はじまりは眠りの森で
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【決戦】
今日の瑠璃は、巫女装束ではなく、浅葱色の袴に白い狩衣をまとっていた。
ポニーテイルのような高い位置で結わえた髪には、竜尊からの贈り物である飾り紐が揺れている。
短い時間であっても、猶予があったことが幸いした。近隣の神社と連携を取り、簡易的とはいえ人々の避難所を用意することができたのだ。
月讀、久遠、瑠璃で手分けして町を回り、安全な場所に逃れるよう皆に呼びかけた。
こうして多数の者は、着の身着のままに近い状態で避難していった。
だが、一部の町人は、その場にとどまったままだった。
「いくら月讀様のおっしゃることでも、真っ昼間に鬼の襲来なんて、まさか……なあ?」
「それに、町から人がいなくなっちまえば、空き巣に『どうぞ入ってください』って言ってるようなもんだ」
彼らは、そんな会話をして笑い合っていた。
こういった者たちであっても、大事な町民。
一人も取りこぼすことなく守らねばならない、というのが、月讀、瑠璃、久遠の共通認識であった。
「ここであれば、深影たちがどの方角から町に入ろうと、いち早く発見できますからね」
月讀の言葉に、瑠璃が頷く。
久遠は、残った人々の避難誘導に備えて、町の中心部に待機していた。
「こっちから出向いて先制攻撃をかけりゃあ、手っ取り早かったんじゃねえのか?」
やや不服そうな魁童に、祢々斬が返す。
「やつの狙いがこの町なら、ここで迎え撃たない限り、同じことが繰り返されるはずだ。それに……」
表情を険しく引き締め、彼は続ける。
「万が一の場合、少しでも自分の聖域に近い方が安全だからな」
「あ、あぁ……」
ことの深刻さを改めて感じ取ったらしい魁童が、ごくりと唾を飲む。
張り詰めた空気の中、真剣な眼差しの竜尊が、確認するように皆を見回した。
「やつに操られちまっているが、俺達の仲間だ。できるだけ、命を奪わないですむように……意識を失わせる方向で戦おう」
「体力勝負の肉弾戦ってことだな」
魁童が、体をならすように腕を回す。
やがて、町を目指す鬼の一団が現れた。
祢々斬が皆を振り返る。
「竜尊、魁童!行くぞ!!」
「よっしゃ!ふざけた深影の野郎、首を洗って待ってろよ!」
魁童が先頭をきって、丘を下る。
竜尊に目で合図すると、祢々斬も続いて走り出す。
「瑠璃、俺たちができるだけ奴を食い止める。術士と一緒に、一刻も早く町へ!」
そう言い残し、竜尊は二人の後を追って、あっという間に姿を消した。
瑠璃と月讀も、町中で待つ久遠と共に人々を避難させるべく、丘の下に続く道をまっすぐに駆けて行った。
町はずれの小さな森の辺りで、三人の鬼は、深影に操られる鬼たちの群れと激突した。
なるべく致命的な術を使わず、気絶させて、深影の影響を断ち切る。
だが、なだれ込んでくる鬼の数は、膨れ上がるばかりだった。
「なっ……!?どんだけたくさんいるんだ?」
掴みかかってくる鋭い爪をはねのけながら、魁童が困惑した声を出す。
「次から次へと……いくら倒したって、きりがねえっ」
「……くそっ、あの野郎の仕業だ」
忌々しげに答える祢々斬は、苦悩の色を浮かべる。
相手を倒すべくして戦う、思うようにそれが出来ないことは、大きな足かせとなった。
鬼たちの勢いに押されて三人は後退し、いつしか戦いの場は、人々が逃げ惑う町中へと変わっていた。
操られた数えきれないほどの鬼たちは、仲間であるはずの五行の鬼に牙を剥く。
こうなったら、大元である深影の術を止めなければ、どうにもならない。
