禁断甘味(きんだんスウィーツ)
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放課後の学食。
毎週金曜日に行われる秘密の集会、その名も『薄桜甘味友の会』
そもそものきっかけは、学食のメニューとして、デザート的な甘いものをとり入れたい、という源さんの希望だった。
新メニュー選定のためのメンバーとして白羽の矢が立ったのは……
☆その外見に似合わず、スイーツ好きを自他ともに認める用務員の島田魁
☆甘いものといえば、やっぱり女子!紅一点の雪村千鶴
☆青少年の身体に与える影響を考慮すべく召集された保健委員、山崎烝
☆そして、薄桜学園のお母さん。この会の元締め、井上源三郎
こう言ってしまうと、仰々しい一大プロジェクトのようだが、その実、甘味好きな面々が、源さんの新作に舌鼓を打ち感想を言い合うという、なんとも平和でほのぼのとした集まりとなっていた。
さてさて今日は花の金曜日。
今まさに、甘味友の会の集会が始まろうとしている――
「男だけでケーキ屋に入るのも、なかなか勇気のいるものですからね。毎週のこの時間は、すごく楽しみですよ」
人数分のトレイを並べる島田が言えば、お茶の用意をしながら山崎が応じる。
「しかし、スウィーツ男子というのも近頃は市民権を得てきていますからね、前ほど肩身の狭い思いをしなくてすむのではありませんか?」
「ほい、一丁上がり!今日は紫芋のモンブランを作ってみたんだが」
「これはまた、美味そうですね」
「雪村君の喜ぶ顔が目に浮かびます」
島田が目を輝かせ、山崎がちょっぴり顔をほころばせる。
「あれ?雪村君の姿がないようだが」
源さんが学食の入り口に目をやった。
「そういえば」「教室には、もういなかったはずですが」
島田と山崎が首をひねったその時、ちょうど千鶴が姿を現した。
普段ふんわりとした雰囲気をまとっている千鶴だが、どうした理由か今日の彼女は、一見して首を傾げたくなる程のどんよりとした重い空気を背負っている。
皆が声をかけあぐねていると、千鶴は、半分泣きそうな顔、もう半分は自嘲的な笑顔を浮かべて、か細い声を出した。
「私……甘味友の会を退会しなくちゃなりません」
「ええっ!?」「そりゃまた、どうして!?」
男性三人が、顔を見合わせる。
寝耳に水の状況の中、源さんが一歩千鶴に歩み寄り、なだめるように声をかける。
「雪村君、よかったら、何があったか話してくれないかい?私らにだって、話を聞くくらいなら出来ると思うよ」
皆の顔を順番にちら見してから、千鶴は深く後悔した様子で言った。
「なるべく存在を無視していた体重計に、昨日の夜軽い気持ちで乗ってみてしまったんです。そしたら……」
そこで言葉をつまらせてしまったが、彼女の言わんとすることは、充分全員に伝わった。
「しかし、ちっとも、太ったようになど見えないですよ」
重苦しい空気の中、島田が先陣を切って発言する。
そうだそうだ、と、あとの二人もうなずく。
「でも、体重計の数字に間違いはありません」
あの数字を目にした時の衝撃といったら……
そう言ってうなだれる千鶴を慰めるように、山崎が理路整然と述べる。
「2リットルのペットボトルの水を一気飲みすれば、体重は瞬時に2キロ増える。だから、気にする必要などないだろう」
「そうでしょうか……」
上目遣いに見上げる千鶴の表情の艶っぽさに、山崎は「そ、そうだともっ」と動転しそうな気持ちを抑えて答える。
「じゃあ……私、まだ甘味友の会に所属していても大丈夫ですよね?」
「当たり前だよ、雪村君。そもそも、脱退を認めるなんて誰も言ってないだろう?」
源さんの言葉に、安心したように笑顔をみせる千鶴。
居並ぶ面々がホッと安堵の息を吐いたその時、何者かが学食に足を踏み入れた。
*
「千鶴ちゃん!」「きゃあっ」
突然のことだった。
音もなく現れた沖田に、千鶴は後ろから抱きすくめられていた。
「沖田先輩っ!?」
「ん~ちょっと丸みが増した感じかな?」
千鶴の顔色が変わった。
沖田から自分をベリッと引き剥がすと、彼女は沖田とまっすぐに向き合った。
「ちょっと待ってください!丸みが増したって……何と比較して言ってるんですか?」
「まあまあ、最近の研究では、あんまりやせてるより、ふくよかな方が長生きするって話もあるじゃない?」
「答になってません!!」
甘味友の会の男性諸君にしてみれば、千鶴の怒りのポイントが微妙にずれているように思われる。
