ある朝の出来事
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「いっ……たたたあ~~っっ!!!」
「な、なんじゃなんじゃ!?瑠璃、どうしたのじゃっ!!」
朝一番、瑠璃の悲痛な叫び声が屋敷中に響く。
久遠が、続いて月讀が彼女の部屋に駆け込む。
二人が目にしたものは……
抱えた枕に頭を埋め、海老のように丸まったまま横倒しになって苦しむ瑠璃の姿だった。
「瑠璃さんっ!!」
「いっっ!痛い痛い~っ!!!」
慌てて彼女を抱き起こした月讀に、瑠璃は半泣きの顔を、何とか向ける。
「首が……痛くて回らないんです……」
「寝違えたのですね」
うなずくこともままならず、瑠璃は涙目になりながら呻くように訴える。
「月讀さん……膏薬をもらえませんか?」
月讀は、申し訳なさそうに小さく首を振った。
「昨日の修行のあとにあなたが使いきってしまったので、今日買いに行かなければ、と思っていたところなのです」
がっくりとうなだれた様子の(首が動かせないので見た目で断定は出来ない)瑠璃の首筋に手を翳し、月讀が微笑む。
「薬屋が開く頃合いを見計らって、久遠に膏薬を買いに行ってもらいましょう。とりあえず、私が手から気を送ります。それで多少は楽になるでしょう」
「はい……ありがとうございます……」
心配そうに二人のやり取りを見守っていた久遠が、意を決したように立ち上がった。
「わしは、今から薬屋に行ってくるぞ!急病人のために早く店を開けてもらえないか、頼んでみるのじゃ」
「そうしていただければありがたい。久遠、頼みますよ」
「うぅ……久遠、ごめんね……」
「なんの、気にするでない。では、行ってくるのじゃ」
久遠は勢いよく部屋を飛び出した。
部屋に残った瑠璃と月讀。
月讀の手当てを受けながら、日溜まりの猫のように目を細めていた瑠璃だが、思い出したようにポツリと呟く。
「夜までに治りませんかね……」
「はて、夜までにとは……何かご予定でも?」
「…………約束が……」
一旦手を休めた月讀の目が、キラリと光った……ように見えた。
「ほぉ、それはまた……忙しい修行の合間に約束とは、誰とどのようなものなのでしょうね」
瑠璃は、ばつの悪そうな顔で、やや間をおいてからため息とともに白状した。
「蛍を見に行くんです…………無月と……」
「永久に待ちぼうけくらわせときなさい」
「えぇっ!!そんな……」
不用意に首を上げてしまったため痛みに顔をしかめながら、瑠璃は情けない声で月讀に訴える。
「元の世界でも、なかなか蛍を見に行けなかったんです。こっちの世界なら、きっとすごく綺麗なんだろうなって楽しみにしてたのに……」
どうやら彼女の関心は、無月と逢うことよりも蛍そのものに向いているようだ。
そのことが、月讀の気持ちをざわつかせていた苛立ちを、幾分か和らげた。
「蛍見物なら、首が治ってから、私が連れて行って差し上げますよ」
「ほんとですか!?」
雲に覆われた空が一気に晴れるような彼女の表情の変化に、月讀は込み上げてくる笑いをかみ殺す。
「ええ、本当ですとも。ですから、今日は一日大人しくしていなさい」
――私の腕の中で――最後の言葉は口に出さずに飲み込んで、月讀はそっと瑠璃の頭を撫でた。
「はい。あの……無月には……」
「久遠にちゃんと伝えてもらいますから、安心なさい」
「良かった、ありがとうございます」
義理を欠く心配がなくなりほっとしたのか、瑠璃の肩から力が抜けた。
再び手を翳そうとした月讀が、その手で自身の膝をポンポン、とたたく。
「瑠璃さん、ここに頭をのせて下さい」
「え?……えっと……」
戸惑う瑠璃のすぐそばに膝を寄せて、月讀がにっこりと言う。
「その方が私も治療しやすいですし、あなたの姿勢も安定しますから」
「はい……で、では……失礼します」
月讀に支えられながら彼の膝に頭をのせると、瑠璃は目を閉じた。
痛みを和らげる温かな気の流れに、ほどなく瑠璃は静かな寝息をたて始めた。
「全くあなたときたら……そのような無防備な姿、私以外の者に見せてはなりませんよ」
眠っている瑠璃の顔が、微かにほころんだ。
「いい夢を見ているようですね」
夢の中で、彼女が微笑みを交わしている相手は誰なのか……
「無月の夢だったら承知しません、お仕置きです」
呟きながら片方の手を瑠璃の首に当て、もう一方の手で彼女の髪を撫でる月讀。
さて、蛍見物、何処がいいでしょうね……
無月には申し訳ありませんが、これは、瑠璃さんとひとつ屋根の下で暮らしている私にこそ、許されたことなのです――
しばしの後、彼の甘い空想タイムは、『ただいまなのじゃあ~っ!』と駆け込んできた久遠によって破られたのだった。
