初雪
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私たちが穏やかな暮らしを手に入れてから、初めての冬。
鉛色の空に厚く垂れ込めた雲が、本格的な寒さの到来を予感させる。
「お茶、冷めないうちにどうぞ」
「うん、ありがとう」
書き物の途中で顔をちらっと上げた沖田さんが、優しい微笑みをくれる。
こんなふうに日々を安らかに過ごせる今が、なんだか夢みたいだ。
―――時代を駆け抜けてきたとも言える今日まで、たくさんの別れがあった。
沖田さんの瞳から、寂しげな影が完全に消えたわけではない。
けれど、私たちは、確かに希望を手にした。
沖田さんの身体を蝕んでいる労咳が、この地の澄んだ空気と水のおかげか、奇跡的な回復の兆しを見せているのだ。
それはお医者様もびっくりなさるほどに。
先に旅立たれた皆さんが、守ってくださっているに違いない……心からそう思える。―――
なんだか胸の奥があたたかくなり、私も沖田さんに微笑み返す。
「今夜は特別冷えそうですから、掛布団をもう一枚出しますね」
「千鶴ちゃん、すっかり若奥様だね。でも僕は、追加の布団より、君を抱いて寝る方があったかいと思うな」
「沖田さんたら!」
頬が熱を帯びたのを見られるのが恥ずかしくて、私は慌てて沖田さんの部屋を後にする。
「うう、寒い……」
空気のあまりの冷たさに、ふと空を見上げると、白いものがチラチラと舞っているのが目にはいった。
振り向きざま、たった今閉めたばかりの障子戸をスラッと開けて私は叫んでいた。
「沖田さん!雪です、雪が降ってきましたっ!!」
彼は、文机の上に書の道具を置くと、ゆっくり立ち上がった。
「雪なんて、そう珍しいものでもないよね……何がそんなに嬉しいの?」
「だって、初雪ですよ?なんだかウキウキしませんか?」
私の隣に立ち、「ふうん、そんなもん?」なんてつぶやきながら空を見上げる沖田さんに、私は「そうですよ」と大きく頷く。
「それに、今年最初の雪を一緒に見られるなんて、なんだか幸先いいような気がしませんか?」
「そうかもしれないね。でも僕は、千鶴ちゃんと一緒にいられれば、雪でも雨でも嬉しいけど」
「あ……ありがとうございます…………ックシュン」
急に冷たい空気を吸い込んでしまったためか、大きなクシャミをしてしまった。
「ご、ごめんなさ……ぁ!?」
言い終わらないうちに、背中を大きなぬくもりが包み込んだ。
「こうしていれば、温かいでしょ?」
「はい……ありがとうございます」
沖田さんの体温を背中いっぱいに感じて、体はもちろんのこと、心までポカポカとあたたかい。
*
降る雪は勢いを増し、視界が白く染まりそうなほどになってきた。
「そろそろお部屋に戻りましょうか?」
「どうして?僕と雪を見るのが嬉しいんじゃないの?」
「だって、このままじゃ、沖田さんが風邪ひいてしまいます 」
「せっかくの初雪なんでしょ、もうしばらくこうしてたって、バチは当たらないよ」
「じゃあ、もう少しだけ」
大好きな人の腕の中で、幻想的な雪景色を眺める。
こういう満たされた気持ちを、きっと“幸せ”って呼ぶんだよね。
日常の何気ない一瞬一瞬をいとおしく感じるのも、愛する人と共にいられるから……
「沖田さん」
「ん?……ていうか、君も“沖田さん”だよね」
「そういえばそうですよね……すみません、なかなか慣れなくって」
「あはは、謝らなくたっていいよ」
沖田さんは、小さく声をあげて笑う。
「で?なに?何か言いかけてたよね?」
子供に語りかけるような、柔らかい口調の沖田さん。
見えないけれど、とびきり優しい表情なんだろうな…
そう思いながら、私は答えた。
「はい……来年も再来年も、その先もずっとずっと、二人で初雪を見ましょうね……そう言いたかったんです」
「千鶴ちゃん、それはちょっと違うかな」
「え……?」
「ずっと“二人で”ってことはないよね?」
「あ!」
「僕らは今は、二人だけの夫婦だけど、そのうち大家族になるんだよ?」
「はい」
「千鶴ちゃんと僕の子供、いっぱいほしいなあ」
「私もほしいです!がんばりましょうね!!」
