの後に行った公園」
「べ……別に、かまわねーよ」
ありがと、と小さく微笑むはるか。
なんだか……やっぱり、いつもと違う。
これは、俺様にとって良い兆候なのか。
それとも……
内心の動揺を隠しながら、魁童は、彼女の前に立って歩き出した。
公園の周囲にも桜が咲き誇り、街灯に照らされて白く浮かび上がっている。
クリスマスに並んで座ったベンチに、今日は制服姿の二人がいる。
「昼間の桜は、何となく空に溶けていきそうなかんじがするんだけど……夜桜は、何て言うのかな……」
はるかは、言葉を探すように腕組みをしながら続ける。
「自分のためだけに、空気が凝縮してくる。そんなふうに感じるんだよね」
「……そういうもんか?まあ、俺は、夜桜っつったら、この世のものではない何かを連想させられるな」
「ちょっと、魁童。それって、何だか怖いよ」
怖いと言いながら声をたてて笑うはるかを横目で見つつ、魁童は気が気ではなかった。
こいつの真意は、一体なんなんだ??
何となく、お互いに好意を寄せているのはわかる。
周囲は多分、二人が付き合ってるという、暗黙の了解をしているはずだ。
だが、交際宣言はおろか、きちんと想いを言葉にして伝え合うことすら……
実は、していない。
だから、まさか別れ話なんてことはないと思うが、この女が自分から、いわゆる『告白』をしてくるとも思えない。
魁童は、頭を抱えた。
二人とも黙ったまま、静かな時間が流れる。
時折、車の通り過ぎる音が聞こえる、閑静な住宅街の一角。
ほのかに暖かい春の夜の空気が、二人を包む。
しばらく、そんなふうに過ごした後、はるかが、桜を見あげたまま口を開いた。
「ねえ、魁童。一年後……正確には、十一ヶ月後の話だけどさ」
「え……ああ、十一ヶ月後っつったら……卒業か?」
「うん。あのさ……できれば、予約しておきたいんだ」
「予約?なにを?」
はるかは、目を伏せたまま、ポツリと呟いた。
「第二ボタン」
ちょっぴり照れくさそうにうつむく彼女に、魁童は一気に身体中の力が抜けるのを感じた。
「なんだ~……そういうことかよ」
「?……そういうこと?」
きょとんとした顔で聞き返す彼女に、いや、こっちの話だ、と誤魔化しながら、魁童がまっすぐ前を見る。
「……別に……第二ボタンだけじゃなくって、全部おまえにやる」
『全部って中には、ボタンや学生服だけじゃなく、俺自身も入ってるんだぞ。口には出せないけど……』
何気ない言葉に込められた気持ち。
いつも、そばにいるのが当たり前だった。
幼なじみという立ち位置に慣れすぎて、ずっとこのままでいられるものだと疑わなかったけれど……
『ちゃんと、捕まえておかなくちゃな。なんたって、こいつは俺のもんなんだから』
魁童は、気持ちを奮い立たせて切り出した。
「はるか、今度の休みに、どっか出かけねえか?」
「へ?……あ~、お花見?」
「花見でも、映画でも、遊園地でも……お……おまえの行きたい所に、付き合ってやる」
「ほんと~?じゃあ、考えとくね」
彼女への気持ちを改めて認識したとはいえ、さすがの魁童も、今日はまだ心の準備が出来ていない。
しかし、ここらが潮時だろう。
二人で出かける週末には、絶対ばっちり決めてやる。
桜の花に、そう誓った魁童だった。
*
その下をゆっくり歩く、制服姿の魁童とはるか。
「来年はさ……魁童と一緒に、この桜を見ながら、こうやって歩くこともないんだね」
感慨深げに桜の花を見上げるはるかに、魁童が答える。
「まあな。けど、まだしばらく咲いてるだろ。その間にたくさん花見しとけばいいんじゃないか?」
「花見って……歩きながら見てるだけだよ」
クスッと笑うはるかに、魁童が口をとがらせる。
「そりゃ、うまいもん食いながら、宴会でも出来れば楽しいんだろうけどさ」
