はじまりは眠りの森で
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【修行】
次の朝。
約束(?)どおり、柘榴の祠には瑠璃の姿があった。
「竜尊、お言葉に甘えて、来ちゃった!早速だけど……手合わせお願いします」
「おいおい、顔を見るなり、いきなり修行か?」
苦笑いを浮かべた竜尊が、彼女との距離を縮める。
手を伸ばせば触れられる位まで近づくと、ことさらに甘い声色でささやく。
「修行もいいが……せっかく訪ねてきてくれたんだ。もっと楽しいことをしないか?」
「楽しいこと?……って……」
修行する気満々だった瑠璃が、声のトーンを少し落とす。
それも、竜尊にとっては想定内。
ひとすじなわではいかない女だってことは、わかっている。
だから、なおさら燃えるのかもしれない。
「男と女のすることに決まってんだろ?」「!!」
言いながら竜尊は、瑠璃のあごを捉えて自分の方を向かせた。
大概の女なら、ここで一度嫌がる素振りを見せるが、もうひと押しすれば、あえなく落ちる……はず……。
「……お邪魔しました」
「っおい!」
くるりと向きを変えて歩き出した彼女の腕を、竜尊が慌てて掴んだ。
「待てよ!男の所に一人でのこのこ来たってことは、そのつもりだったんだろ?」
「…………」
仕方なく立ち止まった瑠璃は、はあ~~と長いため息を吐いた。
「夢行を使いこなせるようになりたいの。ただそれだけ」
「修行なんざ、いつでも出来る。その前に、もっと互いのことを知るべきじゃないのか?」
彼女の行く手をさえぎるように回り込んだ竜尊が、体を寄せる。
一瞬、瑠璃の顔が恐怖に凍りついたように見えた。
だが、竜尊としても引っ込みがつかない。
そのまま手を伸ばして、瑠璃の頬から首筋にかけて触れた――
途端、彼女は怯えた表情で飛び退いた。
「随分嫌われたもんだなあ」
「あ……これはその……竜尊だからって訳じゃなくて……」
もっともらしく、傷ついたふうを装ってみせた竜尊だったが、瑠璃には、彼の演技を見抜く余裕すらなかった。
申し訳なさそうにうつむく瑠璃に、真顔になった竜尊が声をかける。
「男そのものが苦手ってことか?」
「……触られるのが、ダメなんだ……」
いろんな思念が流れてきちゃうから……
うなだれながら、そうつぶやく瑠璃。
竜尊は、彼女に一歩近寄った。
「そもそも、なぜ夢行にこだわる?」
「べ……別に、こだわってなんか……」
瑠璃がほんのり頬を染めたのを、竜尊は見逃さなかった。
「夢の力を使って、誰かに会いたい……違うか?」
男としての自分には目もくれないのに、こいつには夢で会いたい相手がいる。
竜尊には、それが面白くなかった。
「気が変わった。修行をするぞ。今日中に夢行を覚醒させてやる。それまで帰れないと思え」
竜尊の指導のたまものか、難なく夢行を覚醒した瑠璃は、ますます修行に力を入れるようになった。
ここ数日の彼女の進歩には、目を見張るものがある。
目的とする何かのために、時間を惜しんで修練を積んでいるように見える。
その目的とは、夢で逢いたい男に違いない。
彼女のひたむきさに触れる度、それは竜尊の胸をトゲのように刺した。
うららかな日差しが降り注ぐ午後。
そろそろ、瑠璃が祠にやって来る刻限だ。
夢行もだいぶ上達し、この分なら、異界の男との夢での逢瀬が実現するまでに、そう時間はかかるまい。
竜尊は、祠から少し離れた野原で、大の字に寝転んだ。
瑠璃との修行は、大体この場所で行なっている。
「俺は一体……何をやってんだ」
正直、瑠璃が想いを寄せる男に逢うための手助けなど、してやる謂われはない。
なのに……
あの女の嬉しそうな顔を見ることが、ささやかな楽しみになってしまった。
なんだ、これじゃ、まるで……
それ以上考えるのは、やめた。
竜尊は、大きなため息とともに目を閉じた。
野の花を揺らす風が心地よい。
瑠璃との修行がなければ、このまま寝入ってしまいたいところだ。
やがて、待ち人がやって来た。
小走りに近づいて来た足音が、寝ている竜尊を見つけたらしく、パタリとやむ。
音をたてないように、竜尊の傍らに寄り添う気配が感じられる。
薄目を開けて彼女の様子を確認すると、昼寝中の竜尊を起こすべきか否か、悩んでいるようだ。
眠っている(と思い込んでいる)相手をそっと覗き込む瑠璃。
『おまえの言う"オーラ"とやらでは、俺の狸寝入りは見抜けないらしいな』
笑いをこらえる竜尊は、寝返りをうつ振りをして、横向きに体勢を変えた。
瑠璃の微かなため息が聞こえる。
と、背中一面に当たった温かさを感じ、竜尊は息をのんだ。
だが、何とか身じろぎすることを耐え、目をいっそう固く閉じて、寝た振りを続ける。
推測するに、この温度……どうやら、瑠璃が背中合わせに横になったらしい。
何を考えてるんだ、この女は!!?
