ほしいものは……
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「竜尊……」
「ん?どうした?」
いつもの場所に、いつもと変わらぬ微笑を浮かべながら、彼はいた。
柘榴の祠にほど近い大木に背中をあずけ、片膝を立て、もう片方の足は投げ出した姿勢で、暮れてゆく空を眺めているようだった。
私を見つけると、彼はゆっくり立ち上がり大きくのびをした。
秋の終わりの夕暮れの風が、木々の葉をざわめかせる。
私は口を固く結んで、竜尊との距離を縮めた。
何かを問いたげな笑顔が視界に入る。
しかし、私は足を止めることなく、彼の胸に飛び込んだ。
「おいおい、珍しいな、瑠璃がこんなに積極的だなんて」
無言のまま、竜尊の背中に回した腕にギュッと力をこめる。やさしく抱きしめ返してくれる体温が、いとおしい。
「……なんだかね……竜尊に、あたためてもらいたくなっちゃったんだ」
「なんだ、寒いのか?」
「ん……明日の晩まで月讀さんも久遠もいないから……ひとりぼっちは、嫌」
体を離すと、私は竜尊の手をとり、自分の胸に当てた。
彼は、一瞬驚いたような顔を見せた。
それから、ゆっくり手を引っ込めると、ちょっぴり悲しそうに首を左右に振った。
「!…………どうして……?」
寂しさを忘れたくてここに来たのに……
突き放されたような気持ちで竜尊を見上げた私は、きっと、必死な顔をしていたんだと思う。
クスッと笑うと、彼は人差し指で、私の額をつついた。
「そんな沈痛な面持ちで抱かれたって、満たされやしないだろ?ことが済んじまった後で、余計に虚しくなるんじゃないのか?」
「…………」
私の瞳を見つめながら顔を近づけてきた竜尊。
思わず、目をそらして視線を落としてしまう。
その時、温かな手が頬に触れた。
「今おまえが欲しがっているのは、体じゃなくて心のつながりなんだろう……違うか?」
頬を包んでいた両手で私の体を抱き寄せると、その大きな手で、背中をポンポンと撫でる。
いつも飄々としていて、人なつこい笑顔を絶やさないその裏で、実は孤高を貫いているくせに……
どうして、私の心の弱さに気づいてしまうのだろう。
竜尊自身が、愛と表裏一体の孤独、愛するが故の憎しみを味わい尽くしてきた、そんな過去を持っているから?
「瑠璃」
ふいに名前を呼ばれ顔を上げた。
途端、肩をつかまれ反転させられると、背中から包むように抱きしめられた。
「こうやって夕暮れを眺めるのも、乙なもんだぞ。山の向こうに、日が完全に隠れちまってから……茜色の雲が、名残をとどめる様が美しいんだ。一度おまえにも見せたかったからな」
ちょうど良い機会だ、と独り言のようにつぶやいてから、彼は口をつぐんだ。
二人で、同じ空を眺める。
釣瓶落としの秋の日が、暮れてゆく。
やがて太陽が山入端にかかった。
と同時に、まわりの雲が金色に照らされ、神々しいまでの美しさを放つ。
「わぁ……」
思わずため息をもらしながら、厳かな光景に見入る。
しばしの後に光が消えると、静寂に包まれたかのような空が残された。
そこには、竜尊が言っていた、茜色の雲が広がっていた。
「きれい……」
「だろう?」
私のお腹に腕を回し、後ろから肩にあごを乗せた姿勢で、竜尊が満足げな声を出す。
雲の色が、夜の気配を纏い始めた。
「ひゃっ!?」
背後から、いきなり耳たぶを甘噛みされ、驚いて身をすくめる。
「やっぱり俺には……」
「!!?」
竜尊は、私を横抱きに抱き上げると言った。
「据え膳食わずに指をくわえて見てるってのは、無理らしい」
「……やだ……竜尊ってば……」
「ん?瑠璃だって、嫌じゃないだろ」
にっこりと私の顔を覗き込む竜尊に、思わず吹き出してしまう。
「やっと笑ったな」
「だって、竜尊が「今日は、帰らなくてもいいんだよな?」」
「……うん」
耳元でささやく声に小さくうなずきながら、私は、竜尊の着物をギュッとつかんだ。
「竜尊……あったかいよ……」
「はは、これで満足されちゃ困るな。一晩中、しっかり温めててやるぞ」
嬉しい時も悲しい時も、いつも、いつだって
ほしいものは
あなたの心と体、そして、ともに過ごす未来。
きっと、竜尊も同じ気持ちでいてくれる……そう信じられた秋の晩だった。
