そらのびいどろ
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無意識のうちに、シュンとうなだれる。
「あ~あ、新八っつぁんがムキんなって否定するから、彼女へこんじゃったじゃんか」
「だから、そうじゃねえって言ってんだろ」
苦りきった顔で吠え続ける新八さんに対して、これまた私と同じ年くらいなのに、妙に落ち着いた雰囲気の蒼い瞳の男の人が静かに言った。
「そんなに真っ赤になって否定されても、誰も信じないと思うのだが」
「そうそう、一君の言うとおり!新八っつぁんのその態度は、思いっきり肯定してんのと同じなんだって」
何か言い返そうと、新八さんが息を大きく吸い込んだ時、別の声が響き渡った。
「おいってめえら!なに騒いでやがんだ!?」
「あ、土方さん、聞いてやってくれよ」
平助と呼ばれていた男の子が、怖そうだけど整った顔立ちの土方さんって人に駆け寄った。
「新八っつぁんってば、こんな可愛い彼女がいたくせに、俺らに内緒にしてたんだぜ。な!一君」
「いや、それはちょっと違うのではないか?」
「え?一君だって、さっき、そうだって言ってたじゃん」
首をかしげる平助君(って勝手に呼んじゃいます)に、総司って人が、やれやれといった表情を向ける。
「内緒にしてたんじゃなくてさ、さっきのが、運命の再会だったんだよ」
「俺も総司の見解に同意する」
落ち着いてる一君って人が、真面目な顔でうなずいた。
「へえ~そうなのか!?」と感心してみせてから、平助君は新八さんを横目で見ながら言う。
「なんにしたってさ、彼女いない歴二十五年、さらに現在更新中!の新八っつぁんにしてみりゃあ、こんな可愛い彼女ができれば、願ったり叶ったりじゃねえの?」
「なに失礼なことぬかしてやがんだ!?彼女いない歴が自分の年令より長い訳ねえだろうが!……まあ、もっとも、今いねえのは事実だけどよ」
おしまいの方はボソボソ呟くようになりながらも、新八さんが一応反論する。
そこに、背が高くて髪が紅い、ため息が出そうにかっこいい人が現れた。
彼は、新八さんの頭を片手でぐりぐりと撫でながら、愉快そうに言う。
「千鶴ちゃんだったか?こいつはな、女との約束より、道場や稽古の予定だとか、仲間を優先しちまう。だから、付き合う付き合わない以前にいっつも愛想尽かされて、年がら年中女日照りなんだとよ」
道場、稽古……
皆さん、どういった仲間なんだろう?
なんだか、よくわからない方向に話が転がっていきつつも、新八さんを取り囲んだ彼らは、生き生きと目を輝かせている。
「うおいっ!千鶴ちゃんが困ってんだろ!?」
いえ、私はちっとも困ってませんが…
むしろ、困ってるのは新八さん?
そう思いつつ口には出さずにいた私と、興味津々の仲間たちを、新八さんは交互に見る。
「ごめんな、千鶴ちゃん。こいつら……特に平助!おまえだ!!変なことばっか言いやがってよ、ったく……。口は悪いやつらだけど、悪気はねぇんだ、勘弁してやってくれ、な?」
「新八っつぁん、ひでえ~オレがいかにも悪者みたいじゃん。それに、オレより左之さんの方が、よっぽどえげつないこと言ってると思うんだけどな」
そう頬をふくらませつつ、平助君が「ちいっと、はしゃぎすぎちまったかな……嫌な思いさせてたら、ごめんな?」と申し訳なさそうに声をかけてくれた。
「いえ……楽しいです!」
「そっか!?」
笑い合う平助君と私の間に、新八さんがグイッと割り込んできた。
「ほら、平助は仕事に戻った戻った!」
「新八っつぁん……大人げねぇなあ」
言葉とは裏腹に、とっても嬉しそうな笑顔をみせてから、平助君は自分の持ち場に戻っていった。
「新八っつぁんのこと、よろしくな!」と私の肩をポンとたたきながら。
「おい、新八」
「なんでえ、土方さん」
何を言われるかと警戒した面持ちの永倉さんに、土方さんは淡く微笑んでみせた。