罠か……?
そうでなければ、無防備にもほどがある。
思いを巡らせながらも、淡い花の香りを漂わせている温もりが心地よく、竜尊はじっと目を瞑っていた。
*
そのまま、しばしの時が過ぎた。
さすがの竜尊も、様子が変だと思い始める。
本人が乗り気でないとはいえ、相手は鬼を滅ぼすために呼ばれた異界の女。
用心して間合いを測り、勢いよく起き上がると彼女の体を押さえ付けた。
「おいっ、おま……え…………っっ!?もしかして、熟睡してんのか!!」
「ん……?」
一度開いた瞳を、また閉じそうになりながら、瑠璃がゆっくりと体を起こす。
「あ……竜尊?おはよ……気持ちよくて、つい寝ちゃったよ」
「おまえは一体……」
これは罠なんかじゃない。
こいつは、とんでもなく天然な女なんだ……
そう竜尊が理解するのに、時間はかからなかった。
「おまえ、今の状況がわかってんのか!?このまま鬼に喰われたって、何ら不思議のない状況なんだぞ?」
「私を食べるの?」
寝起きでぼんやりしているのか、のんびりとした口調で瑠璃が言う。
「さあ、どうしようかな。二度と術士の屋敷に戻れないように、ここに閉じ込めておくってのも、悪くないな」
「こんなにぐっすり眠れるんなら、いいよ、ここにいても」
瑠璃は、大きく伸びをしながら、あくび混じりに言う。
「ここんところね、なかなか眠れなくて、けっこうきつかったんだ」
竜尊は、自分の作り笑顔がひきつるのを感じた。
いちいち予想外のことを言い出す奴だ。
怯えるどころか、『ここにいてもいい』だと!?
それも、ぐっすり眠るために……
普通に考えたら、そんな言い分が信用できるはずはない。
『退治すべき鬼である竜尊を油断させるための罠』と判断するのが妥当であろう。
だが、この女の言葉には、多分嘘はない。
人を謀って涼しい顔をしているような器用な真似は、こいつには……到底出来っこない。
幾日かをともに過ごし、修行の相手をしてきたから、竜尊にも、瑠璃の人となりがわかってきていた。
すっかりくつろいだ様子の瑠璃を、視界のすみにとらえながら、竜尊は眉間にしわを寄せる。
こいつ……男と女だって自覚、絶対にないだろ!?
