筋肉ばんざい!
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ここのところ京の町では、そこそこ平穏な日々が続いている。
加えて土方が留守ともなれば、鬼のいぬ間になんとやら。
夕餉の後の賑やかな広間。
宴会よろしく騒いでいるのは三馬鹿こと、永倉、原田、平助。
沖田と斎藤は、それぞれ手酌でちびちびと酒を楽しんでいる。
羽をのばしている彼らに、つまみを用意したり追加の酒を運んだりしながら、控えめな笑顔で嬉しそうに新八を見つめる千鶴の姿もそこにあった。
「千鶴ちゃん」
「あ……沖田さん」
「僕がこんな至近距離に近づくまで気が付かないなんて……斬られちゃっても文句は言えないよ?」
「あ……す、すみません」
慌てて目を伏せた千鶴に、沖田はニヤリと笑ってみせる。
「新八さんのこと見てたの?」
「いえ、そんな……」
君ってほんと、わかりやすいよね……そうつぶやいてから、沖田は続ける。
「筋肉と剣しかとりえのない新八さんより、僕のことを見てほしいなあ。きっと、千鶴ちゃんにとって、その方が楽しいと思うんだけど」
沖田の言葉に、千鶴は勢いよく顔を上げ口を開いた。
「筋肉だけじゃありません! 永倉さんは、政にも世の情勢にもお詳しいですし、隊務に向かわれる時の羽織姿も凛々しくていらっしゃるし、誰にでも分け隔てなく向けてくださる笑顔はお天道様さながらで……」
「あ~~もう、いいよいいよ、熱く語ってくれるのは、そのくらいで。……っていうか、そもそも、新八さんは千鶴ちゃんの気持ちを知ってるの? 」
「う…………」
千鶴は絶句した。
ということは、今のところ千鶴の片恋。
沖田は、上機嫌で酒をあおる永倉と正座したまま縮こまる千鶴を見比べてため息をつく。
「まったく、新八さんには呆れるよ。君を見てたら、こんなにわかりやすいのにね。まあ、なんたって鈍いからね~……筋肉はあんなに俊敏なのにさ」
などと話しているうちに、いつの間にか、話題の中心である人物が徳利を片手に歩み寄っていた。
「おいおい、総司、千鶴ちゃんを独り占めすんじゃねぇよ」
「独り占めしたいのはやまやまなんだけど……」
一旦言葉を切ってから、沖田は千鶴に目をやり苦笑いを浮かべた。
「千鶴ちゃん、君は、新八さんみたいな汗くさくて酒くさい筋肉がお気に入りなんだよね」
「なっ!私、そんなこと……」
「新八さん本人の前だからって、照れなくてもいいじゃない」
唇を三日月の形にした沖田は、すましている。
おろおろと眉を下げる千鶴だったが、永倉には彼女の困惑の意味が伝わらなかったらしい。
「総司、筋肉を笑うものは筋肉に泣くって、知らねぇのか?それに、汗くささは男らしさの証明だ!酒くさいのも…まあ、男らしさの証明っつうことで……なっ、千鶴ちゃん」
千鶴は目を輝かせた。
「はいっ、男らしいと思います」
「くぅ~っ……千鶴ちゃん、俺ぁ嬉しいぜ。ここの野郎どもにゃあ、俺のこの筋肉の素晴らしさが、とんとわからねぇみたいだからな」
「皆さんがわかってくださらなくても、私にはわかります!永倉さんの筋肉が、いかに素晴らしいのか!」
やれやれ……といった風情で、沖田が首を左右に振る。
「千鶴ちゃんに新八さん、二人して『筋肉』『筋肉』って……。いっそのこと、二人で筋肉の世界にでも行っちゃったら?」
*
「お、そりゃいいかもしれねぇな」
あごに手をあて、ふむふむと頷く永倉を一瞥してから、沖田は千鶴に目を向ける。
「そんな世界、僕は遠慮させてもらいたいけどね。千鶴ちゃんは、どう?」
『永倉さんとの世界、悪くないかも……』
言葉にこそしないが、まんざらでもなさそうな千鶴の表情は、そう物語っているようだ。
沖田は微かに口角を上げて言う。
「千鶴ちゃん、君はさ……新八さんのことが嫌い?」
「そんな!嫌いなわけないじゃないですか」
好きかと尋ねれば否定されるに決まっている。
だからこその沖田の質問に、まんまとのせられてしまったことに、千鶴が気付く訳もない。
「ふーん……そうそう。新八さんのこと、新選組きっての剣の使い手だと思うよね?」
