情愛~as time goes by~
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――##NAME1##――
ひとまわりばかり年の違う、妹みてえな存在。
家が隣同士だからってことも手伝って、常に手の届く距離にいた。
それが当たり前だった。
どことなく面立ちが似た俺たちが連れだって街を歩けば、きっと誰もが兄妹だと思ったに違いない。
実際、あいつは俺を「歳兄!」なんて呼んで、つぶらな瞳の犬っころみてえに後をついて来てたし、血の繋がった兄妹よりも互いを身近に感じてきたんだと思う。
なのに、最近は…
物理的な距離は変わっちゃいねえはずだ。
それなのに、やけにあいつが遠い。
すぐそこにいるのに、まるで透明なガラスか何かに遮られていて、指をふれることさえ出来ない――
あいつの顔を見るたび、妙にそんなもどかしさを覚える。
夏の終わりの、ある週末。
『よかった、なんとか終電に乗れたよ』
夜の夜中に、そんなメールが届いた。
会社の同期が集まっての飲み会だってのは聞いちゃあいたが、嫁入り前の娘が、こんな時間まで出歩いてるなんざ褒められたことじゃねえ。
それに、成人しているとはいえ、女の夜道の一人歩きは危険だ。
『迎えに行く』
ひと言返信してから、俺は駅に向かって早足で歩き出した。
くそっ、こんなに遅くなるってわかってりゃ、はなっから車を出せるようにしておいたものを…
あいつが、男を含む俺の知らない仲間と酒を飲んでるって思ったら、なんだかムシャクシャして、普段なら飲まない缶ビールを一本飲んじまった。
もうすっかり酔いはさめたが、血中濃度がどうのとか考えてるくれぇなら、徒歩五分の距離、歩いちまった方が早い。
今日最後の下り電車が駅を後にしてからほどなく、改札を抜ける##NAME1##の姿をとらえた。
ご機嫌な##NAME1##は、俺に気付くと、満面の笑みをたたえて手を振りながら駆け寄ってきた。
「飲んだのか?」
「チューハイ一杯でやめといたよ。歳兄様の言い付けどおりに」
「それでいい…けど、やけにテンション高ぇな、本当に一杯だけか?」
「ほんとほんと…。けどね、子供じゃないんだし、わざわざ迎えに来てくれなくても大丈夫だよ~。歳兄ってば過保護すぎ」
そう言って笑う##NAME1##は、呆れるほどノーテンキに続ける。
「それに私、取られて困るほどお金持ってないし」
「そういう問題じゃねえっ」
思わず俺は、声を荒げた。
ったく…ちっとも大丈夫なんかじゃねえんだよ!
おまえは、自分がうら若き乙女(しかも、とびきりのな!)だって自覚が無さすぎる!
世の中には、羊の面ぁした狼がわんさと溢れてるんだ。
俺がいちいち目を光らせてなけりゃあ、おまえみたいに無防備な子ウサギなんざ、あっという間に食われちまう。
それでなくても物騒なニュースが世間をにぎわす昨今。
万がひとつにも、俺の目の届かねえところでおまえに何かあったら……
俺は死ぬまで、いや、死んでからだって、ずっと後悔するのに決まってるからな。
「でもね」
「なんだ?」
「嬉しかった」
「!!」
フワリと笑って、くるりと背を向けた##NAME1##は、先に立ってスタスタと歩き出した。
こいつの両親は一昨年から海外、双子の兄はこの四月から県外で暮らしている。
つまり今の##NAME1##は、たった一人で家を守っている。
だから、俺の母親なんかが何くれとなく##NAME1##のことを気にかけたりするのと同じに、俺がこいつのボディーガードを気取るのも、不自然なことじゃねえだろう。
##NAME1##を送り届けるまで、たった五分。
けど、本当はもっと…
もう少しでいいから、こいつのそばにいたい。
後ろから抱きしめたい衝動を必死に抑えながら、それでも、そばにいて同じ空気を吸っていたい、俺の視界の中に、こいつを置いておきたい……
そう願う自分がいる。
*
この想いを何と呼べばいいのか…
出口の見えそうにない俺の思考は、振り向いた##NAME1##によって強制終了させられた。
「寄ってってもいいかな?」
「……あぁ?」
ニコニコとこいつが指を指す先を見れば、小さな公園。
俺の返事も待たずに、##NAME1##はブランコめがけて走って行った。
勢いよくこいでいる##NAME1##に並んで、俺も隣のブランコに腰を下ろす。
―――
――――
あれは――
俺が、高校受験を控えた天王山の夏休みを送っていた十五の時。
受験勉強の息抜きにと出かけた地域の夏祭りで、幼稚園児くらいのちっこいおまえを見かけた。
引っ越してきたばかりの、新しいお隣さん。
まるきりガキのおまえを目にした途端、俺の胸の中は何故だか、予感めいた思いでいっぱいになったんだ。
『思春期の男子中学生が、幼稚園児に邪な想いを抱くなんて、あり得ねえ。そんなもん、変態以外のなんだというんだ?誓って、俺はロリコンなんかじゃねえ!』
その時は、わき上がる気持ちを躍起になって否定した。
けど…
俺や仲間の通う、近藤さんの道場にこいつが顔を出すようになって、時が過ぎて……
どんどん女らしくきれいになっていくおまえが眩しくて、あの時の閃きが間違いなんかじゃなかったと…俺は思い知ることになったんだ。
――――
―――
