はじまりは眠りの森で
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【夜空】
満天の星が輝く夜空の下。
屋敷の縁側であぐらを組み、庭の外に神経を配る竜尊の姿があった。
そろそろ日付も変わろうかという時刻。
部屋に戻ったはずの瑠璃が、小さな足音をたてながら近づいてくると、膝を抱えて竜尊の隣に座った。
「どうかしたか?俺が、ちゃんと屋敷を護っててやる。だから、おまえはもう休め」
「……」
黙ったまま、瑠璃が首を左右に振った。
「睡眠不足は、お肌に良くないぞ?」
「……いいの、どうせ眠れないから」
「そうか」
小さく笑うと、竜尊は再び屋敷の警戒に意識を戻した。
夜の縁側に並んだ二人の間を、心地よい風が通り抜ける。
「竜尊……」
「ん?どうした?」
「星がきれいだね」
「ああ……そうだな」
瑠璃の言葉につられて、竜尊が空を見上げる。
そんな竜尊に穏やかな笑みを向けてから、瑠璃も再び天を仰ぐ。
「私の世界では、こんなにたくさんの星は見えなかったから……この世界に初めて来た時、夜空があんまりにもきれいで、びっくりしたんだ」
「おまえの世界では、空の星が少ないのか?」
「夜でも明かりがたくさん点いてて、明るいの。だから、星の光が弱くなっちゃうんだよね」
自分の心を奪った女の横顔を見ながら、竜尊がつぶやく。
「おまえの世界といえば……」
やや言いにくそうに、だがずっと気になっていたことを、彼は口にした。
「兄さんの夢には入れたのか?」
瑠璃が息を飲んだのがわかった。
この話題を持ち出してしまった以上、引くに引けず竜尊が質問を重ねる。
「もう、今のおまえの力ならば、異界の人間の夢に入って会話をすることは、充分可能なはずだ。そのために修行してきたんじゃないのか?」
「うん……まあ……」
一番知りたいことへの答えにはならない、なんとも歯切れの悪い返事に、竜尊がやや声を荒げた。
「夢で兄さんと逢うために、俺のところで修行したかったんだろ!?」
「…………それは……ごめん、確かにそうなんだけどね……」
彼女自身、考えの整理がついていない様子で、しばし考えた末に呟いた。
「……やっぱり、やめたの」
「やめた?」
今の会話では、彼女の言葉の解釈は難しい。
兄に逢うのをやめたのか、竜尊との修行を、もうやめるのか……
返す言葉につまり、黙り込む竜尊に、瑠璃がゆっくりと言葉を紡いだ。
「やめたの……。お兄ちゃんの夢には、入らない」
「おまえ、なに言って……」
「決めたの。もっともっと強くなって、胸を張ってお兄ちゃんの前に出られるくらいの自分になったら……」
瑠璃は、庭に落としていた視線を夜空に上げた。
「夢じゃなくて、本当に会いに行く」
竜尊は、星明かりに照らされる瑠璃の横顔を見つめた。彼女の瞳に、迷いはなかった。
「……ふっ、そうか。それなら、もっと修行をがんばらないといけないな」
「うん……」
小さく頷いた瑠璃の頭をそっとなでた竜尊が、思い出したように声を上げた。
「おっと、忘れていた。これをおまえに渡さなくちゃならん」
彼は、懐から小さな包みを取り出すと、瑠璃に手渡した。
「今日俺がちょうど町にいたのは、これを選びに行ってたからだ。ほら、開けてみろ」
竜尊に促され、小さくうなずいてから、瑠璃は手の中の包みを開いた。
「わあ、きれいな飾り紐……」
それは、亜麻色の紐に金糸が編み込まれた、細い髪結い紐だった。
「これを私に……?どうして……」
「おまえは一生懸命修行をがんばっているからな、ご褒美だ」
穏やかな笑みを浮かべる竜尊と目が合い、慌ててそらした瑠璃は、手にした飾り紐に視線を移した。
