世界のすべて
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鬼と人間が共存できるようになってから、三ヶ月ほどが過ぎた頃。
瑠璃は、月讀の手伝いをしながら、術の修練を続ける日々を送っていた。
その合間に、恋仲となった祢々斬と二人、紅玉の丘で過ごす時間も増えた。
ある晴れた昼下がり。
若草に寝転ぶ祢々斬の隣で、膝を抱える瑠璃の姿があった。
丘からの眺めに、ぼんやり目をやっていた彼女は、右手をあげて太陽にかざした。
「どうした?」
尋ねながら、祢々斬が上体を起こす。
「……この頃ね、不安になるんだ」
「不安?」
「そう……この手が、自分のものじゃないような……」
広げていた手を下ろして握りしめると、瑠璃は苦しげに視線を落とした。
祢々斬は、黙って彼女の言葉を待つ。
「私は、“鬼を倒す”って名目で、常盤國に呼ばれたんだよね。そして今、この世界は平和になった」
「それの、どこが不安なんだ?」
訝しげに口を開いた祢々斬に、瑠璃は悲しげに笑ってみせた。
「つまり、この世界に私が存在する理由は、もうなくなったってこと」
「なっ……バカなことを!」
「だって……」
「今、ここにいること自体が、おまえの存在する理由そのものだろ?」
祢々斬の言葉にも身動ぎせず、何か考えている風の瑠璃だったが、やがてポツリと言った。
「じゃあ、私が消えてしまったら?」
「なんだと?一体……何を言ってるんだ?」
苛立ちを含んだ、瑠璃の一言に、祢々斬は戸惑いを露にした。
「おい、どういう意味だ?消えるって……瑠璃、おまえ「そのまま、の意味だよ」」
うなだれた瑠璃は、呟くように続けた。
「この体が、自分の体じゃないみたいに感じられてね……意識が遠のきそうになることがあるの。もしかしたら、元の世界に戻されちゃうのかも……」
微かなため息をつくと、祢々斬は、瑠璃を背中から抱きしめた。
「おまえの居場所は、ここだけだ。ずっと、俺の隣にいるんだろ?」
体の前に回された祢々斬の手に、瑠璃は自分の手を重ねた。
「私だって、一緒にいたい!でも……」
「だったら!」
瑠璃は、首を左右に力なく振った。
「この世界が、私の存在を拒否してるんだとしたら……私きっと、元の世界に帰らなくちゃいけないんだよ。そしたら、もう祢々斬に会えなくなっちゃう……」
小さく震える瑠璃の肩にあごをのせた祢々斬は、彼女の手をとって指を絡ませると、しっかり握った。
「瑠璃、大丈夫だ。おまえは、絶対に俺が守る」
「祢々斬……」
背中の温もりに、瑠璃の揺れる気持ちが、少しずつ凪いでいく。
「もし本当に、この世界が、おまえを元の世界に戻そうとしてるんだとしても……俺は絶対に、負けない。この命をかけてもな」
「祢々……わっ!?」
地面を見つめていた瑠璃の視界に、明るい青空が広がった。
と思う間もなく、それは至近距離の人影に遮られた。
「ど、どうしたの?」
自分の両肩を大地に縫いつけ、覆い被さるような形で見下ろす祢々斬を、瑠璃は恐る恐る見上げた。
「……いつでも、どこにいても……おまえの世界を、俺でいっぱいにしておけばいい。不安とか悲しみとか……余計なことは考えるな」
絞り出すように言葉を紡ぐ、祢々斬の瞳の真剣さに、瑠璃は息をのんだ。
「俺にとって……おまえが、世界のすべてだ。だから、ここから居なくなる、なんてこと……絶対に認めない」
こわばっていた瑠璃の顔に、柔らかな笑みが浮かんだ。
「ありがとう……私も、私だって……もう、祢々斬のいない世界なんて、考えられないよ」
穏やかに微笑んだ祢々斬は、瑠璃の額に、頬にと口付けると、彼女の耳元に唇を寄せた。
「瑠璃、愛してる。おまえは、鬼である俺に、こんな感情を教えてくれた。絶対に……はなすもんか」
「うん……絶対、離れないよ。私は、祢々斬の手をはなしたりしない。だって……祢々斬といることが、私の世界そのものなんだもん」
言葉が途切れると同時に、瑠璃の唇は、口付けでふさがれた。
紅玉の丘を吹き抜ける風が、二人を包む。
瑠璃の育った世界と変わらぬ雲が、透きとおるような空を、ゆっくりと流れていた。
