Candy Days
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原田先生がスクッと立ち上がって歩み寄り、パーテーションを抱えるように向こう側を覗く。
が、すぐにこちらを振り返ると、片手をパタパタと振った。
「い、いや~大丈夫だ、なんでもねえ。おおかた……ほれ、あれだ。ネズミでも通りかかったんじゃねえかなあ」
続いて立ち上がろうとした私を制して、原田先生はソファに戻ってきた。
そして、向かい側ではなく私の隣に腰かけると、声をひそめるようにささやいた。
「土方さんに、おまえの素直な気持ちを伝えたらどうだ?」
「無理に決まってるじゃないですか!?」
「んじゃ、潔く諦めるんだな」
「そんな!」
「そんなもこんなもあるか。どっちつかずで、日常生活にまで支障がでてるじゃねぇか。そんな状態で、誰かを好きでいる資格があんのか!?」
「…………」
原田先生の言うとおりだ。
認めたくない現実を突きつけられ、私は何も言い返せなかった。
唇を噛みしめ俯いていると、肩をポンとたたかれた。
驚いて顔を上げると、真剣さの中に優しさを含んだ先生の瞳が私を見つめていた。
「退くか進むか……決めるのは、千鶴。おまえ自身だ」
「……はい」
決めるのは、自分自身。
逃げるのも目をそむけるのも、そして進むのも、自分の責任。
私はゴクリとつばをのんだ。
「んな真剣な顔になるほど、土方さんに惚れちまってんのか?」
ちょっぴり苦笑いのような表情を浮かべて、原田先生が私の顔を覗き込む。
せ……先生……顔が近いです!!
熱を帯びた顔を、思わずそむける……つもりが、一瞬早く、原田先生の指が私のあごをとらえていた。
「なあ、千鶴……気持ちも伝えられねえような相手なんざ、やめとけよ」
「え?」
自分で決めろって言ったばかりではないですか?
口を中途半端に開いたまま言葉につまった私の耳元に顔を近づけ、先生は甘い声でささやいた。
「俺にしとけよ」
「えっ!?……ええー!!?!」
後ろに飛び退こうと試みたが、背中にしっかりと手を回されていたために、逆に彼との距離が縮まってしまった。
「あ……あの……」
抱きしめられる格好になり、先生の腕から逃れようと思うのに、まるで金縛りにあったように体が動かない。
「俺なら、おまえを泣かせたりしないぜ?」
「わ……わた……し……」
ま……まずい!
原田先生のまとう色気は、天然物だ!
これは、先生本人が多少の自覚をしているとしても、あまりにも威力がありすぎる。
私みたいに恋愛に免疫のない人間だったら、多分、みんな絡めとられてしまうだろう。
それこそ、男女問わず。
土方先生ひとすじの私でさえ、意に反して胸が高鳴ってしまうのだから、私以外の女子の皆さんなどもう、イチコロ陥落に違いない。
そんなことを頭の中でぐるぐるぐるぐる考えながら、ギュッと固く目を瞑り首をすくめた。
と、体が宙に浮いた気がした。
同時に、ガタンバターン!!!とものすごい音が響き渡る。
何事かとこわごわ目を開けると、パーテーションがこちらに向かって倒れ、ソファと机の一部が下敷きになっていた。
とっさに私を抱きかかえ飛び退いた原田先生のおかげで、危うくそれの直撃は免れた。
のはよかったのだが……
そこには、怒りのオーラ全開と思われる土方先生が立っていた。
*
「あっぶねえなあ!何すんだ、土方さん!?」
「んだと?そりゃあこっちの台詞だ!原田てめえ、俺の千鶴に何しやがんだ!?」
肩で息をするようにこちらを睨み付ける土方先生。
そんな彼に対し、原田先生はニヤリと広角を上げた。
「ようやく気付いたか」
「……あ?」
「この案件も、ヤマは越えたみたいだからな、俺の出番はこれで終いだ。あとは……当事者のあんたが、うまくやってくれよな?」
土方先生に歩み寄りその肩をポンとたたくと、原田先生は踵を返した。
廊下に向かいながら今度は私の頭をクシャッと撫で、柔らかな微笑みを浮かべると、ひらひらと手を振り部屋を出て行った。
あとに残された、土方先生と私……
倒れたパーテーションもそのままに呆然とした様子で立っている土方先生を、恐る恐る見やる。
「ったく、原田の野郎……」
土方先生は、大きな大きなため息をついた。
「……すみません」
なんだかよくわからない成り行きになってしまったが、原田先生にも土方先生にも申し訳ない気がして、私はつぶやいた。
「いや、おまえが謝ることじゃねえ……それより、大丈夫だったか?」
「はい、原田先生が素早くよけてくださいましたから、どこも「そうじゃねえっ」」
「?」
そうじゃなければ、どうだというのでしょうか?