だがしかし、当の千鶴は、いきなり抱きつかれたことよりも『丸み』『ふくよか』そういう類いの言葉に対し、過剰なまでの反応を示していた。
そんな彼女ににっこり微笑むと、沖田は山崎に視線を移した。
「けどさ……山崎君ともあろうものが、僕の気配に気付かなかったわけ?」
「…………」
沖田をにらみつけてから、悔しそうに目をそらす山崎。
「うん、わかるよ。僕の気配なんかに比べたら、千鶴ちゃんの存在感の方が圧倒的だもんね」
「……なにが言いたい?」
「いつもこうやって一緒にいるくせに、しかも保健委員のくせして、君ってば千鶴ちゃんの抱き心地も知らないの?」
「なっ!?」「そんなもの、誰も知りませんっ」
山崎を押しのける勢いで叫ぶ千鶴。
「まあまあ、雪村君……」
鼻息荒い彼女を、源さんがなだめる。
勝ち誇ったように、さらに言い募る沖田。
「山崎君、保健委員を名乗る以上は、全校生徒のことくらいちゃんと把握しておくべきなんじゃないのかな?」
「どういう意味だ?」
「体重に関する女子生徒のお悩みにも、即座に自信を持って答えられるくらいでなきゃ、山南先生の片腕としては物足りないかなあ……」
「くっ……!」
畳み掛けるような沖田の挑発に、山崎は苦しげな表情を作る。
「山崎先輩」
皆の目が一斉に、千鶴に向く。
「私でしたら、事実を受け入れる覚悟ができています。隠したり誤魔化したりなさらなくて結構ですから……どうか、本当のことを教えてください」
「だからっ…沖田の言うことなど、気にする必要は」
「だからこそ!山崎先輩のご意見を聞きたいんです。沖田先輩の指摘された抱き心地というものが、本当なのかどうか……保健委員である先輩が、実際に確かめてください。お願いします!」
勢いよく頭を下げる千鶴。
しかし、そうは言われても、沖田のように気軽に女子に触れるなんてこと、山崎にできる訳がない。
千鶴は、さらに一歩近づくと、困惑して目を泳がせる山崎をキッと見つめた。
「どうか、お願いします。そして……太ってるなら太ってるって、はっきりおっしゃってください!」
女子にとって、やせたの太ったのということは、それほどまでに重大な問題であったのか……!
真剣な眼差しで見上げる千鶴に、とうとう山崎も腹をくくった。
*
毎週金曜日に行われる秘密の集会、その名も『薄桜甘味友の会』
そもそものきっかけは、学食のメニューとして、デザート的な甘いものをとり入れたい、という源さんの希望だった。
新メニュー選定のためのメンバーとして白羽の矢が立ったのは……
☆その外見に似合わず、スイーツ好きを自他ともに認める用務員の島田魁
☆甘いものといえば、やっぱり女子!紅一点の雪村千鶴
☆青少年の身体に与える影響を考慮すべく召集された保健委員、山崎烝
☆そして、薄桜学園のお母さん。この会の元締め、井上源三郎
こう言ってしまうと、仰々しい一大プロジェクトのようだが、その実、甘味好きな面々が、源さんの新作に舌鼓を打ち感想を言い合うという、なんとも平和でほのぼのとした集まりとなっていた。
さてさて今日は花の金曜日。
今まさに、甘味友の会の集会が始まろうとしている――
「男だけでケーキ屋に入るのも、なかなか勇気のいるものですからね。毎週のこの時間は、すごく楽しみですよ」
人数分のトレイを並べる島田が言えば、お茶の用意をしながら山崎が応じる。
「しかし、スウィーツ男子というのも近頃は市民権を得てきていますからね、前ほど肩身の狭い思いをしなくてすむのではありませんか?」
「ほい、一丁上がり!今日は紫芋のモンブランを作ってみたんだが」
「これはまた、美味そうですね」
「雪村君の喜ぶ顔が目に浮かびます」
島田が目を輝かせ、山崎がちょっぴり顔をほころばせる。
「あれ?雪村君の姿がないようだが」
源さんが学食の入り口に目をやった。
「そういえば」「教室には、もういなかったはずですが」
島田と山崎が首をひねったその時、ちょうど千鶴が姿を現した。
普段ふんわりとした雰囲気をまとっている千鶴だが、どうした理由か今日の彼女は、一見して首を傾げたくなる程のどんよりとした重い空気を背負っている。
皆が声をかけあぐねていると、千鶴は、半分泣きそうな顔、もう半分は自嘲的な笑顔を浮かべて、か細い声を出した。
「私……甘味友の会を退会しなくちゃなりません」
「ええっ!?」「そりゃまた、どうして!?」
男性三人が、顔を見合わせる。
寝耳に水の状況の中、源さんが一歩千鶴に歩み寄り、なだめるように声をかける。
