くりすますの内緒話
竜尊編★すきだから
ああ、まただ……
私は、小さなため息をついた。
クリスマスという行事の存在を、なにげなく竜尊に話したことが、すべての発端だった。
一緒に町に買い物に行こう、そこで互いの気に入りそうな贈り物を探そう――そう提案したのは、私だ。
しかし、実際二人で町に出かけてみて、私は後悔の気持ちを味わうことになった。
「竜尊、ずいぶんご無沙汰だったじゃない」
どこにいても、若い女の子が頬を染めて話しかけてくる。その度に、彼は愛想のよい笑顔を返す。
私はひたすら他人のふりをして、一歩下がって歩いた。店に入れば、離れたところで、商品を熱心に見ているふりをしたり。
中には、私の存在に気づき「術士さんのお仕事の付き添い?」なんて、竜尊に尋ねる子もいた。
そんな問いにも、彼は曖昧な笑顔で答えていた。
肯定もしなければ、否定もしない。
これじゃ、二人でいる意味、ないじゃない……
私は、竜尊に背中を向けると、一人、口をへの字に結んで歩き始めた。
「瑠璃、待てよ」
慌てて追いかけてくる声に、私は、振り返らずに立ち止まった。
竜尊が、私の前に回り込む。
「瑠璃、今日は大切な日だから、一緒に町に来たかったんじゃないのか?」
「……大切だよ、でも、私が勝手にそう思ってるだけだから。竜尊は、気にしないでいいよ」
往来で立ち止まっている私たちを、道行く人達が興味深そうに眺めては通り過ぎる。
「おまえにとって大切な日なら、俺にとっても同じだろ?」
竜尊の大きな手が、そっと私の手に触れた。
大勢の人で賑わう、師走の町の中で。
その中には、竜尊のことを憧れの対象として見ている女の子がたくさんいるのに……
「竜尊……誰に見られてるかわかんないよ」
「今日は、大切な相手と過ごす日なんだろ? だったら、俺達が手を繋いでたって問題ないさ」
「でも……」
触れられた手を慌てて引っ込めると、私は後ずさった。
「瑠璃……」
彼の顔をまともに見ることができず、私は自分の足下に視線を落とす。
「……わかった」
ため息まじりの声に、体がこわばる。
怒っちゃったよね……私のわがままで、竜尊に嫌な思いさせてるんだもん。
でも、でも……
涙が一粒、ポトンと落ちた。
「きゃっ!!?!」
竜尊というキャラクターは、多分こういう場面では……
『怒りと悲しみのまじった表情を見せてから、背中を向けて立ち去る』はずだと思うんだよね。
でも、この世界の竜尊――私の目の前の彼は、違った。いきなり、私の腰を抱きかかえると、肩に担ぎ上げた。
「ちょっ……何するのっ!?」
「人目のないところに行く」
彼は私を担いだまま、スタスタと歩き出した。
「なっ!?なんで……」
暴れようにも、こんな姿勢では力が入らない。
「二人っきりじゃないと、おまえは素直になれないみたいだからな」
柘榴の祠に着くと、竜尊は、住まいとしている小屋の中で私を下ろした。
「さあて、やっと二人きりになれたな」
床に広がっている敷物の上で、あぐらをかく竜尊。
彼と向かい合う形で、私は膝を抱えた。
「ごめん……私が言い出したのに……クリスマスだからって、お出かけしたいって、自分で言っといて……ごめんなさい」
私には、小さくなって謝ることしか出来なかった。
異界の風習であるクリスマスの話を、竜尊は、目を輝かせて聞いてくれたのに。
町に出れば、女の子たちの目にさらされることだって、わかっていたはずだ。
それでも、手をつなごうとしてくれた、クリスマスを楽しもうと気遣ってくれた、竜尊の気持ち……
後悔と嫉妬と、ほかにもいろんな気持ちが、ぐるぐると頭の中で回る。
「いつまでもそんな顔してたら、『くりすます』とやらが終わっちまうぞ」
竜尊の声に、はっと我に返る。
「町で、おまえの気に入る簪でも……と思ってたんだがな、悪いな、贈り物が用意出来なかった」
「ううん、そんなこと……私が悪いんだから…私こそ、せっかくのクリスマスに、プレゼントどころか……わ!?」
言い終わらないうちに、押し倒された。
「俺が一番嬉しい贈り物は、おまえそのものだからな。ほら、いい加減機嫌を直せよ」
「機嫌って……竜尊こそ、怒ってない?」
「あそこまで、おまえが焼きもち焼いてくれるとは…かえって嬉しいくらいだな」
「…………」
私は、何も言えなくなってしまった。
竜尊は、いつもどおりの笑顔を見せた。
「俺が触れたい女は、瑠璃、おまえだけだ」
優しい口付けが、だんだん深くなる。
「瑠璃、おまえは俺の特別だからな」
「竜尊も、私の特別だよ……」
お互いの肌のぬくもりに幸せを感じながら、クリスマスの夜は更けていった。
*
ああ、まただ……