「これで髪を結えばいいんだね、竜尊みたいに」
「ああ。おまえの黒髪に、よく映えると思うぞ」
「ありがとう……大事にする」
再び竜尊に顔を向け、満面の笑みを見せる瑠璃に、同じように笑顔を返して竜尊が言った。
「さあ、おまえはもう休め。しっかり体を休めなくちゃ、修行はもちろん、深影との戦いにも支障をきたす」
「…………」
「どうした?眠れなくても、横になるだけで疲れがとれるぞ?」
「うん……」
聞こえるか聞こえないかの小さな声で返事をしたものの、瑠璃が動く様子はない。
「…………ここにいちゃ、だめかな?」
抱えていた膝に顔を埋めるようにして、瑠璃が呟いた。
「なんだかね、安心できるんだ」
「まあな……大変な一日だったからな」
瑠璃が不安になるのも無理ないと、竜尊は、あまりにもめまぐるしかった一日を思い起こす。
深影との接触。
これでもう、渦巻く流れの中に、瑠璃も否応なしに放り込まれてしまったと言える。
もしも敵が手に負えない相手であれば、出来るだけ彼女を巻き込むまい、と考えていた竜尊だが、もはやそれは不可能だ、ということがわかった。
深影自身が、瑠璃に興味を持っているに違いないからだ。
竜尊は、顔を隣に向けた。
その気配に、瑠璃がちらっと目を上げる。
「おまえがそうしたいんなら、好きにすればいいさ」
「うん……!」
星が流れる。
今日はもう、深影は動かないだろう……
そう考えつつ、竜尊は空を眺めた。
と、ふいに、左肩に触れる温もりを感じた。
驚いて瑠璃に目をやる。
途端、彼の顔には微笑みが浮かんだ。
「……そんな姿勢で、よく寝られるな」
瑠璃は、抱えた膝にあごを乗せた格好で、竜尊にもたれかかるようにして寝息をたてていた。
「おいおい、俺は、このまま朝まで辛抱しなくちゃならないのか?蛇の生殺しは、勘弁してほしいんだがな」
厠に起きてきた久遠が、寄り添う二人を発見して慌てて駆け寄ってきた時、ほっと安堵の息をもらした竜尊だった。
*
翌日の晩になっても、月讀は戻らなかった。
必然的に屋敷に留まることになった竜尊と共に、瑠璃は一日を修行に費やした。
夕食も終え、あとは寝るだけ、という時間。
薄暗い明かりを灯した居間。
竜尊、瑠璃、久遠の三人が、卓袱台を囲んでくつろいでいた。
「瑠璃、今日はちゃんと、部屋で寝るんだぞ?」
「一日、たくさん修行をしたからのぉ。ばたんきゅーなのではないか?」
竜尊と久遠の言葉に、瑠璃はちょっぴり困った顔をしてみせた。
「なんだか……疲れすぎて、反対に目がさえちゃう気がするんだよね」
「ふうむ、それは困ったのぉ」
久遠が腕組みをしてつぶやき、竜尊は悪戯っぽい笑顔を見せる。
「それなら、ぐっすり眠れるように、まじないをかけてやろうか」
「ほぉ、そのようなまじないがあるのか?」
久遠が感心したように声を上げる。
「ああ」
答えながら身を乗りだした竜尊は、瑠璃の頬にそっと口付けた。
「おぬし、何をするのじゃ!?」
「いちいち騒ぐな、子狐。おまえがいるから、唇はやめておいたんだからな」
「ぬうぅ~」
立ち上がりかけた久遠が、顔を赤くしながら座り直す。
平然としている竜尊とは対照的に、瑠璃は、どぎまぎと挙動不審になりながら口を開いた。
「そ、そういえば、竜尊は大丈夫なの?昨日だって、寝ないで見張りをしてくれたのに」
「修行の合間にちょっと微睡んだだろ?あれで充分だ」
「でも……」
「はは、大丈夫だ。もし眠くてかなわない時は、子狐に見張りを任せて、おまえの布団にお邪魔するからな」
久遠がすかさず、叫んだ。
「こりゃ!!そんなことは、断じて許さんのじゃ~!!」
あまりにも真剣な久遠に、竜尊と瑠璃が笑い出し、さらに久遠の怒りが増す。
