はじまりは眠りの森で
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【終結】
深影の術が竜尊と瑠璃に襲いかかる、まさにその時――
「焼けっ!荒神息吹っっ!!!」
祢々斬のとっさに放った火の術が、相殺するかのように、夢行の奥義を直撃した。
瑠璃と、彼女を抱きしめた竜尊は、術と術のぶつかり合った衝撃によって、かなり遠くまで飛ばされた。
「竜尊っ!」「瑠璃さん!!」
皆が駆け寄る中、瑠璃が目を開いた。
何が起こったのかわからず、しばし呆然としていた彼女だったが、自分を抱えたまま動かない竜尊に気づき、慌てて起き上がる。
「竜尊……竜尊!?しっかりして……あっ!!」
結わえてあったはずの髪が、顔にかかる。
「紐が……いやっ、竜尊!!?」
意識のない竜尊を仰向けにすると、その体にとりすがって呼吸を確認する。
「お願い、起きてっ。目を覚まして……」
瑠璃は、竜尊にまたがるようにその体に乗ると、彼の両肩を揺さぶった。
「竜尊ってば……やだ……私を一人にしないでよっ」
「う……っあんまり揺するな……」
「竜尊!!」
うっすらと目を開けた竜尊に抱きつき、瑠璃は安堵の涙をこぼした。
「やれやれ……吹き飛ばされはしたが、直撃は受けずにすんだ。さすがの俺でも、あんな威力の術をまともに食らったら、洒落にならなかったからな……祢々斬、おまえのおかげで助かったよ」
二人を見下ろしながら、祢々斬が、ふっと笑って答える。
「間一髪だったぜ。おまえが、奴との距離をとってくれていたのが幸いしたな。それにしても……」
祢々斬は、ちらっと瑠璃を見やって続ける。
「竜尊のお気に入りなだけあって、勇ましいお姫さまだな」
「……なっ……」
竜尊の上に乗ったまま、身を起こす瑠璃。
ほめられているのか、からかわれているのか、複雑な顔で祢々斬と竜尊を見比べる。
そのうち、竜尊が困ったようにため息をついた。
「ところで……瑠璃、そろそろおりてもらいたいんだがな。俺の理性のタガが外れんうちに」
竜尊が庇いきれなかった瑠璃の左半身は袖がちぎれ、肩から胸にかけて、あらわになっていた。
祢々斬が、呆れたように竜尊を見下ろす。
「ったく……こんなにズタボロになっても、下半身だけは元気だな。……ほら、瑠璃、これを羽織れ。そんな格好してたら、竜尊の目の毒だとよ」
祢々斬の羽織が、瑠璃の背中にかけられる。
小さくうなずいて、竜尊から体を離した瑠璃は、急に思い出したようにうなだれた。
「月讀さん……私……助けられませんでした」
ゆっくりと体を起こした竜尊の傍らに座り込んだまま、しょんぼりと俯く瑠璃に、月讀が首をかしげた。
「はて、何を言うのですか?あなたは立派に、町の人々を護ったではありませんか」
「でも、だけど……あの子は……お母さんを殺されて、あの子は……」
言葉に詰まってしまった瑠璃に、月讀が微笑んだ。
「誰も殺されてなんかいませんよ」
「え?」
驚いて顔をあげた瑠璃に、月讀が微笑んだ。
「今回は奇跡的に、死者を一人も出さずにすんだのです」
「本当に……?」
「もちろんですとも。そもそも、ほとんどの町民は避難してくれていましたからね。守るべき民が少数であったこと、そして……深影が、今までになく多数の鬼を同時に操ろうとしたために、それぞれの力が弱かったことも幸いしました」
「そのわりには、苦戦しちまったけどな」
魁童が苦々しげに言うと、祢々斬が仕方ない、というふうに首を振った。
「なんたって、あの数だ。しかも、仲間ゆえに力の加減が難しかったからな」
月讀が、改めて瑠璃に笑顔を向けた。
「けが人は出てしまいましたが、皆さん命に別状はありません。あなたが目撃したのは……きっと、あの親子ですね、ちゃんと保護しましたよ。お母さんが、軽症を負った時に驚いて気を失ったようです」
