眠れる森の誰かさん
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「お、千鶴、ちょっと頼まれてくれねえか?」
「はい、なんでしょうか?」
日直の日誌を置きに職員室へ行くと、土方先生に声をかけられた。
「沖田の野郎、放課後俺んとこに来いって言ってあるのに、来やしねぇ。悪いが、教室にいたら、絶対来るように伝えてくれ」
「わかりました。もしいなかったら、校内放送で呼び出しますか?」
「まあ、どっちにしても、素直に来るような玉じゃねぇけどな」
苦笑いをする土方先生にペコリと頭を下げると、私は、沖田先輩を探しに二年生の教室に向かった。
二年一組の教室。
窓際の机に俯し、腕に頭をあずけて寝ている沖田先輩を見つけた。
射し込む夕暮れの陽光を受け、そこだけが一枚の絵のようだ。
教室の入り口から顔だけ出し、私は声をはりあげた。
「沖田先輩、起きてください」
熟睡しているのか、ピクリとも動かない。
困ったな…
ちゃんと土方先生の所に行ってくれないと、私がお役目を果たしたことにならないんだけどな…。
教室に足を踏み入れると、まっすぐ先輩に向かって進む。
「沖田先輩ってば!」
彼の頭上で大音量で叫ぶ……も、空振り。
まさか、体を揺すって起こす訳にもいかないし…
困り果てながらも、つい先輩の寝顔に目がいってしまう。
端整な顔立ちは、女の私よりも余程“美しい”という表現がぴったりくる。
「土方先生がお呼びですよ」
もしも狸寝入りであれば、土方先生の名前に反応するに違いないと思い、注意深く先輩の顔を見つめる。
だが、特に表情に変化はなかった。
沖田先輩の顔をこんな至近距離で見られるチャンスなど、めったにない。
長い睫毛やすべすべの肌に羨ましさを覚えながら、私は、彼の顔を覗き込んだ。
ほんの、ちょっとだけ……
魔がさしたというのは、まさにこのような状況のことをいうのだと思う。
そろそろと伸ばした私の右手は、先輩の柔らかそうな頬を、ムニ~ッと摘まんでいた。
途端、先輩がガバッと体を起こす。
「ちょっと……なんてことしてくれちゃうわけ!?まったく、君って子は……」
「あ、沖田先輩!さっきから、土方先生がお待ちかねですよ」
「気持ちいい眠りから覚めたばっかりなのに、そんな名前言わないでよね」
「そ、そんなこと言われましても……」
なんとも返答のしようがない。
そんな私に構わず、彼は目を細めた。
「それからさ……さっきのシチュエーションは、キスで起こすってのが定番じゃないの?」
「!!やっぱり、寝たふりだったんですね!」
怒気を含んだ声で抗議してはみたが、彼は、私の怒りなど痛くも痒くもないらしい。
「さ~て……」
意味ありげに笑いながら、沖田先輩は立ち上がった。
何かを企んでいるような瞳に、背筋が凍りつく。
無意識のうちに後退ると、机やら椅子やらにガタガタとぶつかってしまい、静かな教室に大きな音が響く。
その時、開け放した教室のドアから、誰かが入ってきた。
「おい、そろそろ下校の時刻だ」
「斎藤先輩!?」
そこには、風紀委員の腕章を燦然と輝かせる斎藤先輩の姿があった。
「ちょうどよかった……ねえ、一君はどう思う?」
「?」
沖田先輩の唐突な質問に、斎藤先輩の顔には、ハテナマークが浮かぶ。
私は慌てて、かいつまんだ事情を説明した。
しばし思案した後に、斎藤先輩は答える。
「神聖な教室で寝とぼけているのが総司であれば、斬る(竹刀で)」
「ひどいな、一君ってば」
「真剣でないだけありがたいと思え」
「じゃあ、寝てるのが僕じゃなくて千鶴ちゃんだったら、どうする訳?まさか、いきなり斬っちゃったりしないよね?」
「雪村だったら……」
腕組みをして、うーむ…と考えこむ斎藤先輩。
「あ、あの、斎藤先輩……そんな、真剣にお考えになるほどのことじゃありませんから……」
