夢のつづき
「お、雪村君、ちょうどいいところに来てくれた」
「あ、近藤さん、お帰りなさいませ。何かご用でしょうか?」
外出から戻った近藤に声をかけられ、快活に応じる千鶴。
「町の茶店で桜餅が出ていたから、皆で食べてもらおうと思って買ってきたんだ。君もちょっと休憩して、一緒にどうだ?」
「わあ、桜餅ですか!確か、京のものは江戸とは違うんですよね……ありがとうございます、早速お茶をいれますね」
「ああ、上方では道明寺というらしいな。俺は店で食べてきたから、茶だけお願いするとしよう。悪いが、部屋まで頼む」
「はい、わかりました。お部屋にお持ちしますね」
近藤の部屋に茶を運び、ついでに、巡察や稽古に出ていない他の幹部隊士に声をかける。
彼らに桜餅と共にお茶を用意してから、千鶴は辺りを見回した。
「あれ?平助君がいない」
確か彼は、非番の今日、特に予定はないと言っていたような気がする。
「近藤さんにお礼言ってこようっと」
そう言って去って行く沖田を見送ってから、千鶴はゆっくり茶を啜っている斎藤に問いかけた。
「斎藤さん、平助君見ませんでしたか?」
「平助?……そういえば先刻、縁側でうたた寝していたのを見かけたな」
だが、今しがた通った時は姿がなかった、そう斎藤は続けた。
「ありがとうございます、きっとお部屋ですね」
千鶴は、二人分の桜餅と湯飲みを盆に載せ、平助の部屋へと向かった。
「平助君、千鶴です」
部屋の前で声をかけるが、中から応答はない。
そっと障子を開けてみれば、部屋の真ん中で丸まって寝ている平助の姿があった。
「そんな格好で寝てたら、風邪ひいちゃうよ」
足音をたてないように脇を通り抜け、千鶴は押入れから掛布団を担ぎ出した。
それを、平助にそっとかける。
「ん……千鶴……?」
「あ……ごめんね起こしちゃった?」
むくりと起き上がった平助は、いまだ焦点の定まらない視線を千鶴に向けながら、ポツリとつぶやいた。
「オレ……すっげえいい夢みてたんだ…… 」
「あ……だったら、途中で起こしちゃって、なおさらごめんね」
両手で掛布団をつかんだまま、申し訳なさそうに謝る千鶴。
平助は、変わらぬ虚ろな表情で首をかしげた。
「これも夢か?」
千鶴の目の前に顔を近づけ、鼻と鼻がぶつかりそうなくらいまで距離を縮める。
「……平助君?…………わっ!?」
平助は千鶴に抱き付くようにもたれかかり、そのまま畳に倒れこんだ。
「千鶴……」
「ちょ、ちょっと……平助君!?」
突然のことに困惑しながら、平助の肩を押す千鶴。
だが、彼の身体は押しのけられるどころか、完全に体重を千鶴にあずけていた。
千鶴が観念して小さく息を吐いたその時、穏やかで規則的な寝息が聞こえ出した。
「もしかして、寝てる?」
平助の重さから逃がれるように体勢を変え、千鶴は、目の前の気持ちよさそうな寝顔を指でつついた。
「もう、平助くんったら……寝ぼけてたんだね」
自分を包み込む体温の心地よさにじっとしていた千鶴を、睡魔が襲う。
起きなくちゃ、お茶が冷めちゃう。
けど、こんなふうにまどろむ時間も捨てがたいよね……
お茶はあとでいれなおそうと決め、千鶴は平助の胸に顔をうずめた。
二人でみる夢の続きは、甘くてあたたかで……
目覚めた平助が、腕の中の千鶴に驚いて雄たけびをあげるまで、あと四半刻。
*
「あ、近藤さん、お帰りなさいませ。何かご用でしょうか?」
外出から戻った近藤に声をかけられ、快活に応じる千鶴。
「町の茶店で桜餅が出ていたから、皆で食べてもらおうと思って買ってきたんだ。君もちょっと休憩して、一緒にどうだ?」
「わあ、桜餅ですか!確か、京のものは江戸とは違うんですよね……ありがとうございます、早速お茶をいれますね」
「ああ、上方では道明寺というらしいな。俺は店で食べてきたから、茶だけお願いするとしよう。悪いが、部屋まで頼む」
「はい、わかりました。お部屋にお持ちしますね」
近藤の部屋に茶を運び、ついでに、巡察や稽古に出ていない他の幹部隊士に声をかける。
彼らに桜餅と共にお茶を用意してから、千鶴は辺りを見回した。
「あれ?平助君がいない」
確か彼は、非番の今日、特に予定はないと言っていたような気がする。
「近藤さんにお礼言ってこようっと」
そう言って去って行く沖田を見送ってから、千鶴はゆっくり茶を啜っている斎藤に問いかけた。
「斎藤さん、平助君見ませんでしたか?」
「平助?……そういえば先刻、縁側でうたた寝していたのを見かけたな」
だが、今しがた通った時は姿がなかった、そう斎藤は続けた。
「ありがとうございます、きっとお部屋ですね」
千鶴は、二人分の桜餅と湯飲みを盆に載せ、平助の部屋へと向かった。
「平助君、千鶴です」
部屋の前で声をかけるが、中から応答はない。
そっと障子を開けてみれば、部屋の真ん中で丸まって寝ている平助の姿があった。
「そんな格好で寝てたら、風邪ひいちゃうよ」
足音をたてないように脇を通り抜け、千鶴は押入れから掛布団を担ぎ出した。
それを、平助にそっとかける。
「ん……千鶴……?」
「あ……ごめんね起こしちゃった?」
むくりと起き上がった平助は、いまだ焦点の定まらない視線を千鶴に向けながら、ポツリとつぶやいた。
「オレ……すっげえいい夢みてたんだ…… 」
「あ……だったら、途中で起こしちゃって、なおさらごめんね」
両手で掛布団をつかんだまま、申し訳なさそうに謝る千鶴。
平助は、変わらぬ虚ろな表情で首をかしげた。
「これも夢か?」
千鶴の目の前に顔を近づけ、鼻と鼻がぶつかりそうなくらいまで距離を縮める。
「……平助君?…………わっ!?」
平助は千鶴に抱き付くようにもたれかかり、そのまま畳に倒れこんだ。
「千鶴……」
「ちょ、ちょっと……平助君!?」
突然のことに困惑しながら、平助の肩を押す千鶴。
だが、彼の身体は押しのけられるどころか、完全に体重を千鶴にあずけていた。
千鶴が観念して小さく息を吐いたその時、穏やかで規則的な寝息が聞こえ出した。
「もしかして、寝てる?」
平助の重さから逃がれるように体勢を変え、千鶴は、目の前の気持ちよさそうな寝顔を指でつついた。
「もう、平助くんったら……寝ぼけてたんだね」
自分を包み込む体温の心地よさにじっとしていた千鶴を、睡魔が襲う。
起きなくちゃ、お茶が冷めちゃう。
けど、こんなふうにまどろむ時間も捨てがたいよね……
お茶はあとでいれなおそうと決め、千鶴は平助の胸に顔をうずめた。
二人でみる夢の続きは、甘くてあたたかで……
目覚めた平助が、腕の中の千鶴に驚いて雄たけびをあげるまで、あと四半刻。
*
1/1ページ