「よかった……」
ほっと胸をなでおろした瑠璃に、月讀が続ける。
「あなたが予知してくれたおかげで、皆を避難させることができたのです。もしいきなり村を襲われていてたら、かなりの犠牲者がでたことでしょう」
「……月讀さん……あれは、私の予知ではなく御影の予告です。今になって思えば……御影の優しさ……だったのかもしれません」
術を放った深影が立っていた辺りに目をやり、瑠璃が声を絞り出す。
いつの間にか姿を消した深影の行方は、誰にもわからない。
重たくなった空気を振り払うように、久遠が明るい声をあげた。
「それにしても、みんなが無事で良かったのじゃ」
微笑みながら頷きを返した瑠璃だったが、すぐに真剣な顔に戻った。
「人間は、幸いに無事だったにしても、深影に操られていた鬼たちは……」
「俺らの攻撃で、消えちまった仲間も少なからずいる。だが、残ったやつらは、深影の術が解けて、皆、山に戻った」
祢々斬の冷静な言葉に、瑠璃は、涙をこらえるように目を瞬かせた。
「助けたかった仲間なのに……」
唇をかむ彼女の頭を、竜尊がそっと撫でる。
祢々斬は、二人の傍らにしゃがみこむと、瑠璃に語りかけた。
「勘違いするな。あの時おまえが声をあげなければ、もしも、俺らが戦わなければ……もっともっと多くの鬼が犠牲になっていたはずだ」
言いながら竜尊の手をどけると、瑠璃の頭をポンポンと撫でた。
かみつきそうな勢いで竜尊が気色ばむ。
「おいっ祢々斬っ!?」
「命の恩人に文句があるのか?」
そう言って笑った祢々斬につられて、皆の間にも笑いが広がる。
しばしの後、瑠璃に頬を寄せた竜尊は、自身の額を彼女の額に当てた。
「瑠璃、かなり体がつらいだろう。少し休んだ方がいい」
「竜尊は……一緒にいてくれないの?」
「今俺が、おまえから離れる訳ないだろ?」
二人のやり取りに、魁童が手で顔を扇ぎながら笑う。
「おいおい、ずいぶんとお熱いことだな」
ひやかしなど、ものともしない、といった風情で、竜尊が言葉を返す。
「こいつは俺がいねえと眠れないそうだからな」
「お……おまえら、そういう関係だったのかよ?」
口ごもる魁童に向かって、瑠璃が微笑む。
「竜尊といると、気持ちいいんだ……」
魁童は鼻血を吹いた。
そんな魁童に、やれやれといった表情を向けて、竜尊が言う。
「おいおい、誤解してもらっちゃ困るぜ、魁童。こいつは『俺といる』のが気持ちいいって言ったんであって、『俺とすること』が気持ちいいなんざ、ひと言も言っちゃいねえ」
「『い』と『す』が違うだけじゃねえか」
「バーカ、大違いだ!『する』んだったらいいが、『いる』のには俺の多大な忍耐力が必要なんだよ」
「……おまえも、なかなか大変なんだな」
神妙な顔で、もっともらしくつぶやく魁童に、皆の笑い声が響いた。
「さてと、そろそろ行くか」
竜尊は、立ち上がると瑠璃を抱き上げた。
「お待ちなさい、瑠璃さんをどこに連れて行くつもりですか!?」
月讀が慌てて引き留める。
「柘榴の祠で治療だ。文句あるか?」
「月讀さん、大丈夫です。あそこだとよく眠れるので、しっかり休んできます」
「あなたがそう言うなら……仕方ありませんね」
やや肩を落とした月讀に、瑠璃が微笑む。
「ありがとうございます。……深影をあのまま取り逃がしてしまった以上、これからも鬼と協力しながら、町を守っていくことになりますね」
「確かに、そうせざるを得ません」
苦笑いを浮かべる月讀に構わず、祢々斬が竜尊に声をかける。
「おい、竜尊。加減してやれよ、壊しちまわないように」
「ああ、余計なお世話だ」
二人を見送りながら、祢々斬がつぶやく。
「あの女……あんなこと言ってたが、今晩は眠らせてもらえないだろうな」
「や、やっぱり、そうなるのかよ?」
顔を赤らめる魁童に、祢々斬が笑いながら返す。
「当然の展開だろ。相手は竜尊だぞ?」
