年のはじめに
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「う~……やっぱ、寒ぃな」
「しんしん冷える……って表現がぴったりだね。でも、風がなくてよかったよね」
首をすくめて身震いする平助に、千鶴がにっこりと微笑む。
「平助君、手袋してないから余計に寒く感じるんじゃない?」
「あ、そっか。んじゃ、こうすれば」
ポケットに突っ込んでいた手を片方出すと、平助は、手袋をはめている千鶴の左手とつないだ。
「うん、あったけえ!」
屈託なく笑う幼なじみに、「そう?よかった」と返す千鶴。
その頬は、ほんのり紅く染まったが、街灯もまばらな夜の道、平助がそのことに気付くはずもない。
大晦日も残すところわずかとなった夜半。
二人は、歩いて十分ほどの、近所の神社に向かっていた。
学生だった頃から、年が変わる時分の初詣は、平助と千鶴の恒例行事だった。
二人とも社会人になった今でも、紅白を見終わった平助が、千鶴の家の玄関チャイムを鳴らすのは変わらず、深夜の道を並んで歩くのも、同じだった。
鳥居の下の石灯籠が、灯りで照らし出されている。
その向こう側から歩いてくるのは、知った顔の男たちだった。
「お、新八っつぁんに左之さんじゃん!お~い!!」
「!?平助君っ……」
平助が意気揚々と挙げた右手は、千鶴の左手と繋がれたままだった。
「平助~新年早々、見せつけてんじゃねえよ」
「おい、新八、新年早々妬いてんじゃねぇって」
「新年!?……ってことは、もう年が明けたのか?」
永倉と原田の苦笑いには、まるきり頓着ない様子の平助に、千鶴が小声で訴える。
「平助君、手、手!」
「ん?……うわっ……ごめん、千鶴」
「ううん、私は大丈夫なんだけど……平助君がからかわれちゃうんじゃないかと……」
わたわたと手を離す二人に、歩み寄って来た原田が声をかける。
「千鶴、明けましておめでとう。今年もよろしくな」
「あ、こちらこそ……明けましてお「あーー!!」」
突然の平助の叫び声に、原田への言葉を遮られた千鶴は、目を白黒させる。
「ど、どうしたの?平助君」
「あのさっ……」
永倉と原田には聞こえないように、と必死らしい平助は、モゴモゴとつぶやく。
「千鶴からの今年最初の『おめでとう』はさ、やっぱ、オレに言ってほしいんだよな……左之さんたちにじゃなくって」
「あ、そっか……そうだよね。平助君、明けましておめでとう、今年もよろしくね」
「お、おう……明けましておめでとう、オレの方こそ、よろしくな!」
本人たちは内緒話のつもりでも、これほどの近い距離では、なんとなく話の内容はわかってしまうもので。
微笑ましい二人(当人たちは無意識だが)を目の当たりにしている永倉と原田は、互いに目配せし合うと、にんまりと笑った。
こいつら、俺らの存在忘れてんじゃねぇか?などとぼやきつつ、永倉がエヘンと咳払いをする。
「平助、元旦稽古、寝坊して遅刻なんかすんじゃねぇぞ」
「まかしとけって!一年の計は元旦にあり……っていうだろ」
張り切る平助を、原田が横目で眺める。
「千鶴、平助の野郎があんまりしつこかったら、殴って寝かしつけてやれよ」
「寝かしつける……ですか?」「だ~~!!俺も千鶴も、ちゃんと自分の家に帰るんだから、問題ねぇっての!」
首をかしげる千鶴を、はははと無理矢理な笑顔で誤魔化してから、平助は男たちに向き直った。
「ったく……そういう左之さんと新八っつぁんはどうなんだよ?どうせ、今から飲むんだろ?」
「ふふん、そこんとこは心配無用だ!」
永倉が自信たっぷりに胸を張る。
「なんせ、道場で飲むんだからな。万が一起きられなくたって、一応道場にゃあいるって寸法だ」
「それって、寝坊よりタチ悪ぃじゃん……」
呆れたようにため息をつく平助には構わず、永倉はニカッと笑った。
「ってぇことで、酒が待ってっから、俺らは先に行かせてもらうぜ」
続いて原田も男前な笑みを浮かべると、千鶴の頭をポンポンと撫でた。
「千鶴、人が増えてきたから、平助とはぐれないようにしろよ」
『がんばれよ』とばかりに平助の肩をたたき、二人は早足で石段を上がって行った。
「……私たちもお参りする?」
「あ、ああ……そうだな」
永倉と原田の姿が人込みに紛れて見えなくなると、千鶴は手袋をはずして、コートのポケットにしまった。