*
「おいっ!てめえら、何してやがる!?」
「「土方先生!!」」
三人そろって教室の入り口に顔を向けると、そこには、文字どおり鬼の形相の土方先生が仁王立ちしていた。
「総司!俺の所に来るように、雪村から伝えてもらったはずだが?」
「やだなあ、土方先生。僕は、行きたくないという自分の意志を尊重してるだけですよ?」
「てめえの意志なぞ聞いちゃいねぇ!こっちが用があるから呼んでんだ!!」
「そうそう、土方先生だったら、どうしますか?」
沖田先輩は、机の上に腰かけて言葉を続けた。
「もし、千鶴ちゃんが教室で無防備に眠っていた場合……」
呼び出されている立場をまるっきり無視する沖田先輩に、土方先生の眉がピクリと動き、眉間にしわが刻まれる。
「その場合、キスするのか「くだらんことを言ってないで、さっさと来んかーーっ!! 」」
土方先生は、沖田先輩の首根っこを、猫を持ち上げるかのようにつかんで立ち上がらせると、私の方に顔を向けた。
「ああ、千鶴、面倒かけて悪かったな」
「いえ、結局お役に立てませんで…」
「ちょっと、カーディガン引っ張るの、やめてくださいよ。そもそも、土方さんが、この子を来させるからいけないんじゃないですか」
「だったら、最初からこうやって強制連行すれば、文句ねぇってことだな?」
土方先生は、そのまま沖田先輩を引きずっていこうとする。
「ああもう、行けばいいんでしょ、行けば。そのかわり、おいしいお茶とお菓子くらいは用意してもらえるんでしょうね?」
面倒くさそうに土方先生の手を払いのけた沖田先輩が、わざとらしい笑みをつくる。
「っ……寝言は、寝てから言いやがれ!!」
怒鳴り付けたところで、沖田先輩には暖簾に腕押し。
土方先生は大きなため息をつくと、再び私を見た。
「おい千鶴、もう暗くなるから、気をつけて帰れよ」
「千鶴ちゃん、変質者が出たら困るから、僕が送ってくよ」
いかにもそのまま、この場を立ち去ろうという風情の沖田先輩の腕を、土方先生がガシッとつかんだ。
「待て総司、てめえは今から説教だ!」
「え~、こんな暗い中、か弱い女の子を一人で帰らせるなんて、ひどくないですか?それに、千鶴ちゃんが帰るの遅くなっちゃったのって、土方さんが引き止めたからでしょ?彼女に何かあったら、責任とってくれるんですか?」
「ちっ……よくそんだけベラベラと、ご託を並べられるもんだな……。斎藤、頼めるか?」
「は、俺が責任をもって、雪村を送り届けます」
「ちょっと!一君の裏切り者!」
「総司、こちらのことは案ずるな。土方先生のありがたいお言葉を、しかとその身に刻みこんでこい」
そんなこんなで、なぜか私は、斎藤先輩に伴われて帰宅することになった。
「先輩、このあと学校に戻られて、剣道部の練習ですよね……お忙しいのに、本当にすみません」
「それは一向に構わん。……ところで、さっきの答えだが」
「え?なんでしたっけ?」
すっかり日が暮れて街灯のともり始めた通学路を歩きながら、私は首をかしげた。
「教室で雪村が寝ていたらどうするか、という質問だ」
「あ……!もしかして、先輩…ずっと考えていてくださったんですか?」
総司の問いに答えていないままだったからな、と前置きをしてから、まっすぐ進行方向を見据えて、斎藤先輩が言った。
「あんたが寝ていたら……風邪をひかぬよう、俺のブレザーを背中にかける」
「…………」
何も言えずに斎藤先輩の横顔を見つめると、彼もこちらを向いて、目が合った。
「どうした?俺は何か、おかしなことを言ったか?」
「あ……いえっ……ありがとうございます」
先輩は優しく微笑むと、再び前を向いて歩き出した。
私も慌てて後に続く。
斎藤先輩らしい気遣いは、女の子なら誰でも、ときめいてしまうに違いない。
けれど、やっぱり、王子さまの口付けで眠りから覚めるっていうのも素敵だなあ……