なんとも賑やかな状況に、誰もが一時、深影との戦いを忘れた。
ひとしきり笑ってから、竜尊が瑠璃を促した。
「ほら、まじないの効果が消えないうちに、布団に入るといい」
「うん……」
恥ずかしそうに頬を押さえ、しかし、この場を離れるのが名残惜しいのか、なかなか立ち上がらない瑠璃。
そんな彼女の耳元に、竜尊が唇を寄せてささやく。
「もっと口づけが必要か?」
「え……!?」
「なっ、おぬし!?」
「はは、俺は子狐がいようと、構わないぞ?今度は唇か?」
「わしがなんじゃと!?竜尊、おぬしは何度言えばわかるんじゃ~!!」
「おい子狐、これしきのことでそんなに怒ってるんじゃ、俺と瑠璃がそれ以上のことをしたら、おまえ憤死するんじゃないか?」
「ぬぉ~~~おのれ~~!!!」
竜尊にからかわれっぱなしの久遠を、瑠璃が慌ててなだめる。
「ごめん、ごめんね、久遠。大丈夫だよ、竜尊は、私の嫌がることを無理強いしたりしないから」
ふくらませた頬から、大きなため息を吐き出すと、久遠がうなった。
「むぅ~……おぬしがそう言うんなら、まあ……」
「心配してくれて、ありがとうね」
瑠璃は、久遠にそう言ってから、竜尊にも穏やかな笑みを向ける。
「ありがとう、お言葉に甘えて休ませてもらうね。竜尊、二日続けて徹夜なんだから……あんまり無理しないでね」
「ふっ、無理なんかしてないさ。おまえが同じ屋敷の内にいるって思うだけで、疲れなんざ、すぐに吹き飛んじまうからな」
視線が交わると、どちらからともなく微笑んだ。
「それじゃあ、おやすみなさい」
「ああ、いい夢を見るんだぞ」
「では、わしも休ませてもらうとするかの。竜尊、くれぐれも頼んだのじゃ」
瑠璃と久遠は居間を後にし、それぞれの部屋へと戻って行った。
「さて、俺も、おつとめを果たすとするかな」
竜尊は昨夜と同じく縁側に出ると、屋敷の警備に目を光らせ始めた。
*
満天の星が輝く夜空の下。
屋敷の縁側であぐらを組み、庭の外に神経を配る竜尊の姿があった。
そろそろ日付も変わろうかという時刻。
部屋に戻ったはずの瑠璃が、小さな足音をたてながら近づいてくると、膝を抱えて竜尊の隣に座った。
「どうかしたか?俺が、ちゃんと屋敷を護っててやる。だから、おまえはもう休め」
「……」
黙ったまま、瑠璃が首を左右に振った。
「睡眠不足は、お肌に良くないぞ?」
「……いいの、どうせ眠れないから」
「そうか」
小さく笑うと、竜尊は再び屋敷の警戒に意識を戻した。
夜の縁側に並んだ二人の間を、心地よい風が通り抜ける。
「竜尊……」
「ん?どうした?」
「星がきれいだね」
「ああ……そうだな」
瑠璃の言葉につられて、竜尊が空を見上げる。
そんな竜尊に穏やかな笑みを向けてから、瑠璃も再び天を仰ぐ。
「私の世界では、こんなにたくさんの星は見えなかったから……この世界に初めて来た時、夜空があんまりにもきれいで、びっくりしたんだ」
「おまえの世界では、空の星が少ないのか?」
「夜でも明かりがたくさん点いてて、明るいの。だから、星の光が弱くなっちゃうんだよね」
自分の心を奪った女の横顔を見ながら、竜尊がつぶやく。
「おまえの世界といえば……」
やや言いにくそうに、だがずっと気になっていたことを、彼は口にした。
「兄さんの夢には入れたのか?」
瑠璃が息を飲んだのがわかった。
この話題を持ち出してしまった以上、引くに引けず竜尊が質問を重ねる。
「もう、今のおまえの力ならば、異界の人間の夢に入って会話をすることは、充分可能なはずだ。そのために修行してきたんじゃないのか?」
「うん……まあ……」
一番知りたいことへの答えにはならない、なんとも歯切れの悪い返事に、竜尊がやや声を荒げた。
