禁断甘味(きんだんスウィーツ)
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「では、失礼する」
凛とした物言いとは裏腹に、山崎はおずおずと、震える手を千鶴の背中に回す。
「山崎君、それじゃわからないでしょ?もっと、ギュッとしなくちゃ」
沖田に煽られ、人前でこのようなことをしている自分に疑問を感じつつ、山崎は千鶴を抱きしめる腕に力をこめた――
『カシャッ』
「!!!?!」「沖田先輩!?」
「タイトルは『硬派な保健委員、禁断の身体検査』なんて、どうかな?」
目を三日月の形に細めて、沖田が愉快そうにスマホを操作している。
「おいっ沖田!今すぐその画像を消せっ!!」
「え~それはやだなあ……せっかくいい写真が撮れたのに」
「肖像権の侵害だ、こら、待て!!」
鬼の形相で追いかけ回す山崎を軽やかにかわしながら逃げる沖田は、さながら猫のようだ。
「僕、これから島原の女の子とデートなんだ。山崎君、あてられるの承知で追いかけてきたいなら、どうぞご自由に。あ、千鶴ちゃん、またね」
スマホを死守しながら手をひらひらと振り、沖田はあっという間に姿を消した。
「若いねぇ……うらやましいもんだ」
「同感です、青春ドラマ(ギャグ)を見ているようでした」
源さんと島田が、あっけにとられながらも感心したようにつぶやく。
「まったく……猫が嵐しょって来たような奴です」
眉間にしわを寄せ盛大なため息をついた山崎は、千鶴に向き直った。
「雪村君……すまない」
「え?何がですが?」
きょとんと首をかしげる千鶴に、山崎は言いにくそうに口を開く。
「俺が沖田の口車に乗ってしまったばかりに、あのような写真を撮られてしまった」
「ああ、構わないですよ」
「え?」
「だって、やましいことなんか何もないですよ?それに、源さんと島田さんという証人もいらっしゃるじゃないですか」
「そ、それはそうだが、世間には、口さがない連中も多いからな」
「あ、もしかして……」
千鶴は、申し訳なさそうに眉を下げた。
「私は大丈夫ですけど、山崎先輩は、私なんかと噂になったら……ご迷惑ですよね……」
ションボリと目を伏せる千鶴。
「なっ……そ、そんなこと……迷惑なんてことはっ」
常に冷静沈着をモットーとする山崎が、これほど取り乱す場面も珍しい。
そんな彼の様子から、目の前の千鶴に伝えにくい事実、つまり、自分にとってよくない結果を想像し、千鶴は泣きたくなるのを堪えて声をしぼりだした。
「…………で、山崎先輩、その……どうでしたか?私、やっぱり……ふ、太って……」
「いるわけ、ないだろう?」
ピシャリと言い放つ山崎に、千鶴は驚いて肩をビクリと震わせる。
山崎は小さく息を吐いて続けた。
「今にも折れてしまいそうで心もとない。雪村君、君はもう少し太った方がいい」
「太っても……いいんでしょうか?」
「やせるとか太るとか以前に、健康が一番ですよ」
島田の快活な言葉に、千鶴が、はっとしたように顔を上げた。
元締め源さんが穏やかに語り出す。
「島田君の言うとおりだ。私の作る甘味なら、添加物なんかの体に悪いものは何にも入ってない。おいしいものをおいしく食べて、身心ともに健康な女性が、一番魅力的なんじゃないかな?」
「おいしく健康に……」
「そのとおり」
大きくうなずいた源さんが、テーブルに並べられたモンブランを指し示す。
「さあ、今日の自信作を食べてみてくれないかな」
「はいっ、いただきます!」
吹っ切れたような千鶴の笑顔がはじける。
甘味友の会は、今までどおりの和やかな空気に包まれた。
沖田にそそのかされて禁断の果実を口にしてしまった山崎は、その後――
思う存分源さんお手製の甘味を堪能した集会の後、毎回千鶴と並んで下校するようになったそうな。
そして、その別れ際、彼女をギュッとして抱き心地を確かめる“愛の身体検査”を欠かさぬようになりましたとさ。
