ばらいろバレンタイン
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二月に入り、日差しは春の色を帯び始めた。
街を歩けば、ショーウィンドウはバレンタイン一色に染まり、何とも華やかなこの季節。
そんなある日、下校途中の千鶴は、斎藤に呼び止められた。
「雪村、ちょっといいか?」
「はい」
何か校則違反でもしてしまったのだろうか?
千鶴は恐る恐る斎藤に向き直る。
「風紀委員として単刀直入に聞こう。今年のバレンタイン、あんたは誰かにチョコレートを渡す計画をしているのか?」
「え?バレンタインですか……」
予期せぬ問いに面食らい、返答につまる千鶴。
「いや……南雲なんだが……『風紀委員会として、バレンタインデー当日は持ち物検査を厳重に行うべきだ』と言い出して譲らないのだ」
「薫が?」
「ああ、昨年までは特に意識する必要もない行事であったのだが、今年はあんたがいるからな…南雲が大事な妹を守ろうと必死になるのは、分からないでもない」
「持ち物検査……」
「どのみち対象になるのは、あんた一人だろう。念のため知らせておいた方がよいかと思ったのだ」
「ありがとうございます、でも……」
何かが引っかかる……
その違和感に思い当たり、千鶴は伏せていた目を上げた。
「バレンタインデーに関係あるのは、私一人だけではないと思います」
「……どういう意味だ?」
「男子の園であっても、皆の憧れの対象になる方もいらっしゃると……、バレンタインデーには、同性からのチョコレート攻撃に辟易し、逃げ回らないとならない……そんなふうに、ものの本で読んだ記憶がありますが……」
斎藤は、眉間に小さなしわを刻んだ。
「あんたは……一体、なんの本を読んでいるんだ?」
「えっ、いえ……たまたま手にした雑誌に、そのような特集がありまして……」
顔をやや赤らめ、弁解する千鶴。
続けて、きっぱりと言い放った。
「風紀委員の皆さんにご迷惑をおかけしてしまうくらいでしたら、私、バレンタインには誰にもチョコレート渡さないことにします」
「そうか、すまないな」
俺に個人的に渡してくれる分には、受け取ることもやぶさかではないのだが……
そんな心の声は封印して、風紀委員長としての役目を遂行する斎藤であった。
しかし。
「斎藤先輩に心をこめたチョコケーキを渡そうって思ってたのに……もう、薫ったら!」
そう、斎藤の前ではあんなことを言ってしまったが、実は斎藤にプレゼントをするつもりで、ひそかに材料やらラッピングやらの準備を進めていたのだ。
「やっぱり、バレンタインなしっていうのは寂しいよね……」
*
二月十三日。
夕食の片付けを終えると、千鶴はキッチンにお菓子作りの道具を広げた。
それを薫が見逃すわけはない。
あの材料から察するに……
「千鶴、何やってんの?」
「こうも寒いと、甘いものが食べたくなっちゃって。ケーキ屋さんのはカロリー高そうだから、自分で作ることにしたの」
「ふ~ん、俺はてっきり、バレンタイン用の菓子でも作ってるのかと思ったよ」
「まさか!だって、バレンタインチョコは持ち物検査で没収だって、斎藤先輩から聞いたし」
「斎藤……おまえに話したんだ」
「うん。だから、安心して。薫たち風紀委員に迷惑かけるようなことはしないから」
ニコニコと歯切れよく話す千鶴を、ほんのり不審に思いつつ、薫は自室に戻り“抹殺ノート”を手にした。
二時間ほどが経過した。
「千鶴、まだやってんのか?」
二階から降りてきた薫が、キッチンを覗き込む。
彼の姿に気付いた千鶴が、満面の笑みをたたえてそちらを向く。