「久しぶりの再会なんだろ?てめえは、売り物もなくなっちまったことだし、つもる話でもしながらその辺歩いてきたらどうだ?」
その言葉と表情が意外だったのか、一瞬ポカンと口を開けてから、永倉さんは満面の笑みを浮かべた。
「サンキュー土方さん、恩に着るぜ」
*
新八さんと連れ立って歩く。
季節と目線の高さは異なるけれど、まるで初めて出会ったあの日のように。
「ったく……みんなテンション高くて、びっくりしただろ?」
「いえ、すごく楽しそうで羨ましかったです。心を許せる仲間って感じで」
新八さんは柔らかな表情を浮かべた。
「俺と左之、土方さんの三人は社会人。あとの三人は、大学生なんだけどよ。知ってっかな、試衛館って道場……俺らみんな、そこの剣道仲間なんだ」
「あ、その名前は聞いたことがあります。クラスの子たちが騒いでたんです、試衛館っていう所に、素敵な人がたくさんいるって」
「まあ、あいつらを見りゃあ、実際そのとおりだよな」
「はい、みんながキャアキャア騒ぐのが、納得いきました」
新八さんだって、その中の一人なんだから。
彼のことも、きっと、そんなふうにチェックしてる女の子がいるよね……
そう思ったら、ドラマチックな再会に盛り上がっていた気持ちが、急速に萎れていく。
「学校って……近いのか?」
「薄桜女学院です。今年高等部の三年生になりました」
「そりゃ、筋金入りのお嬢様じゃねぇか」
「そ、そんなことは……」
大げさに驚いた素振りをみせてから、「なーんてな」と片目を瞑る新八さんにつられて、私の頬もゆるむ。
どの店を覗くでもなく、並んでのんびり歩く。
「こないだ、俺の二十四の誕生日だったんだ。そしたら、みんなして『永倉新八に彼女をつくろうキャンペーン』なんてのをおっ始めやがって……余計なお世話だってえの」
深いため息をつく新八さんには申し訳ないけれど、私は思わずクスリと笑ってしまった。
「そこで笑われちまうと、さすがにへこむなあ……」
嘆かわしそうに空を仰ぐ新八さんに、ますます笑いがこみ上げてきたけど、それは慌ててのみ込んだ。
「いえ、その……お誕生日おめでとうございます。皆さん……仲間同士の絆がとっても強いんですね」
「その仲間ってのが、どいつもこいつもいい男だからさ、どうしたって、俺が引き立て役になっちまうんだよな」
そうい言いながらも、新八さんはとっても誇らしげで。
きっと、皆さんのことが大好きで、大切な大切な仲間なんだろうな……そう思えた。
新八さんは続ける。
「そりゃ、彼女はほしいし、あいつらがなんやかんやと応援してはくれるんだけど……なんかこう、ピンとこなかったんだよ、今日までは」
心臓がドクンと高鳴った。
「今日は……ピンときたんですか?」
「ああ、千鶴ちゃんを見たら、ここにしっくりきたんだよな」
自身の胸をトントンとたたきながら、彼は二カッと笑った。
そこまで言ってくれるなら、「じゃあ、俺の彼女に」って展開を期待しちゃうよね。
マンガやドラマだったらそれが定石なんだろうけれど……
実はちょっと、そんなセリフを待ってたりしたんだけど……
新八さんは、あっさりと話題を変えた。
「ビー玉、ずっと持っててくれたんだな……ありがとうよ」
「私の宝物ですから……あ!」
植え込みの端っこに、忘れられたみたいに転がっているビー玉を見つけた。
「こんな所まで転がってたんですね」
拾い上げて目の前にかざしてみる。
「わあ、きれい……サーモンピンク?」
「ああ、そりゃ東雲色だな」
「しののめ?」
すかさず答えてくれた新八さんに、私は思わず首をかしげた。
「朝焼けに染まる東の空の色……ってとこかな」
どれ貸してみ、と私の手からビー玉をつまみ上げ、今度は彼が、それを青空にかざした。
「千鶴ちゃんが持ってるのは、爽やかに晴れた空の色。こっちのは、まさに一日が始まろうとする時の空の色だな」
「ひとくちに空の色って言っても、本当にいろんな色があるんですね」
新八さんの手の中のビー玉を横から覗き込んだら、必然的に距離が縮まって、彼の腕と私の肩が触れた。