深刻そうな表情の土方先生は、私と目が合った途端、ふいっと視線を外すと、言いにくそうに口を開いた。
「そうじゃねぇ……あいつに何かされたかって聞いてんだ」
「いえ、近かっただけで何も」
「そうか。ならいい」
ほんの短い返事の中に、土方先生の安堵の息が混じったのがわかり、私はちょっぴり嬉しくなった。
土方先生に心配してもらってる……
我ながら単純だとは思うけれど。
それはそうと、だんだんと冷静になってきた頭に、突如浮かんだ大問題。
…………土方先生に、原田先生とのやり取りを全部聞かれていたってこと??
ってことは、私が最近上の空だった理由も、土方先生に憧れてましたが失恋しましたって宣言も、全部…………。
一人で赤くなったり青くなったりしている私を眺めながら、土方先生は小さく笑った。
「おまえのまっすぐな瞳と気持ちがうらやましいな」
「うらやましい……ですか?」
「ああ、俺は立場上そういう訳にはいかないんでな」
先生にも、誰か密かに想う人がいるのだろうか。
胸の奥がキュッと痛む。
うなだれた私に、先生は気遣わしげな声をかける。
「悪かったな……さっきの話、全部聞かせてもらった」
「いえ……」
裏面白紙のテストを提出した上に、呼び出しの最中に逃げ出すという二重の失態を演じたダメな生徒。
その理由を知る権利が、教頭として、古文教師として、土方先生には充分ある。
原田先生には、『諦めるか、さもなくば逃げずに気持ちを伝えろ』と言われたけど、もうその必要もない。
*
気まずい沈黙を破ったのは、土方先生だった。
「立場はともかく、誰かを好きになっちまうのは仕方ねえ。自然な感情だからな」
私は黙ってうなずく。
その様子を確認してから、先生は言葉を続ける。
「おまえが俺を好いてくれてるとしての話だが……例え俺と恋仲になったとしても、おまえがこの学校にいるうちは、何にも変わらねえ……いや、変えられないんだぞ?」
「恋仲なんて……私、そんな大それたことを望んでいるんじゃありません」
気がついた時には、まっすぐ土方先生の目を見つめながら必死な想いで叫んでいた。
「ただ、先生のことが好きなだけです」
はっきりきっぱり言ってしまってから、私は我に返り身体中が熱くなった。
な、なんで私は……このタイミングで、改めて告白!みたいなことを口走ってしまったのだろう。
報われないであろう気持ちは、そのままそっと封印してうやむやにしてしまえば良かったのに。
泣きたいくらいの後悔に押し潰されそうになっている私に構わず、土方先生は再び口を開く。
「おまえの周りには男が沢山いて、しかもそいつらはみんな、虎視眈々とおまえを狙ってやがる」
「いえ、狙われた記憶はないです「おまえは自覚なさすぎなんだよ!」」
返す言葉に困った私をじっと見つめ、先生は本日何度目かの深い息を吐く。
「そいつらを蹴散らすことは簡単だ。だがな……」
「…………」
「おまえの気持ちまで、俺が縛りつけるこたぁできねえんだよ」
土方先生は、こめかみを押さえると、目を伏せてため息をこぼした。
「俺がいくらおまえに惚れてたって、おまえが他の奴を好きになることを止める権利なんざ……俺にはねえんだ」
ん……『おまえに惚れてたって』……?