「……君って、本当に天然だよね。でも、千鶴ちゃんのそういうところ、僕は大好きだし、救われてきたんだけど」
大きく息を吐いた沖田さんは、背中から私を抱きしめたまま、かみしめるように言葉を紡いだ。
「散っていったみんなの分も、僕が幸せにならなくちゃね」
「はい、沖田さ……いえ、総司さん」
私を抱きしめていた沖田さんの腕がほどかれる。
肩をつかまれ反転させられると、彼と向かい合わせになった。
鮮やかな新緑の色をたたえた彼の瞳が、わたしをとらえる。
「千鶴ちゃん、君も幸せになるんだよ……いや、僕が幸せにする」
「沖田さんのことは、私が絶対に幸せにします」
「総司さん、でしょ?」
「あ」
二人で声をそろえて笑う。
静かに降りしきる雪は、時折吹く風に運ばれて、私たちの頭や肩におり立つ。
「積もるかな」
「この冷え込みですから、明日の朝には一面の雪景色かもしれませんね」
「本当に寒いよね……やっぱり、今晩は君を抱いて寝るよ」
沖田さんはそう言いながら、再び私を抱きしめた。
雪は降る。
世界を真っ白に覆い尽くして。
何年たっても、今日のこの温もりを絶対に忘れない――
そう心に刻み込んだ、初冬の日だった。
→あとがき
*
ゲームネタバレあり
実は当初、斎藤さんのお話だったのですが……
(案的な十数行だけでしたが)
ゲーム薄桜鬼本編のストーリーブックを購入し、斜め読みしていたところ、斎藤ルートのエピローグを発見。
つらつら読んでみたら……
『最初に落ちてくる雪を千鶴と一緒に見たくて、待っている斎藤さん』
そんな、素敵な場面があるではないですか。
ん~ちょっとこれは……自分の文才の無さが悲しくなるから、やめとこう……でも完全に削除しちゃうのも悲しい……
という訳で、沖田さんに変更となった次第です。
これを書いている時点(2013年12月)で、管理人の迎えたゲームのエンディングは、沖田さんの鬼エンドのみ。
(ソフトは持ってないのでGREEですが)
なので、このお話には「幸せになってね!!」の気持ちをいっぱい詰め込みました。
ちなみに現在、左之さんルート攻略中。
*
鉛色の空に厚く垂れ込めた雲が、本格的な寒さの到来を予感させる。
「お茶、冷めないうちにどうぞ」
「うん、ありがとう」
書き物の途中で顔をちらっと上げた沖田さんが、優しい微笑みをくれる。
こんなふうに日々を安らかに過ごせる今が、なんだか夢みたいだ。
―――時代を駆け抜けてきたとも言える今日まで、たくさんの別れがあった。
沖田さんの瞳から、寂しげな影が完全に消えたわけではない。
けれど、私たちは、確かに希望を手にした。
沖田さんの身体を蝕んでいる労咳が、この地の澄んだ空気と水のおかげか、奇跡的な回復の兆しを見せているのだ。
それはお医者様もびっくりなさるほどに。
先に旅立たれた皆さんが、守ってくださっているに違いない……心からそう思える。―――
なんだか胸の奥があたたかくなり、私も沖田さんに微笑み返す。
「今夜は特別冷えそうですから、掛布団をもう一枚出しますね」
「千鶴ちゃん、すっかり若奥様だね。でも僕は、追加の布団より、君を抱いて寝る方があったかいと思うな」
「沖田さんたら!」
頬が熱を帯びたのを見られるのが恥ずかしくて、私は慌てて沖田さんの部屋を後にする。
「うう、寒い……」
空気のあまりの冷たさに、ふと空を見上げると、白いものがチラチラと舞っているのが目にはいった。
振り向きざま、たった今閉めたばかりの障子戸をスラッと開けて私は叫んでいた。
「沖田さん!雪です、雪が降ってきましたっ!!」
彼は、文机の上に書の道具を置くと、ゆっくり立ち上がった。
「雪なんて、そう珍しいものでもないよね……何がそんなに嬉しいの?」
「だって、初雪ですよ?なんだかウキウキしませんか?」
私の隣に立ち、「ふうん、そんなもん?」なんてつぶやきながら空を見上げる沖田さんに、私は「そうですよ」と大きく頷く。
「それに、今年最初の雪を一緒に見られるなんて、なんだか幸先いいような気がしませんか?」
「そうかもしれないね。でも僕は、千鶴ちゃんと一緒にいられれば、雪でも雨でも嬉しいけど」