*
深影の術が竜尊と瑠璃に襲いかかる、まさにその時――
「焼けっ!荒神息吹っっ!!!」
祢々斬のとっさに放った火の術が、相殺するかのように、夢行の奥義を直撃した。
瑠璃と、彼女を抱きしめた竜尊は、術と術のぶつかり合った衝撃によって、かなり遠くまで飛ばされた。
「竜尊っ!」「瑠璃さん!!」
皆が駆け寄る中、瑠璃が目を開いた。
何が起こったのかわからず、しばし呆然としていた彼女だったが、自分を抱えたまま動かない竜尊に気づき、慌てて起き上がる。
「竜尊……竜尊!?しっかりして……あっ!!」
結わえてあったはずの髪が、顔にかかる。
「紐が……いやっ、竜尊!!?」
意識のない竜尊を仰向けにすると、その体にとりすがって呼吸を確認する。
「お願い、起きてっ。目を覚まして……」
瑠璃は、竜尊にまたがるようにその体に乗ると、彼の両肩を揺さぶった。
「竜尊ってば……やだ……私を一人にしないでよっ」
「う……っあんまり揺するな……」
「竜尊!!」
うっすらと目を開けた竜尊に抱きつき、瑠璃は安堵の涙をこぼした。
「やれやれ……吹き飛ばされはしたが、直撃は受けずにすんだ。さすがの俺でも、あんな威力の術をまともに食らったら、洒落にならなかったからな……祢々斬、おまえのおかげで助かったよ」
二人を見下ろしながら、祢々斬が、ふっと笑って答える。
「間一髪だったぜ。おまえが、奴との距離をとってくれていたのが幸いしたな。それにしても……」
祢々斬は、ちらっと瑠璃を見やって続ける。
「竜尊のお気に入りなだけあって、勇ましいお姫さまだな」
「……なっ……」
竜尊の上に乗ったまま、身を起こす瑠璃。
ほめられているのか、からかわれているのか、複雑な顔で祢々斬と竜尊を見比べる。
そのうち、竜尊が困ったようにため息をついた。
「ところで……瑠璃、そろそろおりてもらいたいんだがな。俺の理性のタガが外れんうちに」
竜尊が庇いきれなかった瑠璃の左半身は袖がちぎれ、肩から胸にかけて、あらわになっていた。
祢々斬が、呆れたように竜尊を見下ろす。
「ったく……こんなにズタボロになっても、下半身だけは元気だな。……ほら、瑠璃、これを羽織れ。そんな格好してたら、竜尊の目の毒だとよ」
祢々斬の羽織が、瑠璃の背中にかけられる。
小さくうなずいて、竜尊から体を離した瑠璃は、急に思い出したようにうなだれた。
「月讀さん……私……助けられませんでした」
ゆっくりと体を起こした竜尊の傍らに座り込んだまま、しょんぼりと俯く瑠璃に、月讀が首をかしげた。
「はて、何を言うのですか?あなたは立派に、町の人々を護ったではありませんか」
「でも、だけど……あの子は……お母さんを殺されて、あの子は……」
言葉に詰まってしまった瑠璃に、月讀が微笑んだ。
「誰も殺されてなんかいませんよ」
「え?」
驚いて顔をあげた瑠璃に、月讀が微笑んだ。
「今回は奇跡的に、死者を一人も出さずにすんだのです」
「本当に……?」
「もちろんですとも。そもそも、ほとんどの町民は避難してくれていましたからね。守るべき民が少数であったこと、そして……深影が、今までになく多数の鬼を同時に操ろうとしたために、それぞれの力が弱かったことも幸いしました」
「そのわりには、苦戦しちまったけどな」
魁童が苦々しげに言うと、祢々斬が仕方ない、というふうに首を振った。
「なんたって、あの数だ。しかも、仲間ゆえに力の加減が難しかったからな」
月讀が、改めて瑠璃に笑顔を向けた。
「けが人は出てしまいましたが、皆さん命に別状はありません。あなたが目撃したのは……きっと、あの親子ですね、ちゃんと保護しましたよ。お母さんが、軽症を負った時に驚いて気を失ったようです」
「よかった……」
ほっと胸をなでおろした瑠璃に、月讀が続ける。
