その指先で
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薄桜学園校舎の最上階に位置する国語科教官室。
他の教師たちはわざわざここまで上がって来ず、職員室横の国語科準備室で用を済ませてしまう。
そのためこの部屋は、実際には、副校長を務める土方の執務室となっていた。
暮れも押し迫り、世間では仕事納めの日。
そこには、まだ山積みとなっている書類の束に黙々と向き合う土方の姿があった。
そして、部屋の真ん中に置かれた応接セットのソファには、千鶴がちょこんと座っていた。
「エアコンが効いてると、眠たくなっちゃうんですよね……」
ソファで舟を漕ぎ始めた千鶴を見て小さな微笑みをもらすと、土方はそっと立ち上がり彼女の背後に立った。
「ひゃあ」
首すじに触れた土方の手の冷たさに、千鶴がビクッと肩をすくめる。
「土方先生っ!……もう……心臓に悪いですよ」
振り返って見上げながら頬をふくらませる可愛い教え子に、「そりゃ悪かったな」と頭を撫でながら土方が言う。
「んな無防備な姿、俺以外の野郎にゃ見せるんじゃねぇぞ?」
「見せるわけ、ないです」
言葉に力を込める千鶴を後ろからふわりと抱きしめ、土方がささやく。
「それから、この部屋では名前で呼んでいいって言ってるだろうが」
「と……歳三さん…………ん!?」
耳元をくすぐる吐息に首をすくませた途端、不意に頬に落とされた口付けに、千鶴は顔をほの赤く染める。
「ちょっと休憩だ」
ソファの後ろから包むように千鶴を抱き、彼女の肩にあごを乗せて目を閉じる土方。
嗅ぎ慣れた煙草の匂いに鼻をくすぐられながら、千鶴は、体の前に回された土方の手をとって、いとおしそうに両手で包む。
「手……冷たいですね」
「ああ、そうだな。んじゃ、千鶴……おまえが温めてくれ」
言いながら、土方の手は千鶴のブレザーの中に滑り込み、ブラウスの上から慈しむように、柔らかな胸に触れる。
「やっ……でも……誰か来たら……」
「心配すんな、誰も来やしねぇよ」
「ん……」
二人の唇が重なったその時
『ドンドンドンドン』
狙いすましたようにドアを叩く音が鳴り響いた。
ノックの主が誰であるかは、おおかた予想がつく。
土方は、はああーーっっっとそれは大きなため息をついた。
ドアを開けるまでにこれ以上時間がかかれば、何を詮索されることか……
素早く着衣の乱れを直した千鶴と目で頷き合うと、土方はおもむろにドアを開けた。
「総司……てめえ、何しに来やがった!?」
「やだなあ、そんな邪険な言い方しちゃって。こんな年末だっていうのに、一生懸命お仕事している土方さんを、激励しに来てあげたんじゃないですか」
「世間ではそれを邪魔だっていうんだよ!」
斎藤が沖田の前に進み出る。
「総司、やはり邪魔になることは控えるべきではないか?」
「ふーん……一君は、土方先生が、この年の瀬にわざわざ応援に来てくれてるかわいい生徒の僕たちを、邪魔者扱いするって思うわけ?」
「う……それは、しかし……」
「なあ、廊下じゃ寒いから、早く中に入ろうぜ」
ブルッと体を震わせて、平助が二人を交互に見る。
「そうだね、かわいい生徒が風邪なんかひいちゃったら、土方先生の責任重大だからね」
にんまりと笑う沖田に背中を押され、斎藤は、苦虫を噛み潰したような顔になる。
諦めのまじったため息をつき、彼は教官室に足を踏み入れた。
続いて部屋に入った平助が、千鶴の姿を見つけて嬉しそうに声を弾ませる。
「千鶴だって、一人でじっとしてるよりみんなといる方がいいよなっ」
その時、廊下の向こう側から、どこかで聞いたことがあるような声が響いてきた。
*
