星結び

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主人公

七夕だというのに、朝から生憎の雨模様。

梅雨の時期だから仕方ないと言ってしまえば、それまでなのだが……

なるべく濡れないようにと軒下に入れた笹は、吊るされた沢山の短冊や七夕飾りを、時折吹く雨風に揺らしている。


「これじゃ、織姫と彦星、会えないよ」
「せっかく一年待ってたのに……」

子供たちのそんな嘆き声から、永倉家の今日は始まった。





一日が終わり、辺りが闇に包まれた頃。

「早く宿題終わらせて、順番にお風呂入りなさいよ」

「このステージクリアしてから~」

「ん?……ゲームしてるってことは、宿題は当然終わってるのよね!?」

「あと書き取りだけだから」

「お兄ちゃんばっかり、ずるい~!お母さん、わたしも“ビータ”ほしい~~!“はくおーき”がおもしろいって、みんな言ってるよっ!!」

「薄桜鬼は、一年生にはプレイ出来ません!」


大黒柱である新八の帰りは、小学校低学年である子供たちの活動時間帯を大幅に過ぎるため、先に母と子で夕食を済ませるのが通例になっている。

そして、子供たちがそれぞれ眠りにつく頃に新八が玄関の鍵を開けるのも、いつものことだった。


「書き取りも宿題でしょ?ゲームは宿題終わってからって約束だったと思うけど?」

ゲーム機に熱中している息子に歩み寄り、それをよこしなさい、とばかりにが手を差し出したその時。


「こりゃまた賑やかだな」

「「お父さん!!」」

「新八!?……ごめんなさい、車の音も玄関が開いたのも、気が付かなくて」


慌てて台所に向かおうとするに、ネクタイをゆるめながら新八が言葉をかける。

「構わねぇよ、ちゃんは、チビたちの世話やら家のことやら忙しいんだからよ」

「ごめん……ありがとう」


外で働いている新八の方が、毎日よっぽど疲れるだろうし、ストレスも多いはずだ。

にも関わらず、ねぎらいと労りの言葉を忘れない彼に、は尊敬にも似た感謝を覚える。


「お帰りなさいお父さん!今日帰って来るの早かったね」

「おう、ただいま。今日はみんなで見たいものがあるから、超特急で帰って来たんだ」

「なに?なに??」

周りをグルグル回りながら興味深げに目を輝かせる子供たちに、エヘンと咳払いをしてから、新八は父親の威厳を込めて言う。

「よし、そんじゃまず、宿題を全部終わらせて風呂に入ってこい!それからのお楽しみだ」

「はーい!」と叫びながら、兄は子供部屋へ、妹は風呂場へと駆けていった。



部屋着に着替えた新八が、グラスのビールを飲み干したのと同時に、冷たい麦茶を手にも食卓につく。

「井上さんが異動されてから、新八ずっと忙しそうだったけど、今日はちょっとゆっくりできるね」

「ああ、源さんは総務部じゃ、縁の下の力持ちだったからな。土方さんの下っつっても、実際、あの人の担ってた部分はかなりのもんだったしな」

「それを引き継いだんだから、大変なはずだよね」

「大変って言っちまえば、確かに大変だよな」


ちょっぴり重たくなった空気を吹き飛ばすように、新八の朗らかな声が続く。

「けどな、今までよりフィールドが広がるっつうのは、やりがいがあって毎日ワクワクするぜ」


――新八のこういう前向きなところに、いつも私は助けられるんだよなあ……――

は、みそ汁を啜る新八の横顔を見つめる。

*

「源さんは新しく立ち上げた部署の長だし、左之は六階主任にプラスしてプラネタリウムの担当だろ?みんなそれぞれ、新しい世界に踏み出してるんだ。俺ばっかり同じ場所でウロウロしてたんじゃ、置いてかれちまうもんな」