例え話にしたって、あまりにも心臓に悪い。
どう解釈していいやら考えあぐねる私に、土方先生はダメ押しのひとことを言い放った。
「いい大人が情けねぇ話だが、俺はおまえに惚れてる。けどな、教師と生徒じゃどうにもならねえんだよ」
私の中の何かがプツンと音をたてて切れた気がした。
まるで普段は眠っている自我に支配されたかのように、私の口は、勝手に言葉を発していた。
「立場がどうの、なんて、ただの言い訳です。……本当は、ご自分の未来の気持ちはわからない、保証できないっ……てことですよね」
「なに!?」
「土方先生ご自身、いつか他の人を好きになるかもしれないから、縛りたくもないし縛られたくもない……そういうことですか?」
「千鶴、おまえ、なに言って「だって!……そういうことですよね……」」
泣くな、私!
土方先生に受け入れてもらえない、なんてことは、はなからわかっていたはず。
仮初めではあっても、土方先生の口から「惚れてる」って言葉を聞くことが出来たんだから……
それだけで、充分幸せだよ。
自分の内面に叱咤激励してみるが、意に反して涙が頬をつたう。
深いため息とともに、土方先生の眉間のシワが深く刻まれる。
好きな人をこれ以上困らせるなんて、恋する乙女失格。
ひとつ深呼吸すると、私はまだ涙の残る顔で、無理やり笑顔を作った。
うまく笑えているかどうかは、わからなかったけれど。
「では、私は失礼します。先生お忙しいのに、ご面倒をおかけして、すみませんでした」
ペコリと頭を下げ、先生に背を向ける。
「おい、待て」
不機嫌そうな土方先生の声に、首だけ後ろに向けて振り返る。
「かばん!忘れてんぞ」
一気に突き放されたような気がして、唇をキュッと噛むと、私はソファの上の鞄に手をかけた。
同時に土方先生の手が、伸ばした私の腕を掴む。
「!?……」
そのまま引き寄せられ、気がつけば私は土方先生の腕の中に収まっていた。
*
が、すぐにこちらを振り返ると、片手をパタパタと振った。
「い、いや~大丈夫だ、なんでもねえ。おおかた……ほれ、あれだ。ネズミでも通りかかったんじゃねえかなあ」
続いて立ち上がろうとした私を制して、原田先生はソファに戻ってきた。
そして、向かい側ではなく私の隣に腰かけると、声をひそめるようにささやいた。
「土方さんに、おまえの素直な気持ちを伝えたらどうだ?」
「無理に決まってるじゃないですか!?」
「んじゃ、潔く諦めるんだな」
「そんな!」
「そんなもこんなもあるか。どっちつかずで、日常生活にまで支障がでてるじゃねぇか。そんな状態で、誰かを好きでいる資格があんのか!?」
「…………」
原田先生の言うとおりだ。
認めたくない現実を突きつけられ、私は何も言い返せなかった。
唇を噛みしめ俯いていると、肩をポンとたたかれた。
驚いて顔を上げると、真剣さの中に優しさを含んだ先生の瞳が私を見つめていた。
「退くか進むか……決めるのは、千鶴。おまえ自身だ」
「……はい」
決めるのは、自分自身。
逃げるのも目をそむけるのも、そして進むのも、自分の責任。
私はゴクリとつばをのんだ。
「んな真剣な顔になるほど、土方さんに惚れちまってんのか?」
ちょっぴり苦笑いのような表情を浮かべて、原田先生が私の顔を覗き込む。
せ……先生……顔が近いです!!
熱を帯びた顔を、思わずそむける……つもりが、一瞬早く、原田先生の指が私のあごをとらえていた。
「なあ、千鶴……気持ちも伝えられねえような相手なんざ、やめとけよ」
「え?」
自分で決めろって言ったばかりではないですか?