平助は、その手をすかさず掴んで、しっかりと握った。
「はぐれちまうと、いけねぇからな」
「うん……」
ゆっくりと石段を踏みしめて上り、神様に年のはじめのご挨拶をして今年の抱負を胸の内で語り、ご加護を祈る。
毎年変わらぬ風景の中、甘酒をいただいてから、二人は帰途についた。
「平助君は、永倉さんたちと一緒に行かなくていいの?」
「あ~いいって、いいって、どうせ、稽古で顔合わせるんだし。それより……せっかく千鶴といられるんだからさ、少しでも長く一緒にいたいんだって」
ちょっぴり照れくさそうに、視線を遠くに投げる平助。
再び繋いでいた手をキュッと握り直し、千鶴は反対の手で熱くなる頬を押さえた。
「あ……ありがとう……。その……稽古、がんばってね」
「ああ!二日酔いの新八っつぁんを、コテンパンにしてやるぜ……っつっても、あの人、竹刀を握ると別人になるからなあ……油断大敵だな」
「ふふ、私も見に行っちゃおうかな」
「ほんとか!?あ、でも……」
「?」
二人が一緒に現れたら、それこそ、神社で別れてから朝まで、そろって過ごしたのだろうと、永倉に妙な詮索をされるのに決まっている。
けど、もう、それでいいんじゃないか……
「平助君?」
不思議そうに顔を覗き込む千鶴に、平助は大きくうなずいた。
「いや……いいよな、うん。よし!んじゃ、千鶴も一緒に行くか?」
「うん!」
「朝早いからな、帰ったらすぐ寝て、明日……いやもう今日か、に備えるぞ」
「わかった!」
お互い気付いていないだけで、誰が見てもすっかり両想いな二人。
『今年は、あいつらが晴れて恋人同士になれるように、神様どうか、力を貸してやってくれねぇか?』――
たくさんの願い事と一緒に、そう、永倉と原田がお参りしたことは、もちろん平助と千鶴には内緒だ。
だが結局、元旦稽古を終えての飲み会(また飲むのかって?……まあ、お正月ということで)の最中、酔っぱらった新八から
「ったく焦れってぇな!さっさとくっついちまえよ!!」と、ストレートにせっつかれることになるのだけれど。
みんなみんなにとって、今年が素晴らしい年になりますように!!
*
「しんしん冷える……って表現がぴったりだね。でも、風がなくてよかったよね」
首をすくめて身震いする平助に、千鶴がにっこりと微笑む。
「平助君、手袋してないから余計に寒く感じるんじゃない?」
「あ、そっか。んじゃ、こうすれば」
ポケットに突っ込んでいた手を片方出すと、平助は、手袋をはめている千鶴の左手とつないだ。
「うん、あったけえ!」
屈託なく笑う幼なじみに、「そう?よかった」と返す千鶴。
その頬は、ほんのり紅く染まったが、街灯もまばらな夜の道、平助がそのことに気付くはずもない。
大晦日も残すところわずかとなった夜半。
二人は、歩いて十分ほどの、近所の神社に向かっていた。
学生だった頃から、年が変わる時分の初詣は、平助と千鶴の恒例行事だった。
二人とも社会人になった今でも、紅白を見終わった平助が、千鶴の家の玄関チャイムを鳴らすのは変わらず、深夜の道を並んで歩くのも、同じだった。
鳥居の下の石灯籠が、灯りで照らし出されている。
その向こう側から歩いてくるのは、知った顔の男たちだった。
「お、新八っつぁんに左之さんじゃん!お~い!!」
「!?平助君っ……」
平助が意気揚々と挙げた右手は、千鶴の左手と繋がれたままだった。
「平助~新年早々、見せつけてんじゃねえよ」
「おい、新八、新年早々妬いてんじゃねぇって」
「新年!?……ってことは、もう年が明けたのか?」
永倉と原田の苦笑いには、まるきり頓着ない様子の平助に、千鶴が小声で訴える。
「平助君、手、手!」
「ん?……うわっ……ごめん、千鶴」
「ううん、私は大丈夫なんだけど……平助君がからかわれちゃうんじゃないかと……」
わたわたと手を離す二人に、歩み寄って来た原田が声をかける。
「千鶴、明けましておめでとう。今年もよろしくな」
「あ、こちらこそ……明けましてお「あーー!!」」
突然の平助の叫び声に、原田への言葉を遮られた千鶴は、目を白黒させる。
「ど、どうしたの?平助君」
「あのさっ……」
永倉と原田には聞こえないように、と必死らしい平助は、モゴモゴとつぶやく。