「あなたが予知してくれたおかげで、皆を避難させることができたのです。もしいきなり村を襲われていてたら、かなりの犠牲者がでたことでしょう」
「……月讀さん……あれは、私の予知ではなく御影の予告です。今になって思えば……御影の優しさ……だったのかもしれません」
術を放った深影が立っていた辺りに目をやり、瑠璃が声を絞り出す。
いつの間にか姿を消した深影の行方は、誰にもわからない。
重たくなった空気を振り払うように、久遠が明るい声をあげた。
「それにしても、みんなが無事で良かったのじゃ」
微笑みながら頷きを返した瑠璃だったが、すぐに真剣な顔に戻った。
「人間は、幸いに無事だったにしても、深影に操られていた鬼たちは……」
「俺らの攻撃で、消えちまった仲間も少なからずいる。だが、残ったやつらは、深影の術が解けて、皆、山に戻った」
祢々斬の冷静な言葉に、瑠璃は、涙をこらえるように目を瞬かせた。
「助けたかった仲間なのに……」
唇をかむ彼女の頭を、竜尊がそっと撫でる。
祢々斬は、二人の傍らにしゃがみこむと、瑠璃に語りかけた。
「勘違いするな。あの時おまえが声をあげなければ、もしも、俺らが戦わなければ……もっともっと多くの鬼が犠牲になっていたはずだ」
言いながら竜尊の手をどけると、瑠璃の頭をポンポンと撫でた。
かみつきそうな勢いで竜尊が気色ばむ。
「おいっ祢々斬っ!?」
「命の恩人に文句があるのか?」
そう言って笑った祢々斬につられて、皆の間にも笑いが広がる。
しばしの後、瑠璃に頬を寄せた竜尊は、自身の額を彼女の額に当てた。
「瑠璃、かなり体がつらいだろう。少し休んだ方がいい」
「竜尊は……一緒にいてくれないの?」
「今俺が、おまえから離れる訳ないだろ?」
二人のやり取りに、魁童が手で顔を扇ぎながら笑う。
「おいおい、ずいぶんとお熱いことだな」
ひやかしなど、ものともしない、といった風情で、竜尊が言葉を返す。
「こいつは俺がいねえと眠れないそうだからな」
「お……おまえら、そういう関係だったのかよ?」
口ごもる魁童に向かって、瑠璃が微笑む。
「竜尊といると、気持ちいいんだ……」
魁童は鼻血を吹いた。
そんな魁童に、やれやれといった表情を向けて、竜尊が言う。
「おいおい、誤解してもらっちゃ困るぜ、魁童。こいつは『俺といる』のが気持ちいいって言ったんであって、『俺とすること』が気持ちいいなんざ、ひと言も言っちゃいねえ」
「『い』と『す』が違うだけじゃねえか」
「バーカ、大違いだ!『する』んだったらいいが、『いる』のには俺の多大な忍耐力が必要なんだよ」
「……おまえも、なかなか大変なんだな」
神妙な顔で、もっともらしくつぶやく魁童に、皆の笑い声が響いた。
「さてと、そろそろ行くか」
竜尊は、立ち上がると瑠璃を抱き上げた。
「お待ちなさい、瑠璃さんをどこに連れて行くつもりですか!?」
月讀が慌てて引き留める。
「柘榴の祠で治療だ。文句あるか?」
「月讀さん、大丈夫です。あそこだとよく眠れるので、しっかり休んできます」
「あなたがそう言うなら……仕方ありませんね」
やや肩を落とした月讀に、瑠璃が微笑む。
「ありがとうございます。……深影をあのまま取り逃がしてしまった以上、これからも鬼と協力しながら、町を守っていくことになりますね」
「確かに、そうせざるを得ません」
苦笑いを浮かべる月讀に構わず、祢々斬が竜尊に声をかける。
「おい、竜尊。加減してやれよ、壊しちまわないように」
「ああ、余計なお世話だ」
二人を見送りながら、祢々斬がつぶやく。
「あの女……あんなこと言ってたが、今晩は眠らせてもらえないだろうな」
「や、やっぱり、そうなるのかよ?」
顔を赤らめる魁童に、祢々斬が笑いながら返す。
「当然の展開だろ。相手は竜尊だぞ?」
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