口を中途半端に開いたまま言葉につまった私の耳元に顔を近づけ、先生は甘い声でささやいた。
「俺にしとけよ」
「えっ!?……ええー!!?!」
後ろに飛び退こうと試みたが、背中にしっかりと手を回されていたために、逆に彼との距離が縮まってしまった。
「あ……あの……」
抱きしめられる格好になり、先生の腕から逃れようと思うのに、まるで金縛りにあったように体が動かない。
「俺なら、おまえを泣かせたりしないぜ?」
「わ……わた……し……」
ま……まずい!
原田先生のまとう色気は、天然物だ!
これは、先生本人が多少の自覚をしているとしても、あまりにも威力がありすぎる。
私みたいに恋愛に免疫のない人間だったら、多分、みんな絡めとられてしまうだろう。
それこそ、男女問わず。
土方先生ひとすじの私でさえ、意に反して胸が高鳴ってしまうのだから、私以外の女子の皆さんなどもう、イチコロ陥落に違いない。
そんなことを頭の中でぐるぐるぐるぐる考えながら、ギュッと固く目を瞑り首をすくめた。
と、体が宙に浮いた気がした。
同時に、ガタンバターン!!!とものすごい音が響き渡る。
何事かとこわごわ目を開けると、パーテーションがこちらに向かって倒れ、ソファと机の一部が下敷きになっていた。
とっさに私を抱きかかえ飛び退いた原田先生のおかげで、危うくそれの直撃は免れた。
のはよかったのだが……
そこには、怒りのオーラ全開と思われる土方先生が立っていた。
*
「あっぶねえなあ!何すんだ、土方さん!?」
「んだと?そりゃあこっちの台詞だ!原田てめえ、俺の千鶴に何しやがんだ!?」
肩で息をするようにこちらを睨み付ける土方先生。
そんな彼に対し、原田先生はニヤリと広角を上げた。
「ようやく気付いたか」
「……あ?」
「この案件も、ヤマは越えたみたいだからな、俺の出番はこれで終いだ。あとは……当事者のあんたが、うまくやってくれよな?」
土方先生に歩み寄りその肩をポンとたたくと、原田先生は踵を返した。
廊下に向かいながら今度は私の頭をクシャッと撫で、柔らかな微笑みを浮かべると、ひらひらと手を振り部屋を出て行った。
あとに残された、土方先生と私……
倒れたパーテーションもそのままに呆然とした様子で立っている土方先生を、恐る恐る見やる。
「ったく、原田の野郎……」
土方先生は、大きな大きなため息をついた。
「……すみません」
なんだかよくわからない成り行きになってしまったが、原田先生にも土方先生にも申し訳ない気がして、私はつぶやいた。
「いや、おまえが謝ることじゃねえ……それより、大丈夫だったか?」
「はい、原田先生が素早くよけてくださいましたから、どこも「そうじゃねえっ」」
「?」
そうじゃなければ、どうだというのでしょうか?
深刻そうな表情の土方先生は、私と目が合った途端、ふいっと視線を外すと、言いにくそうに口を開いた。
「そうじゃねぇ……あいつに何かされたかって聞いてんだ」
「いえ、近かっただけで何も」
「そうか。ならいい」
ほんの短い返事の中に、土方先生の安堵の息が混じったのがわかり、私はちょっぴり嬉しくなった。
土方先生に心配してもらってる……
我ながら単純だとは思うけれど。
それはそうと、だんだんと冷静になってきた頭に、突如浮かんだ大問題。
…………土方先生に、原田先生とのやり取りを全部聞かれていたってこと??
