バレンタイン 2013
竜尊編
「竜尊がモテるのはわかってたけどね……」
車のリヤシートに置かれた、チョコでいっぱいの紙袋の山に目をやり、瑠璃は思わずため息をついた。
「……すごく高そうなチョコがいっぱい」
「そうなのか?」
「うん……。なんだか、これ渡すの恥ずかしくなってきちゃった」
胸の前に抱えた包みを隠すように、うつむく瑠璃。
「贈り物の値段で、気持ちの深さを判断できるわけじゃないだろ?」
「そ、それは……そうだけど」
竜尊のマンションに着くと、二人がかりでチョコの山を部屋まで運んだ。
瑠璃のチョコだけをしっかりと抱え、それ以外はそのまま車に積んでおけばよいと言う竜尊を、瑠璃がたしなめたのだ。
「この中で、一番高級なチョコはどれだ?」
「え……ん~……えっとね……これかなあ」
竜尊は、その包みをバリバリと破って開けると、チョコを一粒取り出した。
「ほら、口あけ」
「え?」
チョコを自分の口にくわえた竜尊は、そのまま瑠璃に口付けた。
中途半端に開いた彼女の唇に、自分の舌ごとチョコを押し込む。
「ん……んん~」
体を離そうともがく瑠璃の頬を両手でしっかり固定し、味わうように舌と舌を絡める。
長い口づけを終えると、竜尊は、彼女の口元についたチョコを舐めとって言った。
「おまえには、こうやってチョコを食べる権利があるんだ。なんたって……」
一旦言葉を切ると、ニッコリと目を細めて続けた。
「俺が選んだ女だからな」
「……チョコレートの味なんか、わかんなかったよ……」
真っ赤になった顔をそらしながら、瑠璃がつぶやく。
「もっと食うか?」
「え……もういいよ」
慌てて首を振る瑠璃に、竜尊が微笑んでみせた。
「食わせてやったんだから、今度はこっちが食わせてもらう番だな」
「ふ……普通に、でいい?」
「ああ」
瑠璃は、箱の中から一粒つまんで、竜尊の前に差し出した。
「じゃあ……はい、どうぞ」
「瑠璃……おまえの俺に対する愛は、その程度なのか?」
「え……あ……ひとつじゃ足りないかな?」
チョコの箱に伸びた瑠璃の手を、竜尊がつかむ。
「ふっ、馬ー鹿!チョコじゃねえよ、俺が食うのはおまえだ」
「……今?」
「当然だ」
「そ……それはちょっと……わっ」
瑠璃の両脇に手を入れて立たせると、立て膝の竜尊が、彼女の下腹部に顔をうずめる。
と同時に、ロングスカートが床にストンと落ちた。
「ちょっ……竜尊!?」
「これも邪魔だな」
「!!!」
瑠璃の困惑などお構いなしに、竜尊は、彼女が身につけているものを器用に脱がせていった。
「もぅ~……」
ペタンと座り込み、着ているセーターの裾を引っ張って、あらわになった下半身を隠そうとする瑠璃。
だが、竜尊を前にしてそんな抵抗は無意味だ。
いとも簡単に、セーターに手を入れて、彼女の体を愛撫する。
「んー、今日は、俺が食わせてもらうんだからな……おまえが上に乗ってくるか?」
「は…………?」
いつの間にか自分も下半身裸になっていた竜尊は、毛足の長いラグの上に仰向けになると、腹の上に瑠璃を跨がらせた。
「見下ろす気分はどうだ?たまにはこういうのもいいもんだな」
「やだ……ば、馬鹿……っあぁ」
恥ずかしさに頬を染めていた瑠璃だったが、いきなり入ってきた竜尊に吐息まじりの声をもらした。
「や……やめ……」
明るい部屋で、乱れたところを見られるのが嫌で、思い切り顔をそらす。
「やめていいのか?」
竜尊が動きを止める。
羞恥と快楽に頬を上気させた瑠璃が、目を潤ませ恨めしそうに竜尊を見下ろす。
「や……やめないでぇ……」
「瑠璃の好きなように動いていいんだぞ。なんたって、今日はバレンタインだからな」
「なっっ……ん~……」
「いつもと違う体勢ってのも、燃えるもんだな」
竜尊の動きが激しさを増す。
「やっ……りゅ……うそ……あぁんっ」
ほどなく、二人一緒に絶頂を迎えた。
「続きはベッドでするか?」
「え?続きって……まだするの?」
「ああ、当たり前だろ。なんたって今日は……」
「いくらバレンタインでも、私もう……やぁあっ!!」
「ほら、瑠璃だって、もっともっと俺のことほしいんだろ?」
「竜尊の……バカァ……」
日付が変わり『バレンタイン』が終わっても、竜尊の部屋から聞こえる、瑠璃の喘ぎ声が途切れることはなかった。
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