はじまりは眠りの森で
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【共闘】
「竜尊、修行の前に話があるんだ」
翌日、竜尊の下を訪れた瑠璃は、早速昨夜の話を切り出した。
「ほお……やっと俺と、修行以外の事をする気になったか?」
肩に手を回し耳元でささやく竜尊に、瑠璃は身をすくめた。
「あの……」
「なんだ?」
至近距離の相手に戸惑いながらも、彼女は気持ちを奮い立たせた。
「大事な話なの」
「俺にとって、おまえ以上に大事なものなんてないけどな」
瑠璃は小さく息を吐いた。
「じゃあ……このままでいいから聞いてくれる?」
面と向かって話をすることは諦め、竜尊に肩を抱かれたまま、瑠璃は話し始めた。
「山向こうの村で、鬼が昼間に人を襲った末に、消されているって話……竜尊なら、何か知ってるんじゃないかと思って」
「せっかく二人でいる時に、よその村の話なんて不粋だな」
瑠璃の顔を覗きこみ、穏やかな微笑を崩さずに竜尊が言う。
「この町もいつ襲われるかわからないから、少しでも情報がほしいんだ」
「例えこの町に被害が及んだとしても、俺たちには関係ないだろ?」
「関係なくはないよ!……そんなに時間が残されてないの。私は町の人々を、竜尊は、鬼のみんなを守らなくちゃならない」
必死に訴える瑠璃に、竜尊は顔を曇らせた。
「俺は他の鬼には干渉しない主義でな。人間どものことだって、月讀とかいう術士にまかせときゃいい」
「そんな訳には……」
「どちらにしても、おまえがわざわざ危険を冒す必要はない!」
「そうとも言えんぜ」
背後から、突然聞こえる声。
驚いて体を離した二人がそろって振り返ると、気配を消して近づいて来たらしい祢々斬と魁童が姿を現した。
「祢々斬……と……おいおい、なんで魁童もいるんだ!?」
「俺様がいちゃ、悪いかよ」
魁童が口をとがらせる。
「祢々……かいど……って……あ!火の鬼の……祢々斬と、金の鬼の魁童!?」
「名前を覚えてもらってたとは、光栄だな」
歩み寄る祢々斬の気迫に気圧され、瑠璃は、竜尊の肩に隠れるように一歩下がった。
「ほお……なるほどね」
瑠璃を眺めた祢々斬が、目を細めて笑う。
「おい、あんまりジロジロ見るなよ」
竜尊は、瑠璃の姿を完全に隠すように、自分の背後に押しやる。
魁童がやや不満そうにつぶやく。
「別に、見たって減るもんじゃないだろ」
「減ったらどうする!?」
真面目な顔で、瑠璃を背中に庇う竜尊の言い分に、祢々斬が呆れたようにため息をついた。
が、一瞬の間をおいて鬼の頭領たる毅然とした顔になり、竜尊に言う。
「奴が次に標的にするのは、この町だ。俺らも、そのおん……瑠璃も巻き込まれる。望むと望まないとに関わらず、な」
「そんなこと、百も承知だ。だが……」
「祢々斬、魁童」
飛び出した瑠璃が、竜尊を背にして立った。
「山向こうの村のこと……やっぱり、知っているのね」
名前を呼ばれた二人の鬼は、無言のまま彼女の次の言葉を待っている。
瑠璃は、二人をまっすぐに見つめながら、ゆっくり口を開いた。
「あなた達に、力を貸してほしい」
「なんだって?」
魁童が訝しげな表情を浮かべた後で、彼女をにらみつける。祢々斬は、彼女を試すような鋭い視線を投げる。
「これ以上犠牲者を出さないためには、鬼と人とが協力しないと難しい。だから……知っていることがあるのなら、教えてほしいの」
祢々斬が一歩前に出た。
「瑠璃……お前はこの世界の人間じゃない。こんな面倒なことに首を突っ込まなくとも、元の世界に逃げ帰っちまえば、それで済むんじゃないのか?」
「確かに、そうかもしれないけど……」
祢々斬の発する威圧感に臆することなく、瑠璃は懸命に思いを口にする。