感心したように新八の話を聞いていたが、ほんの少し顔を曇らせた。

「原田君、今までだって相当忙しかったでしょうに……プラネタリウムまで、大丈夫かしら?」

「好きなことだから、苦にならねぇんだろ」


言葉を切り、注ぎ足したビールをひと口含んでから、新八が再び口を開く。

「それに、一応他店舗とはいえ、源さんの企画室がこっちの管理もするらしいから、左之もちょくちょく連絡取ってるみてぇだ」

「原田君なら大丈夫だとは思うけど、井上さんのバックアップがあれば、さらに安心かな」

うんうん、とうなずいてから、麦茶が半分ほどに減った湯飲みを両手で包んだがポツリとつぶやく。

「新八、たまには原田君と一緒に飲んでくればいいのに……昔みたいに」


そうしたいのは山々なんだけどよ……と唸りながら、新八が返す。

「まあ、ここんとこ、左之も俺も忙しいからなぁ……なかなか、ゆっくり飲みにも行けねぇな。あ!……でもよ」


空にしたグラスをトン、とテーブルに置くと、彼は姿勢を正し、真剣な声で言った。

「本気で惚れてる女がいるらしい」

「え?それって……ついに原田君、運命の相手に巡り会えたってこと!?」

「ああ、『絶対ぇ手に入れたいもんが出来た』なんつうから、何事かと思ったらよ……つまり、そういうことなんだと」


やったね原田君!と破顔したは、新八のグラスを奪うと、缶に残っていたビールを残らず注ぎ飲み干した。

ちゃん、それ俺のビール……」

空になった500ml缶を振りながら情けない声を出す新八に、がテヘッと舌を出して笑った。

「ごめんごめん、嬉しくて、乾杯したい気分になっちゃったの。今日は特別にもう一本許可するから」

「おう、そうこなくっちゃ」


冷蔵庫からよく冷えた二本目を取り出しているに、新八が言う。

「なんでも、プラネタリウムの常連さんって話だぜ」

「へぇ……なんだかドラマチックでロマンチック。原田君らしいわよね」

羨ましそうな声音で言いながら、はビールとともに食卓に戻ってきた。


「まあ、左之は元々星観るのが好きだからな。相手もおんなじ趣味なら、願ったり叶ったり、じゃねえの?」

「大学のサークルの後輩で、星が大好きって子がいたんだけど、原田君の話を聞いたら、なんだかあの子のこと思い出しちゃった」

「へぇ~そりゃ、どんな子だったんだ?」

新八が身を乗り出して目を輝かせる。

「もう、新八ってば、女の子の話題となると目の色が変わるんだから……」


苦笑いを浮かべてから、の眼差しは、遠くを見つめるような懐かしげなものに変わる。

「妹みたいに守ってあげたくなっちゃう子でね、ちょっぴり天然で、そのくせすごく芯の強い子だったの……今どうしてるかな」

「……まさかとは思うけどよ、そのご本人が左之の想い人だったら、すげぇ偶然だよな」



自分が出会う前のを知る、星が好きで妹みたいな少女。

決して『女の子だから』という理由ではなく、なんだか縁がありそうなんだよな……と、新八の勘が告げる。



「あはは、まさかぁ。いくら世間は狭いっていっても、そこまでの偶然はないでしょ」

「まあ、普通に考えりゃ、そうなるだろうな。で、星が好きなその彼女は、なんて名前の子なんだ?」

「千鶴ちゃん……雪村千鶴ちゃんっていうの。今でも、年賀状のやり取りはしてるんだ」

「その子が左之と所帯を持てば“原田千鶴”ちゃんになるってこったな。なかなかどうして、しっくりくるじゃねぇか」

腕組みをした新八が、満足そうにうなずいた。

「うん。やっぱり俺は、その“千鶴ちゃん”だと思うぜ?」


確率的にあり得ないと思われる事柄も、ここまで自信たっぷりに言い切られると、本当にそうだという気になってくるから、不思議なものである。


は、新八のグラスにビールを満たすと、にっこり微笑んだ。

「そうね……もし本当にそうだったら、とっても素敵な奇跡だよね」


*
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