……
………なんだか、背後が騒がしい。
「おい、押すなって」
「うわっ!!」
試衛館の皆さんのうち、大学生の三人が、物陰からなだれ込んできた。
「あ~あ、見つかっちまった……ってか、じれってぇな。なにやってんだよ、新八っつぁん」
「まったく……さっさと押し倒しちゃえばいいのに」
「総司、それはれっきとした犯罪だ」
「え~一君てば何言ってんの、見るからに合意の上でしょ?」
恐る恐る隣を見れば、新八さんは、凍りついたような笑顔を浮かべていた。
「お~ま~え~ら~~……」
「てめぇらっ、仕事しやがれ!!」
「「げ、土方さん!?」」
眉間にシワを刻んだ土方さんの怒声が、新八さんの声を圧倒した。
(きっと今頃、お店は左之さん一人でてんてこ舞いのはずだ)
「ったく、周りがチョロチョロしてたら、うまくいくもんもいかなくなるだろうが」
舌打ちする土方さんを、総司さんが半眼で見る。
「土方さんは、新八さんが心配じゃないんですか?」
「心配だったら、邪魔するんじゃねえ!……新八、悪かったな」
三人を引き連れて、土方さんが去ってしまえば、また新八さんと二人きり。
新緑の香りの風が、頬をくすぐる。
今言わなきゃ……
言葉が自然に、唇からこぼれる。
「また……会ってもらえますか?」
「ああ、そりゃ、こっちの台詞だ。……そうだ」
東雲のビー玉を握りしめて、彼はお日様の笑顔で言った。
「夏には、また街の納涼祭に行ってみるか?」
「はい!」
大きくうなずけば、吸い込まれそうな空色の瞳が、優しく微笑む。
私は、再び空のビー玉をポケットから取り出して、透かしてみた。
その向こうには、新八さんと私を包む、青い青い空が広がっていた。
*
「あ~あ、新八っつぁんがムキんなって否定するから、彼女へこんじゃったじゃんか」
「だから、そうじゃねえって言ってんだろ」
苦りきった顔で吠え続ける新八さんに対して、これまた私と同じ年くらいなのに、妙に落ち着いた雰囲気の蒼い瞳の男の人が静かに言った。
「そんなに真っ赤になって否定されても、誰も信じないと思うのだが」
「そうそう、一君の言うとおり!新八っつぁんのその態度は、思いっきり肯定してんのと同じなんだって」
何か言い返そうと、新八さんが息を大きく吸い込んだ時、別の声が響き渡った。
「おいってめえら!なに騒いでやがんだ!?」
「あ、土方さん、聞いてやってくれよ」
平助と呼ばれていた男の子が、怖そうだけど整った顔立ちの土方さんって人に駆け寄った。
「新八っつぁんってば、こんな可愛い彼女がいたくせに、俺らに内緒にしてたんだぜ。な!一君」
「いや、それはちょっと違うのではないか?」
「え?一君だって、さっき、そうだって言ってたじゃん」
首をかしげる平助君(って勝手に呼んじゃいます)に、総司って人が、やれやれといった表情を向ける。
「内緒にしてたんじゃなくてさ、さっきのが、運命の再会だったんだよ」
「俺も総司の見解に同意する」
落ち着いてる一君って人が、真面目な顔でうなずいた。
「へえ~そうなのか!?」と感心してみせてから、平助君は新八さんを横目で見ながら言う。
「なんにしたってさ、彼女いない歴二十五年、さらに現在更新中!の新八っつぁんにしてみりゃあ、こんな可愛い彼女ができれば、願ったり叶ったりじゃねえの?」
「なに失礼なことぬかしてやがんだ!?彼女いない歴が自分の年令より長い訳ねえだろうが!……まあ、もっとも、今いねえのは事実だけどよ」
おしまいの方はボソボソ呟くようになりながらも、新八さんが一応反論する。
そこに、背が高くて髪が紅い、ため息が出そうにかっこいい人が現れた。
彼は、新八さんの頭を片手でぐりぐりと撫でながら、愉快そうに言う。
「千鶴ちゃんだったか?こいつはな、女との約束より、道場や稽古の予定だとか、仲間を優先しちまう。だから、付き合う付き合わない以前にいっつも愛想尽かされて、年がら年中女日照りなんだとよ」
道場、稽古……
皆さん、どういった仲間なんだろう?
