木もれ日の色
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―――君の知っている私は、じきにいなくなるでしょう。
誇り高いままに命を絶つか、人外の者と成り果てていずれ狂ってゆくか……
どちらにしても、君に、そのような私の姿は見せたくない―――
千鶴には告げることの出来ない思いを、山南は胸の奥にしまいこんで息を整えた。
「いつまでここに留まっていても、お父上の手がかりは多分、見つかりません」
「…………」
今にも泣き出しそうな千鶴の瞳を、山南は目をそらさずに見つめ返す。
「いいですか?君は、ここに居るべきではない。江戸に戻り、そして……どうか私のことは忘れて下さい。君は君の道を行き、幸せをつかむのですよ?」
諭すように言葉を紡ぐ山南は、何かを覚悟しているように落ち着いていた。
それが、さらに千鶴の胸をざわつかせる。
「そんなこと、できるわけないじゃないですか!」
「どうしてですか?元々私たちは、偶然同じ場所に在るだけの……道すがら行き合っただけにも等しい他人同士です」
ああ、ならば、忘れてくださいなどという私の言葉自体が矛盾していますね……
自嘲的な笑いを含みつつ、山南がつぶやく。
身動ぎもせず彼の話を聞いていた千鶴は、顔を上げると山南の目を見据えた。
「私は……私には、山南さんが必要なんです」
悲痛な叫びにも似た千鶴の言葉に、山南はただ、柔らかな笑みを返すだけだった。
「嫌です……新選組から……山南さんから離れるなんて…」
千鶴の声の終いの方は、涙声に変わる。
だが、山南は毅然と言葉を放った。
「明日出立しましょう。江戸から京まで歩いて来た君なら、大丈夫ですね?新選組の力が及ばない場所までお連れします。そこで道は分かたれますが、どうぞ息災で」
「山南さん………………」
彼の思いが揺るがないことを悟り、千鶴は涙を隠して頷くほかなかった。
翌日の明け六つ。
ほんの小さな荷物を抱え、誰にも見咎められず、二人は屯所を出た。
今生の思い出をつくろうとするかのように、旅を楽しみ笑顔をみせる山南。
側にいることで心安らぐ、この感情を愛しさと呼ぶのだろうか。
互いに同じ気持ちを抱き、寄り添うように歩くうち日が暮れる。
知らない者からは、年の離れた睦まじい兄妹に見えたであろう二人。
宿をとりながら東を目指し、丸三日が過ぎた。
『この道行きがずっと続けば……』
そんな千鶴の願いは、しかし、山南を追ってきた沖田の姿を認めた時に潰えた。
* * *
やがて新しい時代の幕が開け、いつしか新選組の名前は歴史の舞台から消え去った。
人を鬼となす薬を服用し“羅刹”となった山南が、新選組の活躍を裏で支えていた――
そんな風の便りを千鶴が耳にしたのは、刀を必要としない世の中になってから、ずっとずっと後のことだった。
*
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