「千鶴からの今年最初の『おめでとう』はさ、やっぱ、オレに言ってほしいんだよな……左之さんたちにじゃなくって」
「あ、そっか……そうだよね。平助君、明けましておめでとう、今年もよろしくね」
「お、おう……明けましておめでとう、オレの方こそ、よろしくな!」
本人たちは内緒話のつもりでも、これほどの近い距離では、なんとなく話の内容はわかってしまうもので。
微笑ましい二人(当人たちは無意識だが)を目の当たりにしている永倉と原田は、互いに目配せし合うと、にんまりと笑った。
こいつら、俺らの存在忘れてんじゃねぇか?などとぼやきつつ、永倉がエヘンと咳払いをする。
「平助、元旦稽古、寝坊して遅刻なんかすんじゃねぇぞ」
「まかしとけって!一年の計は元旦にあり……っていうだろ」
張り切る平助を、原田が横目で眺める。
「千鶴、平助の野郎があんまりしつこかったら、殴って寝かしつけてやれよ」
「寝かしつける……ですか?」「だ~~!!俺も千鶴も、ちゃんと自分の家に帰るんだから、問題ねぇっての!」
首をかしげる千鶴を、はははと無理矢理な笑顔で誤魔化してから、平助は男たちに向き直った。
「ったく……そういう左之さんと新八っつぁんはどうなんだよ?どうせ、今から飲むんだろ?」
「ふふん、そこんとこは心配無用だ!」
永倉が自信たっぷりに胸を張る。
「なんせ、道場で飲むんだからな。万が一起きられなくたって、一応道場にゃあいるって寸法だ」
「それって、寝坊よりタチ悪ぃじゃん……」
呆れたようにため息をつく平助には構わず、永倉はニカッと笑った。
「ってぇことで、酒が待ってっから、俺らは先に行かせてもらうぜ」
続いて原田も男前な笑みを浮かべると、千鶴の頭をポンポンと撫でた。
「千鶴、人が増えてきたから、平助とはぐれないようにしろよ」
『がんばれよ』とばかりに平助の肩をたたき、二人は早足で石段を上がって行った。
「……私たちもお参りする?」
「あ、ああ……そうだな」
永倉と原田の姿が人込みに紛れて見えなくなると、千鶴は手袋をはずして、コートのポケットにしまった。
平助は、その手をすかさず掴んで、しっかりと握った。
「はぐれちまうと、いけねぇからな」
「うん……」
ゆっくりと石段を踏みしめて上り、神様に年のはじめのご挨拶をして今年の抱負を胸の内で語り、ご加護を祈る。
毎年変わらぬ風景の中、甘酒をいただいてから、二人は帰途についた。
「平助君は、永倉さんたちと一緒に行かなくていいの?」
「あ~いいって、いいって、どうせ、稽古で顔合わせるんだし。それより……せっかく千鶴といられるんだからさ、少しでも長く一緒にいたいんだって」
ちょっぴり照れくさそうに、視線を遠くに投げる平助。
再び繋いでいた手をキュッと握り直し、千鶴は反対の手で熱くなる頬を押さえた。
「あ……ありがとう……。その……稽古、がんばってね」
「ああ!二日酔いの新八っつぁんを、コテンパンにしてやるぜ……っつっても、あの人、竹刀を握ると別人になるからなあ……油断大敵だな」
「ふふ、私も見に行っちゃおうかな」
「ほんとか!?あ、でも……」
「?」
二人が一緒に現れたら、それこそ、神社で別れてから朝まで、そろって過ごしたのだろうと、永倉に妙な詮索をされるのに決まっている。
けど、もう、それでいいんじゃないか……
「平助君?」
不思議そうに顔を覗き込む千鶴に、平助は大きくうなずいた。
「いや……いいよな、うん。よし!んじゃ、千鶴も一緒に行くか?」
「うん!」
「朝早いからな、帰ったらすぐ寝て、明日……いやもう今日か、に備えるぞ」
「わかった!」
お互い気付いていないだけで、誰が見てもすっかり両想いな二人。
『今年は、あいつらが晴れて恋人同士になれるように、神様どうか、力を貸してやってくれねぇか?』――
たくさんの願い事と一緒に、そう、永倉と原田がお参りしたことは、もちろん平助と千鶴には内緒だ。
だが結局、元旦稽古を終えての飲み会(また飲むのかって?……まあ、お正月ということで)の最中、酔っぱらった新八から
「ったく焦れってぇな!さっさとくっついちまえよ!!」と、ストレートにせっつかれることになるのだけれど。
みんなみんなにとって、今年が素晴らしい年になりますように!!
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