ふと目が合うと、ここにいるという自分の提案に満足しているのか、瑠璃がにっこりと微笑んだ。
……まあ……それも一興か。
竜尊は、諦めにも似た笑いを浮かべた。
彼の笑顔を、肯定と受け取ったらしい瑠璃が、満面の笑みを返す。
竜尊は思わず、彼女の頭をなでた。
一瞬驚いた顔を見せた瑠璃だったが、竜尊の隣で、気持ちよさそうに空を見上げた。
*
次の朝。
約束(?)どおり、柘榴の祠には瑠璃の姿があった。
「竜尊、お言葉に甘えて、来ちゃった!早速だけど……手合わせお願いします」
「おいおい、顔を見るなり、いきなり修行か?」
苦笑いを浮かべた竜尊が、彼女との距離を縮める。
手を伸ばせば触れられる位まで近づくと、ことさらに甘い声色でささやく。
「修行もいいが……せっかく訪ねてきてくれたんだ。もっと楽しいことをしないか?」
「楽しいこと?……って……」
修行する気満々だった瑠璃が、声のトーンを少し落とす。
それも、竜尊にとっては想定内。
ひとすじなわではいかない女だってことは、わかっている。
だから、なおさら燃えるのかもしれない。
「男と女のすることに決まってんだろ?」「!!」
言いながら竜尊は、瑠璃のあごを捉えて自分の方を向かせた。
大概の女なら、ここで一度嫌がる素振りを見せるが、もうひと押しすれば、あえなく落ちる……はず……。
「……お邪魔しました」
「っおい!」
くるりと向きを変えて歩き出した彼女の腕を、竜尊が慌てて掴んだ。
「待てよ!男の所に一人でのこのこ来たってことは、そのつもりだったんだろ?」
「…………」
仕方なく立ち止まった瑠璃は、はあ~~と長いため息を吐いた。
「夢行を使いこなせるようになりたいの。ただそれだけ」
「修行なんざ、いつでも出来る。その前に、もっと互いのことを知るべきじゃないのか?」
彼女の行く手をさえぎるように回り込んだ竜尊が、体を寄せる。
一瞬、瑠璃の顔が恐怖に凍りついたように見えた。
だが、竜尊としても引っ込みがつかない。
そのまま手を伸ばして、瑠璃の頬から首筋にかけて触れた――
途端、彼女は怯えた表情で飛び退いた。
「随分嫌われたもんだなあ」
「あ……これはその……竜尊だからって訳じゃなくて……」
もっともらしく、傷ついたふうを装ってみせた竜尊だったが、瑠璃には、彼の演技を見抜く余裕すらなかった。
申し訳なさそうにうつむく瑠璃に、真顔になった竜尊が声をかける。
「男そのものが苦手ってことか?」
「……触られるのが、ダメなんだ……」
いろんな思念が流れてきちゃうから……
うなだれながら、そうつぶやく瑠璃。
竜尊は、彼女に一歩近寄った。
「そもそも、なぜ夢行にこだわる?」
「べ……別に、こだわってなんか……」
瑠璃がほんのり頬を染めたのを、竜尊は見逃さなかった。
「夢の力を使って、誰かに会いたい……違うか?」
男としての自分には目もくれないのに、こいつには夢で会いたい相手がいる。
竜尊には、それが面白くなかった。
「気が変わった。修行をするぞ。今日中に夢行を覚醒させてやる。それまで帰れないと思え」
竜尊の指導のたまものか、難なく夢行を覚醒した瑠璃は、ますます修行に力を入れるようになった。
ここ数日の彼女の進歩には、目を見張るものがある。
目的とする何かのために、時間を惜しんで修練を積んでいるように見える。
その目的とは、夢で逢いたい男に違いない。
彼女のひたむきさに触れる度、それは竜尊の胸をトゲのように刺した。
うららかな日差しが降り注ぐ午後。
そろそろ、瑠璃が祠にやって来る刻限だ。
夢行もだいぶ上達し、この分なら、異界の男との夢での逢瀬が実現するまでに、そう時間はかかるまい。
竜尊は、祠から少し離れた野原で、大の字に寝転んだ。
瑠璃との修行は、大体この場所で行なっている。
「俺は一体……何をやってんだ」
正直、瑠璃が想いを寄せる男に逢うための手助けなど、してやる謂われはない。
なのに……
あの女の嬉しそうな顔を見ることが、ささやかな楽しみになってしまった。
なんだ、これじゃ、まるで……
それ以上考えるのは、やめた。
竜尊は、大きなため息とともに目を閉じた。
野の花を揺らす風が心地よい。
瑠璃との修行がなければ、このまま寝入ってしまいたいところだ。
やがて、待ち人がやって来た。
小走りに近づいて来た足音が、寝ている竜尊を見つけたらしく、パタリとやむ。
音をたてないように、竜尊の傍らに寄り添う気配が感じられる。
薄目を開けて彼女の様子を確認すると、昼寝中の竜尊を起こすべきか否か、悩んでいるようだ。
眠っている(と思い込んでいる)相手をそっと覗き込む瑠璃。
『おまえの言う"オーラ"とやらでは、俺の狸寝入りは見抜けないらしいな』
笑いをこらえる竜尊は、寝返りをうつ振りをして、横向きに体勢を変えた。
瑠璃の微かなため息が聞こえる。
と、背中一面に当たった温かさを感じ、竜尊は息をのんだ。
だが、何とか身じろぎすることを耐え、目をいっそう固く閉じて、寝た振りを続ける。
推測するに、この温度……どうやら、瑠璃が背中合わせに横になったらしい。
何を考えてるんだ、この女は!!?
