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「お疲れ様です。原田さん、お茶をどうぞ」
「おう、ありがとよ」
巡察から戻り一息ついている原田の部屋に、お茶を運ぶ千鶴。
それ自体は普段と変わらぬ光景なのだが…
顔を上げず浮かない表情の彼女に、原田が首をひねり声をかける。
「千鶴……どうかしたのか?」
「え!?い、いえ……」
いつも通りですよ、と微笑む様子も、なんだかぎこちなくて。
目が合ったかと思えばパッとそらす千鶴は、やはりいつもの彼女らしくない。
静かな部屋に、原田の言葉が響く。
「なあ、千鶴、胸ん中にためてることがあるなら、聞いてやるぜ?どんな小っせぇことでも、吐き出すだけで楽になるもんだ。それとも…俺にゃ話せねえか?」
琥珀色の瞳に射竦められ、うろたえた千鶴は、目を伏せて小さなため息をつくと、観念したように口を開いた。
「近頃なんだか、何をやってもうまくいかないといいますか……」
はぁ、と小さくため息をつきつつも、原田に心配をかけまいとするように「あ、でも、皆さんのご迷惑にならないように気をつけますから」と笑顔をつくる。
そんな彼女の間近ににじり寄り、原田は目の前の少女の頬をそっとつねった。
「無理すんな」
「っ……無理だなんて……」
解放された頬に手をあて俯く千鶴に、原田が優しく微笑んだ。
「いつも前向きにニコニコ笑ってろ…なんて、無責任なことを言う気はねえよ。空元気が必要な場面もあるが、つらい時には無理することなんざねえんだ」
「はい……」
小さくうなずく千鶴に再び柔らかな視線を向けてから、原田が続ける。
「いろんな時があるもんさ……流れに乗るっつうのかな、なんにつけても怖いくらいに事がトントン拍子に運ぶことだって、あるにはある」
真剣な顔でうなずく千鶴は、身を乗り出すように原田の次の言葉を待っている。
原田は、小さなため息のまじった苦笑いとともに再び口を開く。
「かと思えば、どうにも空回りしちまって、焦れば焦るほど、あらゆる事が裏目に出ちまう時もある」
「……原田さんにも、そういう時があるんですか?」
ちょっぴり意外そうな顔をして、千鶴が問う。
「はは、そりゃあそうだ。それとも千鶴にゃあ、俺が何でも思い通りに出来る神さんみたいなふうに見えるか?」
実はそう思っていた、などと野暮なことを言うのはやめにして、千鶴は小さく首を振った。
「ちょっぴり安心しました」
「まあ、そういう時には、おとなしくしてるのが一番なんだろうな。ついつい焦っちまうけどよ」
「本当ですね……父様の手がかりもさっぱり見つからなくて、私……気持ちが焦っていたのかもしれません」
「ま、おとなしくしてろなんて言ったって、焦っちまうもんは仕方ねえよな」
ふむ、と原田は腕組みをする。
「絶対ぇに転んじゃいけない、って思ってたって、転んじまうこともある。そういう時ってのは、あれだ。元々転ぶような、定めになってんだ」
「全部、元から決まっている……運命とか宿命っていうことでしょうか?」
小さく首をかしげ尋ねる千鶴に、腕組みを解いた原田は大きくうなずく。
「そうしてみると、俺がこうして美味い茶にありつけるってのも、定められてたっつうことかな」
手にとった湯呑みに目をやり、原田はあたたかな笑みを見せる。
「捜し物がみつからねぇってのは、まだ“その時”じゃねえってことだな。失せ物だけじゃない、相手が人でも同じこった」
「そうですね……時が満ちれば、きっと……」
顔を上げた千鶴の笑顔は、いつもの明るい彼女そのものだった。
「見つかるべき“その時”が来れば、きっと父様に会えますよね」
「ああ、きっとな」
原田は、ほんの少し目を細めた。
「花が咲くのも風が吹くのも蛙が跳ねるのも、すべてこれ天の采配ってな」
「じゃあ、今私が、原田さんから元気をいただいてるのも、きっと天の采配ですね」
「ああ、違ぇねえ」
広い京でこうして出会い、共に屯所に暮らし会話できるのは、きっと天の粋なはからい。
そして、二人恋仲になって添い遂げるのも、定められた未来に違いない……