彼女の胸の前には、大きなハートを型どったケーキが抱えられていた。
「はいっ!これ、薫に……美味しく出来てるといいんだけど」
「お、俺に!?」
薫は、抹殺ノートに書いた『千鶴手作りのケーキを食べるけしからんやつ』を消さなければ、と切実に思った。
「薫には、いつも迷惑かけちゃったり、助けてもらってばかりだから…お礼の気持ちだよ」
「千鶴……そんなに俺のことを……」
言いつつ、テーブルの片隅に鎮座ましましている、小ぶりなケーキに目をとめる。
「その小さいのはどうするんだ?」
「あ、あの……これはね」
さあ、ここからが正念場。
本命チョコ(ケーキ)を、憧れの斎藤先輩に渡せるか否かは、これからの自分の演技力にかかっている。
千鶴はひそかに気合いを入れた。
「これはね、斎藤先輩にと思って」
「なんだって!?まさか千鶴、斎藤のこと「風紀委員会でいつも薫がすっごくお世話になってるじゃない?妹としては、そういう繋がりはきちんと義理を果たしておかなくちゃって、思ったんだけど……」」
あくまでも『薫を思って』という部分を前面に押し出しつつ、「だめかな?」と上目遣いで、ちょっと悲しそうに兄を見る。
「う……そこまでに俺のことを……まあ、わかったけど」
心の中で小さくガッツポーズを作りかけた千鶴に、薫が真面目な顔を向けた。
「それは俺から斎藤に渡す」
「……へ?」
「バレンタインデー当日の持ち物検査は、既に実施が決まっている。だから、おまえが直接あいつに渡す訳にはいかないだろ?」
「はぁ……(そんなこと言って、私と斎藤先輩を接触させたくないだけだよね)」
「俺が責任もって渡しておくからな、その“小さい”方のケーキは!」
ここであまり食い下がって怪しまれるのも得策ではない。
仕方ないが、まあとにもかくにも手作りのケーキが斎藤先輩の手に渡れば、問題はないか……
「うん、それじゃあ……お願いね、薫。斎藤先輩に、くれぐれもよろしくね」
*
二月十四日&十五日。
バレンタインデー当日。
薫の持ち物検査は形だけのものになるかと思いきや、意外なことに、没収したチョコは山となった。
放課後、持ち主が取りに来れば返却、来なければ処分な道をたどるチョコレートたち。
「男が男にチョコなんか渡して、何がおもしろいんだ」
薫がプンプン怒りながら、それらを、風紀委員会の根城である理科実験室に運ぶ。
後ろを歩く斎藤の頭を、先だっての千鶴との会話がよぎった。
しかし彼は、考えたくもない妄想を打ち消すべく、心を無にしようと努力した。
そして翌朝。
いつものように、正門に立つ風紀委員。
腕章をつけ、登校する生徒たちに鋭い視線を向けている斎藤と薫。
それは確かに、いつもどおりの風景だったのだが……
何かが違う。
通り過ぎる生徒たちが皆、この二人を遠巻きに眺めては、何事かひそひそと囁き合っている。
「南雲……今朝は皆の様子がおかしいように思うのだが、俺の気のせいだろうか」
「いや……明らかにおかしい。みんな何やら陰でコソコソと俺たちの噂をしているみたいだ」
そろって首をひねりつつ、風紀委員の任務に勤しむ二人。
始業時刻が迫った頃、ようやく千鶴、平助、沖田の三人が姿を見せた。
「遅いぞ、走らないと遅刻だ」
厳しい声をかける斎藤に、沖田がにやにやと笑いながら近づく。
「もう……一君たら、すみに置けないんだから。朝っぱらから見せつけないでよね」
「はあ?総司こそ、朝っぱらから一体何を言っている??」
「やだなあ~もう、学園中の噂じゃない」
ますます訳が分からない、と言いたげに黙り込む斎藤。
「ったく、南雲もやるじゃねぇか」
平助が肘で薫をつつく。
沖田があごに手を当てて、うんうんとうなずく。