「……ね、魁童?」
はるかが立ち止まったのに気づき、魁童も歩みを止める。
いつもとは別人のような彼女の雰囲気に、戸惑いつつも、平静を装う魁童。
きっと、夜の空気にザワザワと揺れる桜のせいだ。
「どうした?」
「あのね…公園に寄ってかない?クリスマスにさ、カラオケの後に行った公園」
「べ……別に、かまわねーよ」
ありがと、と小さく微笑むはるか。
なんだか……やっぱり、いつもと違う。
これは、俺様にとって良い兆候なのか。
それとも……
内心の動揺を隠しながら、魁童は、彼女の前に立って歩き出した。
公園の周囲にも桜が咲き誇り、街灯に照らされて白く浮かび上がっている。
クリスマスに並んで座ったベンチに、今日は制服姿の二人がいる。
「昼間の桜は、何となく空に溶けていきそうなかんじがするんだけど……夜桜は、何て言うのかな……」
はるかは、言葉を探すように腕組みをしながら続ける。
「自分のためだけに、空気が凝縮してくる。そんなふうに感じるんだよね」
「……そういうもんか?まあ、俺は、夜桜っつったら、この世のものではない何かを連想させられるな」
「ちょっと、魁童。それって、何だか怖いよ」
怖いと言いながら声をたてて笑うはるかを横目で見つつ、魁童は気が気ではなかった。
こいつの真意は、一体なんなんだ??
何となく、お互いに好意を寄せているのはわかる。
周囲は多分、二人が付き合ってるという、暗黙の了解をしているはずだ。
だが、交際宣言はおろか、きちんと想いを言葉にして伝え合うことすら……
実は、していない。
だから、まさか別れ話なんてことはないと思うが、この女が自分から、いわゆる『告白』をしてくるとも思えない。
魁童は、頭を抱えた。
二人とも黙ったまま、静かな時間が流れる。
時折、車の通り過ぎる音が聞こえる、閑静な住宅街の一角。
ほのかに暖かい春の夜の空気が、二人を包む。
しばらく、そんなふうに過ごした後、はるかが、桜を見あげたまま口を開いた。
「ねえ、魁童。一年後……正確には、十一ヶ月後の話だけどさ」
「え……ああ、十一ヶ月後っつったら……卒業か?」
「うん。あのさ……できれば、予約しておきたいんだ」
「予約?なにを?」
はるかは、目を伏せたまま、ポツリと呟いた。
「第二ボタン」
ちょっぴり照れくさそうにうつむく彼女に、魁童は一気に身体中の力が抜けるのを感じた。
「なんだ~……そういうことかよ」
「?……そういうこと?」
きょとんとした顔で聞き返す彼女に、いや、こっちの話だ、と誤魔化しながら、魁童がまっすぐ前を見る。
「……別に……第二ボタンだけじゃなくって、全部おまえにやる」
『全部って中には、ボタンや学生服だけじゃなく、俺自身も入ってるんだぞ。口には出せないけど……』
何気ない言葉に込められた気持ち。
いつも、そばにいるのが当たり前だった。
幼なじみという立ち位置に慣れすぎて、ずっとこのままでいられるものだと疑わなかったけれど……
『ちゃんと、捕まえておかなくちゃな。なんたって、こいつは俺のもんなんだから』
魁童は、気持ちを奮い立たせて切り出した。
「はるか、今度の休みに、どっか出かけねえか?」
「へ?……あ~、お花見?」
「花見でも、映画でも、遊園地でも……お……おまえの行きたい所に、付き合ってやる」
「ほんと~?じゃあ、考えとくね」
彼女への気持ちを改めて認識したとはいえ、さすがの魁童も、今日はまだ心の準備が出来ていない。
しかし、ここらが潮時だろう。
二人で出かける週末には、絶対ばっちり決めてやる。
桜の花に、そう誓った魁童だった。
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