「夢で兄さんと逢うために、俺のところで修行したかったんだろ!?」
「…………それは……ごめん、確かにそうなんだけどね……」
彼女自身、考えの整理がついていない様子で、しばし考えた末に呟いた。
「……やっぱり、やめたの」
「やめた?」
今の会話では、彼女の言葉の解釈は難しい。
兄に逢うのをやめたのか、竜尊との修行を、もうやめるのか……
返す言葉につまり、黙り込む竜尊に、瑠璃がゆっくりと言葉を紡いだ。
「やめたの……。お兄ちゃんの夢には、入らない」
「おまえ、なに言って……」
「決めたの。もっともっと強くなって、胸を張ってお兄ちゃんの前に出られるくらいの自分になったら……」
瑠璃は、庭に落としていた視線を夜空に上げた。
「夢じゃなくて、本当に会いに行く」
竜尊は、星明かりに照らされる瑠璃の横顔を見つめた。彼女の瞳に、迷いはなかった。
「……ふっ、そうか。それなら、もっと修行をがんばらないといけないな」
「うん……」
小さく頷いた瑠璃の頭をそっとなでた竜尊が、思い出したように声を上げた。
「おっと、忘れていた。これをおまえに渡さなくちゃならん」
彼は、懐から小さな包みを取り出すと、瑠璃に手渡した。
「今日俺がちょうど町にいたのは、これを選びに行ってたからだ。ほら、開けてみろ」
竜尊に促され、小さくうなずいてから、瑠璃は手の中の包みを開いた。
「わあ、きれいな飾り紐……」
それは、亜麻色の紐に金糸が編み込まれた、細い髪結い紐だった。
「これを私に……?どうして……」
「おまえは一生懸命修行をがんばっているからな、ご褒美だ」
穏やかな笑みを浮かべる竜尊と目が合い、慌ててそらした瑠璃は、手にした飾り紐に視線を移した。
「これで髪を結えばいいんだね、竜尊みたいに」
「ああ。おまえの黒髪に、よく映えると思うぞ」
「ありがとう……大事にする」
再び竜尊に顔を向け、満面の笑みを見せる瑠璃に、同じように笑顔を返して竜尊が言った。
「さあ、おまえはもう休め。しっかり体を休めなくちゃ、修行はもちろん、深影との戦いにも支障をきたす」
「…………」
「どうした?眠れなくても、横になるだけで疲れがとれるぞ?」
「うん……」
聞こえるか聞こえないかの小さな声で返事をしたものの、瑠璃が動く様子はない。
「…………ここにいちゃ、だめかな?」
抱えていた膝に顔を埋めるようにして、瑠璃が呟いた。
「なんだかね、安心できるんだ」
「まあな……大変な一日だったからな」
瑠璃が不安になるのも無理ないと、竜尊は、あまりにもめまぐるしかった一日を思い起こす。
深影との接触。
これでもう、渦巻く流れの中に、瑠璃も否応なしに放り込まれてしまったと言える。
もしも敵が手に負えない相手であれば、出来るだけ彼女を巻き込むまい、と考えていた竜尊だが、もはやそれは不可能だ、ということがわかった。
深影自身が、瑠璃に興味を持っているに違いないからだ。
竜尊は、顔を隣に向けた。
その気配に、瑠璃がちらっと目を上げる。
「おまえがそうしたいんなら、好きにすればいいさ」
「うん……!」
星が流れる。
今日はもう、深影は動かないだろう……
そう考えつつ、竜尊は空を眺めた。
と、ふいに、左肩に触れる温もりを感じた。
驚いて瑠璃に目をやる。
途端、彼の顔には微笑みが浮かんだ。
「……そんな姿勢で、よく寝られるな」
瑠璃は、抱えた膝にあごを乗せた格好で、竜尊にもたれかかるようにして寝息をたてていた。
「おいおい、俺は、このまま朝まで辛抱しなくちゃならないのか?蛇の生殺しは、勘弁してほしいんだがな」
厠に起きてきた久遠が、寄り添う二人を発見して慌てて駆け寄ってきた時、ほっと安堵の息をもらした竜尊だった。