「はい!」
「じゃあさ……新八さんが島原に足繁く通うのって、悲しい?」
「……はい」
「新八さんって浅葱色の隊服がよく似合うよね」
「はい!」
「新八さんはまっすぐな、男の中の男だよね」
「はい!」
「汗くさかろうが酒くさかろうがね」
「はい!」
「それでもって君は、その汗くさくて酒くさい筋肉に抱かれてみたいんだよね?」
「はいっ…………あれ?」
張り切って返事をしたものの、沖田の最後の質問に何となく違和感を感じる。
首をかしげながら永倉に視線を移した千鶴は、彼と目が合った瞬間、自分がとんでもない返事をしてしまったのだということに、ようやく気が付いた。
「そうだったのか?千鶴ちゃんっ!」
「や……永倉さん!?酔ってますか?酔ってますよね!!」
酔いと感激で目を潤ませた永倉が、その筋肉にものを言わせて千鶴をがっしりと抱きしめた。
「永倉さん!?……沖田さんっ、沖田さんが変なことおっしゃるから……ちょっと!なんとかしてくださいよおぉ」
「僕は、千鶴ちゃんの恋を手助けしてあげたんだけどな……お礼を言われるんならわかるけど、文句を言われる筋合いはないと思うよ」
「そんな!そうだったんですか……って、きゃあ、永倉さん!?」
「どれ、こっから先は俺の部屋でな?しっかし、千鶴ちゃんがそんなふうに思っててくれたなんて嬉しいぜ」
すでに舞い上がっている永倉には、沖田と千鶴のやり取りなど耳に入らないらしい。
立ち上がって千鶴を横抱きに抱き上げると、彼はあっという間に広間を後にした。
「な、永倉さん……」
顔を真っ赤に染めて口をパクパクさせながらも、千鶴はおとなしく永倉に体をあずけていた。
「あ~あ、まったく……僕にここまで手間かけさせたんだから、鈍い者同士うまくやってよね」
斎藤に何やら説教されている原田と平助を横目で眺めつつ、沖田は肩をすくめる。
「さあて、と……僕は、とっておきの金平糖でも食べようかな」
新八さんは千鶴ちゃんを食べちゃうんだろうけどね…
そう呟き、鼻唄を歌いながら茶菓子の棚を目指す沖田だった。
*
加えて土方が留守ともなれば、鬼のいぬ間になんとやら。
夕餉の後の賑やかな広間。
宴会よろしく騒いでいるのは三馬鹿こと、永倉、原田、平助。
沖田と斎藤は、それぞれ手酌でちびちびと酒を楽しんでいる。
羽をのばしている彼らに、つまみを用意したり追加の酒を運んだりしながら、控えめな笑顔で嬉しそうに新八を見つめる千鶴の姿もそこにあった。
「千鶴ちゃん」
「あ……沖田さん」
「僕がこんな至近距離に近づくまで気が付かないなんて……斬られちゃっても文句は言えないよ?」
「あ……す、すみません」
慌てて目を伏せた千鶴に、沖田はニヤリと笑ってみせる。
「新八さんのこと見てたの?」
「いえ、そんな……」
君ってほんと、わかりやすいよね……そうつぶやいてから、沖田は続ける。
「筋肉と剣しかとりえのない新八さんより、僕のことを見てほしいなあ。きっと、千鶴ちゃんにとって、その方が楽しいと思うんだけど」
沖田の言葉に、千鶴は勢いよく顔を上げ口を開いた。
「筋肉だけじゃありません! 永倉さんは、政にも世の情勢にもお詳しいですし、隊務に向かわれる時の羽織姿も凛々しくていらっしゃるし、誰にでも分け隔てなく向けてくださる笑顔はお天道様さながらで……」
「あ~~もう、いいよいいよ、熱く語ってくれるのは、そのくらいで。……っていうか、そもそも、新八さんは千鶴ちゃんの気持ちを知ってるの? 」
「う…………」
千鶴は絶句した。
ということは、今のところ千鶴の片恋。
沖田は、上機嫌で酒をあおる永倉と正座したまま縮こまる千鶴を見比べてため息をつく。
「まったく、新八さんには呆れるよ。君を見てたら、こんなにわかりやすいのにね。まあ、なんたって鈍いからね~……筋肉はあんなに俊敏なのにさ」
などと話しているうちに、いつの間にか、話題の中心である人物が徳利を片手に歩み寄っていた。
「おいおい、総司、千鶴ちゃんを独り占めすんじゃねぇよ」
「独り占めしたいのはやまやまなんだけど……」
