月見れば
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主だった方々が出かけてしまった夜の屯所は、静かだ。
今頃、皆さん島原で楽しい時を過ごしているのに違いない。
布団に入ったものの、なかなか寝つけなかった私は、のそのそと起き出した。
縁側で膝を抱え、満月にはちょっぴり足りない月を見上げる。
ここでの暮らしに慣れるにつれ、だんだん欲張りになってしまう自分。
いくら想ったところで、あの人にとって私は、ただの……
自嘲的な笑いがこぼれ、抱えた膝に顔を埋める。
と、予期せぬ足音が近づいてきた。
見なくたって、わかる。
この足音は……
「よぉ、こんなとこで何してんだ?」
「原田さん、お早いお帰りですね」
とび跳ねそうな心臓を悟られぬよう、平静を装って立ち上がる。
そんな私を促すように、どっかりとあぐらをかく原田さん。
人一人分の間をあけて、私は彼の隣に正座した。
「まだ宵の口ですよ、どうかなさったんですか?」
「ああ……何となく気分が乗らなくてな」
そう言いつつも、お酒は適度に飲まれたようで、原田さんからは、お酒の匂いがする。
「どうも、ここんとこな……千鶴のことばっかり頭に浮かんじまうんだよなぁ」
そう言って、頭を左右に弱々しく振る原田さん。
いつもの彼からは想像もつかないその姿に、男の人相手なのに『可愛い』という形容詞が浮かんでくる。
「酔ってらっしゃいます?」
「ああ、少しだけな……」
彼は、夜空に向けて顔を上げた。
煌々と輝く月の光は、冷たいようでいて、透き通った熱で私たちを包み込んでくれる。
「ちぃっとばかり酔っちまった……だからこそ、本音が出る」
「原田さん……」
「みんなでバカ騒ぎしてても、ふとした拍子に千鶴の顔が浮かんできて…どうにも上の空になっちまう」
「…………」
なんと返事をしていいものやら分からず、私は黙って彼の横顔を見つめる。
「近頃……日がな、まぶたを閉じると、千鶴が呼んでるような気がするんだよ……どうしちまったんだろうな、俺」
酔いも手伝ってか、いつも以上に饒舌な原田さんからは、戸惑いに近い感覚が伝わってくる。
無言のまま見つめる私の視線に、こちらを向いた彼の視線がぶつかった。
次の瞬間、私はたくましい腕の中にいた。
引き寄せられ、体勢を崩した私は、そのまま彼の胸に収まる。
「おまえに触れたい、おまえを俺のものにしたい」
「原田さん……」
耳元に熱い吐息が触れる。
私の身体が強ばっていることに気づいたのか、原田さんの腕の力が少しだけゆるんだ。
「……悪ぃ……なんだって俺は、千鶴にこんなこと言ってんだろうな……」
「きっと、この月のせいです」
しまいこんであるはずの『恋しい気持ち』を抑えきれなくなってしまうのは、そう、この月のせい。
私は、両腕を原田さんの背中に回して、ギュッと彼にしがみついた。
「今だけ……今だけでいいです…このままでいさせてください」
息をのむ一瞬の間をおいて、原田さんがクスリと笑ったのがわかった。
「今だけなんて、寂しいこと言うなよ?」
急に立ち上がった原田さんに腕を引かれ、気がつけば横抱きに抱かれて顔を覗き込まれていた。
「言っとくが、酒の勢いなんかじゃねぇぞ?いつも、気持ちの奥底に押し込めてた望みの解放……ってとこだな」
「はい……」
微笑みを交わし合い、原田さんの部屋へと向かう私たちを、月が優しく照らしていた。
*
今頃、皆さん島原で楽しい時を過ごしているのに違いない。
布団に入ったものの、なかなか寝つけなかった私は、のそのそと起き出した。
縁側で膝を抱え、満月にはちょっぴり足りない月を見上げる。
ここでの暮らしに慣れるにつれ、だんだん欲張りになってしまう自分。
いくら想ったところで、あの人にとって私は、ただの……
自嘲的な笑いがこぼれ、抱えた膝に顔を埋める。
と、予期せぬ足音が近づいてきた。
見なくたって、わかる。
この足音は……
「よぉ、こんなとこで何してんだ?」
「原田さん、お早いお帰りですね」
とび跳ねそうな心臓を悟られぬよう、平静を装って立ち上がる。
そんな私を促すように、どっかりとあぐらをかく原田さん。
人一人分の間をあけて、私は彼の隣に正座した。
「まだ宵の口ですよ、どうかなさったんですか?」
「ああ……何となく気分が乗らなくてな」
そう言いつつも、お酒は適度に飲まれたようで、原田さんからは、お酒の匂いがする。
「どうも、ここんとこな……千鶴のことばっかり頭に浮かんじまうんだよなぁ」
そう言って、頭を左右に弱々しく振る原田さん。
いつもの彼からは想像もつかないその姿に、男の人相手なのに『可愛い』という形容詞が浮かんでくる。
「酔ってらっしゃいます?」
「ああ、少しだけな……」
彼は、夜空に向けて顔を上げた。
煌々と輝く月の光は、冷たいようでいて、透き通った熱で私たちを包み込んでくれる。
「ちぃっとばかり酔っちまった……だからこそ、本音が出る」
「原田さん……」
「みんなでバカ騒ぎしてても、ふとした拍子に千鶴の顔が浮かんできて…どうにも上の空になっちまう」
「…………」
なんと返事をしていいものやら分からず、私は黙って彼の横顔を見つめる。
「近頃……日がな、まぶたを閉じると、千鶴が呼んでるような気がするんだよ……どうしちまったんだろうな、俺」
酔いも手伝ってか、いつも以上に饒舌な原田さんからは、戸惑いに近い感覚が伝わってくる。
無言のまま見つめる私の視線に、こちらを向いた彼の視線がぶつかった。
次の瞬間、私はたくましい腕の中にいた。
引き寄せられ、体勢を崩した私は、そのまま彼の胸に収まる。
「おまえに触れたい、おまえを俺のものにしたい」
「原田さん……」
耳元に熱い吐息が触れる。
私の身体が強ばっていることに気づいたのか、原田さんの腕の力が少しだけゆるんだ。
「……悪ぃ……なんだって俺は、千鶴にこんなこと言ってんだろうな……」
「きっと、この月のせいです」
しまいこんであるはずの『恋しい気持ち』を抑えきれなくなってしまうのは、そう、この月のせい。
私は、両腕を原田さんの背中に回して、ギュッと彼にしがみついた。
「今だけ……今だけでいいです…このままでいさせてください」
息をのむ一瞬の間をおいて、原田さんがクスリと笑ったのがわかった。
「今だけなんて、寂しいこと言うなよ?」
急に立ち上がった原田さんに腕を引かれ、気がつけば横抱きに抱かれて顔を覗き込まれていた。
「言っとくが、酒の勢いなんかじゃねぇぞ?いつも、気持ちの奥底に押し込めてた望みの解放……ってとこだな」
「はい……」
微笑みを交わし合い、原田さんの部屋へと向かう私たちを、月が優しく照らしていた。
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