竜尊は、四方八方から繰り出される攻撃をかわしながら、周囲を見渡す。
「くそっ!奴はどこだ!?」
先ほど丘で別れたばかりの月讀と瑠璃の姿が目に入った。久遠の怒鳴り声も聞こえる。
彼らは、町に残った人々を避難させることで手いっぱいのようだ。人数が多くないとはいえ、鬼の攻撃を避けながら、パニックに陥っている者たちを連れて進むことは、大層骨が折れるに違いない。
と、入り乱れる鬼達の間を縫うようにして、瑠璃が走り出した。
彼女の向かう先をたどると、そこには深影の姿があった。
悠然と構える深影の前に進み出ると、彼女は相手の胸ぐらを掴んで叫んだ。
「もうやめて!深影、目を……覚ましてよ!!」
瑠璃の声が時おり震える。
「いいかげんにしなさいよ……この光景を見て……何とも思わないの!?」
「この光景?」
あふれそうになる涙をグッと堪え、瑠璃は、毅然と深影を見つめる。
「幼い子が、目の前で母親を殺された……まるで……まるで、あの時のあなたと同じじゃない!?」
「何を言うかと思えば……」
深影は一瞬、呆れたような笑みを浮かべると、すぐに冷たい瞳に戻った。
「殺されたくなければ、力を持つことだ。そして戦えばいい」
「そんな……」
「泣き叫び、逃げ惑うことしか出来ない弱者は、淘汰されるべきだ」
「な……なんですって……!!」
瑠璃の瞳が怒りの色を濃くし、深影の衿をつかむ手に力を込めた。
だが逆に、深影に自分の着物をつかまれた。
「危険を顧みずに、ここまで飛び込んできた勇気はほめてやろう。だが、おまえもしょせん、滅びゆく者達の仲間なのだな……」
哀れみをも含んだ深影の口調には、夢の中で会話した時の人間らしさは、微塵も感じられなかった。
彼の心は、既に復讐の鬼と化してしまったのか……
それでも、瑠璃は、引き下がる訳にはいかなかった。
「どんな理由があったって、どんな過去があったって、こんなこと許されないっ」
怒りに震える瑠璃を鼻で笑うように、深影が言い捨てる。
「ふん……おまえに何がわかる」
「わかんないよ、きれい事なんか言うつもりない。でもね、こんなやり方、間違ってるっ!」
「俺の正義に歯向かう奴に、容赦はしない」
「きゃっ」
地面に叩きつけられる瑠璃。
「瑠璃っ!」
群がる鬼達を振り払い、彼女のもとに駆けつけた竜尊を、深影が冷ややかに見下ろす。
「竜尊とやら……。鬼であるおまえが、なぜ人間をかばう?」
唇を噛んで着物を直す瑠璃の傍らで、地面に片膝をついた竜尊が、キッと顔を上げる。
「鬼だとか人間だとかって違いに、何の意味があるんだ?俺は、命にかえてもこいつを守る。ただ、それだけだ」
「竜尊!」
「ん?どうした?」
緊迫した空気の中でも、にこやかな視線を向ける竜尊に、瑠璃が訴える。
「私だって、役に立ちたい。竜尊を守りたい」
「瑠璃……そうだな」
竜尊は、彼女にニッと笑いかけると、深影の方に向き直った。
「俺は、こいつを守る。こいつは、俺を守る。俺達は、互いに背中をあずけて戦うのさ」
「はは、面白い……あずけた背中を崩されて、絶望に落ちるおまえ達を見るのは、さぞかし愉快だろうな」
深影の挑発に、やれやれ、といわんばかりの顔で竜尊が言い返す。
「貴様みたいな甘ちゃんに言われたくはないな」
「ふん、減らず口をたたけるのも、今のうちだけだ。
おのれの無力さを思い知るがいい」
印を結び呪文を唱え始めた深影の周囲に、血に飢えた鬼達が集まってきた。
「瑠璃、無理するなよ」
「大丈夫。竜尊こそ、無茶しないでね」
「ああ。おまえを抱くまで、死ぬ訳にはいかないからな」