「雪村君、よかったら、何があったか話してくれないかい?私らにだって、話を聞くくらいなら出来ると思うよ」
皆の顔を順番にちら見してから、千鶴は深く後悔した様子で言った。
「なるべく存在を無視していた体重計に、昨日の夜軽い気持ちで乗ってみてしまったんです。そしたら……」
そこで言葉をつまらせてしまったが、彼女の言わんとすることは、充分全員に伝わった。
「しかし、ちっとも、太ったようになど見えないですよ」
重苦しい空気の中、島田が先陣を切って発言する。
そうだそうだ、と、あとの二人もうなずく。
「でも、体重計の数字に間違いはありません」
あの数字を目にした時の衝撃といったら……
そう言ってうなだれる千鶴を慰めるように、山崎が理路整然と述べる。
「2リットルのペットボトルの水を一気飲みすれば、体重は瞬時に2キロ増える。だから、気にする必要などないだろう」
「そうでしょうか……」
上目遣いに見上げる千鶴の表情の艶っぽさに、山崎は「そ、そうだともっ」と動転しそうな気持ちを抑えて答える。
「じゃあ……私、まだ甘味友の会に所属していても大丈夫ですよね?」
「当たり前だよ、雪村君。そもそも、脱退を認めるなんて誰も言ってないだろう?」
源さんの言葉に、安心したように笑顔をみせる千鶴。
居並ぶ面々がホッと安堵の息を吐いたその時、何者かが学食に足を踏み入れた。
*
「千鶴ちゃん!」「きゃあっ」
突然のことだった。
音もなく現れた沖田に、千鶴は後ろから抱きすくめられていた。
「沖田先輩っ!?」
「ん~ちょっと丸みが増した感じかな?」
千鶴の顔色が変わった。
沖田から自分をベリッと引き剥がすと、彼女は沖田とまっすぐに向き合った。
「ちょっと待ってください!丸みが増したって……何と比較して言ってるんですか?」
「まあまあ、最近の研究では、あんまりやせてるより、ふくよかな方が長生きするって話もあるじゃない?」
「答になってません!!」
甘味友の会の男性諸君にしてみれば、千鶴の怒りのポイントが微妙にずれているように思われる。
だがしかし、当の千鶴は、いきなり抱きつかれたことよりも『丸み』『ふくよか』そういう類いの言葉に対し、過剰なまでの反応を示していた。
そんな彼女ににっこり微笑むと、沖田は山崎に視線を移した。
「けどさ……山崎君ともあろうものが、僕の気配に気付かなかったわけ?」
「…………」
沖田をにらみつけてから、悔しそうに目をそらす山崎。
「うん、わかるよ。僕の気配なんかに比べたら、千鶴ちゃんの存在感の方が圧倒的だもんね」
「……なにが言いたい?」
「いつもこうやって一緒にいるくせに、しかも保健委員のくせして、君ってば千鶴ちゃんの抱き心地も知らないの?」
「なっ!?」「そんなもの、誰も知りませんっ」
山崎を押しのける勢いで叫ぶ千鶴。
「まあまあ、雪村君……」
鼻息荒い彼女を、源さんがなだめる。
勝ち誇ったように、さらに言い募る沖田。
「山崎君、保健委員を名乗る以上は、全校生徒のことくらいちゃんと把握しておくべきなんじゃないのかな?」
「どういう意味だ?」
「体重に関する女子生徒のお悩みにも、即座に自信を持って答えられるくらいでなきゃ、山南先生の片腕としては物足りないかなあ……」
「くっ……!」
畳み掛けるような沖田の挑発に、山崎は苦しげな表情を作る。
「山崎先輩」
皆の目が一斉に、千鶴に向く。
「私でしたら、事実を受け入れる覚悟ができています。隠したり誤魔化したりなさらなくて結構ですから……どうか、本当のことを教えてください」
「だからっ…沖田の言うことなど、気にする必要は」
「だからこそ!山崎先輩のご意見を聞きたいんです。沖田先輩の指摘された抱き心地というものが、本当なのかどうか……保健委員である先輩が、実際に確かめてください。お願いします!」
勢いよく頭を下げる千鶴。
しかし、そうは言われても、沖田のように気軽に女子に触れるなんてこと、山崎にできる訳がない。
千鶴は、さらに一歩近づくと、困惑して目を泳がせる山崎をキッと見つめた。
「どうか、お願いします。そして……太ってるなら太ってるって、はっきりおっしゃってください!」
女子にとって、やせたの太ったのということは、それほどまでに重大な問題であったのか……!
真剣な眼差しで見上げる千鶴に、とうとう山崎も腹をくくった。
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