なんだか、よくわからない方向に話が転がっていきつつも、新八さんを取り囲んだ彼らは、生き生きと目を輝かせている。
「うおいっ!千鶴ちゃんが困ってんだろ!?」
いえ、私はちっとも困ってませんが…
むしろ、困ってるのは新八さん?
そう思いつつ口には出さずにいた私と、興味津々の仲間たちを、新八さんは交互に見る。
「ごめんな、千鶴ちゃん。こいつら……特に平助!おまえだ!!変なことばっか言いやがってよ、ったく……。口は悪いやつらだけど、悪気はねぇんだ、勘弁してやってくれ、な?」
「新八っつぁん、ひでえ~オレがいかにも悪者みたいじゃん。それに、オレより左之さんの方が、よっぽどえげつないこと言ってると思うんだけどな」
そう頬をふくらませつつ、平助君が「ちいっと、はしゃぎすぎちまったかな……嫌な思いさせてたら、ごめんな?」と申し訳なさそうに声をかけてくれた。
「いえ……楽しいです!」
「そっか!?」
笑い合う平助君と私の間に、新八さんがグイッと割り込んできた。
「ほら、平助は仕事に戻った戻った!」
「新八っつぁん……大人げねぇなあ」
言葉とは裏腹に、とっても嬉しそうな笑顔をみせてから、平助君は自分の持ち場に戻っていった。
「新八っつぁんのこと、よろしくな!」と私の肩をポンとたたきながら。
「おい、新八」
「なんでえ、土方さん」
何を言われるかと警戒した面持ちの永倉さんに、土方さんは淡く微笑んでみせた。
「久しぶりの再会なんだろ?てめえは、売り物もなくなっちまったことだし、つもる話でもしながらその辺歩いてきたらどうだ?」
その言葉と表情が意外だったのか、一瞬ポカンと口を開けてから、永倉さんは満面の笑みを浮かべた。
「サンキュー土方さん、恩に着るぜ」
*
新八さんと連れ立って歩く。
季節と目線の高さは異なるけれど、まるで初めて出会ったあの日のように。
「ったく……みんなテンション高くて、びっくりしただろ?」
「いえ、すごく楽しそうで羨ましかったです。心を許せる仲間って感じで」
新八さんは柔らかな表情を浮かべた。
「俺と左之、土方さんの三人は社会人。あとの三人は、大学生なんだけどよ。知ってっかな、試衛館って道場……俺らみんな、そこの剣道仲間なんだ」
「あ、その名前は聞いたことがあります。クラスの子たちが騒いでたんです、試衛館っていう所に、素敵な人がたくさんいるって」
「まあ、あいつらを見りゃあ、実際そのとおりだよな」
「はい、みんながキャアキャア騒ぐのが、納得いきました」
新八さんだって、その中の一人なんだから。
彼のことも、きっと、そんなふうにチェックしてる女の子がいるよね……
そう思ったら、ドラマチックな再会に盛り上がっていた気持ちが、急速に萎れていく。
「学校って……近いのか?」
「薄桜女学院です。今年高等部の三年生になりました」
「そりゃ、筋金入りのお嬢様じゃねぇか」
「そ、そんなことは……」
大げさに驚いた素振りをみせてから、「なーんてな」と片目を瞑る新八さんにつられて、私の頬もゆるむ。
どの店を覗くでもなく、並んでのんびり歩く。
「こないだ、俺の二十四の誕生日だったんだ。そしたら、みんなして『永倉新八に彼女をつくろうキャンペーン』なんてのをおっ始めやがって……余計なお世話だってえの」
深いため息をつく新八さんには申し訳ないけれど、私は思わずクスリと笑ってしまった。
「そこで笑われちまうと、さすがにへこむなあ……」
嘆かわしそうに空を仰ぐ新八さんに、ますます笑いがこみ上げてきたけど、それは慌ててのみ込んだ。
「いえ、その……お誕生日おめでとうございます。皆さん……仲間同士の絆がとっても強いんですね」
