くりすますの内緒話

玖々廼馳編★プレゼントはサプライズ

「私の世界では、クリスマスっていう日があってね。大切な人と、お互いに贈り物をし合うんだよ」

師走もそろそろ半ば過ぎ。
ふと、元の世界でのこの時期の賑わいを思い出した。

少しでも、クリスマスらしいことが出来たら、楽しそう――
そう考えて、玖々廼馳に、クリスマスの説明をしていたのだ。

「贈り物ですか……」

うーん、と首をかしげながら、玖々廼馳が思案顔になる。

「僕……贈り物って、するのもされるのも初めてです……」

ちょっぴりはにかんで笑う玖々廼馳。

「お姉ちゃんに喜んでもらえるように、がんばって贈り物しますから……楽しみにしててくださいね」

「ありがとう、玖々廼馳も楽しみにしててね!」



さて、私も考えなくちゃね、玖々廼馳が喜んでくれるプレゼント。

しかし、これがなかなか難しい。
この世界にあるもので、しかも、相手は男の子。
女の子へのプレゼントなら、自分が『これほしい』って思ったものを選べばいいんだけど……

男の子って、何を贈れば喜んでくれるの!??


いくら考えても結論は出ず、困った私は、久遠に相談した。

「なんじゃ、そんなことか」

「え、そんな簡単に言わないでよ……」

「近頃、玖々廼馳が我が家に夕ごはんを食べに来ることが増えたからな、あやつ用の茶碗でも、贈ったらどうじゃ?」

「玖々廼馳専用のお茶碗……確かに、あったらいいかもね」

「相手のほしいものを……と考えるから、難しくなるのじゃ。相手が絶対に使うものであれば、間違いはなかろう?」

「さすが久遠!なるほど、そういう考え方もあるよね……」

私は、うんうんとうなずきながら、確かあの辺に瀬戸物屋さんがあったな、と思いを巡らせた。

「善は急げと言う、今から町へ出る用事があるのじゃが、おぬしも行かぬか?玖々廼馳の茶碗、わしが一緒に選んでやるのじゃ」

そんな訳で、久遠と私は、町の瀬戸物屋さんに出かけた。



「わあ、このお茶碗、素敵~」

第一印象で私が気に入ってしまったのは、白地に薄緑色で若葉の模様をあしらってある、やや大ぶりの茶碗だった。
同じシリーズなのか、少しずつ違った大きさ、違った模様のものが、いくつか並んでいる。

「どうしよう……模様はこれが一番、玖々廼馳らしいと思うんだけど、大きすぎる?」

茶碗を手にとって見せた私に、久遠が答える。

「いや、それがよい。あんまり小さい茶碗では、玖々廼馳の男としての自尊心が傷つくからな」

「……なんか、今日の久遠って、すごく頼りになるね」

「なんじゃと?わしは、いつだって頼りになるのじゃ!なんとかいう儀式、わしへの贈り物も忘れるでないぞ?」

「あはは、久遠ってば……クリスマスの説明の中の『贈り物』の部分しか、印象に残ってないんだね」

笑うでない!と口を尖らせてから、久遠は咳払いをした。

「さて、あとはおぬし一人で大丈夫じゃな。わしは、別の用事をすませなければならん。はるか、おぬしはそれを持って、先に帰るのじゃ」

「え、私もおつかい手伝うよ」

「いや……割れ物を持ってウロウロしては、危ないのじゃ。特におぬしのような、おっちょこちょいは……」

「もう~わかったわかった!すごく失礼なこと言われた気もするけど……久遠の言うことも、一理あるよね。じゃあ、お先に帰らせてもらうね」

「ああ、気をつけて帰るのじゃ」

店を出る久遠を見送ってから、ゆっくり、お茶碗の会計を済ませた。
贈り物用にと、きれいに包んでもらったそれを大切に抱えて、私は足取りも軽く屋敷に戻った。



クリスマスイブの夕方。
翠玉の森の大樹の下で、私たちは向かい合って立った。

「メリークリスマス、玖々廼馳!」
「めりーくりすます……お姉ちゃん!」

「いっせーのーで」……で、用意したプレゼントを互いの目の前に差し出した。

「「!!!」」

どちらも同じ包装紙。
私は、自分でリボンをかけたのだが、それにしても……

「開けてみてもいい?」
「僕も……開けます」

玖々廼馳からのプレゼントは、私が選んだものより一回り小さな、白いお茶碗だった。
薄紅色の桜の花が、咲き誇り舞い散る模様が描かれていた。
私たちは思わず顔を見合わせた。

「「久遠!」」

二人で、同時に声をたてて笑った。

そっかぁ……
玖々廼馳も、久遠に相談したんだね。

「玖々廼馳、おいしいご飯作るから、食べに来てね」

「はいっ!僕、このお茶碗で、いっぱいおかわりします」

玖々廼馳は、若葉模様のお茶碗をいとおしそうに眺めた。


明日は、クリスマス。
ご馳走をたくさん作って、彼を待っていよう。
おそろいのお茶碗でいただくご飯は、きっと、最高においしいに違いない。

私たちは、明日の約束をしてから、笑顔で手を振りそれぞれ家路をたどった。

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