「なにやら賑やかだと思って来てみれば…我が嫁よ、こんな所で俺を待っていたのか」
「なんか勘違いしてるっぽい人が来たけど……」
「まあ、頭数多い方がおもしれえからな!ほら、入って入って」
沖田と平助が言い終わらないうちに、生徒会の三人は教官室の中に入りソファに腰を下ろす。
当然、風間は千鶴の隣に陣取る。
「さあ~年の終わりに楽しく遊ぼうぜ!」
大いにはりきる平助が、背負ってきたリュックの中身をぶちまけた。
出てきたのは、トランプやら花札やらのカードゲームの類いから、もうすぐお正月だからと福笑いやスゴロクまで様々な遊び道具たち。
酒は入っていないはずなのに、大盛り上がり。
ゲームに強制参加させられつつ、土方が気になりチラチラと彼を盗み見る千鶴。
あの様子ではどうやら、かなりイライラが募っているらしい。
「あの、皆さん……土方先生お仕事中ですので、そろそろ……」
おろおろと千鶴が声をかけるが、黙ったのは斎藤と天霧のみ。というより、元々この二人は無口なのだ。
あとは風間。薄い笑いを浮かべながら大様に構えているため、最初から必要以外は特に言葉を発していない。
残る三人……沖田、平助、不知火……は、部屋の主である土方のことなどお構いなしに笑い転げている。
土方の眉間のシワがいっそう深くなり、ボールペンを握りしめた拳がワナワナと震え出した。
机をダンッと叩きつける音と同時に真っ二つに折れたボールペンが宙を舞った。
「うるせえーーー!!!てめぇら全員、出てけーーーっ!!!!」
首根っこをつかまれ、沖田と平助が廊下に放り出される。
「さあ、我が嫁よ。宴の続きだ、俺とともに来い」
「かっ……風間さん……!?」
「させるかっ!」
千鶴の手をとろうとした風間も、土方によってつまみ出される。
他のメンツ(斎藤、天霧、不知火)も、仕方なくあとに続いた。
(散らかった遊び道具は、彼らがもれなく回収)
おもちゃ箱をひっくり返したようだった部屋が、元の静けさを取り戻す。
ドアの前に立ち、しばらく廊下の様子を窺っていた土方だったが、どうやら誰もいなくなったと判断したらしい。
「やっと行ったか」
大きなため息をつくと、彼はソファにドッカリと腰かけ体を沈ませた。
千鶴が遠慮がちに隣に座る。
膝の上に揃えられた彼女の両手を覆うように、土方は自分の右手を重ねた。
「歳三さん……さっきよりも手が温かくなりましたね」
「そうか?」
「ええ」
千鶴は、確かめるように、両手で土方の手をそっと包む。
「……仕事が終わったら、俺の部屋に行くぞ」
「あ……はい」
触れ合う手の温もりを感じながら、土方のその指が自分に触れる熱を想像し、千鶴は知らず頬を赤らめた。
「ん、どうした……?もう、期待させちまったか?」
「そ、そんなことっ……もう、歳三さんってば」
「はは、待ち遠しいのは、俺だって同じだ。けど、ここじゃ、また何時あいつらがちょっかい出してきやがるかわからねえからな」
「ふふ、皆さんそれだけ、歳三さんのことが好きなんですね」
「馬鹿言うな、あいつらみんな、おまえが目当てに決まってんだろ」
「そんなことありませ……っ!!」
啄むような口付けで言葉を遮られ、再び顔を赤くする千鶴が、ゆっくり顔を離す土方を、潤んだ瞳で見上げる。
「千鶴……」
惚れた女を押し倒したい衝動にかられながらも、土方は大きく呼吸をして何とか踏みとどまる。
「千鶴、いい子だ。もう少し、そこで待っててくれ」
「はい!あ、それじゃあコーヒーでもいれますね」
「ああ、頼む」
コーヒーメーカーの湯を沸かすコポコポという音とともに、芳醇な香りが部屋に満ちる。
小さな笑みを浮かべながら、土方はひたすらペンを走らせパソコンのキーボードを叩いた。
廊下の面々のその後は……