そう予感する原田だった。
*
「おう、ありがとよ」
巡察から戻り一息ついている原田の部屋に、お茶を運ぶ千鶴。
それ自体は普段と変わらぬ光景なのだが…
顔を上げず浮かない表情の彼女に、原田が首をひねり声をかける。
「千鶴……どうかしたのか?」
「え!?い、いえ……」
いつも通りですよ、と微笑む様子も、なんだかぎこちなくて。
目が合ったかと思えばパッとそらす千鶴は、やはりいつもの彼女らしくない。
静かな部屋に、原田の言葉が響く。
「なあ、千鶴、胸ん中にためてることがあるなら、聞いてやるぜ?どんな小っせぇことでも、吐き出すだけで楽になるもんだ。それとも…俺にゃ話せねえか?」
琥珀色の瞳に射竦められ、うろたえた千鶴は、目を伏せて小さなため息をつくと、観念したように口を開いた。
「近頃なんだか、何をやってもうまくいかないといいますか……」
はぁ、と小さくため息をつきつつも、原田に心配をかけまいとするように「あ、でも、皆さんのご迷惑にならないように気をつけますから」と笑顔をつくる。
そんな彼女の間近ににじり寄り、原田は目の前の少女の頬をそっとつねった。
「無理すんな」
「っ……無理だなんて……」
解放された頬に手をあて俯く千鶴に、原田が優しく微笑んだ。
「いつも前向きにニコニコ笑ってろ…なんて、無責任なことを言う気はねえよ。空元気が必要な場面もあるが、つらい時には無理することなんざねえんだ」
「はい……」
小さくうなずく千鶴に再び柔らかな視線を向けてから、原田が続ける。
「いろんな時があるもんさ……流れに乗るっつうのかな、なんにつけても怖いくらいに事がトントン拍子に運ぶことだって、あるにはある」
真剣な顔でうなずく千鶴は、身を乗り出すように原田の次の言葉を待っている。
原田は、小さなため息のまじった苦笑いとともに再び口を開く。
「かと思えば、どうにも空回りしちまって、焦れば焦るほど、あらゆる事が裏目に出ちまう時もある」
「……原田さんにも、そういう時があるんですか?」
ちょっぴり意外そうな顔をして、千鶴が問う。
「はは、そりゃあそうだ。それとも千鶴にゃあ、俺が何でも思い通りに出来る神さんみたいなふうに見えるか?」
実はそう思っていた、などと野暮なことを言うのはやめにして、千鶴は小さく首を振った。
「ちょっぴり安心しました」
「まあ、そういう時には、おとなしくしてるのが一番なんだろうな。ついつい焦っちまうけどよ」
「本当ですね……父様の手がかりもさっぱり見つからなくて、私……気持ちが焦っていたのかもしれません」
「ま、おとなしくしてろなんて言ったって、焦っちまうもんは仕方ねえよな」
ふむ、と原田は腕組みをする。
「絶対ぇに転んじゃいけない、って思ってたって、転んじまうこともある。そういう時ってのは、あれだ。元々転ぶような、定めになってんだ」
「全部、元から決まっている……運命とか宿命っていうことでしょうか?」
小さく首をかしげ尋ねる千鶴に、腕組みを解いた原田は大きくうなずく。
「そうしてみると、俺がこうして美味い茶にありつけるってのも、定められてたっつうことかな」
手にとった湯呑みに目をやり、原田はあたたかな笑みを見せる。
「捜し物がみつからねぇってのは、まだ“その時”じゃねえってことだな。失せ物だけじゃない、相手が人でも同じこった」
「そうですね……時が満ちれば、きっと……」
顔を上げた千鶴の笑顔は、いつもの明るい彼女そのものだった。
「見つかるべき“その時”が来れば、きっと父様に会えますよね」
「ああ、きっとな」
原田は、ほんの少し目を細めた。
「花が咲くのも風が吹くのも蛙が跳ねるのも、すべてこれ天の采配ってな」
「じゃあ、今私が、原田さんから元気をいただいてるのも、きっと天の采配ですね」
「ああ、違ぇねえ」
広い京でこうして出会い、共に屯所に暮らし会話できるのは、きっと天の粋なはからい。
そして、二人恋仲になって添い遂げるのも、定められた未来に違いない……
そう予感する原田だった。
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