罠か……?
そうでなければ、無防備にもほどがある。
思いを巡らせながらも、淡い花の香りを漂わせている温もりが心地よく、竜尊はじっと目を瞑っていた。
*
そのまま、しばしの時が過ぎた。
さすがの竜尊も、様子が変だと思い始める。
本人が乗り気でないとはいえ、相手は鬼を滅ぼすために呼ばれた異界の女。
用心して間合いを測り、勢いよく起き上がると彼女の体を押さえ付けた。
「おいっ、おま……え…………っっ!?もしかして、熟睡してんのか!!」
「ん……?」
一度開いた瞳を、また閉じそうになりながら、瑠璃がゆっくりと体を起こす。
「あ……竜尊?おはよ……気持ちよくて、つい寝ちゃったよ」
「おまえは一体……」
これは罠なんかじゃない。
こいつは、とんでもなく天然な女なんだ……
そう竜尊が理解するのに、時間はかからなかった。
「おまえ、今の状況がわかってんのか!?このまま鬼に喰われたって、何ら不思議のない状況なんだぞ?」
「私を食べるの?」
寝起きでぼんやりしているのか、のんびりとした口調で瑠璃が言う。
「さあ、どうしようかな。二度と術士の屋敷に戻れないように、ここに閉じ込めておくってのも、悪くないな」
「こんなにぐっすり眠れるんなら、いいよ、ここにいても」
瑠璃は、大きく伸びをしながら、あくび混じりに言う。
「ここんところね、なかなか眠れなくて、けっこうきつかったんだ」
竜尊は、自分の作り笑顔がひきつるのを感じた。
いちいち予想外のことを言い出す奴だ。
怯えるどころか、『ここにいてもいい』だと!?
それも、ぐっすり眠るために……
普通に考えたら、そんな言い分が信用できるはずはない。
『退治すべき鬼である竜尊を油断させるための罠』と判断するのが妥当であろう。
だが、この女の言葉には、多分嘘はない。
人を謀って涼しい顔をしているような器用な真似は、こいつには……到底出来っこない。
幾日かをともに過ごし、修行の相手をしてきたから、竜尊にも、瑠璃の人となりがわかってきていた。
すっかりくつろいだ様子の瑠璃を、視界のすみにとらえながら、竜尊は眉間にしわを寄せる。
こいつ……男と女だって自覚、絶対にないだろ!?
ふと目が合うと、ここにいるという自分の提案に満足しているのか、瑠璃がにっこりと微笑んだ。
……まあ……それも一興か。
竜尊は、諦めにも似た笑いを浮かべた。
彼の笑顔を、肯定と受け取ったらしい瑠璃が、満面の笑みを返す。
竜尊は思わず、彼女の頭をなでた。
一瞬驚いた顔を見せた瑠璃だったが、竜尊の隣で、気持ちよさそうに空を見上げた。
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