→ 宴は続く。
*
他の教師たちはわざわざここまで上がって来ず、職員室横の国語科準備室で用を済ませてしまう。
そのためこの部屋は、実際には、副校長を務める土方の執務室となっていた。
暮れも押し迫り、世間では仕事納めの日。
そこには、まだ山積みとなっている書類の束に黙々と向き合う土方の姿があった。
そして、部屋の真ん中に置かれた応接セットのソファには、千鶴がちょこんと座っていた。
「エアコンが効いてると、眠たくなっちゃうんですよね……」
ソファで舟を漕ぎ始めた千鶴を見て小さな微笑みをもらすと、土方はそっと立ち上がり彼女の背後に立った。
「ひゃあ」
首すじに触れた土方の手の冷たさに、千鶴がビクッと肩をすくめる。
「土方先生っ!……もう……心臓に悪いですよ」
振り返って見上げながら頬をふくらませる可愛い教え子に、「そりゃ悪かったな」と頭を撫でながら土方が言う。
「んな無防備な姿、俺以外の野郎にゃ見せるんじゃねぇぞ?」
「見せるわけ、ないです」
言葉に力を込める千鶴を後ろからふわりと抱きしめ、土方がささやく。
「それから、この部屋では名前で呼んでいいって言ってるだろうが」
「と……歳三さん…………ん!?」
耳元をくすぐる吐息に首をすくませた途端、不意に頬に落とされた口付けに、千鶴は顔をほの赤く染める。
「ちょっと休憩だ」
ソファの後ろから包むように千鶴を抱き、彼女の肩にあごを乗せて目を閉じる土方。
嗅ぎ慣れた煙草の匂いに鼻をくすぐられながら、千鶴は、体の前に回された土方の手をとって、いとおしそうに両手で包む。
「手……冷たいですね」
「ああ、そうだな。んじゃ、千鶴……おまえが温めてくれ」
言いながら、土方の手は千鶴のブレザーの中に滑り込み、ブラウスの上から慈しむように、柔らかな胸に触れる。
「やっ……でも……誰か来たら……」
「心配すんな、誰も来やしねぇよ」
「ん……」
二人の唇が重なったその時
『ドンドンドンドン』
狙いすましたようにドアを叩く音が鳴り響いた。
ノックの主が誰であるかは、おおかた予想がつく。
土方は、はああーーっっっとそれは大きなため息をついた。
ドアを開けるまでにこれ以上時間がかかれば、何を詮索されることか……
素早く着衣の乱れを直した千鶴と目で頷き合うと、土方はおもむろにドアを開けた。
「総司……てめえ、何しに来やがった!?」
「やだなあ、そんな邪険な言い方しちゃって。こんな年末だっていうのに、一生懸命お仕事している土方さんを、激励しに来てあげたんじゃないですか」
「世間ではそれを邪魔だっていうんだよ!」
斎藤が沖田の前に進み出る。
「総司、やはり邪魔になることは控えるべきではないか?」
「ふーん……一君は、土方先生が、この年の瀬にわざわざ応援に来てくれてるかわいい生徒の僕たちを、邪魔者扱いするって思うわけ?」
「う……それは、しかし……」
「なあ、廊下じゃ寒いから、早く中に入ろうぜ」
ブルッと体を震わせて、平助が二人を交互に見る。
「そうだね、かわいい生徒が風邪なんかひいちゃったら、土方先生の責任重大だからね」
にんまりと笑う沖田に背中を押され、斎藤は、苦虫を噛み潰したような顔になる。
諦めのまじったため息をつき、彼は教官室に足を踏み入れた。
続いて部屋に入った平助が、千鶴の姿を見つけて嬉しそうに声を弾ませる。
「千鶴だって、一人でじっとしてるよりみんなといる方がいいよなっ」
その時、廊下の向こう側から、どこかで聞いたことがあるような声が響いてきた。
*
「なにやら賑やかだと思って来てみれば…我が嫁よ、こんな所で俺を待っていたのか」
「なんか勘違いしてるっぽい人が来たけど……」