もはや、仲間ゆえの手加減などと言っている場合ではなかった。
前方と横から襲いかかってくる鬼を、なぎ倒し術で吹き飛ばして応戦していく。
背中を任せた、大切な相手を信じて……
戦いが長引くにつれ、瑠璃に疲れの色が見えてきた。
三方向からの攻撃を一気に受け、防ぎきれず肩に傷を負った。
白い装束が、真っ赤な血に染まる。
ついに崩折れる瑠璃の気配を察知し、竜尊が振り返る。
「瑠璃っ!!」
「大丈夫っ!私は大丈夫だから……竜尊!うしろっ!!」
「!!!」
かろうじて、背後からの攻撃をかわした竜尊だが、さすがに焦燥感はぬぐえなくなってきていた。
戦闘は膠着状態となり、まるで終わりが見えない。
防戦がやっと、という状態の瑠璃は、既に意識が朦朧とし始めている。
それぞれの持ち場で奮戦しているであろう、祢々斬と魁童も気にかかる。
これ以上、戦うのは無理か……
ならば、瑠璃だけでも――
竜尊が目を伏せたその時
「瑠璃さん!竜尊!」
「術士!」「……月……讀……さん……?」
「避難場所の安全確保に手間取り、遅くなりました。
及ばずながら、助太刀します」
瑠璃が、ほぼ戦闘不能であることを差し引いても、月讀の出現により、力の均衡がわずかながら有利に動いた。
竜尊の負担を減らすため、ひたすら前に向かって渾身の術を放ち続ける月讀。
相討ちをもいとわない覚悟の攻撃に、鬼達は、一歩また一歩と退がっていった。
さめた様子で、それを眺めていた深影が、嘲るように言う。
「はっ!何とも美しい光景だな。ヘドが出るくらいの……」
途端、彼は素早く印を結んだ。
「こんな茶番、そろそろ終わりにしてやろう。西行八重桜、仲良く冥土に行くがいい!」
「「!!!」」
間に合わない――
竜尊は、半分意識を失った瑠璃を、庇うように抱き締めるのが精一杯だった。
*
今日の瑠璃は、巫女装束ではなく、浅葱色の袴に白い狩衣をまとっていた。
ポニーテイルのような高い位置で結わえた髪には、竜尊からの贈り物である飾り紐が揺れている。
短い時間であっても、猶予があったことが幸いした。近隣の神社と連携を取り、簡易的とはいえ人々の避難所を用意することができたのだ。
月讀、久遠、瑠璃で手分けして町を回り、安全な場所に逃れるよう皆に呼びかけた。
こうして多数の者は、着の身着のままに近い状態で避難していった。
だが、一部の町人は、その場にとどまったままだった。
「いくら月讀様のおっしゃることでも、真っ昼間に鬼の襲来なんて、まさか……なあ?」
「それに、町から人がいなくなっちまえば、空き巣に『どうぞ入ってください』って言ってるようなもんだ」
彼らは、そんな会話をして笑い合っていた。
こういった者たちであっても、大事な町民。
一人も取りこぼすことなく守らねばならない、というのが、月讀、瑠璃、久遠の共通認識であった。
「ここであれば、深影たちがどの方角から町に入ろうと、いち早く発見できますからね」
月讀の言葉に、瑠璃が頷く。
久遠は、残った人々の避難誘導に備えて、町の中心部に待機していた。
「こっちから出向いて先制攻撃をかけりゃあ、手っ取り早かったんじゃねえのか?」
やや不服そうな魁童に、祢々斬が返す。
「やつの狙いがこの町なら、ここで迎え撃たない限り、同じことが繰り返されるはずだ。それに……」
表情を険しく引き締め、彼は続ける。
「万が一の場合、少しでも自分の聖域に近い方が安全だからな」
「あ、あぁ……」
ことの深刻さを改めて感じ取ったらしい魁童が、ごくりと唾を飲む。
張り詰めた空気の中、真剣な眼差しの竜尊が、確認するように皆を見回した。
