冬の日のひとこま

「ん~、いいお天気」

風は冷たいけれど、日差しが燦々と降り注ぐこんな日は、まさに洗濯日和。

ひととおり洗濯物を干し終え、澄んだ空を見上げると、白い雲が様々に形を変えながら流れてゆく。

「……あれは大きな魚、こっちは……大福みたい、おいしそう」


顔を仰向けて天を眺めているうちに、フワフワ漂う雲が、いろんなものに見えてくる。

「あっちのは馬のしっぽ……ふふ、土方さんの髪みたい」

「俺がなんだって?」
「ひっ土方さん!?」

思いがけない声に、慌てて後ろを向こうとしたら、思いきりよろけてしまった。
しかし、地面に倒れこみながら手をつく直前、私の体はふわりと支えられた。

「ったく、危なっかしいなぁ」

「あ……ありがとうございます」

土方さんの菫色の瞳に至近距離から見つめられ、私の顔はカアーッと熱を持つ。
慌てて体勢を整えると、彼の腕から離れた。

土方さんは小さく微笑んで、私の顔をのぞきこむ。

「んで、空を見ながら人の名前を出して、一体なんの真似だ?」

私は目を上げて、さっきの雲を探した。

多少形は変わっているが、まだ、風になびく土方さんの髪を思わせる名残を留めている。

「あの雲を見て、土方さんを思い出しまして……」

私が指し示した雲を見上げ、土方さんは首をかしげる。

「……なんであれが俺を連想させるんだ?」

「土方さんの髪みたいだなって思ったんです」

「おまえだって似たようなもんだろ?」

私の頭にポンと手をのせると、土方さんは、その手を私の肩に回した。

「そろそろ、中に入れ。女がそんなに身体を冷やすもんじゃねぇ」

「あ……はい」

そう言われてみれば、背中がゾクゾクし始めた気がする。

歩き出そうとすると、肩に置かれた土方さんの手に引き戻された。

「今晩、温めに行ってやる」

突然耳元でささやかれ、驚きと恥ずかしさの入り交じった顔を横に向ければ、悪戯っぽく笑う土方さんと目が合う。

「風邪なんざひいてる暇もねぇくらい可愛がってやるから、覚悟しとけよ?」

「っ!!?……は……はいっ……」


私が一日中、土方さんの顔をまともに見られなかったことは、言うまでもない。




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