一旦言葉を切ってから、沖田は千鶴に目をやり苦笑いを浮かべた。
「千鶴ちゃん、君は、新八さんみたいな汗くさくて酒くさい筋肉がお気に入りなんだよね」
「なっ!私、そんなこと……」
「新八さん本人の前だからって、照れなくてもいいじゃない」
唇を三日月の形にした沖田は、すましている。
おろおろと眉を下げる千鶴だったが、永倉には彼女の困惑の意味が伝わらなかったらしい。
「総司、筋肉を笑うものは筋肉に泣くって、知らねぇのか?それに、汗くささは男らしさの証明だ!酒くさいのも…まあ、男らしさの証明っつうことで……なっ、千鶴ちゃん」
千鶴は目を輝かせた。
「はいっ、男らしいと思います」
「くぅ~っ……千鶴ちゃん、俺ぁ嬉しいぜ。ここの野郎どもにゃあ、俺のこの筋肉の素晴らしさが、とんとわからねぇみたいだからな」
「皆さんがわかってくださらなくても、私にはわかります!永倉さんの筋肉が、いかに素晴らしいのか!」
やれやれ……といった風情で、沖田が首を左右に振る。
「千鶴ちゃんに新八さん、二人して『筋肉』『筋肉』って……。いっそのこと、二人で筋肉の世界にでも行っちゃったら?」
*
「お、そりゃいいかもしれねぇな」
あごに手をあて、ふむふむと頷く永倉を一瞥してから、沖田は千鶴に目を向ける。
「そんな世界、僕は遠慮させてもらいたいけどね。千鶴ちゃんは、どう?」
『永倉さんとの世界、悪くないかも……』
言葉にこそしないが、まんざらでもなさそうな千鶴の表情は、そう物語っているようだ。
沖田は微かに口角を上げて言う。
「千鶴ちゃん、君はさ……新八さんのことが嫌い?」
「そんな!嫌いなわけないじゃないですか」
好きかと尋ねれば否定されるに決まっている。
だからこその沖田の質問に、まんまとのせられてしまったことに、千鶴が気付く訳もない。
「ふーん……そうそう。新八さんのこと、新選組きっての剣の使い手だと思うよね?」
「はい!」
「じゃあさ……新八さんが島原に足繁く通うのって、悲しい?」
「……はい」
「新八さんって浅葱色の隊服がよく似合うよね」
「はい!」
「新八さんはまっすぐな、男の中の男だよね」
「はい!」
「汗くさかろうが酒くさかろうがね」
「はい!」
「それでもって君は、その汗くさくて酒くさい筋肉に抱かれてみたいんだよね?」
「はいっ…………あれ?」
張り切って返事をしたものの、沖田の最後の質問に何となく違和感を感じる。
首をかしげながら永倉に視線を移した千鶴は、彼と目が合った瞬間、自分がとんでもない返事をしてしまったのだということに、ようやく気が付いた。
「そうだったのか?千鶴ちゃんっ!」
「や……永倉さん!?酔ってますか?酔ってますよね!!」
酔いと感激で目を潤ませた永倉が、その筋肉にものを言わせて千鶴をがっしりと抱きしめた。
「永倉さん!?……沖田さんっ、沖田さんが変なことおっしゃるから……ちょっと!なんとかしてくださいよおぉ」
「僕は、千鶴ちゃんの恋を手助けしてあげたんだけどな……お礼を言われるんならわかるけど、文句を言われる筋合いはないと思うよ」
「そんな!そうだったんですか……って、きゃあ、永倉さん!?」
「どれ、こっから先は俺の部屋でな?しっかし、千鶴ちゃんがそんなふうに思っててくれたなんて嬉しいぜ」
すでに舞い上がっている永倉には、沖田と千鶴のやり取りなど耳に入らないらしい。
立ち上がって千鶴を横抱きに抱き上げると、彼はあっという間に広間を後にした。
「な、永倉さん……」
顔を真っ赤に染めて口をパクパクさせながらも、千鶴はおとなしく永倉に体をあずけていた。
「あ~あ、まったく……僕にここまで手間かけさせたんだから、鈍い者同士うまくやってよね」
斎藤に何やら説教されている原田と平助を横目で眺めつつ、沖田は肩をすくめる。
「さあて、と……僕は、とっておきの金平糖でも食べようかな」
新八さんは千鶴ちゃんを食べちゃうんだろうけどね…
そう呟き、鼻唄を歌いながら茶菓子の棚を目指す沖田だった。
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