私は、小さなため息をついた。
クリスマスという行事の存在を、なにげなく竜尊に話したことが、すべての発端だった。
一緒に町に買い物に行こう、そこで互いの気に入りそうな贈り物を探そう――そう提案したのは、私だ。
しかし、実際二人で町に出かけてみて、私は後悔の気持ちを味わうことになった。
「竜尊、ずいぶんご無沙汰だったじゃない」
どこにいても、若い女の子が頬を染めて話しかけてくる。その度に、彼は愛想のよい笑顔を返す。
私はひたすら他人のふりをして、一歩下がって歩いた。店に入れば、離れたところで、商品を熱心に見ているふりをしたり。
中には、私の存在に気づき「術士さんのお仕事の付き添い?」なんて、竜尊に尋ねる子もいた。
そんな問いにも、彼は曖昧な笑顔で答えていた。
肯定もしなければ、否定もしない。
これじゃ、二人でいる意味、ないじゃない……
私は、竜尊に背中を向けると、一人、口をへの字に結んで歩き始めた。
「瑠璃、待てよ」
慌てて追いかけてくる声に、私は、振り返らずに立ち止まった。
竜尊が、私の前に回り込む。
「瑠璃、今日は大切な日だから、一緒に町に来たかったんじゃないのか?」
「……大切だよ、でも、私が勝手にそう思ってるだけだから。竜尊は、気にしないでいいよ」
往来で立ち止まっている私たちを、道行く人達が興味深そうに眺めては通り過ぎる。
「おまえにとって大切な日なら、俺にとっても同じだろ?」
竜尊の大きな手が、そっと私の手に触れた。
大勢の人で賑わう、師走の町の中で。
その中には、竜尊のことを憧れの対象として見ている女の子がたくさんいるのに……
「竜尊……誰に見られてるかわかんないよ」
「今日は、大切な相手と過ごす日なんだろ? だったら、俺達が手を繋いでたって問題ないさ」
「でも……」
触れられた手を慌てて引っ込めると、私は後ずさった。
「瑠璃……」
彼の顔をまともに見ることができず、私は自分の足下に視線を落とす。
「……わかった」
ため息まじりの声に、体がこわばる。
怒っちゃったよね……私のわがままで、竜尊に嫌な思いさせてるんだもん。
でも、でも……
涙が一粒、ポトンと落ちた。
「きゃっ!!?!」
竜尊というキャラクターは、多分こういう場面では……
『怒りと悲しみのまじった表情を見せてから、背中を向けて立ち去る』はずだと思うんだよね。
でも、この世界の竜尊――私の目の前の彼は、違った。いきなり、私の腰を抱きかかえると、肩に担ぎ上げた。
「ちょっ……何するのっ!?」
「人目のないところに行く」
彼は私を担いだまま、スタスタと歩き出した。
「なっ!?なんで……」
暴れようにも、こんな姿勢では力が入らない。
「二人っきりじゃないと、おまえは素直になれないみたいだからな」
柘榴の祠に着くと、竜尊は、住まいとしている小屋の中で私を下ろした。
「さあて、やっと二人きりになれたな」
床に広がっている敷物の上で、あぐらをかく竜尊。
彼と向かい合う形で、私は膝を抱えた。
「ごめん……私が言い出したのに……クリスマスだからって、お出かけしたいって、自分で言っといて……ごめんなさい」
私には、小さくなって謝ることしか出来なかった。
異界の風習であるクリスマスの話を、竜尊は、目を輝かせて聞いてくれたのに。
町に出れば、女の子たちの目にさらされることだって、わかっていたはずだ。
それでも、手をつなごうとしてくれた、クリスマスを楽しもうと気遣ってくれた、竜尊の気持ち……
後悔と嫉妬と、ほかにもいろんな気持ちが、ぐるぐると頭の中で回る。
「いつまでもそんな顔してたら、『くりすます』とやらが終わっちまうぞ」
竜尊の声に、はっと我に返る。
「町で、おまえの気に入る簪でも……と思ってたんだがな、悪いな、贈り物が用意出来なかった」
「ううん、そんなこと……私が悪いんだから…私こそ、せっかくのクリスマスに、プレゼントどころか……わ!?」
言い終わらないうちに、押し倒された。
「俺が一番嬉しい贈り物は、おまえそのものだからな。ほら、いい加減機嫌を直せよ」
「機嫌って……竜尊こそ、怒ってない?」
「あそこまで、おまえが焼きもち焼いてくれるとは…かえって嬉しいくらいだな」
「…………」
私は、何も言えなくなってしまった。
竜尊は、いつもどおりの笑顔を見せた。
「俺が触れたい女は、瑠璃、おまえだけだ」
優しい口付けが、だんだん深くなる。
「瑠璃、おまえは俺の特別だからな」
「竜尊も、私の特別だよ……」
お互いの肌のぬくもりに幸せを感じながら、クリスマスの夜は更けていった。
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