*
翌日の晩になっても、月讀は戻らなかった。
必然的に屋敷に留まることになった竜尊と共に、瑠璃は一日を修行に費やした。
夕食も終え、あとは寝るだけ、という時間。
薄暗い明かりを灯した居間。
竜尊、瑠璃、久遠の三人が、卓袱台を囲んでくつろいでいた。
「瑠璃、今日はちゃんと、部屋で寝るんだぞ?」
「一日、たくさん修行をしたからのぉ。ばたんきゅーなのではないか?」
竜尊と久遠の言葉に、瑠璃はちょっぴり困った顔をしてみせた。
「なんだか……疲れすぎて、反対に目がさえちゃう気がするんだよね」
「ふうむ、それは困ったのぉ」
久遠が腕組みをしてつぶやき、竜尊は悪戯っぽい笑顔を見せる。
「それなら、ぐっすり眠れるように、まじないをかけてやろうか」
「ほぉ、そのようなまじないがあるのか?」
久遠が感心したように声を上げる。
「ああ」
答えながら身を乗りだした竜尊は、瑠璃の頬にそっと口付けた。
「おぬし、何をするのじゃ!?」
「いちいち騒ぐな、子狐。おまえがいるから、唇はやめておいたんだからな」
「ぬうぅ~」
立ち上がりかけた久遠が、顔を赤くしながら座り直す。
平然としている竜尊とは対照的に、瑠璃は、どぎまぎと挙動不審になりながら口を開いた。
「そ、そういえば、竜尊は大丈夫なの?昨日だって、寝ないで見張りをしてくれたのに」
「修行の合間にちょっと微睡んだだろ?あれで充分だ」
「でも……」
「はは、大丈夫だ。もし眠くてかなわない時は、子狐に見張りを任せて、おまえの布団にお邪魔するからな」
久遠がすかさず、叫んだ。
「こりゃ!!そんなことは、断じて許さんのじゃ~!!」
あまりにも真剣な久遠に、竜尊と瑠璃が笑い出し、さらに久遠の怒りが増す。
なんとも賑やかな状況に、誰もが一時、深影との戦いを忘れた。
ひとしきり笑ってから、竜尊が瑠璃を促した。
「ほら、まじないの効果が消えないうちに、布団に入るといい」
「うん……」
恥ずかしそうに頬を押さえ、しかし、この場を離れるのが名残惜しいのか、なかなか立ち上がらない瑠璃。
そんな彼女の耳元に、竜尊が唇を寄せてささやく。
「もっと口づけが必要か?」
「え……!?」
「なっ、おぬし!?」
「はは、俺は子狐がいようと、構わないぞ?今度は唇か?」
「わしがなんじゃと!?竜尊、おぬしは何度言えばわかるんじゃ~!!」
「おい子狐、これしきのことでそんなに怒ってるんじゃ、俺と瑠璃がそれ以上のことをしたら、おまえ憤死するんじゃないか?」
「ぬぉ~~~おのれ~~!!!」
竜尊にからかわれっぱなしの久遠を、瑠璃が慌ててなだめる。
「ごめん、ごめんね、久遠。大丈夫だよ、竜尊は、私の嫌がることを無理強いしたりしないから」
ふくらませた頬から、大きなため息を吐き出すと、久遠がうなった。
「むぅ~……おぬしがそう言うんなら、まあ……」
「心配してくれて、ありがとうね」
瑠璃は、久遠にそう言ってから、竜尊にも穏やかな笑みを向ける。
「ありがとう、お言葉に甘えて休ませてもらうね。竜尊、二日続けて徹夜なんだから……あんまり無理しないでね」
「ふっ、無理なんかしてないさ。おまえが同じ屋敷の内にいるって思うだけで、疲れなんざ、すぐに吹き飛んじまうからな」
視線が交わると、どちらからともなく微笑んだ。
「それじゃあ、おやすみなさい」
「ああ、いい夢を見るんだぞ」
「では、わしも休ませてもらうとするかの。竜尊、くれぐれも頼んだのじゃ」
瑠璃と久遠は居間を後にし、それぞれの部屋へと戻って行った。
「さて、俺も、おつとめを果たすとするかな」
竜尊は昨夜と同じく縁側に出ると、屋敷の警備に目を光らせ始めた。
*