そらに願いを
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笹の葉が揺れる。
色とりどりの短冊に託された願いは
天の川を流れ
星の海にたどり着く。
どうか、叶いますように
私の想い――
~☆~☆~☆~
昨日は七夕だった。
町の星祭りが行われ、事前の準備から当日の御祈祷まで、月讀さんは大忙しだった。
私と久遠もずっと駆り出されていたため、屋敷では結局、七夕らしいことは何ひとつできずに終わった。
そして、今日。
月讀さんが「瑠璃さんもお疲れでしょうから、今日は一日ゆっくり休んでください」と言ってくれたので、私は久しぶりに蒼玉の湖を訪ねることにした。
無月と並んで、小川のほとりをそぞろ歩く。
涼やかな水音にふと目をやると、水草がしげって流れをせき止めている所に、何かが引っかかっている。
近寄って覗き込むと、それは、誰かが流したのであろう笹舟だった。
「きっと、誰かの願いがこめられてるんだよね」
私は、手をのばして笹舟をつついた。
うまい具合に水草の関所から外れた笹舟は、くるりと向きを変えると、勢いよく私達の目の前から流れ去っていった。
「もうどこかに引っかかっちゃだめだよ」
川下に向かって手を振り無月を振り返ると、彼はクスリと笑った。
子供みたいって思われたかな……
恥ずかしさに、ちょっぴり頬が熱くなる。
「……届くとよいな」
「え?」
「舟を作り、流した者の願い……天に届き、叶うとよいな」
無月の柔らかな微笑みに、私も知らず笑顔になる。
「今年はできなかったけど、来年は絶対、短冊にお願い事を書いて笹につるしたいな!」
そうだな、と頷きながら、無月が私に問う。
「そなたは、星に何を願うのだ?」
「そうだなあ……まず『無月の泳ぎがうまくなりますように』、それから……『魁童の背がもう少し伸びますように』あとは……」
「瑠璃自身の願いはないのか?」
「私の願い?ふふ……あるよ、いっぱい。『おっちょこちょいが直りますように』『もっとたくさんの術を使えますように』それから……」
「それから?」
先を促すようにこちらを見つめる無月に、私はその続きを口に出せなくなってしまった。
「その……無月……無月の願いは何なの?」
「我の願いか……」
無月は、一瞬遠くを見るような目をして微笑むと、私の方に向き直った。
「我の願いは、瑠璃、そなたがずっとこの世界に留まってくれること、そして、今日のように共に歩き、語らう時間が続くこと……」
彼の口から、本当に自然に紡がれる言葉。
それは、私の胸に、まるで慈雨が染み込むように吸い込まれていった。
「無月……その願いは、きっと叶うよ」
「ほお、そなたにしては珍しく自信があるようだな」
「だって、それって私の願い事と一緒だもん」
無月は、ちょっぴり驚いたように目を見開いたが、すぐに穏やかな笑顔をみせた。
「そなたと我の願いが同じとは……喜ばしいことだな」
大きく頷きながら、私は彼の手をとった。
「ねえ、空に向かってお願いしない?私達がずっと、こうしていられますようにって」
「それはいい考えだ……しかし、今は昼間ゆえ、星は見えぬぞ」
「大丈夫、大丈夫。昼間は明るくて見えないだけで、星はいつも空にあるんだって……私の世界では、そう教えてもらったよ」
「そうか……我らが気付かぬだけで、確かに星は輝いているのだな」
「そうだね……今、この空にも……」
手を繋いだまま、二人で空を見上げる。
小川のせせらぎ
鳥のさえずり
風の渡る音
どれも愛しいこの世界で、私達、幸せになれますように……
ううん、絶対幸せになる――
「あ!雲の向こうで何か光った!?」
「ああ、我にもそのように見えた」
飛行機なんかないこの國で、これはきっと奇跡。
「きっと、星に私達の願いが届いたんだね」
「そうに違いないな」
来年は、月讀さんに大きな笹を用意してもらわなくちゃ……
顔を見合わせて微笑み合い、私達は再び歩き始めた。
*
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