「学校の風紀を守るためって言いながら、実は、一君に憧れてる下級生(男子)を近づけさせないために、バレンタインのプレゼント集中没収してたんでしょ?」
「「はああああ!!??」」
斎藤と薫がきれいにハモる。
「しかも、自分のチョコはしっかり一君に渡してたんだろ?」
平助が瞳を輝かせる。
「南雲にそんな趣味があったとは……びっくりしたけど、応援するぜ」
「なっ……バカ言うな」
平助に食ってかかる薫を、沖田がなだめるように言う。
「まあまあ……照れなくたっていいよ。シスコンなだけでも尊敬しちゃうのに、その上、衆道に走るなんて……ほんと、見上げたもんだよ」
「思いっきり見下げてるだろうがっ!」
フーフーと猫のように髪を逆立てんばかりの薫の前に、千鶴が申し訳なさそうに進み出る。
「薫……私ってば、薫の気持ちに気がつかなくてごめんなさい。でも、こればかりは私も譲れないの……だから私たち、恋のライバルだね」
「な、なっ…………!?」
呆然と立ち尽くす風紀委員二名。
やがて始業のチャイムが鳴り響く。
「おっとやべえ!千鶴、走るぞ!!」
「うん!」
平助が千鶴の手をとり駆け出す。
沖田も続く。
「じゃ、僕も行くね。一君お幸せに♪」
正門前に取り残された二人の間を、まだ冷たい風が吹き抜ける。
「「…………」」
「南雲……昨日のケーキ、本当は誰からだったのだ?」
「千鶴に決まってるだろ」
「それはよかった。俺には、そちらの趣味はないのでな」
ホッと胸を撫で下ろす斎藤。
「おいっ!もしかして、疑ってたのかよ!?」
薫は、悲痛な面持ちで大きなため息をついた。
「ったく……妹ひとすじのこの俺が、なんで薔薇扱い……」
朝から受けていた、周囲の好奇に満ちた眼差しの意味がようやく理解できた斎藤と薫。
肩を落としそれぞれの教室に向かう二人の背中には、哀愁が漂っていた。
*
街を歩けば、ショーウィンドウはバレンタイン一色に染まり、何とも華やかなこの季節。
そんなある日、下校途中の千鶴は、斎藤に呼び止められた。
「雪村、ちょっといいか?」
「はい」
何か校則違反でもしてしまったのだろうか?
千鶴は恐る恐る斎藤に向き直る。
「風紀委員として単刀直入に聞こう。今年のバレンタイン、あんたは誰かにチョコレートを渡す計画をしているのか?」
「え?バレンタインですか……」
予期せぬ問いに面食らい、返答につまる千鶴。
「いや……南雲なんだが……『風紀委員会として、バレンタインデー当日は持ち物検査を厳重に行うべきだ』と言い出して譲らないのだ」
「薫が?」
「ああ、昨年までは特に意識する必要もない行事であったのだが、今年はあんたがいるからな…南雲が大事な妹を守ろうと必死になるのは、分からないでもない」
「持ち物検査……」
「どのみち対象になるのは、あんた一人だろう。念のため知らせておいた方がよいかと思ったのだ」
「ありがとうございます、でも……」
何かが引っかかる……
その違和感に思い当たり、千鶴は伏せていた目を上げた。
「バレンタインデーに関係あるのは、私一人だけではないと思います」
「……どういう意味だ?」
「男子の園であっても、皆の憧れの対象になる方もいらっしゃると……、バレンタインデーには、同性からのチョコレート攻撃に辟易し、逃げ回らないとならない……そんなふうに、ものの本で読んだ記憶がありますが……」
斎藤は、眉間に小さなしわを刻んだ。
「あんたは……一体、なんの本を読んでいるんだ?」
「えっ、いえ……たまたま手にした雑誌に、そのような特集がありまして……」
顔をやや赤らめ、弁解する千鶴。
続けて、きっぱりと言い放った。