「まあ、頭数多い方がおもしれえからな!ほら、入って入って」
沖田と平助が言い終わらないうちに、生徒会の三人は教官室の中に入りソファに腰を下ろす。
当然、風間は千鶴の隣に陣取る。
「さあ~年の終わりに楽しく遊ぼうぜ!」
大いにはりきる平助が、背負ってきたリュックの中身をぶちまけた。
出てきたのは、トランプやら花札やらのカードゲームの類いから、もうすぐお正月だからと福笑いやスゴロクまで様々な遊び道具たち。
酒は入っていないはずなのに、大盛り上がり。
ゲームに強制参加させられつつ、土方が気になりチラチラと彼を盗み見る千鶴。
あの様子ではどうやら、かなりイライラが募っているらしい。
「あの、皆さん……土方先生お仕事中ですので、そろそろ……」
おろおろと千鶴が声をかけるが、黙ったのは斎藤と天霧のみ。というより、元々この二人は無口なのだ。
あとは風間。薄い笑いを浮かべながら大様に構えているため、最初から必要以外は特に言葉を発していない。
残る三人……沖田、平助、不知火……は、部屋の主である土方のことなどお構いなしに笑い転げている。
土方の眉間のシワがいっそう深くなり、ボールペンを握りしめた拳がワナワナと震え出した。
机をダンッと叩きつける音と同時に真っ二つに折れたボールペンが宙を舞った。
「うるせえーーー!!!てめぇら全員、出てけーーーっ!!!!」
首根っこをつかまれ、沖田と平助が廊下に放り出される。
「さあ、我が嫁よ。宴の続きだ、俺とともに来い」
「かっ……風間さん……!?」
「させるかっ!」
千鶴の手をとろうとした風間も、土方によってつまみ出される。
他のメンツ(斎藤、天霧、不知火)も、仕方なくあとに続いた。
(散らかった遊び道具は、彼らがもれなく回収)
おもちゃ箱をひっくり返したようだった部屋が、元の静けさを取り戻す。
ドアの前に立ち、しばらく廊下の様子を窺っていた土方だったが、どうやら誰もいなくなったと判断したらしい。
「やっと行ったか」
大きなため息をつくと、彼はソファにドッカリと腰かけ体を沈ませた。
千鶴が遠慮がちに隣に座る。
膝の上に揃えられた彼女の両手を覆うように、土方は自分の右手を重ねた。
「歳三さん……さっきよりも手が温かくなりましたね」
「そうか?」
「ええ」
千鶴は、確かめるように、両手で土方の手をそっと包む。
「……仕事が終わったら、俺の部屋に行くぞ」
「あ……はい」
触れ合う手の温もりを感じながら、土方のその指が自分に触れる熱を想像し、千鶴は知らず頬を赤らめた。
「ん、どうした……?もう、期待させちまったか?」
「そ、そんなことっ……もう、歳三さんってば」
「はは、待ち遠しいのは、俺だって同じだ。けど、ここじゃ、また何時あいつらがちょっかい出してきやがるかわからねえからな」
「ふふ、皆さんそれだけ、歳三さんのことが好きなんですね」
「馬鹿言うな、あいつらみんな、おまえが目当てに決まってんだろ」
「そんなことありませ……っ!!」
啄むような口付けで言葉を遮られ、再び顔を赤くする千鶴が、ゆっくり顔を離す土方を、潤んだ瞳で見上げる。
「千鶴……」
惚れた女を押し倒したい衝動にかられながらも、土方は大きく呼吸をして何とか踏みとどまる。
「千鶴、いい子だ。もう少し、そこで待っててくれ」
「はい!あ、それじゃあコーヒーでもいれますね」
「ああ、頼む」
コーヒーメーカーの湯を沸かすコポコポという音とともに、芳醇な香りが部屋に満ちる。
小さな笑みを浮かべながら、土方はひたすらペンを走らせパソコンのキーボードを叩いた。
廊下の面々のその後は……
→ 宴は続く。
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