くりすますの内緒話

無月編 ★ともに過ごせば

町へ買い物に出かけた帰り道。
荷物は重かったけれど、私の足取りは軽かった。

ちょっと遠回りして蒼玉の湖に顔を出し、無月に声をかける。

「無月!」

「瑠璃、買い物帰りか?……なんだか嬉しそうだな」

「うふふ、町で歳末福引きやっててね、これが当たったんだ」

私は、手提げの中から、背の高い瓶を取り出した。

「抹茶のお酒なんだって。美味しそうだから、無月と一緒に飲みたかったの」

「ほお……綺麗な色の酒だな」

瓶を手にとり、透かして見ながら無月が感心したような声を上げる。

「うん!あのね、無月……」

「どうした?」

瓶を私に手渡しながら、優しく微笑みを向けてくれる無月。
私は彼に、ある提案をすることにした。

「今日はね、私の世界では特別なお祝いっていうかお祭りっていうか……みんなで楽しむ日なんだ」

「祝いに祭りとは、ずいぶん楽しそうだな」

「クリスマスっていうんだけどね……家族や友達や、それから……恋人と一緒に過ごすことが多いの」

無月は、私の話にじっと耳を傾けていた。

「今日は、月讀さんも久遠も留守だし……無月、うちで一緒に夕ご飯食べない?」

「そなたと夕食を?」

「あ……もちろん、無理にじゃないけど……このお酒を一緒に飲みたいなって思ったから……」

自分でも、しどろもどろになっているのがわかる。
私は恥ずかしさに下を向いた。

その時、頭の上に無月の大きな手がポンと乗せられたのを感じた。

じっと、目だけを動かして、彼の顔をうかがう。

「それは嬉しいことだな。我は、こうして、そなたに会えるだけで満足だというのに」

彼は、私の頭をそっと撫でた。

「そのような晴れの日に、そなたが我とともに過ごしたいと思ってくれることが……」

「無月……っ!」

一陣の風が吹き、その冷たさに、思わず身を震わせる。と同時に、私は無月の腕の中にいた。

「夕刻になると、風が冷たさを増す。そなたに風邪などひかせては……」

「あ、ありがとう。でも……ずっとこうしててもらう訳にはいかないよね。私、帰らなくちゃ」

私を包む腕が、そっと解かれる。
荷物を抱え直して、私は彼をまっすぐに見た。

「温かいご飯作るから……無月、一緒に来てくれる?」

無月は、私の言葉を受け止めると、にっこりと微笑んだ。

「ああ、もちろんだ。今この時も、我らにとっては、楽しむべき『くりすます』なのだな」

「そっか……それって素敵な考えだね。そう思えば、長い帰り道も冷たい風も、嫌じゃなくなるもんね」

目を輝かせた私に、無月は大きく頷いた。



二人並んで歩き出す。
重い荷物は、「こういうものは男が持つべきなのだ」と言う無月に任せた。
頬を刺す風も、二人でいれば気にならない。
むしろ、心地よいくらいだ。

他愛ない会話をしながら、家路をたどる。

いつか、無月のお嫁さんになったら……
こうやって歩くことも、『クリスマスの特別』じゃなくて、日常になるんだよね、きっと。

そんな考えが頭をよぎり、一瞬言葉につまった私を、無月が不思議そうに見た。

「無月」

「なんだ?」

「おいしいご飯作るからね」

「ああ、期待している……だが、無理はせずともよいぞ」

「え?あ~もう、無月ってば」

お互い顔を見合わせて笑う。


屋敷への道のりは、あっという間に過ぎ、私達は温かな食事とおいしいお酒で、クリスマスを祝ったのだった。

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