ってことは、私が最近上の空だった理由も、土方先生に憧れてましたが失恋しましたって宣言も、全部…………。
一人で赤くなったり青くなったりしている私を眺めながら、土方先生は小さく笑った。
「おまえのまっすぐな瞳と気持ちがうらやましいな」
「うらやましい……ですか?」
「ああ、俺は立場上そういう訳にはいかないんでな」
先生にも、誰か密かに想う人がいるのだろうか。
胸の奥がキュッと痛む。
うなだれた私に、先生は気遣わしげな声をかける。
「悪かったな……さっきの話、全部聞かせてもらった」
「いえ……」
裏面白紙のテストを提出した上に、呼び出しの最中に逃げ出すという二重の失態を演じたダメな生徒。
その理由を知る権利が、教頭として、古文教師として、土方先生には充分ある。
原田先生には、『諦めるか、さもなくば逃げずに気持ちを伝えろ』と言われたけど、もうその必要もない。
*
気まずい沈黙を破ったのは、土方先生だった。
「立場はともかく、誰かを好きになっちまうのは仕方ねえ。自然な感情だからな」
私は黙ってうなずく。
その様子を確認してから、先生は言葉を続ける。
「おまえが俺を好いてくれてるとしての話だが……例え俺と恋仲になったとしても、おまえがこの学校にいるうちは、何にも変わらねえ……いや、変えられないんだぞ?」
「恋仲なんて……私、そんな大それたことを望んでいるんじゃありません」
気がついた時には、まっすぐ土方先生の目を見つめながら必死な想いで叫んでいた。
「ただ、先生のことが好きなだけです」
はっきりきっぱり言ってしまってから、私は我に返り身体中が熱くなった。
な、なんで私は……このタイミングで、改めて告白!みたいなことを口走ってしまったのだろう。
報われないであろう気持ちは、そのままそっと封印してうやむやにしてしまえば良かったのに。
泣きたいくらいの後悔に押し潰されそうになっている私に構わず、土方先生は再び口を開く。
「おまえの周りには男が沢山いて、しかもそいつらはみんな、虎視眈々とおまえを狙ってやがる」
「いえ、狙われた記憶はないです「おまえは自覚なさすぎなんだよ!」」
返す言葉に困った私をじっと見つめ、先生は本日何度目かの深い息を吐く。
「そいつらを蹴散らすことは簡単だ。だがな……」
「…………」
「おまえの気持ちまで、俺が縛りつけるこたぁできねえんだよ」
土方先生は、こめかみを押さえると、目を伏せてため息をこぼした。
「俺がいくらおまえに惚れてたって、おまえが他の奴を好きになることを止める権利なんざ……俺にはねえんだ」
ん……『おまえに惚れてたって』……?
例え話にしたって、あまりにも心臓に悪い。
どう解釈していいやら考えあぐねる私に、土方先生はダメ押しのひとことを言い放った。
「いい大人が情けねぇ話だが、俺はおまえに惚れてる。けどな、教師と生徒じゃどうにもならねえんだよ」
私の中の何かがプツンと音をたてて切れた気がした。
まるで普段は眠っている自我に支配されたかのように、私の口は、勝手に言葉を発していた。
「立場がどうの、なんて、ただの言い訳です。……本当は、ご自分の未来の気持ちはわからない、保証できないっ……てことですよね」
「なに!?」
「土方先生ご自身、いつか他の人を好きになるかもしれないから、縛りたくもないし縛られたくもない……そういうことですか?」
「千鶴、おまえ、なに言って「だって!……そういうことですよね……」」
泣くな、私!
土方先生に受け入れてもらえない、なんてことは、はなからわかっていたはず。
仮初めではあっても、土方先生の口から「惚れてる」って言葉を聞くことが出来たんだから……
それだけで、充分幸せだよ。
自分の内面に叱咤激励してみるが、意に反して涙が頬をつたう。
深いため息とともに、土方先生の眉間のシワが深く刻まれる。
好きな人をこれ以上困らせるなんて、恋する乙女失格。
ひとつ深呼吸すると、私はまだ涙の残る顔で、無理やり笑顔を作った。
うまく笑えているかどうかは、わからなかったけれど。
「では、私は失礼します。先生お忙しいのに、ご面倒をおかけして、すみませんでした」
ペコリと頭を下げ、先生に背を向ける。
「おい、待て」
不機嫌そうな土方先生の声に、首だけ後ろに向けて振り返る。
「かばん!忘れてんぞ」
一気に突き放されたような気がして、唇をキュッと噛むと、私はソファの上の鞄に手をかけた。
同時に土方先生の手が、伸ばした私の腕を掴む。
「!?……」
そのまま引き寄せられ、気がつけば私は土方先生の腕の中に収まっていた。
*