「う~ん……何て言うのかな……竜尊に修行の相手をしてもらって、いろんな術を使えるようになって……この世界で、自分の居場所を見つけられたような気がするんだ。だから、このまま逃げ出したくないっていうか……」
たまらず竜尊が口をはさむ。
「けどな、おまえがわざわざ好きこのんで、危険な目に遭うこたぁないだろ!?」
「大丈夫だよ」
すかさず返した瑠璃に、竜尊が目をみはる。
「は?大丈夫って……」
「私は大丈夫!だって、竜尊がいるから」
思いがけない言葉を受けて答えにつまり、瑠璃の笑顔をただ見つめている竜尊の肩を、歩み寄った祢々斬がたたいた。
「竜尊、おまえの負けだ。大切な女を危険から遠ざけたい気持ちはわかるが……本人が納得してるんだ。おまえと共に戦うとな」
「くっ……仕方ねえ……。だがな、瑠璃。あくまでも、おまえの安全が第一だからな」
「竜尊……!」
しぶしぶ了承した竜尊に、花がほころぶような笑顔を向けると、瑠璃は祢々斬と魁童に向き直った。
「お願い……私達と一緒に戦って下さい。どうか、お願いします!」
彼女は、二人の鬼に深々と頭を下げた。
彼らが黙ったままでいると、瑠璃はゆっくりと顔を上げ、二人を見た。
「だめ……ですか?」
「祢々斬……どうするんだ?」
魁童の問いかけに、祢々斬がうなずくと、瑠璃を真正面から見据えた。
「俺らは、鬼だ。自分達の仲間を守るために戦う。人間に協力するって訳じゃない」
「…………」
瑠璃が、祢々斬をまっすぐに見つめ返す。
その眼差しの真剣さに、祢々斬がふっと表情をゆるめて続ける。
「協力はしないが……利害は一致することになるだろうな」
不安そうに振り返った瑠璃に、竜尊がうなずく。
「安心しろ。一緒に戦うってことだ」
嬉しそうに頷き返すと、瑠璃は、二人の鬼に向かって声を弾ませた。
「ありがとう、一緒にがんばろう!」
「おい、人間に協力するとは言ってないぜ?」
苦笑いを浮かべた祢々斬に、瑠璃が言う。
「でも、目指す所が同じだったら、鬼とか人間とか関係ないでしょ?」
「祢々斬、観念しろ。おまえの負けだ」
さっきの仕返しだと言わんばかりの竜尊に、やれやれといった顔で笑う祢々斬。
「……ふっ、かなわんな。まあ、こうなったら、逃げも隠れもしねえよ。魁童、異存はないな?」
「……祢々斬がそう言うんなら……仕方ねぇ、手を貸してやるよ」
張りつめていたはずの空気が、一気に和む。
「しっかし、鬼にも人間にも容赦のねえ、黒幕の正体ってのは、一体どんな奴なんだ?」
魁童の言葉に、それぞれが知り得た情報を教え合うことになった。
「敵は、普通の鬼じゃ抗えないほどの、強い呪縛の術の使い手らしい。五行の鬼である俺達しか、奴とは戦えないだろう」
竜尊の言葉に、魁童が怯む。
「なんだって!?それじゃ、俺ら以外の鬼は全員、その術士の思い通りに動かされちまうってことか!?」
「ああ、そう思った方がいいだろう。五行の鬼しか戦えないのであれば、無月と玖々廼馳の力も借りたいところだが……」
竜尊が思案顔になるが、祢々斬が即座に否定する。
「いや、あの二人は、すぐには応じないだろう。迷いがある状態で戦うのは、今回は危険だ」
「だな……。ってことは、ここにいる三人で立ち向かわないとならないな」
竜尊が深刻な顔でため息をつく。
それを見た魁童が、ニカッと笑った。
「なあに、俺ら三人で大丈夫だ!な、瑠璃!」
「うん!私だって、もっともっと修行をがんばって強くなる。ちょっとでも、みんなの力になれるように」
面白くなさそうに竜尊が魁童をにらんだ。
「……魁童、瑠璃に気安く話しかけんじゃねぇよ」
「はあ!?何言ってんだ?……おい瑠璃、お前も苦労するな」
昼下がりの柘榴の祠は、皆の笑い声に包まれた。