「あ……ありがとうございます…………ックシュン」
急に冷たい空気を吸い込んでしまったためか、大きなクシャミをしてしまった。
「ご、ごめんなさ……ぁ!?」
言い終わらないうちに、背中を大きなぬくもりが包み込んだ。
「こうしていれば、温かいでしょ?」
「はい……ありがとうございます」
沖田さんの体温を背中いっぱいに感じて、体はもちろんのこと、心までポカポカとあたたかい。
*
降る雪は勢いを増し、視界が白く染まりそうなほどになってきた。
「そろそろお部屋に戻りましょうか?」
「どうして?僕と雪を見るのが嬉しいんじゃないの?」
「だって、このままじゃ、沖田さんが風邪ひいてしまいます 」
「せっかくの初雪なんでしょ、もうしばらくこうしてたって、バチは当たらないよ」
「じゃあ、もう少しだけ」
大好きな人の腕の中で、幻想的な雪景色を眺める。
こういう満たされた気持ちを、きっと“幸せ”って呼ぶんだよね。
日常の何気ない一瞬一瞬をいとおしく感じるのも、愛する人と共にいられるから……
「沖田さん」
「ん?……ていうか、君も“沖田さん”だよね」
「そういえばそうですよね……すみません、なかなか慣れなくって」
「あはは、謝らなくたっていいよ」
沖田さんは、小さく声をあげて笑う。
「で?なに?何か言いかけてたよね?」
子供に語りかけるような、柔らかい口調の沖田さん。
見えないけれど、とびきり優しい表情なんだろうな…
そう思いながら、私は答えた。
「はい……来年も再来年も、その先もずっとずっと、二人で初雪を見ましょうね……そう言いたかったんです」
「千鶴ちゃん、それはちょっと違うかな」
「え……?」
「ずっと“二人で”ってことはないよね?」
「あ!」
「僕らは今は、二人だけの夫婦だけど、そのうち大家族になるんだよ?」
「はい」
「千鶴ちゃんと僕の子供、いっぱいほしいなあ」
「私もほしいです!がんばりましょうね!!」
「……君って、本当に天然だよね。でも、千鶴ちゃんのそういうところ、僕は大好きだし、救われてきたんだけど」
大きく息を吐いた沖田さんは、背中から私を抱きしめたまま、かみしめるように言葉を紡いだ。
「散っていったみんなの分も、僕が幸せにならなくちゃね」
「はい、沖田さ……いえ、総司さん」
私を抱きしめていた沖田さんの腕がほどかれる。
肩をつかまれ反転させられると、彼と向かい合わせになった。
鮮やかな新緑の色をたたえた彼の瞳が、わたしをとらえる。
「千鶴ちゃん、君も幸せになるんだよ……いや、僕が幸せにする」
「沖田さんのことは、私が絶対に幸せにします」
「総司さん、でしょ?」
「あ」
二人で声をそろえて笑う。
静かに降りしきる雪は、時折吹く風に運ばれて、私たちの頭や肩におり立つ。
「積もるかな」
「この冷え込みですから、明日の朝には一面の雪景色かもしれませんね」
「本当に寒いよね……やっぱり、今晩は君を抱いて寝るよ」
沖田さんはそう言いながら、再び私を抱きしめた。
雪は降る。
世界を真っ白に覆い尽くして。
何年たっても、今日のこの温もりを絶対に忘れない――
そう心に刻み込んだ、初冬の日だった。
→あとがき
*
ゲームネタバレあり
実は当初、斎藤さんのお話だったのですが……
(案的な十数行だけでしたが)
ゲーム薄桜鬼本編のストーリーブックを購入し、斜め読みしていたところ、斎藤ルートのエピローグを発見。
つらつら読んでみたら……
『最初に落ちてくる雪を千鶴と一緒に見たくて、待っている斎藤さん』
そんな、素敵な場面があるではないですか。
ん~ちょっとこれは……自分の文才の無さが悲しくなるから、やめとこう……でも完全に削除しちゃうのも悲しい……
という訳で、沖田さんに変更となった次第です。
これを書いている時点(2013年12月)で、管理人の迎えたゲームのエンディングは、沖田さんの鬼エンドのみ。
(ソフトは持ってないのでGREEですが)
なので、このお話には「幸せになってね!!」の気持ちをいっぱい詰め込みました。
ちなみに現在、左之さんルート攻略中。
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