*
凛とした物言いとは裏腹に、山崎はおずおずと、震える手を千鶴の背中に回す。
「山崎君、それじゃわからないでしょ?もっと、ギュッとしなくちゃ」
沖田に煽られ、人前でこのようなことをしている自分に疑問を感じつつ、山崎は千鶴を抱きしめる腕に力をこめた――
『カシャッ』
「!!!?!」「沖田先輩!?」
「タイトルは『硬派な保健委員、禁断の身体検査』なんて、どうかな?」
目を三日月の形に細めて、沖田が愉快そうにスマホを操作している。
「おいっ沖田!今すぐその画像を消せっ!!」
「え~それはやだなあ……せっかくいい写真が撮れたのに」
「肖像権の侵害だ、こら、待て!!」
鬼の形相で追いかけ回す山崎を軽やかにかわしながら逃げる沖田は、さながら猫のようだ。
「僕、これから島原の女の子とデートなんだ。山崎君、あてられるの承知で追いかけてきたいなら、どうぞご自由に。あ、千鶴ちゃん、またね」
スマホを死守しながら手をひらひらと振り、沖田はあっという間に姿を消した。
「若いねぇ……うらやましいもんだ」
「同感です、青春ドラマ(ギャグ)を見ているようでした」
源さんと島田が、あっけにとられながらも感心したようにつぶやく。
「まったく……猫が嵐しょって来たような奴です」
眉間にしわを寄せ盛大なため息をついた山崎は、千鶴に向き直った。
「雪村君……すまない」
「え?何がですが?」
きょとんと首をかしげる千鶴に、山崎は言いにくそうに口を開く。
「俺が沖田の口車に乗ってしまったばかりに、あのような写真を撮られてしまった」
「ああ、構わないですよ」
「え?」
「だって、やましいことなんか何もないですよ?それに、源さんと島田さんという証人もいらっしゃるじゃないですか」
「そ、それはそうだが、世間には、口さがない連中も多いからな」
「あ、もしかして……」
千鶴は、申し訳なさそうに眉を下げた。
「私は大丈夫ですけど、山崎先輩は、私なんかと噂になったら……ご迷惑ですよね……」
ションボリと目を伏せる千鶴。
「なっ……そ、そんなこと……迷惑なんてことはっ」
常に冷静沈着をモットーとする山崎が、これほど取り乱す場面も珍しい。
そんな彼の様子から、目の前の千鶴に伝えにくい事実、つまり、自分にとってよくない結果を想像し、千鶴は泣きたくなるのを堪えて声をしぼりだした。
「…………で、山崎先輩、その……どうでしたか?私、やっぱり……ふ、太って……」
「いるわけ、ないだろう?」
ピシャリと言い放つ山崎に、千鶴は驚いて肩をビクリと震わせる。
山崎は小さく息を吐いて続けた。
「今にも折れてしまいそうで心もとない。雪村君、君はもう少し太った方がいい」
「太っても……いいんでしょうか?」
「やせるとか太るとか以前に、健康が一番ですよ」
島田の快活な言葉に、千鶴が、はっとしたように顔を上げた。
元締め源さんが穏やかに語り出す。
「島田君の言うとおりだ。私の作る甘味なら、添加物なんかの体に悪いものは何にも入ってない。おいしいものをおいしく食べて、身心ともに健康な女性が、一番魅力的なんじゃないかな?」
「おいしく健康に……」
「そのとおり」
大きくうなずいた源さんが、テーブルに並べられたモンブランを指し示す。
「さあ、今日の自信作を食べてみてくれないかな」
「はいっ、いただきます!」
吹っ切れたような千鶴の笑顔がはじける。
甘味友の会は、今までどおりの和やかな空気に包まれた。
沖田にそそのかされて禁断の果実を口にしてしまった山崎は、その後――
思う存分源さんお手製の甘味を堪能した集会の後、毎回千鶴と並んで下校するようになったそうな。
そして、その別れ際、彼女をギュッとして抱き心地を確かめる“愛の身体検査”を欠かさぬようになりましたとさ。
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