そんなことを思いながら、一歩前を行く斎藤先輩に追いつき隣に並んだ。
*
「はい、なんでしょうか?」
日直の日誌を置きに職員室へ行くと、土方先生に声をかけられた。
「沖田の野郎、放課後俺んとこに来いって言ってあるのに、来やしねぇ。悪いが、教室にいたら、絶対来るように伝えてくれ」
「わかりました。もしいなかったら、校内放送で呼び出しますか?」
「まあ、どっちにしても、素直に来るような玉じゃねぇけどな」
苦笑いをする土方先生にペコリと頭を下げると、私は、沖田先輩を探しに二年生の教室に向かった。
二年一組の教室。
窓際の机に俯し、腕に頭をあずけて寝ている沖田先輩を見つけた。
射し込む夕暮れの陽光を受け、そこだけが一枚の絵のようだ。
教室の入り口から顔だけ出し、私は声をはりあげた。
「沖田先輩、起きてください」
熟睡しているのか、ピクリとも動かない。
困ったな…
ちゃんと土方先生の所に行ってくれないと、私がお役目を果たしたことにならないんだけどな…。
教室に足を踏み入れると、まっすぐ先輩に向かって進む。
「沖田先輩ってば!」
彼の頭上で大音量で叫ぶ……も、空振り。
まさか、体を揺すって起こす訳にもいかないし…
困り果てながらも、つい先輩の寝顔に目がいってしまう。
端整な顔立ちは、女の私よりも余程“美しい”という表現がぴったりくる。
「土方先生がお呼びですよ」
もしも狸寝入りであれば、土方先生の名前に反応するに違いないと思い、注意深く先輩の顔を見つめる。
だが、特に表情に変化はなかった。
沖田先輩の顔をこんな至近距離で見られるチャンスなど、めったにない。
長い睫毛やすべすべの肌に羨ましさを覚えながら、私は、彼の顔を覗き込んだ。
ほんの、ちょっとだけ……
魔がさしたというのは、まさにこのような状況のことをいうのだと思う。
そろそろと伸ばした私の右手は、先輩の柔らかそうな頬を、ムニ~ッと摘まんでいた。
途端、先輩がガバッと体を起こす。
「ちょっと……なんてことしてくれちゃうわけ!?まったく、君って子は……」
「あ、沖田先輩!さっきから、土方先生がお待ちかねですよ」
「気持ちいい眠りから覚めたばっかりなのに、そんな名前言わないでよね」
「そ、そんなこと言われましても……」
なんとも返答のしようがない。
そんな私に構わず、彼は目を細めた。
「それからさ……さっきのシチュエーションは、キスで起こすってのが定番じゃないの?」
「!!やっぱり、寝たふりだったんですね!」
怒気を含んだ声で抗議してはみたが、彼は、私の怒りなど痛くも痒くもないらしい。
「さ~て……」
意味ありげに笑いながら、沖田先輩は立ち上がった。
何かを企んでいるような瞳に、背筋が凍りつく。
無意識のうちに後退ると、机やら椅子やらにガタガタとぶつかってしまい、静かな教室に大きな音が響く。
その時、開け放した教室のドアから、誰かが入ってきた。
「おい、そろそろ下校の時刻だ」
「斎藤先輩!?」
そこには、風紀委員の腕章を燦然と輝かせる斎藤先輩の姿があった。
「ちょうどよかった……ねえ、一君はどう思う?」
「?」
沖田先輩の唐突な質問に、斎藤先輩の顔には、ハテナマークが浮かぶ。
私は慌てて、かいつまんだ事情を説明した。
しばし思案した後に、斎藤先輩は答える。
「神聖な教室で寝とぼけているのが総司であれば、斬る(竹刀で)」
「ひどいな、一君ってば」
「真剣でないだけありがたいと思え」
「じゃあ、寝てるのが僕じゃなくて千鶴ちゃんだったら、どうする訳?まさか、いきなり斬っちゃったりしないよね?」
「雪村だったら……」
腕組みをして、うーむ…と考えこむ斎藤先輩。
「あ、あの、斎藤先輩……そんな、真剣にお考えになるほどのことじゃありませんから……」
*
「おいっ!てめえら、何してやがる!?」
「「土方先生!!」」