しばらく無言のまま前後に風を切っていた##NAME1##は、突如ブランコから飛び降り、はるか前方に着地した。
大きく伸びをしながらこちらを向くと、楽しそうな笑みを浮かべ、跳ねるように俺の方に戻って来た。
「夜の公園の、なにがそんなに嬉しいんだ?」
半ば呆れながらため息まじりに尋ねれば
「このすがすがしい空気がいいんだよ」
と両手を広げて深呼吸してみせる。
手持ち無沙汰でつい取り出したタバコは、目ざとく見つけられちまった。
「もうっ」と頬を膨らませた##NAME1##は、俺の指からそいつを取り上げると、かがみ込むように視線を合わせた。
「夜の空気の匂いを楽しんでるんだから、タバコはダメ!」
黒く濡れた瞳
風をまとって揺れる髪
月明かりと外灯に白く浮かび上がるのは、見たことのない女の顔。
今、目の前で微笑むこいつは、俺の知ってる##NAME1##とは違う……。
気付いた時には、唇を重ねていた。
「!!」
驚いて後ずさった##NAME1##は、そのまま芝生の上にしりもちをついた。
ブランコから立ち上がり歩み寄れば、##NAME1##を見下ろす形になる。
「歳兄…」
##NAME1##の唇がわずかに開いて、上ずった声で俺の名を呼ぶ。
「いっぱしの女になりやがって」
「…それって、ほめ言葉なの?それとも…!?」
##NAME1##が言い終わらないうちに、素早く傍らにしゃがみこむと、顔を近づけて再びその唇をふさぐ。
*
ついばむような口付けをそっと終えれば、魂が飛んでっちまったように呆けた##NAME1##の、見開かれた瞳が切なげに潤んでいる。
「んな顔…俺以外の男になんか、絶対ぇ見せるんじゃねえぞ」
「……………なんで?なんで、こんなこと…」
夜の空気の中でもわかるくらいに顔を真っ赤に染めた##NAME1##は、両手で口を覆って目を伏せた。
「あぁ?てめえの女に口付けるのに、ご大層な理由なんざ必要ねえだろ?」
「わ、私がいつ、歳兄のものになったんですか!?」
いきなり敬語とか、どんだけ動転してやがんだ!?
こみ上げる笑みを抑えきれず、小さく笑いながら俺はつぶやいた。
「最初っからだ」
「へ」
「初めておまえを見た時に、俺がそう決めた」
「んな強引な…」
「強引な俺は、嫌いか?」
ふるふると首を左右にふる小さな肩にそっと手を置けば、小刻みに震えている。
怖い目にあったりしねえようにって迎えに来ておきながら、俺が怖がらせてたんじゃ元も子もねぇな…
自嘲めいた苦笑いをこぼすと、途端柔らかな温もりが広がった。
それが胸の中に飛び込んできた##NAME1##だと気づいた時には、俺の頬に、触れるだけのキスが落とされていた。
「私が歳兄のものなら、歳兄は私のものなんだからっ」
怒ったような顔は、決死の覚悟の産物だろう。
ああ、やっぱり俺は、こいつにゃ敵わねぇ…
「ふん…生意気言いやがって」
「あたっ」
デコピンをお見舞いしてやれば、弾かれたところを両手で押さえながら、情けない声を上げる。
俺は、##NAME1##に聞こえないように小さく息を吐き、こいつの予想外の行動にも、全く動じないふうを装う。
狼狽える様なんぞ、見せてたまるか。
…まあ、今のこいつには、俺の態度のちっぽけな変化に気がつくだけの余裕はねぇに違いないが。
今度は、頬をギュッとつねってやり、すぐに離す。
「んなこと、いちいち宣言しなくたって当たり前のことなんだよ」
「……うん」
痛いだのひどいだのと、当然反撃してくると予想していたにも関わらず、##NAME1##は視線を落として、しおらしくうなずいた。
その姿もまた、初めて目にする##NAME1##で――
俺の胸の内のざわめきは、ますます大きくなった。
ああ、もうこれ以上、兄貴面して、黙ってこいつの背中を守らなけりゃならねぇ理由は、ないだろう。
堂々と隣にいて、触れることだって許されるはずだ。
「##NAME1##」
「ん?」
「独り寝が寂しけりゃ、朝まで一緒にいてやる」
一瞬考えた後に、その言葉の意味に気付いたらしい##NAME1##は、目を瞬いて頬を朱に染める。
「私は……」
そうつぶやいたきり唇をギュッと結ぶと、俺の右手をとり両手でそっと包んだ。
伏せ気味の長い睫毛が、戸惑う気持ちを物語るように震える。
俺は、あいている方の手で##NAME1##の頭をポンと撫で、そのまま抱き寄せた。
そろそろ潮時だろう。
##NAME1##、おまえは妹なんかじゃねぇ、俺にとって、特別な女だ。
「このままおまえを帰すんじゃ、俺が寂しいんだよ」
腕の中の##NAME1##が、小さくうなずく。
「私……私も、歳兄がいてくれれば寂しくない」
今まで近くで、これだけの長い時間を過ごしてきたにも関わらず、俺が##NAME1##の部屋に足を踏み入れるのは、今日が初めてだった。
これから足繁く通うことになるであろうその部屋で、俺は、壊れ物を扱うように##NAME1##を抱いた。
兄妹から男と女へ
愛情の形は変わっても
そしてこの先、どれだけの時が過ぎても…
俺の隣に##NAME1##がいて
##NAME1##と共に俺が在ること
それは、絶対に変わらないだろう。
*
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