*
「ん?どうした?」
いつもの場所に、いつもと変わらぬ微笑を浮かべながら、彼はいた。
柘榴の祠にほど近い大木に背中をあずけ、片膝を立て、もう片方の足は投げ出した姿勢で、暮れてゆく空を眺めているようだった。
私を見つけると、彼はゆっくり立ち上がり大きくのびをした。
秋の終わりの夕暮れの風が、木々の葉をざわめかせる。
私は口を固く結んで、竜尊との距離を縮めた。
何かを問いたげな笑顔が視界に入る。
しかし、私は足を止めることなく、彼の胸に飛び込んだ。
「おいおい、珍しいな、瑠璃がこんなに積極的だなんて」
無言のまま、竜尊の背中に回した腕にギュッと力をこめる。やさしく抱きしめ返してくれる体温が、いとおしい。
「……なんだかね……竜尊に、あたためてもらいたくなっちゃったんだ」
「なんだ、寒いのか?」
「ん……明日の晩まで月讀さんも久遠もいないから……ひとりぼっちは、嫌」
体を離すと、私は竜尊の手をとり、自分の胸に当てた。
彼は、一瞬驚いたような顔を見せた。
それから、ゆっくり手を引っ込めると、ちょっぴり悲しそうに首を左右に振った。
「!…………どうして……?」
寂しさを忘れたくてここに来たのに……
突き放されたような気持ちで竜尊を見上げた私は、きっと、必死な顔をしていたんだと思う。
クスッと笑うと、彼は人差し指で、私の額をつついた。
「そんな沈痛な面持ちで抱かれたって、満たされやしないだろ?ことが済んじまった後で、余計に虚しくなるんじゃないのか?」
「…………」
私の瞳を見つめながら顔を近づけてきた竜尊。
思わず、目をそらして視線を落としてしまう。
その時、温かな手が頬に触れた。
「今おまえが欲しがっているのは、体じゃなくて心のつながりなんだろう……違うか?」
頬を包んでいた両手で私の体を抱き寄せると、その大きな手で、背中をポンポンと撫でる。
いつも飄々としていて、人なつこい笑顔を絶やさないその裏で、実は孤高を貫いているくせに……
どうして、私の心の弱さに気づいてしまうのだろう。
竜尊自身が、愛と表裏一体の孤独、愛するが故の憎しみを味わい尽くしてきた、そんな過去を持っているから?
「瑠璃」
ふいに名前を呼ばれ顔を上げた。
途端、肩をつかまれ反転させられると、背中から包むように抱きしめられた。
「こうやって夕暮れを眺めるのも、乙なもんだぞ。山の向こうに、日が完全に隠れちまってから……茜色の雲が、名残をとどめる様が美しいんだ。一度おまえにも見せたかったからな」
ちょうど良い機会だ、と独り言のようにつぶやいてから、彼は口をつぐんだ。
二人で、同じ空を眺める。
釣瓶落としの秋の日が、暮れてゆく。
やがて太陽が山入端にかかった。
と同時に、まわりの雲が金色に照らされ、神々しいまでの美しさを放つ。
「わぁ……」
思わずため息をもらしながら、厳かな光景に見入る。
しばしの後に光が消えると、静寂に包まれたかのような空が残された。
そこには、竜尊が言っていた、茜色の雲が広がっていた。
「きれい……」
「だろう?」
私のお腹に腕を回し、後ろから肩にあごを乗せた姿勢で、竜尊が満足げな声を出す。
雲の色が、夜の気配を纏い始めた。
「ひゃっ!?」
背後から、いきなり耳たぶを甘噛みされ、驚いて身をすくめる。
「やっぱり俺には……」
「!!?」
竜尊は、私を横抱きに抱き上げると言った。
「据え膳食わずに指をくわえて見てるってのは、無理らしい」
「……やだ……竜尊ってば……」
「ん?瑠璃だって、嫌じゃないだろ」
にっこりと私の顔を覗き込む竜尊に、思わず吹き出してしまう。
「やっと笑ったな」
「だって、竜尊が「今日は、帰らなくてもいいんだよな?」」
「……うん」
耳元でささやく声に小さくうなずきながら、私は、竜尊の着物をギュッとつかんだ。
「竜尊……あったかいよ……」
「はは、これで満足されちゃ困るな。一晩中、しっかり温めててやるぞ」
嬉しい時も悲しい時も、いつも、いつだって
ほしいものは
あなたの心と体、そして、ともに過ごす未来。
きっと、竜尊も同じ気持ちでいてくれる……そう信じられた秋の晩だった。
*
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