「風紀委員の皆さんにご迷惑をおかけしてしまうくらいでしたら、私、バレンタインには誰にもチョコレート渡さないことにします」
「そうか、すまないな」
俺に個人的に渡してくれる分には、受け取ることもやぶさかではないのだが……
そんな心の声は封印して、風紀委員長としての役目を遂行する斎藤であった。
しかし。
「斎藤先輩に心をこめたチョコケーキを渡そうって思ってたのに……もう、薫ったら!」
そう、斎藤の前ではあんなことを言ってしまったが、実は斎藤にプレゼントをするつもりで、ひそかに材料やらラッピングやらの準備を進めていたのだ。
「やっぱり、バレンタインなしっていうのは寂しいよね……」
*
二月十三日。
夕食の片付けを終えると、千鶴はキッチンにお菓子作りの道具を広げた。
それを薫が見逃すわけはない。
あの材料から察するに……
「千鶴、何やってんの?」
「こうも寒いと、甘いものが食べたくなっちゃって。ケーキ屋さんのはカロリー高そうだから、自分で作ることにしたの」
「ふ~ん、俺はてっきり、バレンタイン用の菓子でも作ってるのかと思ったよ」
「まさか!だって、バレンタインチョコは持ち物検査で没収だって、斎藤先輩から聞いたし」
「斎藤……おまえに話したんだ」
「うん。だから、安心して。薫たち風紀委員に迷惑かけるようなことはしないから」
ニコニコと歯切れよく話す千鶴を、ほんのり不審に思いつつ、薫は自室に戻り“抹殺ノート”を手にした。
二時間ほどが経過した。
「千鶴、まだやってんのか?」
二階から降りてきた薫が、キッチンを覗き込む。
彼の姿に気付いた千鶴が、満面の笑みをたたえてそちらを向く。
彼女の胸の前には、大きなハートを型どったケーキが抱えられていた。
「はいっ!これ、薫に……美味しく出来てるといいんだけど」
「お、俺に!?」
薫は、抹殺ノートに書いた『千鶴手作りのケーキを食べるけしからんやつ』を消さなければ、と切実に思った。
「薫には、いつも迷惑かけちゃったり、助けてもらってばかりだから…お礼の気持ちだよ」
「千鶴……そんなに俺のことを……」
言いつつ、テーブルの片隅に鎮座ましましている、小ぶりなケーキに目をとめる。
「その小さいのはどうするんだ?」
「あ、あの……これはね」
さあ、ここからが正念場。
本命チョコ(ケーキ)を、憧れの斎藤先輩に渡せるか否かは、これからの自分の演技力にかかっている。
千鶴はひそかに気合いを入れた。
「これはね、斎藤先輩にと思って」
「なんだって!?まさか千鶴、斎藤のこと「風紀委員会でいつも薫がすっごくお世話になってるじゃない?妹としては、そういう繋がりはきちんと義理を果たしておかなくちゃって、思ったんだけど……」」
あくまでも『薫を思って』という部分を前面に押し出しつつ、「だめかな?」と上目遣いで、ちょっと悲しそうに兄を見る。
「う……そこまでに俺のことを……まあ、わかったけど」
心の中で小さくガッツポーズを作りかけた千鶴に、薫が真面目な顔を向けた。
「それは俺から斎藤に渡す」
「……へ?」
「バレンタインデー当日の持ち物検査は、既に実施が決まっている。だから、おまえが直接あいつに渡す訳にはいかないだろ?」
「はぁ……(そんなこと言って、私と斎藤先輩を接触させたくないだけだよね)」
「俺が責任もって渡しておくからな、その“小さい”方のケーキは!」
ここであまり食い下がって怪しまれるのも得策ではない。
仕方ないが、まあとにもかくにも手作りのケーキが斎藤先輩の手に渡れば、問題はないか……
「うん、それじゃあ……お願いね、薫。斎藤先輩に、くれぐれもよろしくね」
*
二月十四日&十五日。
バレンタインデー当日。