「やつに操られちまっているが、俺達の仲間だ。できるだけ、命を奪わないですむように……意識を失わせる方向で戦おう」
「体力勝負の肉弾戦ってことだな」
魁童が、体をならすように腕を回す。
やがて、町を目指す鬼の一団が現れた。
祢々斬が皆を振り返る。
「竜尊、魁童!行くぞ!!」
「よっしゃ!ふざけた深影の野郎、首を洗って待ってろよ!」
魁童が先頭をきって、丘を下る。
竜尊に目で合図すると、祢々斬も続いて走り出す。
「瑠璃、俺たちができるだけ奴を食い止める。術士と一緒に、一刻も早く町へ!」
そう言い残し、竜尊は二人の後を追って、あっという間に姿を消した。
瑠璃と月讀も、町中で待つ久遠と共に人々を避難させるべく、丘の下に続く道をまっすぐに駆けて行った。
町はずれの小さな森の辺りで、三人の鬼は、深影に操られる鬼たちの群れと激突した。
なるべく致命的な術を使わず、気絶させて、深影の影響を断ち切る。
だが、なだれ込んでくる鬼の数は、膨れ上がるばかりだった。
「なっ……!?どんだけたくさんいるんだ?」
掴みかかってくる鋭い爪をはねのけながら、魁童が困惑した声を出す。
「次から次へと……いくら倒したって、きりがねえっ」
「……くそっ、あの野郎の仕業だ」
忌々しげに答える祢々斬は、苦悩の色を浮かべる。
相手を倒すべくして戦う、思うようにそれが出来ないことは、大きな足かせとなった。
鬼たちの勢いに押されて三人は後退し、いつしか戦いの場は、人々が逃げ惑う町中へと変わっていた。
操られた数えきれないほどの鬼たちは、仲間であるはずの五行の鬼に牙を剥く。
こうなったら、大元である深影の術を止めなければ、どうにもならない。
竜尊は、四方八方から繰り出される攻撃をかわしながら、周囲を見渡す。
「くそっ!奴はどこだ!?」
先ほど丘で別れたばかりの月讀と瑠璃の姿が目に入った。久遠の怒鳴り声も聞こえる。
彼らは、町に残った人々を避難させることで手いっぱいのようだ。人数が多くないとはいえ、鬼の攻撃を避けながら、パニックに陥っている者たちを連れて進むことは、大層骨が折れるに違いない。
と、入り乱れる鬼達の間を縫うようにして、瑠璃が走り出した。
彼女の向かう先をたどると、そこには深影の姿があった。
悠然と構える深影の前に進み出ると、彼女は相手の胸ぐらを掴んで叫んだ。
「もうやめて!深影、目を……覚ましてよ!!」
瑠璃の声が時おり震える。
「いいかげんにしなさいよ……この光景を見て……何とも思わないの!?」
「この光景?」
あふれそうになる涙をグッと堪え、瑠璃は、毅然と深影を見つめる。
「幼い子が、目の前で母親を殺された……まるで……まるで、あの時のあなたと同じじゃない!?」
「何を言うかと思えば……」
深影は一瞬、呆れたような笑みを浮かべると、すぐに冷たい瞳に戻った。
「殺されたくなければ、力を持つことだ。そして戦えばいい」
「そんな……」
「泣き叫び、逃げ惑うことしか出来ない弱者は、淘汰されるべきだ」
「な……なんですって……!!」
瑠璃の瞳が怒りの色を濃くし、深影の衿をつかむ手に力を込めた。
だが逆に、深影に自分の着物をつかまれた。
「危険を顧みずに、ここまで飛び込んできた勇気はほめてやろう。だが、おまえもしょせん、滅びゆく者達の仲間なのだな……」
哀れみをも含んだ深影の口調には、夢の中で会話した時の人間らしさは、微塵も感じられなかった。
彼の心は、既に復讐の鬼と化してしまったのか……
それでも、瑠璃は、引き下がる訳にはいかなかった。
「どんな理由があったって、どんな過去があったって、こんなこと許されないっ」