*
「竜尊、修行の前に話があるんだ」
翌日、竜尊の下を訪れた瑠璃は、早速昨夜の話を切り出した。
「ほお……やっと俺と、修行以外の事をする気になったか?」
肩に手を回し耳元でささやく竜尊に、瑠璃は身をすくめた。
「あの……」
「なんだ?」
至近距離の相手に戸惑いながらも、彼女は気持ちを奮い立たせた。
「大事な話なの」
「俺にとって、おまえ以上に大事なものなんてないけどな」
瑠璃は小さく息を吐いた。
「じゃあ……このままでいいから聞いてくれる?」
面と向かって話をすることは諦め、竜尊に肩を抱かれたまま、瑠璃は話し始めた。
「山向こうの村で、鬼が昼間に人を襲った末に、消されているって話……竜尊なら、何か知ってるんじゃないかと思って」
「せっかく二人でいる時に、よその村の話なんて不粋だな」
瑠璃の顔を覗きこみ、穏やかな微笑を崩さずに竜尊が言う。
「この町もいつ襲われるかわからないから、少しでも情報がほしいんだ」
「例えこの町に被害が及んだとしても、俺たちには関係ないだろ?」
「関係なくはないよ!……そんなに時間が残されてないの。私は町の人々を、竜尊は、鬼のみんなを守らなくちゃならない」
必死に訴える瑠璃に、竜尊は顔を曇らせた。
「俺は他の鬼には干渉しない主義でな。人間どものことだって、月讀とかいう術士にまかせときゃいい」
「そんな訳には……」
「どちらにしても、おまえがわざわざ危険を冒す必要はない!」
「そうとも言えんぜ」
背後から、突然聞こえる声。
驚いて体を離した二人がそろって振り返ると、気配を消して近づいて来たらしい祢々斬と魁童が姿を現した。
「祢々斬……と……おいおい、なんで魁童もいるんだ!?」
「俺様がいちゃ、悪いかよ」
魁童が口をとがらせる。
「祢々……かいど……って……あ!火の鬼の……祢々斬と、金の鬼の魁童!?」
「名前を覚えてもらってたとは、光栄だな」
歩み寄る祢々斬の気迫に気圧され、瑠璃は、竜尊の肩に隠れるように一歩下がった。
「ほお……なるほどね」
瑠璃を眺めた祢々斬が、目を細めて笑う。
「おい、あんまりジロジロ見るなよ」
竜尊は、瑠璃の姿を完全に隠すように、自分の背後に押しやる。
魁童がやや不満そうにつぶやく。
「別に、見たって減るもんじゃないだろ」
「減ったらどうする!?」
真面目な顔で、瑠璃を背中に庇う竜尊の言い分に、祢々斬が呆れたようにため息をついた。
が、一瞬の間をおいて鬼の頭領たる毅然とした顔になり、竜尊に言う。
「奴が次に標的にするのは、この町だ。俺らも、そのおん……瑠璃も巻き込まれる。望むと望まないとに関わらず、な」
「そんなこと、百も承知だ。だが……」
「祢々斬、魁童」
飛び出した瑠璃が、竜尊を背にして立った。
「山向こうの村のこと……やっぱり、知っているのね」
名前を呼ばれた二人の鬼は、無言のまま彼女の次の言葉を待っている。
瑠璃は、二人をまっすぐに見つめながら、ゆっくり口を開いた。
「あなた達に、力を貸してほしい」
「なんだって?」
魁童が訝しげな表情を浮かべた後で、彼女をにらみつける。祢々斬は、彼女を試すような鋭い視線を投げる。
「これ以上犠牲者を出さないためには、鬼と人とが協力しないと難しい。だから……知っていることがあるのなら、教えてほしいの」
祢々斬が一歩前に出た。
「瑠璃……お前はこの世界の人間じゃない。こんな面倒なことに首を突っ込まなくとも、元の世界に逃げ帰っちまえば、それで済むんじゃないのか?」
「確かに、そうかもしれないけど……」
祢々斬の発する威圧感に臆することなく、瑠璃は懸命に思いを口にする。
「う~ん……何て言うのかな……竜尊に修行の相手をしてもらって、いろんな術を使えるようになって……この世界で、自分の居場所を見つけられたような気がするんだ。だから、このまま逃げ出したくないっていうか……」
