くりすますの内緒話

祢々斬編 ★リクエスト

もうすぐクリスマス。
といっても、ここ常盤國では知られていない行事だから、あんまり関係ないのだけれど……。

それでも私は、クリスマスが大好き。
この時期特有の、ワクワクした雰囲気が特に。

そう思って、祢々斬にクリスマスの話をしたら、思いの外興味を示してくれた。

お互いにプレゼントを贈り合うことに決め、その日はどんどん近づいて、クリスマスまであと三日……。



「祢々斬!」

日が暮れる前に少しでも長く一緒にいたくて、修行を早めに終え紅玉の丘を訪ねる。

いつもと同じように、一人丘に寝転んでいる彼の姿が目に入った。

あれ……?
起き上がって一瞬こちらを振り返った祢々斬は、何だか難しい顔をしている。と思ったら、すぐに目をそらして前を向いてしまった。

「祢々斬……どうかしたの?」

ちょっぴり間をあけて、私は彼の隣に腰を下ろした。
相変わらず、彼は口を閉ざしたまままっすぐ視線を落としている。

「ねえ、言ってくれなきゃ、わかんないよ」

恐る恐る横顔を見つめていると、彼もちらっとこちらを見る。


沈黙だけが過ぎてゆく。
私は、しびれを切らして言った。

「祢々斬がなんにもしゃべってくれないんなら、私もう帰るよ?」

脅すような私の口調に、さすがの祢々斬も観念したらしい。ようやく重い口を開いた。

「おまえが前に言ってた、くりすますぷれぜんとってやつ……用意できてないんだ」

彼の言葉に、私は拍子抜けした。

なあんだ、そんなこと……
別に、真剣に悩まなくてもいいのに――

だが、当の祢々斬にとっては、けっこう重大な問題らしい。まだ何かを考えこんでいる様子で、口を固く結んでいる。


大の男が、しかも、みんなに恐れられる鬼の頭領が……
恋人へのプレゼントひとつで、こんなに真剣に悩んでるなんてね。

私は、思わずクスリと笑ってしまった。

「何がおかしい?」

少しムッとした感じの祢々斬の声。

なんだか……

急にいとおしさがこみあげてきて、私は彼の腕にしがみつき、肩に頭をあずけた。
顔は見えなかったが、彼が一瞬驚いた表情になったのがわかった。

「ねえ、祢々斬」

「なんだ?」

「プレゼント……私のほしいものをお願いしたら駄目かな?」

「おまえがそれでいいって言うんなら、いいだろう」

私は、抱きつく腕にちょっぴり力をこめた。

「それじゃあ、一年分の笑顔をちょうだい」

「笑顔……?そんなもんが贈り物になるのか?」

祢々斬が、怪訝そうな顔で私を見た。

「そう、形はなくてもね」

体ごと祢々斬の方に向き直ると、彼の耳元に顔を近づけ、私はささやいた。

「祢々斬がいつも笑顔で傍にいてくれることが、私にとって一番嬉しい贈り物だから」

「瑠璃……」

ちょっぴり頬を赤くした祢々斬は、そういえば……と続ける。

「おまえは、俺への贈り物決まったのか?」

「あはは、実は……何がいいのか決まらなくて、今日祢々斬に聞こうと思ってたんだ……きゃっ!!」

いきなり頭を抱えられて、体勢を崩す。
そのまま、しっかりと私を抱きしめ直した祢々斬の声が降ってくる。

「ったく……そういうことは、早く言え!俺がここのところ、どれだけ頭を悩ませたか……」

「ごめんね……でも、嬉しい」

「?」

「その間、祢々斬は、私のことを考えてくれてたってことでしょう?」

「ああ、まったくだな」

二人で、声をそろえて笑った。



祢々斬と迎える、常盤國で最初のクリスマス。

彼のリクエストは、やっぱり……
『私がいつも傍にいること』でした。

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