散る花に
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激動の時代のさなか。
明日が普通にやってくるという保証なんか、誰にもない。
だからこそ、大切な人との残り少ない時間を、何よりもいとおしく思う。
満開の桜の下で平助君と過ごす、この時を……
「千鶴ってさ」
「ん?なあに?」
冷たさの中に柔らかな気配を含んだ風が、頬をなでる。
はらはらと舞い落ちる花びらが、まるで雪のように私たちを包む。
「とんでもなく度胸があるかと思えば、やたら危なっかしかったりすんだよな」
「それって、ほめてるの?それとも、けなしてるの?」
「さあ、どっちだろ?けど、どっちにしても目を離せねえよ」
二人で顔を見合わせて、笑う。
こんなふうに軽口をたたき合えることさえ、ものすごく貴重な瞬間に思える。
平助君の口調が、静かで真剣なものに変わった。
「だからさ……本当なら、千鶴にはオレがついててやらないと駄目なんだけど……」
お互い、わかってる。
それが叶わぬ願いであることくらい。
「オレも男だからさ、信じるものを目指して進まなきゃ、後悔する。たとえそれが、険しい山道でもな」
「平助君……」
「そんな顔すんなって」
「でも……」
わきあがってくる涙を見られないように俯きながら、口元に無理やり笑みを作る。
「また平助君の隣にいられる日が来るまで、私、泣かないから」
「ああ、離れてたって、オレが千鶴を想う気持ちは、いつだってここにあるからな」
平助君は、私の手をとると彼の胸に当てた。
「うん……絶対……絶対に、無事でいてね」
信じてるはずなのに、声がふるえる。
鼻の奥がツンとして、目頭が熱くなる。
「あったりまえだ!必ず、千鶴の元に戻って来る……おまえを一人になんか、絶対ぇさせないから」
平助君は、私の頭をグシャグシャとなでると、言い聞かせるようにささやいた。
「無理すんな。泣きたい時は、泣くことも必要だって」
「平助君……お願い」
自分で『泣かない』って言ったばかりなのに……
こらえていたはずの涙が、頬をつたう。
ん?と、瞳の奥で問いかけるように私を見つめる平助君。
その眼差しは、とびきり優しくて、それでいて儚げで……
「お願いだから、生き急いだりしないでね」
「わかってるって」
そう、ひとことだけ答えて、あとは私の頭を優しく撫で続けてくれた、命よりも大切な人。
世は無常。
どんなに強く請い願っても
声を限りに祈っても
花の命には限りがある……それは理(ことわり)。
そして宿命には逆らえるはずもなく……花は散りゆく。
夢うつつに舞う花びらは、涙の滴。
空わたる鳥たちが奏でるのは、
あまりにも目まぐるしく時代を駆け抜けていった、あなたへの鎮魂歌。
いつか、平助君の側に逝く日まで
季節が巡るたび、色を失った花弁たちが私の頭に肩に、触れては消えていくことだろう。
瞼の裏に浮かぶ満開の桜を、
花がほころぶような、あの笑顔を
この命が尽きる時まで
私は、抱きしめ続けるのに違いない。
*
明日が普通にやってくるという保証なんか、誰にもない。
だからこそ、大切な人との残り少ない時間を、何よりもいとおしく思う。
満開の桜の下で平助君と過ごす、この時を……
「千鶴ってさ」
「ん?なあに?」
冷たさの中に柔らかな気配を含んだ風が、頬をなでる。
はらはらと舞い落ちる花びらが、まるで雪のように私たちを包む。
「とんでもなく度胸があるかと思えば、やたら危なっかしかったりすんだよな」
「それって、ほめてるの?それとも、けなしてるの?」
「さあ、どっちだろ?けど、どっちにしても目を離せねえよ」
二人で顔を見合わせて、笑う。
こんなふうに軽口をたたき合えることさえ、ものすごく貴重な瞬間に思える。
平助君の口調が、静かで真剣なものに変わった。
「だからさ……本当なら、千鶴にはオレがついててやらないと駄目なんだけど……」
お互い、わかってる。
それが叶わぬ願いであることくらい。
「オレも男だからさ、信じるものを目指して進まなきゃ、後悔する。たとえそれが、険しい山道でもな」
「平助君……」
「そんな顔すんなって」
「でも……」
わきあがってくる涙を見られないように俯きながら、口元に無理やり笑みを作る。
「また平助君の隣にいられる日が来るまで、私、泣かないから」
「ああ、離れてたって、オレが千鶴を想う気持ちは、いつだってここにあるからな」
平助君は、私の手をとると彼の胸に当てた。
「うん……絶対……絶対に、無事でいてね」
信じてるはずなのに、声がふるえる。
鼻の奥がツンとして、目頭が熱くなる。
「あったりまえだ!必ず、千鶴の元に戻って来る……おまえを一人になんか、絶対ぇさせないから」
平助君は、私の頭をグシャグシャとなでると、言い聞かせるようにささやいた。
「無理すんな。泣きたい時は、泣くことも必要だって」
「平助君……お願い」
自分で『泣かない』って言ったばかりなのに……
こらえていたはずの涙が、頬をつたう。
ん?と、瞳の奥で問いかけるように私を見つめる平助君。
その眼差しは、とびきり優しくて、それでいて儚げで……
「お願いだから、生き急いだりしないでね」
「わかってるって」
そう、ひとことだけ答えて、あとは私の頭を優しく撫で続けてくれた、命よりも大切な人。
世は無常。
どんなに強く請い願っても
声を限りに祈っても
花の命には限りがある……それは理(ことわり)。
そして宿命には逆らえるはずもなく……花は散りゆく。
夢うつつに舞う花びらは、涙の滴。
空わたる鳥たちが奏でるのは、
あまりにも目まぐるしく時代を駆け抜けていった、あなたへの鎮魂歌。
いつか、平助君の側に逝く日まで
季節が巡るたび、色を失った花弁たちが私の頭に肩に、触れては消えていくことだろう。
瞼の裏に浮かぶ満開の桜を、
花がほころぶような、あの笑顔を
この命が尽きる時まで
私は、抱きしめ続けるのに違いない。
*
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