薫の持ち物検査は形だけのものになるかと思いきや、意外なことに、没収したチョコは山となった。
放課後、持ち主が取りに来れば返却、来なければ処分な道をたどるチョコレートたち。
「男が男にチョコなんか渡して、何がおもしろいんだ」
薫がプンプン怒りながら、それらを、風紀委員会の根城である理科実験室に運ぶ。
後ろを歩く斎藤の頭を、先だっての千鶴との会話がよぎった。
しかし彼は、考えたくもない妄想を打ち消すべく、心を無にしようと努力した。
そして翌朝。
いつものように、正門に立つ風紀委員。
腕章をつけ、登校する生徒たちに鋭い視線を向けている斎藤と薫。
それは確かに、いつもどおりの風景だったのだが……
何かが違う。
通り過ぎる生徒たちが皆、この二人を遠巻きに眺めては、何事かひそひそと囁き合っている。
「南雲……今朝は皆の様子がおかしいように思うのだが、俺の気のせいだろうか」
「いや……明らかにおかしい。みんな何やら陰でコソコソと俺たちの噂をしているみたいだ」
そろって首をひねりつつ、風紀委員の任務に勤しむ二人。
始業時刻が迫った頃、ようやく千鶴、平助、沖田の三人が姿を見せた。
「遅いぞ、走らないと遅刻だ」
厳しい声をかける斎藤に、沖田がにやにやと笑いながら近づく。
「もう……一君たら、すみに置けないんだから。朝っぱらから見せつけないでよね」
「はあ?総司こそ、朝っぱらから一体何を言っている??」
「やだなあ~もう、学園中の噂じゃない」
ますます訳が分からない、と言いたげに黙り込む斎藤。
「ったく、南雲もやるじゃねぇか」
平助が肘で薫をつつく。
沖田があごに手を当てて、うんうんとうなずく。
「学校の風紀を守るためって言いながら、実は、一君に憧れてる下級生(男子)を近づけさせないために、バレンタインのプレゼント集中没収してたんでしょ?」
「「はああああ!!??」」
斎藤と薫がきれいにハモる。
「しかも、自分のチョコはしっかり一君に渡してたんだろ?」
平助が瞳を輝かせる。
「南雲にそんな趣味があったとは……びっくりしたけど、応援するぜ」
「なっ……バカ言うな」
平助に食ってかかる薫を、沖田がなだめるように言う。
「まあまあ……照れなくたっていいよ。シスコンなだけでも尊敬しちゃうのに、その上、衆道に走るなんて……ほんと、見上げたもんだよ」
「思いっきり見下げてるだろうがっ!」
フーフーと猫のように髪を逆立てんばかりの薫の前に、千鶴が申し訳なさそうに進み出る。
「薫……私ってば、薫の気持ちに気がつかなくてごめんなさい。でも、こればかりは私も譲れないの……だから私たち、恋のライバルだね」
「な、なっ…………!?」
呆然と立ち尽くす風紀委員二名。
やがて始業のチャイムが鳴り響く。
「おっとやべえ!千鶴、走るぞ!!」
「うん!」
平助が千鶴の手をとり駆け出す。
沖田も続く。
「じゃ、僕も行くね。一君お幸せに♪」
正門前に取り残された二人の間を、まだ冷たい風が吹き抜ける。
「「…………」」
「南雲……昨日のケーキ、本当は誰からだったのだ?」
「千鶴に決まってるだろ」
「それはよかった。俺には、そちらの趣味はないのでな」
ホッと胸を撫で下ろす斎藤。
「おいっ!もしかして、疑ってたのかよ!?」
薫は、悲痛な面持ちで大きなため息をついた。
「ったく……妹ひとすじのこの俺が、なんで薔薇扱い……」
朝から受けていた、周囲の好奇に満ちた眼差しの意味がようやく理解できた斎藤と薫。
肩を落としそれぞれの教室に向かう二人の背中には、哀愁が漂っていた。
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