怒りに震える瑠璃を鼻で笑うように、深影が言い捨てる。
「ふん……おまえに何がわかる」
「わかんないよ、きれい事なんか言うつもりない。でもね、こんなやり方、間違ってるっ!」
「俺の正義に歯向かう奴に、容赦はしない」
「きゃっ」
地面に叩きつけられる瑠璃。
「瑠璃っ!」
群がる鬼達を振り払い、彼女のもとに駆けつけた竜尊を、深影が冷ややかに見下ろす。
「竜尊とやら……。鬼であるおまえが、なぜ人間をかばう?」
唇を噛んで着物を直す瑠璃の傍らで、地面に片膝をついた竜尊が、キッと顔を上げる。
「鬼だとか人間だとかって違いに、何の意味があるんだ?俺は、命にかえてもこいつを守る。ただ、それだけだ」
「竜尊!」
「ん?どうした?」
緊迫した空気の中でも、にこやかな視線を向ける竜尊に、瑠璃が訴える。
「私だって、役に立ちたい。竜尊を守りたい」
「瑠璃……そうだな」
竜尊は、彼女にニッと笑いかけると、深影の方に向き直った。
「俺は、こいつを守る。こいつは、俺を守る。俺達は、互いに背中をあずけて戦うのさ」
「はは、面白い……あずけた背中を崩されて、絶望に落ちるおまえ達を見るのは、さぞかし愉快だろうな」
深影の挑発に、やれやれ、といわんばかりの顔で竜尊が言い返す。
「貴様みたいな甘ちゃんに言われたくはないな」
「ふん、減らず口をたたけるのも、今のうちだけだ。
おのれの無力さを思い知るがいい」
印を結び呪文を唱え始めた深影の周囲に、血に飢えた鬼達が集まってきた。
「瑠璃、無理するなよ」
「大丈夫。竜尊こそ、無茶しないでね」
「ああ。おまえを抱くまで、死ぬ訳にはいかないからな」
もはや、仲間ゆえの手加減などと言っている場合ではなかった。
前方と横から襲いかかってくる鬼を、なぎ倒し術で吹き飛ばして応戦していく。
背中を任せた、大切な相手を信じて……
戦いが長引くにつれ、瑠璃に疲れの色が見えてきた。
三方向からの攻撃を一気に受け、防ぎきれず肩に傷を負った。
白い装束が、真っ赤な血に染まる。
ついに崩折れる瑠璃の気配を察知し、竜尊が振り返る。
「瑠璃っ!!」
「大丈夫っ!私は大丈夫だから……竜尊!うしろっ!!」
「!!!」
かろうじて、背後からの攻撃をかわした竜尊だが、さすがに焦燥感はぬぐえなくなってきていた。
戦闘は膠着状態となり、まるで終わりが見えない。
防戦がやっと、という状態の瑠璃は、既に意識が朦朧とし始めている。
それぞれの持ち場で奮戦しているであろう、祢々斬と魁童も気にかかる。
これ以上、戦うのは無理か……
ならば、瑠璃だけでも――
竜尊が目を伏せたその時
「瑠璃さん!竜尊!」
「術士!」「……月……讀……さん……?」
「避難場所の安全確保に手間取り、遅くなりました。
及ばずながら、助太刀します」
瑠璃が、ほぼ戦闘不能であることを差し引いても、月讀の出現により、力の均衡がわずかながら有利に動いた。
竜尊の負担を減らすため、ひたすら前に向かって渾身の術を放ち続ける月讀。
相討ちをもいとわない覚悟の攻撃に、鬼達は、一歩また一歩と退がっていった。
さめた様子で、それを眺めていた深影が、嘲るように言う。
「はっ!何とも美しい光景だな。ヘドが出るくらいの……」
途端、彼は素早く印を結んだ。
「こんな茶番、そろそろ終わりにしてやろう。西行八重桜、仲良く冥土に行くがいい!」
「「!!!」」
間に合わない――
竜尊は、半分意識を失った瑠璃を、庇うように抱き締めるのが精一杯だった。
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