*
瑠璃は、月讀の手伝いをしながら、術の修練を続ける日々を送っていた。
その合間に、恋仲となった祢々斬と二人、紅玉の丘で過ごす時間も増えた。
ある晴れた昼下がり。
若草に寝転ぶ祢々斬の隣で、膝を抱える瑠璃の姿があった。
丘からの眺めに、ぼんやり目をやっていた彼女は、右手をあげて太陽にかざした。
「どうした?」
尋ねながら、祢々斬が上体を起こす。
「……この頃ね、不安になるんだ」
「不安?」
「そう……この手が、自分のものじゃないような……」
広げていた手を下ろして握りしめると、瑠璃は苦しげに視線を落とした。
祢々斬は、黙って彼女の言葉を待つ。
「私は、“鬼を倒す”って名目で、常盤國に呼ばれたんだよね。そして今、この世界は平和になった」
「それの、どこが不安なんだ?」
訝しげに口を開いた祢々斬に、瑠璃は悲しげに笑ってみせた。
「つまり、この世界に私が存在する理由は、もうなくなったってこと」
「なっ……バカなことを!」
「だって……」
「今、ここにいること自体が、おまえの存在する理由そのものだろ?」
祢々斬の言葉にも身動ぎせず、何か考えている風の瑠璃だったが、やがてポツリと言った。
「じゃあ、私が消えてしまったら?」
「なんだと?一体……何を言ってるんだ?」
苛立ちを含んだ、瑠璃の一言に、祢々斬は戸惑いを露にした。
「おい、どういう意味だ?消えるって……瑠璃、おまえ「そのまま、の意味だよ」」
うなだれた瑠璃は、呟くように続けた。
「この体が、自分の体じゃないみたいに感じられてね……意識が遠のきそうになることがあるの。もしかしたら、元の世界に戻されちゃうのかも……」
微かなため息をつくと、祢々斬は、瑠璃を背中から抱きしめた。
「おまえの居場所は、ここだけだ。ずっと、俺の隣にいるんだろ?」
体の前に回された祢々斬の手に、瑠璃は自分の手を重ねた。
「私だって、一緒にいたい!でも……」
「だったら!」
瑠璃は、首を左右に力なく振った。
「この世界が、私の存在を拒否してるんだとしたら……私きっと、元の世界に帰らなくちゃいけないんだよ。そしたら、もう祢々斬に会えなくなっちゃう……」
小さく震える瑠璃の肩にあごをのせた祢々斬は、彼女の手をとって指を絡ませると、しっかり握った。
「瑠璃、大丈夫だ。おまえは、絶対に俺が守る」
「祢々斬……」
背中の温もりに、瑠璃の揺れる気持ちが、少しずつ凪いでいく。
「もし本当に、この世界が、おまえを元の世界に戻そうとしてるんだとしても……俺は絶対に、負けない。この命をかけてもな」
「祢々……わっ!?」
地面を見つめていた瑠璃の視界に、明るい青空が広がった。
と思う間もなく、それは至近距離の人影に遮られた。
「ど、どうしたの?」
自分の両肩を大地に縫いつけ、覆い被さるような形で見下ろす祢々斬を、瑠璃は恐る恐る見上げた。
「……いつでも、どこにいても……おまえの世界を、俺でいっぱいにしておけばいい。不安とか悲しみとか……余計なことは考えるな」
絞り出すように言葉を紡ぐ、祢々斬の瞳の真剣さに、瑠璃は息をのんだ。
「俺にとって……おまえが、世界のすべてだ。だから、ここから居なくなる、なんてこと……絶対に認めない」
こわばっていた瑠璃の顔に、柔らかな笑みが浮かんだ。
「ありがとう……私も、私だって……もう、祢々斬のいない世界なんて、考えられないよ」
穏やかに微笑んだ祢々斬は、瑠璃の額に、頬にと口付けると、彼女の耳元に唇を寄せた。
「瑠璃、愛してる。おまえは、鬼である俺に、こんな感情を教えてくれた。絶対に……はなすもんか」
「うん……絶対、離れないよ。私は、祢々斬の手をはなしたりしない。だって……祢々斬といることが、私の世界そのものなんだもん」
言葉が途切れると同時に、瑠璃の唇は、口付けでふさがれた。
紅玉の丘を吹き抜ける風が、二人を包む。
瑠璃の育った世界と変わらぬ雲が、透きとおるような空を、ゆっくりと流れていた。
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