「その仲間ってのが、どいつもこいつもいい男だからさ、どうしたって、俺が引き立て役になっちまうんだよな」
そうい言いながらも、新八さんはとっても誇らしげで。
きっと、皆さんのことが大好きで、大切な大切な仲間なんだろうな……そう思えた。
新八さんは続ける。
「そりゃ、彼女はほしいし、あいつらがなんやかんやと応援してはくれるんだけど……なんかこう、ピンとこなかったんだよ、今日までは」
心臓がドクンと高鳴った。
「今日は……ピンときたんですか?」
「ああ、千鶴ちゃんを見たら、ここにしっくりきたんだよな」
自身の胸をトントンとたたきながら、彼は二カッと笑った。
そこまで言ってくれるなら、「じゃあ、俺の彼女に」って展開を期待しちゃうよね。
マンガやドラマだったらそれが定石なんだろうけれど……
実はちょっと、そんなセリフを待ってたりしたんだけど……
新八さんは、あっさりと話題を変えた。
「ビー玉、ずっと持っててくれたんだな……ありがとうよ」
「私の宝物ですから……あ!」
植え込みの端っこに、忘れられたみたいに転がっているビー玉を見つけた。
「こんな所まで転がってたんですね」
拾い上げて目の前にかざしてみる。
「わあ、きれい……サーモンピンク?」
「ああ、そりゃ東雲色だな」
「しののめ?」
すかさず答えてくれた新八さんに、私は思わず首をかしげた。
「朝焼けに染まる東の空の色……ってとこかな」
どれ貸してみ、と私の手からビー玉をつまみ上げ、今度は彼が、それを青空にかざした。
「千鶴ちゃんが持ってるのは、爽やかに晴れた空の色。こっちのは、まさに一日が始まろうとする時の空の色だな」
「ひとくちに空の色って言っても、本当にいろんな色があるんですね」
新八さんの手の中のビー玉を横から覗き込んだら、必然的に距離が縮まって、彼の腕と私の肩が触れた。
……
………なんだか、背後が騒がしい。
「おい、押すなって」
「うわっ!!」
試衛館の皆さんのうち、大学生の三人が、物陰からなだれ込んできた。
「あ~あ、見つかっちまった……ってか、じれってぇな。なにやってんだよ、新八っつぁん」
「まったく……さっさと押し倒しちゃえばいいのに」
「総司、それはれっきとした犯罪だ」
「え~一君てば何言ってんの、見るからに合意の上でしょ?」
恐る恐る隣を見れば、新八さんは、凍りついたような笑顔を浮かべていた。
「お~ま~え~ら~~……」
「てめぇらっ、仕事しやがれ!!」
「「げ、土方さん!?」」
眉間にシワを刻んだ土方さんの怒声が、新八さんの声を圧倒した。
(きっと今頃、お店は左之さん一人でてんてこ舞いのはずだ)
「ったく、周りがチョロチョロしてたら、うまくいくもんもいかなくなるだろうが」
舌打ちする土方さんを、総司さんが半眼で見る。
「土方さんは、新八さんが心配じゃないんですか?」
「心配だったら、邪魔するんじゃねえ!……新八、悪かったな」
三人を引き連れて、土方さんが去ってしまえば、また新八さんと二人きり。
新緑の香りの風が、頬をくすぐる。
今言わなきゃ……
言葉が自然に、唇からこぼれる。
「また……会ってもらえますか?」
「ああ、そりゃ、こっちの台詞だ。……そうだ」
東雲のビー玉を握りしめて、彼はお日様の笑顔で言った。
「夏には、また街の納涼祭に行ってみるか?」
「はい!」
大きくうなずけば、吸い込まれそうな空色の瞳が、優しく微笑む。
私は、再び空のビー玉をポケットから取り出して、透かしてみた。
その向こうには、新八さんと私を包む、青い青い空が広がっていた。
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