星結び
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
* * *
八月も終わりが近くなり、厳しい残暑の中にも、ほんのり秋の気配が漂い始めた。
「しかし……こうやって左之と飲むのも、えらく久しぶりだよな」
「ああ、お互い、なんだかんだと忙しいもんな。ま、ありがたいことなんだけどよ」
ビールで乾杯すれば、職場の同僚から気が置けない仲間同士へと変わる。
「昔はよく飲み歩いたもんだよなあ、梅ちゃんも一緒にさ」
「そうだったな……んで、その奥方様は元気にしてるか?」
「ああ、毎日チビたちと大忙しだ。やれラジオ体操だ、プールだ、夏休みの友が半分残ってる、だのってな」
カラカラと笑う新八に、「幸せなんだな」と目を細める原田。
「ああ、幸せだ」と返してから、新八は姿勢を正した。
「っと、今日左之に声かけたのは、他でもねぇ。ちょっとばかし、聞きてぇことがあってよ」
「俺もちょうど、新八に報告したいことがあったんだ」
ほれ、と原田が顔の前に左手を広げてみせた。
「ん?なんの真似だ、そりゃ……」
訝しげな顔で首をひねる新八の目の前に、原田はズイと手を近づける。
「っとに鈍いやつだな。これが目に入らねぇか?」
新八が息を飲んだ。
「こ……こりゃあもしかして……」
「俺も、やっとおまえらみてぇな幸せを見つけたってことだ」
「そうかっ!!それって、先月言ってた『プラネタリウムの常連さん』……だよな?」
「ああ、心配かけたな」
穏やかな微笑みを浮かべる原田は、相変わらず、同性の新八が見ても惚れ惚れするほどのいい男だ。
ひとつ咳払いしてから、新八は声をひそめた。
「左之……俺が今日おまえに確かめたかったことってぇのは、ズバリそこんとこだ。もしかしてもしかするとだな、その、おまえの相手ってのは……千鶴ちゃんって名前の子だったりしねぇか?」
なんなんだ、その回りくどい言い方は?なんて笑われることを想像していた……ところが
「!?…………」
原田は目を丸くして、声もなく新八を見つめていた。
「左之……おーい左之!戻って来~い」
見開かれた原田の目の前で、新八が手を振る。
一旦目を伏せ大きく息を吐くと、原田は口を開いた。
「…………新八……なんでおまえがそれを……」
「え?まじか?…………えぇ~まじかよっ!?」
こりゃあひょっとしたらひょっとするかもしれねぇ……
新八は興奮の面持ちで身を乗り出す。
「んじゃ、ここまできたら、もののついでだ。乗りかかった船だ。その彼女の名字は!?」
「……雪村」
「(うぉ~梅ちゃんっ!ビンゴだぜっっ!!!)」
思わずガッツポーズをつくる新八。
「おい、一体なんなんだ??」
訳がわからないといった様子で眉をひそめる原田に、新八が得意げに、ことの次第を説明する。
親友に向けられる彼の顔は、実に晴れやかだった。
「七夕からこっち、ずーっと気になってたことだったからなぁ……これでやっと、スッキリしたぜ」
「ん?いつからだって?」
「だから、七夕だって。左之に教えてもらった、家庭用のプラネタリウムを見た後で、梅ちゃんとそんな話になってな……」
「おまえ……七夕っつったら、どんだけ前の話だよ? その間ずーっと保留にしといたのか?」
呆れと感心とが入りまじった表情で言ってから、原田は頬をゆるめた。
「おまえにしちゃあ、やけに悠長なこった」
「いやぁ……電話やらメールやら立ち話やらで聞けるような話じゃねぇって思ったからさ、今日のこの機会を、じーっと待ってたって訳だ」
注文の日本酒や料理が、次々運ばれてくる。
新八の笑顔に、向日葵の花を思い浮かべながら、原田がつぶやいた。
「不思議なもんだな……星が結んでくれた縁ってやつか」
グラスを揺らしながら、新八が言葉を返す。
「お、左之、いいこと言うねぇ。きっと、星の巡り合わせってやつなんだろうな」
「おまえと俺と梅と、それから千鶴……おっと、源さんもだな」
しみじみとつぶやく原田のグラスに、新八が酒を注ぐ。
「ほれ、左之、乾杯するぞ」
新八は、自分のグラスをグイッと空け、原田の前に差し出した。
そこに酒をなみなみと注いだ原田が、改まった声で言う。
「俺たちみんなの幸せに乾杯だ」
「ああ。そんでもって、原田夫妻の未来にもな」
二つのグラスが、カチンと音をたてた。
たくさんの出会いと想いを見守りながら、今日も星は空を巡る――
*
3/3ページ