*
「な、なんじゃなんじゃ!?瑠璃、どうしたのじゃっ!!」
朝一番、瑠璃の悲痛な叫び声が屋敷中に響く。
久遠が、続いて月讀が彼女の部屋に駆け込む。
二人が目にしたものは……
抱えた枕に頭を埋め、海老のように丸まったまま横倒しになって苦しむ瑠璃の姿だった。
「瑠璃さんっ!!」
「いっっ!痛い痛い~っ!!!」
慌てて彼女を抱き起こした月讀に、瑠璃は半泣きの顔を、何とか向ける。
「首が……痛くて回らないんです……」
「寝違えたのですね」
うなずくこともままならず、瑠璃は涙目になりながら呻くように訴える。
「月讀さん……膏薬をもらえませんか?」
月讀は、申し訳なさそうに小さく首を振った。
「昨日の修行のあとにあなたが使いきってしまったので、今日買いに行かなければ、と思っていたところなのです」
がっくりとうなだれた様子の(首が動かせないので見た目で断定は出来ない)瑠璃の首筋に手を翳し、月讀が微笑む。
「薬屋が開く頃合いを見計らって、久遠に膏薬を買いに行ってもらいましょう。とりあえず、私が手から気を送ります。それで多少は楽になるでしょう」
「はい……ありがとうございます……」
心配そうに二人のやり取りを見守っていた久遠が、意を決したように立ち上がった。
「わしは、今から薬屋に行ってくるぞ!急病人のために早く店を開けてもらえないか、頼んでみるのじゃ」
「そうしていただければありがたい。久遠、頼みますよ」
「うぅ……久遠、ごめんね……」
「なんの、気にするでない。では、行ってくるのじゃ」
久遠は勢いよく部屋を飛び出した。
部屋に残った瑠璃と月讀。
月讀の手当てを受けながら、日溜まりの猫のように目を細めていた瑠璃だが、思い出したようにポツリと呟く。
「夜までに治りませんかね……」
「はて、夜までにとは……何かご予定でも?」
「…………約束が……」
一旦手を休めた月讀の目が、キラリと光った……ように見えた。
「ほぉ、それはまた……忙しい修行の合間に約束とは、誰とどのようなものなのでしょうね」
瑠璃は、ばつの悪そうな顔で、やや間をおいてからため息とともに白状した。
「蛍を見に行くんです…………無月と……」
「永久に待ちぼうけくらわせときなさい」
「えぇっ!!そんな……」
不用意に首を上げてしまったため痛みに顔をしかめながら、瑠璃は情けない声で月讀に訴える。
「元の世界でも、なかなか蛍を見に行けなかったんです。こっちの世界なら、きっとすごく綺麗なんだろうなって楽しみにしてたのに……」
どうやら彼女の関心は、無月と逢うことよりも蛍そのものに向いているようだ。
そのことが、月讀の気持ちをざわつかせていた苛立ちを、幾分か和らげた。
「蛍見物なら、首が治ってから、私が連れて行って差し上げますよ」
「ほんとですか!?」
雲に覆われた空が一気に晴れるような彼女の表情の変化に、月讀は込み上げてくる笑いをかみ殺す。
「ええ、本当ですとも。ですから、今日は一日大人しくしていなさい」
――私の腕の中で――最後の言葉は口に出さずに飲み込んで、月讀はそっと瑠璃の頭を撫でた。
「はい。あの……無月には……」
「久遠にちゃんと伝えてもらいますから、安心なさい」
「良かった、ありがとうございます」
義理を欠く心配がなくなりほっとしたのか、瑠璃の肩から力が抜けた。
再び手を翳そうとした月讀が、その手で自身の膝をポンポン、とたたく。
「瑠璃さん、ここに頭をのせて下さい」
「え?……えっと……」
戸惑う瑠璃のすぐそばに膝を寄せて、月讀がにっこりと言う。
「その方が私も治療しやすいですし、あなたの姿勢も安定しますから」
「はい……で、では……失礼します」
月讀に支えられながら彼の膝に頭をのせると、瑠璃は目を閉じた。
痛みを和らげる温かな気の流れに、ほどなく瑠璃は静かな寝息をたて始めた。
「全くあなたときたら……そのような無防備な姿、私以外の者に見せてはなりませんよ」
眠っている瑠璃の顔が、微かにほころんだ。
「いい夢を見ているようですね」
夢の中で、彼女が微笑みを交わしている相手は誰なのか……
「無月の夢だったら承知しません、お仕置きです」
呟きながら片方の手を瑠璃の首に当て、もう一方の手で彼女の髪を撫でる月讀。
さて、蛍見物、何処がいいでしょうね……
無月には申し訳ありませんが、これは、瑠璃さんとひとつ屋根の下で暮らしている私にこそ、許されたことなのです――
しばしの後、彼の甘い空想タイムは、『ただいまなのじゃあ~っ!』と駆け込んできた久遠によって破られたのだった。
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