たまらず竜尊が口をはさむ。
「けどな、おまえがわざわざ好きこのんで、危険な目に遭うこたぁないだろ!?」
「大丈夫だよ」
すかさず返した瑠璃に、竜尊が目をみはる。
「は?大丈夫って……」
「私は大丈夫!だって、竜尊がいるから」
思いがけない言葉を受けて答えにつまり、瑠璃の笑顔をただ見つめている竜尊の肩を、歩み寄った祢々斬がたたいた。
「竜尊、おまえの負けだ。大切な女を危険から遠ざけたい気持ちはわかるが……本人が納得してるんだ。おまえと共に戦うとな」
「くっ……仕方ねえ……。だがな、瑠璃。あくまでも、おまえの安全が第一だからな」
「竜尊……!」
しぶしぶ了承した竜尊に、花がほころぶような笑顔を向けると、瑠璃は祢々斬と魁童に向き直った。
「お願い……私達と一緒に戦って下さい。どうか、お願いします!」
彼女は、二人の鬼に深々と頭を下げた。
彼らが黙ったままでいると、瑠璃はゆっくりと顔を上げ、二人を見た。
「だめ……ですか?」
「祢々斬……どうするんだ?」
魁童の問いかけに、祢々斬がうなずくと、瑠璃を真正面から見据えた。
「俺らは、鬼だ。自分達の仲間を守るために戦う。人間に協力するって訳じゃない」
「…………」
瑠璃が、祢々斬をまっすぐに見つめ返す。
その眼差しの真剣さに、祢々斬がふっと表情をゆるめて続ける。
「協力はしないが……利害は一致することになるだろうな」
不安そうに振り返った瑠璃に、竜尊がうなずく。
「安心しろ。一緒に戦うってことだ」
嬉しそうに頷き返すと、瑠璃は、二人の鬼に向かって声を弾ませた。
「ありがとう、一緒にがんばろう!」
「おい、人間に協力するとは言ってないぜ?」
苦笑いを浮かべた祢々斬に、瑠璃が言う。
「でも、目指す所が同じだったら、鬼とか人間とか関係ないでしょ?」
「祢々斬、観念しろ。おまえの負けだ」
さっきの仕返しだと言わんばかりの竜尊に、やれやれといった顔で笑う祢々斬。
「……ふっ、かなわんな。まあ、こうなったら、逃げも隠れもしねえよ。魁童、異存はないな?」
「……祢々斬がそう言うんなら……仕方ねぇ、手を貸してやるよ」
張りつめていたはずの空気が、一気に和む。
「しっかし、鬼にも人間にも容赦のねえ、黒幕の正体ってのは、一体どんな奴なんだ?」
魁童の言葉に、それぞれが知り得た情報を教え合うことになった。
「敵は、普通の鬼じゃ抗えないほどの、強い呪縛の術の使い手らしい。五行の鬼である俺達しか、奴とは戦えないだろう」
竜尊の言葉に、魁童が怯む。
「なんだって!?それじゃ、俺ら以外の鬼は全員、その術士の思い通りに動かされちまうってことか!?」
「ああ、そう思った方がいいだろう。五行の鬼しか戦えないのであれば、無月と玖々廼馳の力も借りたいところだが……」
竜尊が思案顔になるが、祢々斬が即座に否定する。
「いや、あの二人は、すぐには応じないだろう。迷いがある状態で戦うのは、今回は危険だ」
「だな……。ってことは、ここにいる三人で立ち向かわないとならないな」
竜尊が深刻な顔でため息をつく。
それを見た魁童が、ニカッと笑った。
「なあに、俺ら三人で大丈夫だ!な、瑠璃!」
「うん!私だって、もっともっと修行をがんばって強くなる。ちょっとでも、みんなの力になれるように」
面白くなさそうに竜尊が魁童をにらんだ。
「……魁童、瑠璃に気安く話しかけんじゃねぇよ」
「はあ!?何言ってんだ?……おい瑠璃、お前も苦労するな」
昼下がりの柘榴の祠は、皆の笑い声に包まれた。
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