三人そろって教室の入り口に顔を向けると、そこには、文字どおり鬼の形相の土方先生が仁王立ちしていた。
「総司!俺の所に来るように、雪村から伝えてもらったはずだが?」
「やだなあ、土方先生。僕は、行きたくないという自分の意志を尊重してるだけですよ?」
「てめえの意志なぞ聞いちゃいねぇ!こっちが用があるから呼んでんだ!!」
「そうそう、土方先生だったら、どうしますか?」
沖田先輩は、机の上に腰かけて言葉を続けた。
「もし、千鶴ちゃんが教室で無防備に眠っていた場合……」
呼び出されている立場をまるっきり無視する沖田先輩に、土方先生の眉がピクリと動き、眉間にしわが刻まれる。
「その場合、キスするのか「くだらんことを言ってないで、さっさと来んかーーっ!! 」」
土方先生は、沖田先輩の首根っこを、猫を持ち上げるかのようにつかんで立ち上がらせると、私の方に顔を向けた。
「ああ、千鶴、面倒かけて悪かったな」
「いえ、結局お役に立てませんで…」
「ちょっと、カーディガン引っ張るの、やめてくださいよ。そもそも、土方さんが、この子を来させるからいけないんじゃないですか」
「だったら、最初からこうやって強制連行すれば、文句ねぇってことだな?」
土方先生は、そのまま沖田先輩を引きずっていこうとする。
「ああもう、行けばいいんでしょ、行けば。そのかわり、おいしいお茶とお菓子くらいは用意してもらえるんでしょうね?」
面倒くさそうに土方先生の手を払いのけた沖田先輩が、わざとらしい笑みをつくる。
「っ……寝言は、寝てから言いやがれ!!」
怒鳴り付けたところで、沖田先輩には暖簾に腕押し。
土方先生は大きなため息をつくと、再び私を見た。
「おい千鶴、もう暗くなるから、気をつけて帰れよ」
「千鶴ちゃん、変質者が出たら困るから、僕が送ってくよ」
いかにもそのまま、この場を立ち去ろうという風情の沖田先輩の腕を、土方先生がガシッとつかんだ。
「待て総司、てめえは今から説教だ!」
「え~、こんな暗い中、か弱い女の子を一人で帰らせるなんて、ひどくないですか?それに、千鶴ちゃんが帰るの遅くなっちゃったのって、土方さんが引き止めたからでしょ?彼女に何かあったら、責任とってくれるんですか?」
「ちっ……よくそんだけベラベラと、ご託を並べられるもんだな……。斎藤、頼めるか?」
「は、俺が責任をもって、雪村を送り届けます」
「ちょっと!一君の裏切り者!」
「総司、こちらのことは案ずるな。土方先生のありがたいお言葉を、しかとその身に刻みこんでこい」
そんなこんなで、なぜか私は、斎藤先輩に伴われて帰宅することになった。
「先輩、このあと学校に戻られて、剣道部の練習ですよね……お忙しいのに、本当にすみません」
「それは一向に構わん。……ところで、さっきの答えだが」
「え?なんでしたっけ?」
すっかり日が暮れて街灯のともり始めた通学路を歩きながら、私は首をかしげた。
「教室で雪村が寝ていたらどうするか、という質問だ」
「あ……!もしかして、先輩…ずっと考えていてくださったんですか?」
総司の問いに答えていないままだったからな、と前置きをしてから、まっすぐ進行方向を見据えて、斎藤先輩が言った。
「あんたが寝ていたら……風邪をひかぬよう、俺のブレザーを背中にかける」
「…………」
何も言えずに斎藤先輩の横顔を見つめると、彼もこちらを向いて、目が合った。
「どうした?俺は何か、おかしなことを言ったか?」
「あ……いえっ……ありがとうございます」
先輩は優しく微笑むと、再び前を向いて歩き出した。
私も慌てて後に続く。
斎藤先輩らしい気遣いは、女の子なら誰でも、ときめいてしまうに違いない。
けれど、やっぱり、王子さまの口付けで眠りから覚めるっていうのも素敵だなあ……
そんなことを思いながら、一歩前を行く斎藤先輩に追いつき隣に並んだ。
*
1/1ページ